上 下
81 / 160
のんびり高速移動旅

081、ペレパー 1。

しおりを挟む
ンリランスを出てから、四日目の朝。
宿泊した宿の食堂で食事をしていると、横のテーブル席の話が聞こえ、内心ドキリとしてしまった。
「そろそろ、次の鐘が鳴る頃だな」
「鐘が鳴ったのは四日前で、予報は今日か明日だったな」
THE・冒険者パーティな四人組は、そんな話をしながらの朝食のようだ。
「ンリランスからリサランスで四日は、早くないか?」
四人組の中で、魔法系な見た目なヒョロな男性が言うと、隣のガッシリ戦士系な女性に笑われた。
「だから、ペレパー読めって言っただろ。冒険者は情報収集が基本だぞ」
「でも、ペレパーは本当か嘘も分からないものも書いてるじゃないか。読む気にならないよ」
「でも、ギルドの張り紙にも四日前にンリランスの鐘が鳴ったこと書いていたわ。あと、今日からリサランスに近付かないように、ともね」
もう一人の顔の見えないガッシリ男性?んっ?女性か?この声質と話し方で女性じゃなかったら、分からん。
「あっ、それペレパーに面白いこと書いてた。今回の聖女様は他世界の方で、人前を物凄く嫌がって、だから各国の王にも会わないで、聖地だけを廻ってるって。それと、二人見たさに聖地周りに人が増えたから、前々回のアンランス辺りから、鳴る前の聖地に近付かないようにってギルドで掲示するようになったっても書いてた」
もう一人のガッシリ女性達よりは細い男性がそう言うと、先のヒョロな男性が少し悔しそうな顔をしながら、また呟いた。
「でも、ンリランスからリサランスだぞ。四日や五日そこらで着くもんじゃないだろう。早くても……八日、八日はかかるはず」
「それが、ペレパーの予想だと今日か、明日なんだよ」
「今回の勇聖者さまと聖女様の移動速度が物凄く早いからだって…………」
ほーっ、そのペレパーとやら、読まなきゃだな。
あれだな、黒服と宇宙人の映画に出てくるタブロイド紙的なやつだな。
UFOとかUMAを扱って嘘扱いだけど、実は本当です、的なアレ。
「どこ?」
俺の主語とか色々完璧に無視した問いに、リンは小さく笑って「あとでな」と返してきたので、静かに朝食を再開した。

朝食を終えて、宿を後にすると、リンがこっちかな?と呟いて歩いていった。
「んっ?本屋とか、売店とかに置いてんじゃねぇの?」
「あれはちょっと違うからな」
「なんだよ、その言い方。ワクワクしちゃうじゃん」
「そう言うと思ったよ」
キラキラスマイルでそう言われて、目がチカチカしてしまった。

「……んで?どこ?」
「多分、この路地裏辺りに……ん?あれだな。人が並んでいるところ初めて見たよ」
こっちにも行列なんてものがあるようだ。
30人は並んでいそうな列を、ガタイいい戦士風な女性が並ばせていて、その女性が俺たちに目を向けた。
「ペレパー?」
「ああ」
「じゃあ、ここに並んで」
「こんなの初めて見たよ。雇われたのかい?」
「……見るに見かねて助けてたら、その後からは雇われた」
その時、前の方で「早くしろよっ、このノロマ」という罵声が聞こえ、女性が「誰か来たら並べて」と言い残し、前に走っていった。
「大丈夫か、あれ?」
「大丈夫だろう、この中で彼女に勝てそうなのはいないよ」
「へぇ、ならのんびり待つか」
前方でバタバタと聞こえ、しばらくすると女性に連れられて、衣服が薄汚れた冒険者が、俺らの後ろの方に並ばされていた。
「初めての人もいるから、言うけど、ペレパー売りは動きが遅いから、待てない人は待てる人でも雇って並んで!今みたいに列を乱したりする人は、もう一回並んでもらうから」
遅くてもゆっくりと人は捌けていくと、前に並んでいるのはもう数人になり、売り子の姿もようやく見えた。
チビッ子とかいるのかと思ったら、大間違い。
杭の上にちょこんと乗っているのは、今日は留守番でここにはいない、いつも見てる魔物。
ちまっこい手で硬貨を受け取りジンケットにしまう、それからペレパーを出すの動作をしているのだ。
「そりゃあ、遅くなるって。あれ、ペタじゃなくて……」
「レタクルーブ、噂でペレパー売りをしているのは引退した郵便鶏だと聞いたことがある」
「へぇー、こっちでも……」
「あとで教えてくれ」
こんな人に囲まれている状態で色々言いそうだったが、リンがいい感じで切ってくれた。
「わりっ」
「どういたしまして」
順番が来るとレタクルーブが乗っている杭に『ペレパー1部 2キュラ』と書かれている板が紐でぶら下がっていた。
「1部なんだ……」
「んっ?」
「あとで」
リンが2キュラを出して渡すとちまっこい手が受け取り、ジンケットにしまい、次にペレパーを出すの動作。
「これ、どうにかなんねぇの?」
「何がだ?」
「こいつ、休みなくこれはキツイって」
うちのペタがずっとペタだから、こんなに絶え間なく動いている羽リスが不憫に思えてきた。
「なんともブラッキーな、引退したならある程度歳くってんだろ、それでこれはキツくないか?」
「いつもは、こうじゃないからな。一刻に一人買いに来ればいいほうだよ。行列を作るなんて本当に見たこともない……だが巡礼が終わるまでの間、毎度これは大変そうだ」
列から離れても、自分達のせいでこうなっていることに、簡単に帰ることができなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

処理中です...