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第5話 新しい出会い
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その日の夕方だった
「あ~・・・どうしよう・・・
チェーンはずれちゃった・・・・」
街の自転車置き場で嘆いているのは、怜奈先生。
と、そこへ・・・
「あのぉ?どうかしましたか?」
「チェーンはずれちゃったんです。あっ、ごめんなさい。邪魔ですよね?」
「いや・・・。よかったら、直しましょうか」
「えっ?いいですよ。悪いです。」
「任せてください。俺はこういうの得意なんで。」
そういうと、10分くらいで直してしまった。
「すご~い」
「俺、自転車で旅するの好きなんで、こういうことよくあるし。今もほら、こうして放浪旅(笑)」
「ありがとう。あの、よかったらいまから、行きつけのお店に行くんだけど・・・・お礼におごらせて」
「いや、いいですよ。ただ、チェーン直しただけなのに。」
「いいから、いいから。今日は、誘った人に断られてへこんでるの。」
「それって、男ですか?」
「まぁね。これでも、小学校の美術教師やってるの。土岐怜奈って、言います。」
「偶然ですね。僕も小学校の教師。担当は、俺も美術です。俺は、生口亮平。よろしく。」
自転車だから、お酒は飲まない約束で。
「ねえ、亮平君は、好きな人とかいるの?」
「・・・初めて出会ったやつにそれ、聞いちゃいます?」
行きつけの店はいつもの居酒屋だ。駅のすぐそばだ。
「あたしは、いるんだ。しかも、そいつは、同僚。」
「・・・なるほど・・・自分の話・・・」
「そいつね、結婚を、前提に付き合っている人がいるんだ。」
「・・自動的に、失恋ってやつですか・・・?」
よくあるやつかな。
「せいつは、わたしの気持ちに全然気づいてないの」
「あー、飲みすぎですよ。明日も学校あるでしょ?」
そこへ、飲み物を運んできた楓が、
「お疲れ様。あれ?なに?今日は、見ない男子連れてきちゃってどうしたの?」
「あっ、亮平って言います。実は、ついさっき、会ったばかりです」
「えっ?初対面?」
「あっ、彼女は、私たちの友達なの。亮平君ねー、わたしの自転車のチェーンを、直してくれたのよね~?
「・・・はい、そうなんです。俺は、このあとも自転車なんで、飲めないんですけど・・・」
「そうだったんだ。(ナンパじゃないんだ(笑)ごめんね、彼女、飲みすぎるとあーなるから。」
「いつも・・ですか?」
「そう、いつも(笑)」
「そういえば、あなたも彼女と、同じ先生なの?」
「・・・よくわかりましたね」
「ふふっ、だって顔に絵の具ついてる」
「えっ?」
あわててほっぺやら、手を見る亮平。
「ふふっ。」
かわいいやつだと、楓は思った。
「この街に来たのは初めてなんだ。
あっ、でも、俺の同僚が確か、この近くの小学校に、赴任したから、もしかしたら知り合いかもしれませんね。」
そんな偶然ないか・・・
「ちょっとぉ~!人の話、聞いてる?楓~!生もう一杯!」
「ごめんね。」
「・・・はい」
楓は、生をもう一杯持ってくると
「ごめんね。」
そう言って自分の業務に戻っていった。
「あんたは、どうなの?気になる人とか、好きな人とかいないの?」
「・・・残念ながら、俺はモテないから。」
(敬太先生の方がモテたし)
「じゃあ、今日の出会いに、乾杯!」
「・・・・あっ、乾杯・・・」
亮平は、なんだか、寂しそうな怜奈の顔が頭から離れずにいた。
そして、
「ごめんね、亮平君。わたし、飲みすぎちゃって。しかも、送ってもらって・・・
遠いんじゃないの?」
「大丈夫です。女の人を一人で帰す方が男として情けない気がするので・・・。」
「なんか、今日、初めて会った気がしないね」
「本当に。これが運命の出会いってやつですかね・・・」
そうだといいな
「じゃあ、ありがとう。おやすみなさい」
「おやすみなさい。」
また、どこかで会えるといいな・・・
そんな言葉を飲み込みながら・・・・。
この出会いが、二人の運命を左右するなんてまだ、知るよしもなかった。
次の土曜日、俺はおかんの働く病院に、ボランティアに来ていた。
「敬太兄ちゃん!」
「お~!みんな、元気にしとったか?」
「敬太、遅かったじゃない」
「すまん、すまん。ピアノ弾いていたら、すっかり、今日のことを忘れてしもていてな・・・」
「また、徹夜したの?」
「おかんは、勤務終わりやろ?夜勤、ご苦労様。」
「まったく。そんなことを、繰り返しているとからだ、壊すよ?」
「どうしても、作りたい曲があるんや」
「敬太兄ちゃん!早く遊ぼうよ」
「はいはい。」
子供たちに促される。
「ほな、お疲れ様」
「あら、敬太君わざわざ、ここまで来てくれたの?」
「子供たちが、どうしても、敬太じゃなきゃ嫌だって言うのよ。仕方ないでしょ?」
「敬太君、歌うまいし、それに、ピアノもすぐ弾けちゃうから子供たちがなついてくれて助かってるの。
念願の小学校の教師になってもう3年でしょ?学校変わっても月に一度のボランティアに来てくれるなんてね。本当に優しい・・・」
「あとは、彼女でもいてくれれば言うことなしなんだけどねー」
「ふふっ、そうね・・・・」
「♪一年生に、なったら、一年生になったら♪友達100人できるかな」
そう歌っているところへ・・・・
「こんにちは」
「あら、亜利砂ちゃん?」
「えっ?」
亜利砂は記憶がないから、俺のおかんのことも覚えてないんや。
「覚えてない?敬太の母だけど・・・・」
「敬太先生の・・・・」
家族ぐるみで付き合いがあった俺たちだから、覚えてて当然なんだけど・・・・
「・・・・敬太、いまボランティアに来ているのよ。会ってく?どうしたの?今日は
・・・・」
「母がいま、入院していて、こちらに転院になったので・・・」
「あら、そうなの?お母さん、悪いの?」
「ううん。ただの過労なんだけど・・・・」
「あなたも、大変ね。」
「・・・なんや。おかん・・まだ、帰ってへんかったんや・・・
って・・・亜利砂、なんで、ここにおるん?」
「お母さんが、入院してるから・・・・。」
「もしかして、敬太。新しい赴任先の小学校って、亜利砂ちゃんが勤めてる学校だったの?」
「そうなんや。8年ぶりに再会したんや。こんな偶然あるんやな。」
「でも、亜利砂ちゃんの方は、なんだか私に初めて会ったような感じに見えたわ?それは、どうして?」
「説明すると、長いんやけど・・・ええかな?」
俺は、少し微笑みながら言うと・・・
「亜利砂、お母さんの転院の手続き終わったよ・・?って・・・敬太先生?」
「譲先生も、おったんや・・・」
そりゃあ、そうか。
だって、二人は・・・・
その後ろにいたのは・・・
「あら、敬太くん・・・」
紛れもなく、亜利砂の母親・・・・。
「どうも、お久しぶりです。」
まさか、こんなところで、会うなんて思わへんから・・・・。
「・・・なんか話あるんだろ?俺は、先に帰ってるわ・・・。」
気をきかせて、譲先生は、いなくなった。
「あら、亜利砂ちゃんと、彼は?」
親しげに話す彼のことが気になったのか、おかんが聞く。
「結婚を、前提にお付き合いを、している人なの。とてもよくしていただいてて・・・
同じ小学校の先生なの。」
「そうなんですか。それは、おめでとうございます。」
「・・・・・・。」
おかんと、亜利砂のおかんは、久しぶりに会ったから話に実を咲かせたのか、休憩室で話し込み始めた。
話し出したら止まらんのは、俺のおかんの方やけど・・・・。
勤務終わってるから構わんけど・・・なんや、恥ずかしいわ。
「・・・敬太先生は、ここで何してるの?」
「・・・あっ、月に一度のボランティア活動や。小児科の子供たちと、歌を歌ったり、ものを作ったりしとるんや。」
「へぇー、そうなんだ。」
「まぁ、前の小学校からは、ここ、近かったんやけど、子供たちから熱い要望を、もろたからこれからも、通い続けようかなって・・・。「そうなんだ。」
「譲先生と、同棲でもしとるんか?先帰るって・・・・」
思わず聞いてしもた。
「時々、泊まりに来てくれるんです。」
「・・・・そっか。そうなんや。」
なぜだか、安心する俺。
「敬太にいちゃん、何してるの?早く早く~」
「ふふっ、こっちでも子供たちに人気なんですね」
「なんやかんや俺は、子供好きやからな。」
「ふふふ。」
「あっ、今、笑たやろ。子供みたいって思ったやろ」
「・・はい、思いました」
「・・・どうせ、子供やもん。」
俺は、頬を膨らませて見せた。
「(笑)」
俺と亜利砂は、あの頃みたいに笑って話していた・・・・。
そして、おかんは、亜利砂のおかんから、8年前のことを聞いたみたいで・・・
「敬太、聞いたわよ?亜利砂ちゃんのこと。」
「やっぱり、聞いたんや。
そういうことやで?」
「だって、おかしいじゃない。あなたたちは、幼馴染みだったんだし。」
「忘れられてしもたみたいやわ。彼女の記憶は、あの火事の日から前は消えてしもたんや。
俺と、幼馴染みだったこと・・・全部・・・・・」
「わたし、あんたはてっきり亜利砂ちゃんと付き合うかと思ってたわ。あんなに仲良かったから。」
「・・・でも、8年やで?もう、遅いやろ・・・
彼女には、結婚を、前提にお付き合いしてる、譲先生が、いるんやから。」
「あんたが、ずっと彼女を、作らなかったのかあさん知ってるよ?亜利砂ちゃんとお揃いのブレスレットを、作ったのも、ネックレスを、彼女に送ったのも・・・母さん、知ってるんだよ。
あんたが、亜利砂ちゃんのことを、好きだってことも・・・・。」
「そうやけど、亜利砂はもう、俺のことを、覚えてないんや・・・・。ネックレスは、してくれとるけど・・・・。忘れられたらおしまいや・・・。」
「敬太、自分の気持ちに、正直にならなきゃダメよ?好きな人には気持ちを、ぶつけられる男になりなさいよ?いいわね?」
「・・・・わかった・・・おおきに。」
「わたしは、いつでもあんたの味方でいるから。」
「・・・・・」
「それと、母さん大丈夫だから、毎回泊まりに来なくていいわよ?大変だろ?」
「そうやけど・・・・」
「ここから、遠いんだから」
「でも、ボランティアに来たときは、泊まってもええかな?」
「来てくれるの?」
「約束しとるから、子供たちと。」
「それは、助かるわ。敬太が来てくれると子供たちが、とても元気になるから。」
「それ、ほんま?」
だけど、その言葉だけで嬉しかった。
「なぁ、そう言えばさ、あのマンションあったところどうなったか知っとる?」
「だいぶ古かったし・・・火事があったから、建て直したかもしれないね。」
「明日、日曜日だし。行ってみるわ。俺もあれから行ってへんから。」
「じゃあ、敬太。ついでにお花も供えてきてね。」
「あぁ、もちろんや」
あの火事で俺は、数人の同級生を、失った。
助かったのが嘘みたいな位、ひどい火事やったから・・・・。
「もしも、火事が起きてなかったら、もうあの場所に戻ることはなかったわね・・・。」
「・・・そうやな。」
決して起こってほしくないことや。
もう、二度と・・・・
そして、日曜日・・・予定通り、あのマンションがあった跡地へ・・・・足を運んでみた。
8年ぶりに・・・・
「亜利砂?おばさん・・・・」
「あっ、敬太君・・・」
「えっ?敬太先生・・・・」
「おばさん、退院したんですか?」
「今日は、特別なの。」
「あれから、8年経つんですね。」
俺が去ったのは、8年前の3月やから、8年と3ヶ月・・・か。
「わたし、やっとこの場所にこれた・・・・」
「・・・そうなんや。実は俺も・・・ずっとこれてなくて・・・。やっと、これたんや。」
俺は、持ってた花を供え・・・・
「こいつらも生きてたら、きっとそれぞれ夢叶えてるはずやから・・・・・」
「・・・・・・」
「そうね、そうだよね。
敬太君、よく無事でいてくれたね・・・・」
「・・・こちらこそ・・・・。再会できて何よりです。」
「・・・・・・。ずっと、考えてた・・。敬太先生は、本当に、わたしの幼馴染みか・・・・。」
「あはは。うそやないで?おばさんとこんなに打ち解けて話さへんやろ?」
「・・・・・なんでわたし、覚えてないんだろう・・・・。」
「まぁまぁ・・・。きっと、悲しい記憶として残ってしまっとるんや。俺がいなくなってしまったんやないかとか・・・・。」
「・・・・・・」
「亜利砂?」
「・・・・・嫌だ・・・・・」
「亜利砂、すまん・・今のは冗談や・・・・」
「・・・・わたし、帰る!!」
「亜利砂!」
「亜利砂?」
「おばさん、すんません。俺・・・軽々しくあんなこと・・・・」
「・・・・亜利砂ね、敬太君が、まだ、部屋にいるって思ってたみたいで・・・・」
「・・・・・」
「あの火事のあと・・・・、放心状態が続いてしまって・・・・。」
「そうだったんや・・・・。俺、あんなこと言うつもりなかったのに・・・・。」
「・・・敬太君・・・・。生きていてくれてありがとう。これからも、よろしくね?」
「・・・はい。こちらこそ。
おばさんも、体、お大事にしてくださいね。」
「えぇ、ありがとう。」
そして、次の日・・・・
「亜利砂先生・・・・」
「敬太先生、おはようございます。」
「・・・・あの、昨日は・・・・」
「ほら、ボォーッとしてると子供たちに捕まりますよ?」
「敬太先生!!おはよう」
「・・・・おはよう・・」
「先生!ピアノきかせてよ」
「先生!早く早く」
亜利砂の言う通り、俺は子供たちに捕まった。
「ふふっ」
「笑わないでくださいよ」
そんな毎日が、穏やかに続いた・・・・・。
「あ~・・・どうしよう・・・
チェーンはずれちゃった・・・・」
街の自転車置き場で嘆いているのは、怜奈先生。
と、そこへ・・・
「あのぉ?どうかしましたか?」
「チェーンはずれちゃったんです。あっ、ごめんなさい。邪魔ですよね?」
「いや・・・。よかったら、直しましょうか」
「えっ?いいですよ。悪いです。」
「任せてください。俺はこういうの得意なんで。」
そういうと、10分くらいで直してしまった。
「すご~い」
「俺、自転車で旅するの好きなんで、こういうことよくあるし。今もほら、こうして放浪旅(笑)」
「ありがとう。あの、よかったらいまから、行きつけのお店に行くんだけど・・・・お礼におごらせて」
「いや、いいですよ。ただ、チェーン直しただけなのに。」
「いいから、いいから。今日は、誘った人に断られてへこんでるの。」
「それって、男ですか?」
「まぁね。これでも、小学校の美術教師やってるの。土岐怜奈って、言います。」
「偶然ですね。僕も小学校の教師。担当は、俺も美術です。俺は、生口亮平。よろしく。」
自転車だから、お酒は飲まない約束で。
「ねえ、亮平君は、好きな人とかいるの?」
「・・・初めて出会ったやつにそれ、聞いちゃいます?」
行きつけの店はいつもの居酒屋だ。駅のすぐそばだ。
「あたしは、いるんだ。しかも、そいつは、同僚。」
「・・・なるほど・・・自分の話・・・」
「そいつね、結婚を、前提に付き合っている人がいるんだ。」
「・・自動的に、失恋ってやつですか・・・?」
よくあるやつかな。
「せいつは、わたしの気持ちに全然気づいてないの」
「あー、飲みすぎですよ。明日も学校あるでしょ?」
そこへ、飲み物を運んできた楓が、
「お疲れ様。あれ?なに?今日は、見ない男子連れてきちゃってどうしたの?」
「あっ、亮平って言います。実は、ついさっき、会ったばかりです」
「えっ?初対面?」
「あっ、彼女は、私たちの友達なの。亮平君ねー、わたしの自転車のチェーンを、直してくれたのよね~?
「・・・はい、そうなんです。俺は、このあとも自転車なんで、飲めないんですけど・・・」
「そうだったんだ。(ナンパじゃないんだ(笑)ごめんね、彼女、飲みすぎるとあーなるから。」
「いつも・・ですか?」
「そう、いつも(笑)」
「そういえば、あなたも彼女と、同じ先生なの?」
「・・・よくわかりましたね」
「ふふっ、だって顔に絵の具ついてる」
「えっ?」
あわててほっぺやら、手を見る亮平。
「ふふっ。」
かわいいやつだと、楓は思った。
「この街に来たのは初めてなんだ。
あっ、でも、俺の同僚が確か、この近くの小学校に、赴任したから、もしかしたら知り合いかもしれませんね。」
そんな偶然ないか・・・
「ちょっとぉ~!人の話、聞いてる?楓~!生もう一杯!」
「ごめんね。」
「・・・はい」
楓は、生をもう一杯持ってくると
「ごめんね。」
そう言って自分の業務に戻っていった。
「あんたは、どうなの?気になる人とか、好きな人とかいないの?」
「・・・残念ながら、俺はモテないから。」
(敬太先生の方がモテたし)
「じゃあ、今日の出会いに、乾杯!」
「・・・・あっ、乾杯・・・」
亮平は、なんだか、寂しそうな怜奈の顔が頭から離れずにいた。
そして、
「ごめんね、亮平君。わたし、飲みすぎちゃって。しかも、送ってもらって・・・
遠いんじゃないの?」
「大丈夫です。女の人を一人で帰す方が男として情けない気がするので・・・。」
「なんか、今日、初めて会った気がしないね」
「本当に。これが運命の出会いってやつですかね・・・」
そうだといいな
「じゃあ、ありがとう。おやすみなさい」
「おやすみなさい。」
また、どこかで会えるといいな・・・
そんな言葉を飲み込みながら・・・・。
この出会いが、二人の運命を左右するなんてまだ、知るよしもなかった。
次の土曜日、俺はおかんの働く病院に、ボランティアに来ていた。
「敬太兄ちゃん!」
「お~!みんな、元気にしとったか?」
「敬太、遅かったじゃない」
「すまん、すまん。ピアノ弾いていたら、すっかり、今日のことを忘れてしもていてな・・・」
「また、徹夜したの?」
「おかんは、勤務終わりやろ?夜勤、ご苦労様。」
「まったく。そんなことを、繰り返しているとからだ、壊すよ?」
「どうしても、作りたい曲があるんや」
「敬太兄ちゃん!早く遊ぼうよ」
「はいはい。」
子供たちに促される。
「ほな、お疲れ様」
「あら、敬太君わざわざ、ここまで来てくれたの?」
「子供たちが、どうしても、敬太じゃなきゃ嫌だって言うのよ。仕方ないでしょ?」
「敬太君、歌うまいし、それに、ピアノもすぐ弾けちゃうから子供たちがなついてくれて助かってるの。
念願の小学校の教師になってもう3年でしょ?学校変わっても月に一度のボランティアに来てくれるなんてね。本当に優しい・・・」
「あとは、彼女でもいてくれれば言うことなしなんだけどねー」
「ふふっ、そうね・・・・」
「♪一年生に、なったら、一年生になったら♪友達100人できるかな」
そう歌っているところへ・・・・
「こんにちは」
「あら、亜利砂ちゃん?」
「えっ?」
亜利砂は記憶がないから、俺のおかんのことも覚えてないんや。
「覚えてない?敬太の母だけど・・・・」
「敬太先生の・・・・」
家族ぐるみで付き合いがあった俺たちだから、覚えてて当然なんだけど・・・・
「・・・・敬太、いまボランティアに来ているのよ。会ってく?どうしたの?今日は
・・・・」
「母がいま、入院していて、こちらに転院になったので・・・」
「あら、そうなの?お母さん、悪いの?」
「ううん。ただの過労なんだけど・・・・」
「あなたも、大変ね。」
「・・・なんや。おかん・・まだ、帰ってへんかったんや・・・
って・・・亜利砂、なんで、ここにおるん?」
「お母さんが、入院してるから・・・・。」
「もしかして、敬太。新しい赴任先の小学校って、亜利砂ちゃんが勤めてる学校だったの?」
「そうなんや。8年ぶりに再会したんや。こんな偶然あるんやな。」
「でも、亜利砂ちゃんの方は、なんだか私に初めて会ったような感じに見えたわ?それは、どうして?」
「説明すると、長いんやけど・・・ええかな?」
俺は、少し微笑みながら言うと・・・
「亜利砂、お母さんの転院の手続き終わったよ・・?って・・・敬太先生?」
「譲先生も、おったんや・・・」
そりゃあ、そうか。
だって、二人は・・・・
その後ろにいたのは・・・
「あら、敬太くん・・・」
紛れもなく、亜利砂の母親・・・・。
「どうも、お久しぶりです。」
まさか、こんなところで、会うなんて思わへんから・・・・。
「・・・なんか話あるんだろ?俺は、先に帰ってるわ・・・。」
気をきかせて、譲先生は、いなくなった。
「あら、亜利砂ちゃんと、彼は?」
親しげに話す彼のことが気になったのか、おかんが聞く。
「結婚を、前提にお付き合いを、している人なの。とてもよくしていただいてて・・・
同じ小学校の先生なの。」
「そうなんですか。それは、おめでとうございます。」
「・・・・・・。」
おかんと、亜利砂のおかんは、久しぶりに会ったから話に実を咲かせたのか、休憩室で話し込み始めた。
話し出したら止まらんのは、俺のおかんの方やけど・・・・。
勤務終わってるから構わんけど・・・なんや、恥ずかしいわ。
「・・・敬太先生は、ここで何してるの?」
「・・・あっ、月に一度のボランティア活動や。小児科の子供たちと、歌を歌ったり、ものを作ったりしとるんや。」
「へぇー、そうなんだ。」
「まぁ、前の小学校からは、ここ、近かったんやけど、子供たちから熱い要望を、もろたからこれからも、通い続けようかなって・・・。「そうなんだ。」
「譲先生と、同棲でもしとるんか?先帰るって・・・・」
思わず聞いてしもた。
「時々、泊まりに来てくれるんです。」
「・・・・そっか。そうなんや。」
なぜだか、安心する俺。
「敬太にいちゃん、何してるの?早く早く~」
「ふふっ、こっちでも子供たちに人気なんですね」
「なんやかんや俺は、子供好きやからな。」
「ふふふ。」
「あっ、今、笑たやろ。子供みたいって思ったやろ」
「・・はい、思いました」
「・・・どうせ、子供やもん。」
俺は、頬を膨らませて見せた。
「(笑)」
俺と亜利砂は、あの頃みたいに笑って話していた・・・・。
そして、おかんは、亜利砂のおかんから、8年前のことを聞いたみたいで・・・
「敬太、聞いたわよ?亜利砂ちゃんのこと。」
「やっぱり、聞いたんや。
そういうことやで?」
「だって、おかしいじゃない。あなたたちは、幼馴染みだったんだし。」
「忘れられてしもたみたいやわ。彼女の記憶は、あの火事の日から前は消えてしもたんや。
俺と、幼馴染みだったこと・・・全部・・・・・」
「わたし、あんたはてっきり亜利砂ちゃんと付き合うかと思ってたわ。あんなに仲良かったから。」
「・・・でも、8年やで?もう、遅いやろ・・・
彼女には、結婚を、前提にお付き合いしてる、譲先生が、いるんやから。」
「あんたが、ずっと彼女を、作らなかったのかあさん知ってるよ?亜利砂ちゃんとお揃いのブレスレットを、作ったのも、ネックレスを、彼女に送ったのも・・・母さん、知ってるんだよ。
あんたが、亜利砂ちゃんのことを、好きだってことも・・・・。」
「そうやけど、亜利砂はもう、俺のことを、覚えてないんや・・・・。ネックレスは、してくれとるけど・・・・。忘れられたらおしまいや・・・。」
「敬太、自分の気持ちに、正直にならなきゃダメよ?好きな人には気持ちを、ぶつけられる男になりなさいよ?いいわね?」
「・・・・わかった・・・おおきに。」
「わたしは、いつでもあんたの味方でいるから。」
「・・・・・」
「それと、母さん大丈夫だから、毎回泊まりに来なくていいわよ?大変だろ?」
「そうやけど・・・・」
「ここから、遠いんだから」
「でも、ボランティアに来たときは、泊まってもええかな?」
「来てくれるの?」
「約束しとるから、子供たちと。」
「それは、助かるわ。敬太が来てくれると子供たちが、とても元気になるから。」
「それ、ほんま?」
だけど、その言葉だけで嬉しかった。
「なぁ、そう言えばさ、あのマンションあったところどうなったか知っとる?」
「だいぶ古かったし・・・火事があったから、建て直したかもしれないね。」
「明日、日曜日だし。行ってみるわ。俺もあれから行ってへんから。」
「じゃあ、敬太。ついでにお花も供えてきてね。」
「あぁ、もちろんや」
あの火事で俺は、数人の同級生を、失った。
助かったのが嘘みたいな位、ひどい火事やったから・・・・。
「もしも、火事が起きてなかったら、もうあの場所に戻ることはなかったわね・・・。」
「・・・そうやな。」
決して起こってほしくないことや。
もう、二度と・・・・
そして、日曜日・・・予定通り、あのマンションがあった跡地へ・・・・足を運んでみた。
8年ぶりに・・・・
「亜利砂?おばさん・・・・」
「あっ、敬太君・・・」
「えっ?敬太先生・・・・」
「おばさん、退院したんですか?」
「今日は、特別なの。」
「あれから、8年経つんですね。」
俺が去ったのは、8年前の3月やから、8年と3ヶ月・・・か。
「わたし、やっとこの場所にこれた・・・・」
「・・・そうなんや。実は俺も・・・ずっとこれてなくて・・・。やっと、これたんや。」
俺は、持ってた花を供え・・・・
「こいつらも生きてたら、きっとそれぞれ夢叶えてるはずやから・・・・・」
「・・・・・・」
「そうね、そうだよね。
敬太君、よく無事でいてくれたね・・・・」
「・・・こちらこそ・・・・。再会できて何よりです。」
「・・・・・・。ずっと、考えてた・・。敬太先生は、本当に、わたしの幼馴染みか・・・・。」
「あはは。うそやないで?おばさんとこんなに打ち解けて話さへんやろ?」
「・・・・・なんでわたし、覚えてないんだろう・・・・。」
「まぁまぁ・・・。きっと、悲しい記憶として残ってしまっとるんや。俺がいなくなってしまったんやないかとか・・・・。」
「・・・・・・」
「亜利砂?」
「・・・・・嫌だ・・・・・」
「亜利砂、すまん・・今のは冗談や・・・・」
「・・・・わたし、帰る!!」
「亜利砂!」
「亜利砂?」
「おばさん、すんません。俺・・・軽々しくあんなこと・・・・」
「・・・・亜利砂ね、敬太君が、まだ、部屋にいるって思ってたみたいで・・・・」
「・・・・・」
「あの火事のあと・・・・、放心状態が続いてしまって・・・・。」
「そうだったんや・・・・。俺、あんなこと言うつもりなかったのに・・・・。」
「・・・敬太君・・・・。生きていてくれてありがとう。これからも、よろしくね?」
「・・・はい。こちらこそ。
おばさんも、体、お大事にしてくださいね。」
「えぇ、ありがとう。」
そして、次の日・・・・
「亜利砂先生・・・・」
「敬太先生、おはようございます。」
「・・・・あの、昨日は・・・・」
「ほら、ボォーッとしてると子供たちに捕まりますよ?」
「敬太先生!!おはよう」
「・・・・おはよう・・」
「先生!ピアノきかせてよ」
「先生!早く早く」
亜利砂の言う通り、俺は子供たちに捕まった。
「ふふっ」
「笑わないでくださいよ」
そんな毎日が、穏やかに続いた・・・・・。
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