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第3話 記憶喪失
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「あれから8年も、経つもんな・・・覚えてなくて当たり前か・・・」
「・・・8年?」
始業式も、終わって歓迎会をしてもらい、隣に亜利砂がいたから呟いてみた。
「栗原先生、亜利砂先生のこと、知っていたんだって?」
「彼女は、俺の幼なじみなんや。」
「ってことは、なに?ふたりは、恋仲だったとか?」
突然、俺らの話に割って入ってきたのは、美術担当の土岐怜奈先生。
「いや、えーっと・・・」
うまく、答えられずにいると、
「でも、ダメよ?亜利砂先生には、譲先生が、いるから」
「えっ?」
「ふたりは、いずれ結婚する仲なの。ほら、婚約指輪してるし、子供たちも知ってる」
「・・・・そ、そうなんや」
俺はショックを隠しきれずにいた。
「まだ、僕は半人前だ。亜利砂を養えるくらいになったら、改めてプロポーズしようかなって・・・」
「譲・・・」
見つめ合うふたり。
「栗原先生?大丈夫ですか?」
放心状態の俺・・・・
俺の知らんうちに、亜利砂が恋人作っていたやなんて。」
「そ、そうなんやな!幼なじみの亜利砂が、元気そうでほんまよかったわ!これから、よろしゅうお願いします。」
「わたし、あなたの幼なじみじゃないですよ?」
「えっ?亜利砂先生、違うの?彼はあなたを幼なじみって言っているのに・・・」
「わたしに、幼なじみなんていません。だから、栗原先生のこと、知らないの」
「亜利砂・・・」
「わたしのこと、どうして知っているんですか」
なんだか、責められるように質問される。
「いや、・・・えーっと・・・」
「もしかして、記憶がない年のこととか関係してる?」
「記憶がない?」
「高3の冬ぐらいのことが、思い出せないらしくて。でも、先生になりたいって夢だけは覚えていたから、自分が合格した大学に入って、こうして、先生になったんだって」
「やっぱり、あの火事が、原因か・・・」
「なんか、あったの?」
「あの日のことは、思い出したくないの。とても怖い思いしたきがするから」
頭を抱え始めた亜利砂。
「大切な人を亡くしたのかもしれないし・・・それが、わからなくて・・・」
「そっか」
亜利砂も辛い思いしたんやな。
「じゃあ、ひとつだけお願いしてもエエかな?」
「えっ?」
「俺のことさ、思い出さなくてええから、せめて顔見て話してくれやんかな?なんか、つらいわ。
「ごめんなさい」」
「なんか、暗いよ?みんな!せっかくの栗原先生の歓迎会なのに!盛り上がっていこうよ!これから、も、よろしくを込めて、乾杯 」
「乾杯!」
俺は、あんまり盛り上がる気にはなれやんかった。
久しぶりに亜利砂に再会したのに・・・今日1日、俺には笑顔を見せてはくれへんかった。
それから、数日後。
「敬太先生、おはようございます!」
数人のこどもたちが、挨拶してくれるようになった。
「おはよう。廊下は走るなよ?」
「はーい」
「すっかり子供たちと打ち解けたんですね」
「そりゃあ、もう3年目ですから。
それじゃあ、授業あるんで・・」
話しかけてくれたのは怜奈先生で・・
「敬太先生・・・」
「・・・はい」
「って、呼んでもいいですか?」
「もちろんです。
俺は子供たちにも名前で呼んでほしいって言うてありますから」
「そうなんだ。じゃあ、亜利砂にも、そうやって言っておくね。」
「・・・はい」
でも、亜利砂は、名前では呼んでくれやんかった。
「栗原先生。まだ、いらしたんですね。」
「亜利砂・・・と、いけない。亜利砂先生は、曲とか書かんのですか?」
「教師が作曲だなんて恥ずかしくて出来ませんよ。」
「まぁ、俺も趣味でやっているだけやけど・・・これはまだ、未完成なんや」
「未完成?」
「なんか、納得いかんくてな。この曲に、歌詞でもつけるか、つけやんべきかも迷っているんや。」
「なんだか、ミュージシャンみたい。シンガー・ソングライター・・・・っていうのかしら」
「そうや。、ミュージシャン目指したこともあったなぁ~」
「・・・あなたは、わたしのことを知っているんですよね?」
「えっ?」
「だって、幼なじみだと思っているんでしょ?」
「思っている・・・じゃなくて、ほんまの幼なじみなんやけど?」
「じゃあ、あの日のことを知っているんですよね。」
「火事のこと?」
「わたし・・・その日になにか大切なものをなくしたの。それが、なにかわからなくて・・・」
むしろ、その日から前の記憶が途切れているから・・・・。
亜利砂の胸には、あの石のネックレスがあるのを見つけた俺は・・・
「あのな、亜利砂・・・」
言おうとしたときに、
「亜利砂・・・ここにいたんだ。」
「譲・・・」
「と、なんだ、栗原先生も、いたんですね。」
「いや、たまたま亜利砂先生がここに来ただけですから・・・」
「栗原先生・・・あの・・・」
今度は亜利砂が何か言いかけたのを制して・・・
「誤解せんといてください。譲先生が、心配するようなことはなにもしてません。」
「えっ?」
「ほら、こうやって、二人きりやとなにかと心配やろ?ましてや、幼なじみや。もしかしたら・・・・とか」
「そうなのか?亜利砂。」
「そう、そんなわけないわよ。」
「なっ?心配せんかて、俺はただの幼なじみ。って言うか、今はただの、転任してきた教師や。仲良くしてな!の、意味を込めて話とっただけや。譲先生が来るまでの間の話し相手になっただけや。ほな、また、明日な?」
俺は、二人の肩をポンっと、叩いてその場を去ってきた。
そして、帰り際に会ったのは、怜奈先生で。
「あっ、そう言えば、敬太先生。生徒が呼んでましたよ?」
「・・・・・」
「敬太先生?」
「あっ、おおきに。すぐいくわ」
胸がいたいんや・・・
なぜだかそれからも、ボーッとしてしまって。
「なんかありました?」
「えっ?いや、なんも、あらへんで?」
「そういう顔してる」
「・・・・・」
「傷ついた顔をしてる。わたしで良ければ相談に乗りますよ?生徒の前ではそんな顔見せちゃダメですよ?」
「大丈夫です。これでも耐えるのには、慣れてるから・・・」
半分嘘やけど・・・
「そう?」
「で?誰が呼んでいたんですか?もうすぐ下校時間やけど・・・」
「あっ、4年3組の生徒なんですけど・・・」
チラシを渡され・・・
「へぇ、バイオリンの、発表会かぁーすごいやん」
俺は、その生徒の教室にいた。
「でもね、先生・・・
うまく、弾けないの。」
俺は、ビックリした。その女の子は、手話を使っていたから・・・・。
「君、耳が、聞こえやんの?」
「先生、手話、わかるんですか?」
「前の学校で、受け持ったクラスにもいたから、少しだけわかるよ。」
「わたし、ほんの少しだけ音を聞き取ることが出来るから、始めたの。発表会が、できるまで上達したんだけど・・・」
「うんうん。」
「でもね、うまく弾けないの部分があるの」
「よし、先生が、聞いてやるよ。弾いてごらん」
その子は、バイオリンを、弾き始めた。
耳が不自由なんてことが、わからないくらいの弾き方だ。
「・・・・」
そして、止まってしまった。
「どうした?」
「・・・先生、こわいんです。いつも、ここで、間違えるから・・・」
「・・・わかった。若葉ちゃんの弱点は、極度の緊張やな。」
「緊張?」
「そう。すごくうまく弾けてる。でも、なんか怖がっている気がする。ここで、間違えるんじゃないかって。間違えたらみんなに迷惑かけるんじゃないかって思って・・・それで、弾けやんくなる。」
「・・・・・・」
「自信もってええと思うで。君には才能かある。例え、耳が聞こえにくくても、きっと、君が自信を持てば、君のそのバイオリンが、助けてくれるはずや」
「ほんとに?」
「あぁ、ほんまや。だから、自信をもってや。楽しく弾けばエエんや。」
「うん!頑張る」
若葉ちゃんは、いい笑顔になった。
「なんだよ、若葉、みずくさいな。先生じゃ、ダメだったのか?」
いつのまにか、譲先生が、来ていた。
「譲先生のクラスの、生徒さんやったんや」
「まぁ、俺は、音楽担当してないから、相談に乗りにくいだろうけど・・・・」
「すいません。勝手に指導してしもて」
「手話もわかるなんて・・・」
「えっ?いつからいたんですか?」
「ず~っといたけど・・・」
「あはは。手話は、前の学校の生徒にもいたんです。俺が受け持っていたクラスに。障害者がいても、同じように仲良くしよう・・・そんな学校でしたから・・・」
「へぇ・・・」
「譲先生は?どうして先生に、なったんですか?」
「年の離れた弟がいてさ。そいつに、なんだかんだ教えることが多くてさ」
「そうなんや。」
「あっ!譲先生!聞いてくれた?」
「聞いてたよ。今度の発表会、見に行くから頑張れよ?」
「うん!」
そう言って、若葉ちゃんは続きを弾き始めた。
そして、
「先生、さようなら」
若葉ちゃんは、元気よく帰っていった。
「あー!譲先生に、敬太先生。ふたりして何を話していたんですか?」
「えっ?」
俺と、譲先生が同時に振り向く。
「別にいいだろ?男同士の話だよ」
「へぇ・・譲ってさ・・・わたしのことを、見てくれないよね」
「・・譲・・・呼び捨て・・・」
「あっ、彼女と、俺と亜利砂は同僚なんだけど・・・」
「譲先生モテますもんねー」
「でも、俺は、亜利砂一筋だから。」
「それはもう、百万回聞いた。」
「そんなにいってないだろ?」
なんだか、言いあいが始まった。これって・・・
「(笑)仲が良いんですね」
そう言ってみたら
「どこが!!」
声揃ってるし(笑)
「もしかして、お前、俺と亜利砂に妬いてんだろ」
「妬いてないわよ」
「いーや、妬いてるね」
完全に二人の世界なんやけど・・・。
これを亜利砂に見られたらどないするんやろ・・・・
そんな心配をしていたら。
「わたし、決めた」
「決めた?何をだよ」
「敬太先生と、付き合う!」
「はっ?」
「えっ?」
突然の、告白やった、
「って、嘘やろ?」
「だって、敬太先生の方が好みだもん!優しいし、ピアノ上手だし。」
「あの・・・?」
俺の気持ちは?
「勝手にすればいいだろ?」
「言われなくても勝手にしますよぉーだ。あんたこそね、亜利砂とさっさとよろしくやれば?」
「言っただろ?養えるようになるまでは結婚しないって」
いや、なんやかんやこっちの方が怪しい仲なんやけど・・・。
「あの、お二人さんって・・・・」
俺は、二人の会話に割って入ってみたものの・・・・
「何か?」
と、二人に睨まれた。
「な、何でもないです。下校時間過ぎたから帰りましょう!」
「あっ!敬太先生!今の話、考えておいて下さいね?」
「・・・今の話って・・・俺が土岐先生と、付き合うって話?」
「そうです。考えておいてくれますよね?」
「いや、いきなりはちょっと・・・」
「どうしたの?なんの話?」
そこへ、亜利砂も話に入ってきた。
「あー、怜奈先生が、敬太先生と、付き合うかもって話。」
「いや、勝手に話を進めやんでほしいんですけど・・・」
「そうですよね・・・。敬太先生には、忘れられない人、いるんですものね」
「忘れられない人・・・・」
「あの、土岐先生!」
「敬太先生の忘れられない人って・・・・」
「言うなよ」
俺は、思わず叫んでいた。
それは、自分の口からちゃんと伝えたいから・・・・
「俺は、今は誰とも付き合う気ありませんから・・・・」
思わず断りの文句を言うてしもた。
「だってさ、残念だったな」
なせか、意地悪く言う、譲先生。
「な、何よ!譲のバカ!」
泣きそうな顔をしながら、怜奈先生は、その場を立ち去ってしもた。
「土岐先生!」
「ほっとけよ」
「ほっとけないですよ。彼女、泣いていたし・・・」
「譲、どうしたのよ・・・。怜奈にあんな言い方・・・」
「亜利砂、帰ろう。」
譲先生は、亜利砂の手を繋ぎ、さっさと行ってしまった。
俺はと言うと・・・
「やっぱり、ここにおったんですね」
「敬太先生」
「先生方の行きつけの居酒屋だって、こないだ聞いたんで。よく、譲先生と、亜利砂と来てるるって、従業員の楓さんが・・・・」
「あの、おしゃべり」
「怜奈先生って・・・譲先生のこと、好きなんですね」
「えっ?なんでわかるの?」
「いや、なんとなくね。譲先生に、妬いてるんやなぁ~って。」
「・・・・なんっ、わかっちゃったんだろう。二人の結婚お祝いしなきゃって思えば思うほど素直になれなくてさ」
「譲先生と、何かあったんですか?」
「譲とは、古い付き合いなの。幼なじみとはいかないけど、ず~っと一緒に生きてきたから。譲を、男として意識し始めたのは高校生のときかな。ケンカもしたけど、先生になるって夢は一緒だったから嬉しかったんだ」
「へぇ~。なんかええな。そういうの。」
「ねぇ、敬太先生は?亜利砂と再会したのに、自分の気持ちを伝えないの?」
「亜利砂、俺が、幼なじみってこと忘れてるやん?それに、せっかく幸せ掴みかけとるから混乱させたくないなって」
「そのブレスレット、素敵ですね」
「これな、亜利砂と、俺を繋ぐお守りやねん。」
「亜利砂も同じ石のネックレスしてる。やっぱり、あなたは、亜利砂の・・・」
「亜利砂は、このまま思い出さん方がエエかもしれませんね。」
「でも、好きなんですよね?亜利砂のこと」
「・・・・・・」
「わたし、協力します」
「エエよ。」
「いいから、いいから。」
「なぁんだ。やっぱり、ここにいた」
「えっ?」
ふたりして振り返ると、店に入ってきたのは譲先生と、亜利砂。
「やっぱり、ってなによ。いちゃ悪いかしら?」
「二人とも、相変わらずだよね。譲は、ビールでいい?亜利砂は、レモンティーね」
「あっ、よろしく」
「ほな、俺はこれで失礼するわ」
「あっ!待って!私も!」
「やっぱり、付き合うんだ。」
そういう、譲先生に、
「うるさい!」
そう言って店を出てきた。
やっぱり、この二人怪しいんやけど。
「自分が言い出したんだろっちゅーの」
「譲・・・どうしたの?今日は、変だよ?」
「亜利砂、こうなったら俺、とことん頑張るから!待っててくれよ?」
亜利砂も、店の従業員の楓も、譲がなんでこんなに荒れているのかわからずにいた。
その頃・・・・
「譲は、わたしの気持ちなんてこれっぽっちも考えてくれないの」
「・・・・・・」
「ちょっとぉ!なんか言いなさいよね」
「素直になればええと思うよ。今の怜奈先生ね気持ち、ぜんぶぶつけちゃえば楽になれるんやないかな」
俺もそうできたらええけど・・・・
「海のバカヤロー!!」
「あの?酔ってます?」
「譲なんて、譲なんて・・・
大嫌いだぁ~!!」
海に向かって叫ぶ怜奈先生。
いや、そうやなくて・・・・
「あっ!危ないですよ」
階段から落ちそうになった怜奈先生を、思わず抱き止めて・・・・
「でも、本当は・・・好き・・・」
そう、呟いた。
「怜奈先生?」
その姿をまさか亜利砂と、譲先生に、見られていたなんて・・・・。
「・・・8年?」
始業式も、終わって歓迎会をしてもらい、隣に亜利砂がいたから呟いてみた。
「栗原先生、亜利砂先生のこと、知っていたんだって?」
「彼女は、俺の幼なじみなんや。」
「ってことは、なに?ふたりは、恋仲だったとか?」
突然、俺らの話に割って入ってきたのは、美術担当の土岐怜奈先生。
「いや、えーっと・・・」
うまく、答えられずにいると、
「でも、ダメよ?亜利砂先生には、譲先生が、いるから」
「えっ?」
「ふたりは、いずれ結婚する仲なの。ほら、婚約指輪してるし、子供たちも知ってる」
「・・・・そ、そうなんや」
俺はショックを隠しきれずにいた。
「まだ、僕は半人前だ。亜利砂を養えるくらいになったら、改めてプロポーズしようかなって・・・」
「譲・・・」
見つめ合うふたり。
「栗原先生?大丈夫ですか?」
放心状態の俺・・・・
俺の知らんうちに、亜利砂が恋人作っていたやなんて。」
「そ、そうなんやな!幼なじみの亜利砂が、元気そうでほんまよかったわ!これから、よろしゅうお願いします。」
「わたし、あなたの幼なじみじゃないですよ?」
「えっ?亜利砂先生、違うの?彼はあなたを幼なじみって言っているのに・・・」
「わたしに、幼なじみなんていません。だから、栗原先生のこと、知らないの」
「亜利砂・・・」
「わたしのこと、どうして知っているんですか」
なんだか、責められるように質問される。
「いや、・・・えーっと・・・」
「もしかして、記憶がない年のこととか関係してる?」
「記憶がない?」
「高3の冬ぐらいのことが、思い出せないらしくて。でも、先生になりたいって夢だけは覚えていたから、自分が合格した大学に入って、こうして、先生になったんだって」
「やっぱり、あの火事が、原因か・・・」
「なんか、あったの?」
「あの日のことは、思い出したくないの。とても怖い思いしたきがするから」
頭を抱え始めた亜利砂。
「大切な人を亡くしたのかもしれないし・・・それが、わからなくて・・・」
「そっか」
亜利砂も辛い思いしたんやな。
「じゃあ、ひとつだけお願いしてもエエかな?」
「えっ?」
「俺のことさ、思い出さなくてええから、せめて顔見て話してくれやんかな?なんか、つらいわ。
「ごめんなさい」」
「なんか、暗いよ?みんな!せっかくの栗原先生の歓迎会なのに!盛り上がっていこうよ!これから、も、よろしくを込めて、乾杯 」
「乾杯!」
俺は、あんまり盛り上がる気にはなれやんかった。
久しぶりに亜利砂に再会したのに・・・今日1日、俺には笑顔を見せてはくれへんかった。
それから、数日後。
「敬太先生、おはようございます!」
数人のこどもたちが、挨拶してくれるようになった。
「おはよう。廊下は走るなよ?」
「はーい」
「すっかり子供たちと打ち解けたんですね」
「そりゃあ、もう3年目ですから。
それじゃあ、授業あるんで・・」
話しかけてくれたのは怜奈先生で・・
「敬太先生・・・」
「・・・はい」
「って、呼んでもいいですか?」
「もちろんです。
俺は子供たちにも名前で呼んでほしいって言うてありますから」
「そうなんだ。じゃあ、亜利砂にも、そうやって言っておくね。」
「・・・はい」
でも、亜利砂は、名前では呼んでくれやんかった。
「栗原先生。まだ、いらしたんですね。」
「亜利砂・・・と、いけない。亜利砂先生は、曲とか書かんのですか?」
「教師が作曲だなんて恥ずかしくて出来ませんよ。」
「まぁ、俺も趣味でやっているだけやけど・・・これはまだ、未完成なんや」
「未完成?」
「なんか、納得いかんくてな。この曲に、歌詞でもつけるか、つけやんべきかも迷っているんや。」
「なんだか、ミュージシャンみたい。シンガー・ソングライター・・・・っていうのかしら」
「そうや。、ミュージシャン目指したこともあったなぁ~」
「・・・あなたは、わたしのことを知っているんですよね?」
「えっ?」
「だって、幼なじみだと思っているんでしょ?」
「思っている・・・じゃなくて、ほんまの幼なじみなんやけど?」
「じゃあ、あの日のことを知っているんですよね。」
「火事のこと?」
「わたし・・・その日になにか大切なものをなくしたの。それが、なにかわからなくて・・・」
むしろ、その日から前の記憶が途切れているから・・・・。
亜利砂の胸には、あの石のネックレスがあるのを見つけた俺は・・・
「あのな、亜利砂・・・」
言おうとしたときに、
「亜利砂・・・ここにいたんだ。」
「譲・・・」
「と、なんだ、栗原先生も、いたんですね。」
「いや、たまたま亜利砂先生がここに来ただけですから・・・」
「栗原先生・・・あの・・・」
今度は亜利砂が何か言いかけたのを制して・・・
「誤解せんといてください。譲先生が、心配するようなことはなにもしてません。」
「えっ?」
「ほら、こうやって、二人きりやとなにかと心配やろ?ましてや、幼なじみや。もしかしたら・・・・とか」
「そうなのか?亜利砂。」
「そう、そんなわけないわよ。」
「なっ?心配せんかて、俺はただの幼なじみ。って言うか、今はただの、転任してきた教師や。仲良くしてな!の、意味を込めて話とっただけや。譲先生が来るまでの間の話し相手になっただけや。ほな、また、明日な?」
俺は、二人の肩をポンっと、叩いてその場を去ってきた。
そして、帰り際に会ったのは、怜奈先生で。
「あっ、そう言えば、敬太先生。生徒が呼んでましたよ?」
「・・・・・」
「敬太先生?」
「あっ、おおきに。すぐいくわ」
胸がいたいんや・・・
なぜだかそれからも、ボーッとしてしまって。
「なんかありました?」
「えっ?いや、なんも、あらへんで?」
「そういう顔してる」
「・・・・・」
「傷ついた顔をしてる。わたしで良ければ相談に乗りますよ?生徒の前ではそんな顔見せちゃダメですよ?」
「大丈夫です。これでも耐えるのには、慣れてるから・・・」
半分嘘やけど・・・
「そう?」
「で?誰が呼んでいたんですか?もうすぐ下校時間やけど・・・」
「あっ、4年3組の生徒なんですけど・・・」
チラシを渡され・・・
「へぇ、バイオリンの、発表会かぁーすごいやん」
俺は、その生徒の教室にいた。
「でもね、先生・・・
うまく、弾けないの。」
俺は、ビックリした。その女の子は、手話を使っていたから・・・・。
「君、耳が、聞こえやんの?」
「先生、手話、わかるんですか?」
「前の学校で、受け持ったクラスにもいたから、少しだけわかるよ。」
「わたし、ほんの少しだけ音を聞き取ることが出来るから、始めたの。発表会が、できるまで上達したんだけど・・・」
「うんうん。」
「でもね、うまく弾けないの部分があるの」
「よし、先生が、聞いてやるよ。弾いてごらん」
その子は、バイオリンを、弾き始めた。
耳が不自由なんてことが、わからないくらいの弾き方だ。
「・・・・」
そして、止まってしまった。
「どうした?」
「・・・先生、こわいんです。いつも、ここで、間違えるから・・・」
「・・・わかった。若葉ちゃんの弱点は、極度の緊張やな。」
「緊張?」
「そう。すごくうまく弾けてる。でも、なんか怖がっている気がする。ここで、間違えるんじゃないかって。間違えたらみんなに迷惑かけるんじゃないかって思って・・・それで、弾けやんくなる。」
「・・・・・・」
「自信もってええと思うで。君には才能かある。例え、耳が聞こえにくくても、きっと、君が自信を持てば、君のそのバイオリンが、助けてくれるはずや」
「ほんとに?」
「あぁ、ほんまや。だから、自信をもってや。楽しく弾けばエエんや。」
「うん!頑張る」
若葉ちゃんは、いい笑顔になった。
「なんだよ、若葉、みずくさいな。先生じゃ、ダメだったのか?」
いつのまにか、譲先生が、来ていた。
「譲先生のクラスの、生徒さんやったんや」
「まぁ、俺は、音楽担当してないから、相談に乗りにくいだろうけど・・・・」
「すいません。勝手に指導してしもて」
「手話もわかるなんて・・・」
「えっ?いつからいたんですか?」
「ず~っといたけど・・・」
「あはは。手話は、前の学校の生徒にもいたんです。俺が受け持っていたクラスに。障害者がいても、同じように仲良くしよう・・・そんな学校でしたから・・・」
「へぇ・・・」
「譲先生は?どうして先生に、なったんですか?」
「年の離れた弟がいてさ。そいつに、なんだかんだ教えることが多くてさ」
「そうなんや。」
「あっ!譲先生!聞いてくれた?」
「聞いてたよ。今度の発表会、見に行くから頑張れよ?」
「うん!」
そう言って、若葉ちゃんは続きを弾き始めた。
そして、
「先生、さようなら」
若葉ちゃんは、元気よく帰っていった。
「あー!譲先生に、敬太先生。ふたりして何を話していたんですか?」
「えっ?」
俺と、譲先生が同時に振り向く。
「別にいいだろ?男同士の話だよ」
「へぇ・・譲ってさ・・・わたしのことを、見てくれないよね」
「・・譲・・・呼び捨て・・・」
「あっ、彼女と、俺と亜利砂は同僚なんだけど・・・」
「譲先生モテますもんねー」
「でも、俺は、亜利砂一筋だから。」
「それはもう、百万回聞いた。」
「そんなにいってないだろ?」
なんだか、言いあいが始まった。これって・・・
「(笑)仲が良いんですね」
そう言ってみたら
「どこが!!」
声揃ってるし(笑)
「もしかして、お前、俺と亜利砂に妬いてんだろ」
「妬いてないわよ」
「いーや、妬いてるね」
完全に二人の世界なんやけど・・・。
これを亜利砂に見られたらどないするんやろ・・・・
そんな心配をしていたら。
「わたし、決めた」
「決めた?何をだよ」
「敬太先生と、付き合う!」
「はっ?」
「えっ?」
突然の、告白やった、
「って、嘘やろ?」
「だって、敬太先生の方が好みだもん!優しいし、ピアノ上手だし。」
「あの・・・?」
俺の気持ちは?
「勝手にすればいいだろ?」
「言われなくても勝手にしますよぉーだ。あんたこそね、亜利砂とさっさとよろしくやれば?」
「言っただろ?養えるようになるまでは結婚しないって」
いや、なんやかんやこっちの方が怪しい仲なんやけど・・・。
「あの、お二人さんって・・・・」
俺は、二人の会話に割って入ってみたものの・・・・
「何か?」
と、二人に睨まれた。
「な、何でもないです。下校時間過ぎたから帰りましょう!」
「あっ!敬太先生!今の話、考えておいて下さいね?」
「・・・今の話って・・・俺が土岐先生と、付き合うって話?」
「そうです。考えておいてくれますよね?」
「いや、いきなりはちょっと・・・」
「どうしたの?なんの話?」
そこへ、亜利砂も話に入ってきた。
「あー、怜奈先生が、敬太先生と、付き合うかもって話。」
「いや、勝手に話を進めやんでほしいんですけど・・・」
「そうですよね・・・。敬太先生には、忘れられない人、いるんですものね」
「忘れられない人・・・・」
「あの、土岐先生!」
「敬太先生の忘れられない人って・・・・」
「言うなよ」
俺は、思わず叫んでいた。
それは、自分の口からちゃんと伝えたいから・・・・
「俺は、今は誰とも付き合う気ありませんから・・・・」
思わず断りの文句を言うてしもた。
「だってさ、残念だったな」
なせか、意地悪く言う、譲先生。
「な、何よ!譲のバカ!」
泣きそうな顔をしながら、怜奈先生は、その場を立ち去ってしもた。
「土岐先生!」
「ほっとけよ」
「ほっとけないですよ。彼女、泣いていたし・・・」
「譲、どうしたのよ・・・。怜奈にあんな言い方・・・」
「亜利砂、帰ろう。」
譲先生は、亜利砂の手を繋ぎ、さっさと行ってしまった。
俺はと言うと・・・
「やっぱり、ここにおったんですね」
「敬太先生」
「先生方の行きつけの居酒屋だって、こないだ聞いたんで。よく、譲先生と、亜利砂と来てるるって、従業員の楓さんが・・・・」
「あの、おしゃべり」
「怜奈先生って・・・譲先生のこと、好きなんですね」
「えっ?なんでわかるの?」
「いや、なんとなくね。譲先生に、妬いてるんやなぁ~って。」
「・・・・なんっ、わかっちゃったんだろう。二人の結婚お祝いしなきゃって思えば思うほど素直になれなくてさ」
「譲先生と、何かあったんですか?」
「譲とは、古い付き合いなの。幼なじみとはいかないけど、ず~っと一緒に生きてきたから。譲を、男として意識し始めたのは高校生のときかな。ケンカもしたけど、先生になるって夢は一緒だったから嬉しかったんだ」
「へぇ~。なんかええな。そういうの。」
「ねぇ、敬太先生は?亜利砂と再会したのに、自分の気持ちを伝えないの?」
「亜利砂、俺が、幼なじみってこと忘れてるやん?それに、せっかく幸せ掴みかけとるから混乱させたくないなって」
「そのブレスレット、素敵ですね」
「これな、亜利砂と、俺を繋ぐお守りやねん。」
「亜利砂も同じ石のネックレスしてる。やっぱり、あなたは、亜利砂の・・・」
「亜利砂は、このまま思い出さん方がエエかもしれませんね。」
「でも、好きなんですよね?亜利砂のこと」
「・・・・・・」
「わたし、協力します」
「エエよ。」
「いいから、いいから。」
「なぁんだ。やっぱり、ここにいた」
「えっ?」
ふたりして振り返ると、店に入ってきたのは譲先生と、亜利砂。
「やっぱり、ってなによ。いちゃ悪いかしら?」
「二人とも、相変わらずだよね。譲は、ビールでいい?亜利砂は、レモンティーね」
「あっ、よろしく」
「ほな、俺はこれで失礼するわ」
「あっ!待って!私も!」
「やっぱり、付き合うんだ。」
そういう、譲先生に、
「うるさい!」
そう言って店を出てきた。
やっぱり、この二人怪しいんやけど。
「自分が言い出したんだろっちゅーの」
「譲・・・どうしたの?今日は、変だよ?」
「亜利砂、こうなったら俺、とことん頑張るから!待っててくれよ?」
亜利砂も、店の従業員の楓も、譲がなんでこんなに荒れているのかわからずにいた。
その頃・・・・
「譲は、わたしの気持ちなんてこれっぽっちも考えてくれないの」
「・・・・・・」
「ちょっとぉ!なんか言いなさいよね」
「素直になればええと思うよ。今の怜奈先生ね気持ち、ぜんぶぶつけちゃえば楽になれるんやないかな」
俺もそうできたらええけど・・・・
「海のバカヤロー!!」
「あの?酔ってます?」
「譲なんて、譲なんて・・・
大嫌いだぁ~!!」
海に向かって叫ぶ怜奈先生。
いや、そうやなくて・・・・
「あっ!危ないですよ」
階段から落ちそうになった怜奈先生を、思わず抱き止めて・・・・
「でも、本当は・・・好き・・・」
そう、呟いた。
「怜奈先生?」
その姿をまさか亜利砂と、譲先生に、見られていたなんて・・・・。
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あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

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