1 / 6
第1話 別れ
しおりを挟む
俺の名前は栗原敬太。
将来の夢は、シンガー・ソングライターか、学校の音楽の先生。
そのどちらかになれれば、いいと思ってた。
自分の夢に向かって、勉強も、頑張ったし、ピアノが得意やったから、ピアノを引きながら、もしくは、作曲もしながら、高校生活を、満喫させていた。
幼なじみに、亜利砂が、いて、彼女も、学校の先生を、めざしていた。
残念ながら、俺たちは、別々の大学に行くことになったし、お互い受験勉強で忙しくなってしまった。
「敬太と、同じ大学行きたかったな。」
「仕方ないやん。」
「ふふっ。でも、敬太なら、小学生の先生に、なってそうだな。」
「なってそうやな・・・じゃなくてなるんや。担当は、音楽やな。でも、小学生の先生って、難しいらしいな。」
「敬太が、音楽の先生は、わかるよ。ピアノ上手だし、歌も歌えるし。」
「・・・ありがと。」
俺がちょっと照れると、
「なにより、敬太が、子供だから、きっとなれるよ」
「なんやそれ~!」
そう言って、笑いあった日々。
隣には、亜利砂がいるのが当たり前で、とても充実した日々やった。
残り少ない高校生活。
亜利砂とは、もうこれで会えなくなるんやなって。
「なぁ、亜利砂。」
「ん?なに?」
「俺な・・・・」
言えやんかった。
俺は、1週間後、引っ越すことを。
「なに?どうしたの?」
「いや、なんでもないわ。受験勉強、お互い頑張ろうな。」
「うん!」
「そういえば、こないだ見つけた石あったやん?」
「えっ?石?」
そう、俺と亜利砂は、いつも川原で、腰かけて、休憩したりしていた。
「知り合いに頼んで、ネックレスにしたんや。これ、亜利砂に、やるよ」
「えっ?あの石で?」
「そうや。あの石、清めてもらって、半分にわって、ネックレスと、ブレスレットにしてもらったんや。」
「半分にしちゃって、大丈夫なの?石ってそのままの方が、ご利益ありそうだけど?」
「ええのええの。俺と亜利砂、二人で見つけたものやから。」
俺は、ネックレスを迷うことなく、亜利砂に付けると。
「うん。よく似合ってる。卒業のプレゼントや。お守りやで?大事にしてな?」
「うん!ありがとう!絶対大切にする!」
「俺は、ブレスレットや。」
「ほんとだ。」
これが、俺たちを、繋ぐたったひとつの宝物になった。
俺が、引っ越しをする当日だった。
学校から帰って、すぐ出発する予定でいた。
だけど、
「敬太くん!あなたんちのマンション燃えてるわよ?」
「えっ!」
「早く!急いで!」
その日は、ピアノレッスンもしないですぐ帰宅した俺は、目の前の風景に、唖然とした。
父さんは、俺を見つけると、
「敬太!忘れ物はないな。もう、へやには、戻れないぞ。」
「あっ!ブレスレット」
「ブレスレット?そんなもの、いつでも買える。とにかく、もう行くぞ」
「・・・・だけど、あれは」
「敬太!死にたいのか!」
「すぐ、戻るわ!」
俺は、自分の部屋に戻ろうとした。
「あー、ちょっとお兄さん。ここから、先は、行けないよ?」
「いや、でも、俺の部屋は、まだ、燃えてへんやん。」
「君んちの部屋のとなりが、一番燃えてるんだ。これ以上は、危険だ。」
と、消防士さんに止められてしまった。
「あのブレスレット・・・・だけはもっていかなあかんのに。」
俺の呟きも、聞かれないままだった。
俺は、ショボンとしながら、エレベーターを、降りた。
と、同時に、エレベーターに乗った人物がいる。
亜利砂だ。
亜利砂も、同じマンションに、住んでいて、自分の部屋に帰るところだった。
そとで騒いでるのも、知らないのか、疲れきっていた。
「あれ?誰もいない?」
「ちょっと、君!」
「えっ?どうして?」
「もう、ここは、危険です。降りますよ?」
「待って!だって、わたし、部屋に・・・・」
「だめです。燃えかたがひどくてこれ以上は、行けません。」
亜利砂んちは、俺んちの真横だった。
「一緒に、来てください。」
「えっ?どこが火の元なの?」
「507号室です。」
「敬太は?」
「敬太?」
「敬太がまだ、いるんじゃないの?」
「もう、いませんよ。先程も、戻ってきた高校生はいますが、」
「敬太に、連絡しなきゃ」
だけど、亜利砂は、手が震えて、うまく、携帯番号を、押せないでいる。
「敬太!どうしてでないの?」
「お嬢さん、急ぎますよ?」
「敬太!敬太!無事だよね?」
その頃俺は、このマンションの、逃げた人と、見にきた野次馬たちの、人混みに紛れながら、その場所から離れようとしていた。
「すまん。亜利砂。」
ちゃんと、引っ越すことを、伝えないまま俺は、歩いていた。
「まだ、敬太が、いるかもしれないのに・・・・・」
そのころ、おれが、すでにマンションから、出ていることを知らない亜利砂は、おれが、マンションに取り残されていると思い込んでいたんや。
「敬太!どうして、電話にでないの?」
おれは、亜利砂からの、携帯に気づかずにいた。
そして、マンションは、かなり燃え広がっていく。
「敬太ー!!」
亜利砂が、泣き叫んでいることも知らずに、俺は、住み慣れた土地を離れたんや。
亜利砂に、連絡先も教えないまま、音信不通になっていた。
あのあと、俺は、改めてマンションを、訪れたんや。
あるものを、取りに行くために・・・・・。
俺の部屋は、壁が燃えているだけやった。
そして、あるものは、燃えずに残ってくれていた。
「良かったぁ~、燃えてなかったわ。」
そして、亜利砂が、くるかと思っていたけど、
「岡元さんちも、引っ越したわよ?」
「えっ?そうなんですか?」
「このマンション、取り壊されるらしいわよ。あなたんちは、良かったわねー」
話しかけてきたのは、隣の隣の家のおばさんだった。
「そうですかね。」
「引っ越しの準備、終わっていたんだろ?もう、このマンションには、忘れ物なんてなかったんだろ?」
「いや、忘れ物、取りに来たんです」
「そうなのかい?とにかく、ここにいた人たちは、もうみんな引っ越ししていく予定だよ。」
「そっか。そうやんな。」
俺は、ブレスレットだけ、握るとマンションを、あとにした。
そう、このあとまた、亜利砂が、母親と訪れていたなんて。
「あれ?亜利砂ちゃん?」
「こんにちは。みなさん、どうしてます?」
「みんな、ここに荷物を取りに来るんだね。さっきもきていたよ。ほら、亜利砂ちゃんと、幼なじみの。」
「もしかして、敬太君?」
「そうそう。亜利砂ちゃん、どうしたんだい?」
「・・・・・」
「連れてくるの迷ったの。あれから、此処に来るの拒んじゃって。」
「・・・・ここには、きたくない」
「・・・亜利砂ちゃん。」
「・・・・・わたし、帰る!」
そんな、やりとりが、あったとは思わず、俺は電車に乗っていた。
そんなすれ違いから、8年の月日が経っていた。
俺は、念願の小学校の先生になり、3年目を迎えていた。
この度、異動が決まり、今日は、送別会を開いてくれていた。
「敬太が、いなくなるの寂しいな~」
俺は、親友ができた。
同僚の、亮平だ。
「まぁさ、寂しくなったらいつでも連絡くれよな」
「ここからは、遠くなるけどな」
「いつでも、待ってるぜ!」
「敬太先生、ひどいです。わたしのこと、振るなんて。」
「おれ、あなたと付き合ってましたっけ?」
「違いました?」
「ちゃいますね~あきらかに~」
「あはは。おまえらのコント見れなくなるのかー」
「コントって。」
「元気でな」
「そっちもな」
「どこかで、あったら、また、飲みに行きましょう!」
「あぁ、そんときは、よろしく。」
3人は、改めて乾杯をした。
「そういえば、敬太、幼なじみとは、連絡とれたの?」
「連絡先交換してへんからな。いまだに、わからんわ。」
「そっか。もう、3年も経つのにな。」
「仕方ないわ。住んでたマンションが、火事になってしもて、俺は、そこから、早々といなくなったわけやし。」
「火事!?」
「そうや。隣の家から、出火してな。でも、俺んちは、引っ越す当日やったから、部屋にはもうなにもなかったんや」
「へぇー、よかったじゃん、」
「この、ブレスレット、そんとき、部屋にわすれてしまったんやけど、燃えやんかったんや。」
「取りに行ったのか?火事なのに。」
「どうしても、これだけは、なくしたくなくてな」
「お前らしいよ。たったひとつの宝物って訳か」
「そうなんや。亜利砂、元気にしとるかな。」
ふと漏れた独り言に、
「好きやったんやなぁー」
と、関西弁で、返した亮平。
「・・・・・・」
図星だったから、なにも返さずにいた。
「ずっと、その彼女を想ってるなんて、敬太らしいな。新しい恋しようとか、思わないところ」
「するかもしれやんやろ?」
「そうだよな。そのときは、連絡くれよ?」
「あはは。おおきに。」
「敬太、そのブレスレットは、お守りなん?」
「そう。これな、家事の時に燃えやんかったから、知り合いに頼んでパワーストーンにしてもろたんや。」
「それが、彼女を、つなぐお守りってわけやな?」
その店の人が、言うてくれたんや。
「この石は、あなたにとって、分身みたいなものよ。必ず、身に付けていてね。パワーがなくなったら、また、磨いてあげるから。」
俺は、占いとか信じるから、この石のパワーを、少し信じてみようと思った。
「きっと、見つけてくれるわよ。だって、この石の分身だもの。見つかるといいわね」
”「はい、ありがとうございます。」
「ふーん。分身かぁー。」
「じゃあ、亮平、元気でな。」
「うん。近いから、俺も、自転車で旅をしたら遊びに行くわ。」
「(笑)亮平って、関西やったっけ?」
「お前の関西弁が、うつってしもたわ。」
「なんや、それ」
「あはは。じゃあな!」
その夜、俺はピアノの前に座り、弾き始めた。
「敬太、明日早いんでしょう?もう、寝なさいね」
「あっ、すまん。うるさかったか?」
「ううん。あなたのピアノの音は、優しいから大丈夫。」
「おやすみ、母さん」
「ふふっ、おやすみ」
俺は、ピアノの音を消して、また、弾き始めた。
そして、月明かりを見ながら、眠りについた。
まさか、赴任先の小学校で、彼女と・・・・亜利砂と再会することになるやなんて、このときは、思っていなかったんや。
将来の夢は、シンガー・ソングライターか、学校の音楽の先生。
そのどちらかになれれば、いいと思ってた。
自分の夢に向かって、勉強も、頑張ったし、ピアノが得意やったから、ピアノを引きながら、もしくは、作曲もしながら、高校生活を、満喫させていた。
幼なじみに、亜利砂が、いて、彼女も、学校の先生を、めざしていた。
残念ながら、俺たちは、別々の大学に行くことになったし、お互い受験勉強で忙しくなってしまった。
「敬太と、同じ大学行きたかったな。」
「仕方ないやん。」
「ふふっ。でも、敬太なら、小学生の先生に、なってそうだな。」
「なってそうやな・・・じゃなくてなるんや。担当は、音楽やな。でも、小学生の先生って、難しいらしいな。」
「敬太が、音楽の先生は、わかるよ。ピアノ上手だし、歌も歌えるし。」
「・・・ありがと。」
俺がちょっと照れると、
「なにより、敬太が、子供だから、きっとなれるよ」
「なんやそれ~!」
そう言って、笑いあった日々。
隣には、亜利砂がいるのが当たり前で、とても充実した日々やった。
残り少ない高校生活。
亜利砂とは、もうこれで会えなくなるんやなって。
「なぁ、亜利砂。」
「ん?なに?」
「俺な・・・・」
言えやんかった。
俺は、1週間後、引っ越すことを。
「なに?どうしたの?」
「いや、なんでもないわ。受験勉強、お互い頑張ろうな。」
「うん!」
「そういえば、こないだ見つけた石あったやん?」
「えっ?石?」
そう、俺と亜利砂は、いつも川原で、腰かけて、休憩したりしていた。
「知り合いに頼んで、ネックレスにしたんや。これ、亜利砂に、やるよ」
「えっ?あの石で?」
「そうや。あの石、清めてもらって、半分にわって、ネックレスと、ブレスレットにしてもらったんや。」
「半分にしちゃって、大丈夫なの?石ってそのままの方が、ご利益ありそうだけど?」
「ええのええの。俺と亜利砂、二人で見つけたものやから。」
俺は、ネックレスを迷うことなく、亜利砂に付けると。
「うん。よく似合ってる。卒業のプレゼントや。お守りやで?大事にしてな?」
「うん!ありがとう!絶対大切にする!」
「俺は、ブレスレットや。」
「ほんとだ。」
これが、俺たちを、繋ぐたったひとつの宝物になった。
俺が、引っ越しをする当日だった。
学校から帰って、すぐ出発する予定でいた。
だけど、
「敬太くん!あなたんちのマンション燃えてるわよ?」
「えっ!」
「早く!急いで!」
その日は、ピアノレッスンもしないですぐ帰宅した俺は、目の前の風景に、唖然とした。
父さんは、俺を見つけると、
「敬太!忘れ物はないな。もう、へやには、戻れないぞ。」
「あっ!ブレスレット」
「ブレスレット?そんなもの、いつでも買える。とにかく、もう行くぞ」
「・・・・だけど、あれは」
「敬太!死にたいのか!」
「すぐ、戻るわ!」
俺は、自分の部屋に戻ろうとした。
「あー、ちょっとお兄さん。ここから、先は、行けないよ?」
「いや、でも、俺の部屋は、まだ、燃えてへんやん。」
「君んちの部屋のとなりが、一番燃えてるんだ。これ以上は、危険だ。」
と、消防士さんに止められてしまった。
「あのブレスレット・・・・だけはもっていかなあかんのに。」
俺の呟きも、聞かれないままだった。
俺は、ショボンとしながら、エレベーターを、降りた。
と、同時に、エレベーターに乗った人物がいる。
亜利砂だ。
亜利砂も、同じマンションに、住んでいて、自分の部屋に帰るところだった。
そとで騒いでるのも、知らないのか、疲れきっていた。
「あれ?誰もいない?」
「ちょっと、君!」
「えっ?どうして?」
「もう、ここは、危険です。降りますよ?」
「待って!だって、わたし、部屋に・・・・」
「だめです。燃えかたがひどくてこれ以上は、行けません。」
亜利砂んちは、俺んちの真横だった。
「一緒に、来てください。」
「えっ?どこが火の元なの?」
「507号室です。」
「敬太は?」
「敬太?」
「敬太がまだ、いるんじゃないの?」
「もう、いませんよ。先程も、戻ってきた高校生はいますが、」
「敬太に、連絡しなきゃ」
だけど、亜利砂は、手が震えて、うまく、携帯番号を、押せないでいる。
「敬太!どうしてでないの?」
「お嬢さん、急ぎますよ?」
「敬太!敬太!無事だよね?」
その頃俺は、このマンションの、逃げた人と、見にきた野次馬たちの、人混みに紛れながら、その場所から離れようとしていた。
「すまん。亜利砂。」
ちゃんと、引っ越すことを、伝えないまま俺は、歩いていた。
「まだ、敬太が、いるかもしれないのに・・・・・」
そのころ、おれが、すでにマンションから、出ていることを知らない亜利砂は、おれが、マンションに取り残されていると思い込んでいたんや。
「敬太!どうして、電話にでないの?」
おれは、亜利砂からの、携帯に気づかずにいた。
そして、マンションは、かなり燃え広がっていく。
「敬太ー!!」
亜利砂が、泣き叫んでいることも知らずに、俺は、住み慣れた土地を離れたんや。
亜利砂に、連絡先も教えないまま、音信不通になっていた。
あのあと、俺は、改めてマンションを、訪れたんや。
あるものを、取りに行くために・・・・・。
俺の部屋は、壁が燃えているだけやった。
そして、あるものは、燃えずに残ってくれていた。
「良かったぁ~、燃えてなかったわ。」
そして、亜利砂が、くるかと思っていたけど、
「岡元さんちも、引っ越したわよ?」
「えっ?そうなんですか?」
「このマンション、取り壊されるらしいわよ。あなたんちは、良かったわねー」
話しかけてきたのは、隣の隣の家のおばさんだった。
「そうですかね。」
「引っ越しの準備、終わっていたんだろ?もう、このマンションには、忘れ物なんてなかったんだろ?」
「いや、忘れ物、取りに来たんです」
「そうなのかい?とにかく、ここにいた人たちは、もうみんな引っ越ししていく予定だよ。」
「そっか。そうやんな。」
俺は、ブレスレットだけ、握るとマンションを、あとにした。
そう、このあとまた、亜利砂が、母親と訪れていたなんて。
「あれ?亜利砂ちゃん?」
「こんにちは。みなさん、どうしてます?」
「みんな、ここに荷物を取りに来るんだね。さっきもきていたよ。ほら、亜利砂ちゃんと、幼なじみの。」
「もしかして、敬太君?」
「そうそう。亜利砂ちゃん、どうしたんだい?」
「・・・・・」
「連れてくるの迷ったの。あれから、此処に来るの拒んじゃって。」
「・・・・ここには、きたくない」
「・・・亜利砂ちゃん。」
「・・・・・わたし、帰る!」
そんな、やりとりが、あったとは思わず、俺は電車に乗っていた。
そんなすれ違いから、8年の月日が経っていた。
俺は、念願の小学校の先生になり、3年目を迎えていた。
この度、異動が決まり、今日は、送別会を開いてくれていた。
「敬太が、いなくなるの寂しいな~」
俺は、親友ができた。
同僚の、亮平だ。
「まぁさ、寂しくなったらいつでも連絡くれよな」
「ここからは、遠くなるけどな」
「いつでも、待ってるぜ!」
「敬太先生、ひどいです。わたしのこと、振るなんて。」
「おれ、あなたと付き合ってましたっけ?」
「違いました?」
「ちゃいますね~あきらかに~」
「あはは。おまえらのコント見れなくなるのかー」
「コントって。」
「元気でな」
「そっちもな」
「どこかで、あったら、また、飲みに行きましょう!」
「あぁ、そんときは、よろしく。」
3人は、改めて乾杯をした。
「そういえば、敬太、幼なじみとは、連絡とれたの?」
「連絡先交換してへんからな。いまだに、わからんわ。」
「そっか。もう、3年も経つのにな。」
「仕方ないわ。住んでたマンションが、火事になってしもて、俺は、そこから、早々といなくなったわけやし。」
「火事!?」
「そうや。隣の家から、出火してな。でも、俺んちは、引っ越す当日やったから、部屋にはもうなにもなかったんや」
「へぇー、よかったじゃん、」
「この、ブレスレット、そんとき、部屋にわすれてしまったんやけど、燃えやんかったんや。」
「取りに行ったのか?火事なのに。」
「どうしても、これだけは、なくしたくなくてな」
「お前らしいよ。たったひとつの宝物って訳か」
「そうなんや。亜利砂、元気にしとるかな。」
ふと漏れた独り言に、
「好きやったんやなぁー」
と、関西弁で、返した亮平。
「・・・・・・」
図星だったから、なにも返さずにいた。
「ずっと、その彼女を想ってるなんて、敬太らしいな。新しい恋しようとか、思わないところ」
「するかもしれやんやろ?」
「そうだよな。そのときは、連絡くれよ?」
「あはは。おおきに。」
「敬太、そのブレスレットは、お守りなん?」
「そう。これな、家事の時に燃えやんかったから、知り合いに頼んでパワーストーンにしてもろたんや。」
「それが、彼女を、つなぐお守りってわけやな?」
その店の人が、言うてくれたんや。
「この石は、あなたにとって、分身みたいなものよ。必ず、身に付けていてね。パワーがなくなったら、また、磨いてあげるから。」
俺は、占いとか信じるから、この石のパワーを、少し信じてみようと思った。
「きっと、見つけてくれるわよ。だって、この石の分身だもの。見つかるといいわね」
”「はい、ありがとうございます。」
「ふーん。分身かぁー。」
「じゃあ、亮平、元気でな。」
「うん。近いから、俺も、自転車で旅をしたら遊びに行くわ。」
「(笑)亮平って、関西やったっけ?」
「お前の関西弁が、うつってしもたわ。」
「なんや、それ」
「あはは。じゃあな!」
その夜、俺はピアノの前に座り、弾き始めた。
「敬太、明日早いんでしょう?もう、寝なさいね」
「あっ、すまん。うるさかったか?」
「ううん。あなたのピアノの音は、優しいから大丈夫。」
「おやすみ、母さん」
「ふふっ、おやすみ」
俺は、ピアノの音を消して、また、弾き始めた。
そして、月明かりを見ながら、眠りについた。
まさか、赴任先の小学校で、彼女と・・・・亜利砂と再会することになるやなんて、このときは、思っていなかったんや。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
もふきゅな
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる