六悪魔の花嫁

菟圃(うさぎはたけ)

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「ずびっ…ずびまぜ…」

泣きすぎて鼻水も沢山出てしまって、ノートさんがハンカチで何度も鼻水と涙を拭ってくれた。
ハンカチがびしょびしょで汚いのに、文句一つ言わずにずっと僕の涙を拭い続けてくれるノートさんはとっても優しい人だ。

一つだけ気になったのは僕たち七人以外に頭に硬いものをつけてる人が居ない。
この硬いものは七人だけの物なのかな…。

「私に角がない事が不思議ですか?」

「つの…?」

「七大悪魔様皆様の頭についていらっしゃる物です。これを角と申しまして、七大悪魔様のみにつく特別な物でございます」

「特別…?」

「はい、特別な物です」

僕の頭にあるつのが特別な物。
そんな特別な物が僕の頭についてるなんて嬉しいな。

「フェルオメル様!」

「ひっ…!」

ノートさんの大きな声にびっくりして、ふわふわぬいぐるみさんを顔に近づけた。

「し、失礼致しました。余りにもお可愛らしい表情に驚いてお名前を叫んでしまいました」

可愛い?

「ノート」

「一柱様!どうしてもっとお早くこの方をお連れされなかったのでしょうか!?このように愛らしい方が存在している事を知らなかったとはっ…!」

早口で話すノートさん。
顔の前に置いてるぬいぐるみを少しズラすと、そんなに顔が変わらなかったノートさんの顔がとってもキラキラしてる。

「ノートさん…?」

「はい!フェルオメル様のノートでございます!嗚呼!こんなに愛らしいと存じ上げて居たらもっとより良い服をお選び出来たものをっ!」

「あー…ノートの趣味にドンピシャだったの忘れてた」

しゅみ?ドンピシャ?

「ノートはフェルオメルの事が大好きって事だよ。ただ表現方法がちょーっと過剰なだけだよ」

僕のことが大好き?
それがしゅみってことなの?

「メイド達!私の部屋にある黒のクローゼットに保管している服を全てフェルオメル様のクローゼットに移してきなさい!」

メイド達は返事をすることなく、部屋から全員直ぐに出ていった。

「メイドが返事をしないのは彼女らが全員バンシーだからだよ。バンシーは会話をする事ができず、歌う事で表現をする種族だけどその歌を聞くと弱い悪魔は死んでしまうから、護衛としても優秀なんだよ」

お話ができないとお名前を聞くことも出来ないのかな。
皆お名前があるのに、僕と同じでお名前がないのには嫌だよね。

「メイド…にも、お名前はないのですか?」

「名前を貰ってない人は本当は居てはいけないって言うぐらいに名前は全員持っているよ。フェルオメルが名前を貰えていなかったのがおかしかっただけなんだ」

「そうなんだ…。皆お名前を持ってるのが普通なんだね…」

あのじょうふと呼ばれてた良くない人にもお名前があって、父にも、母にも、いもうとにもお名前がある。
僕は望んだ力を持ってなかったからお名前を誰もつけてくれなかった。

でも、今の僕にはつけてもらったお名前があるから、少しでも出来損ないにならない様に皆の為に頑張らないと。
このお名前に恥じないように。

「おや、用意が完了したようです。それでは、夕餉のお時間までフェルオメル様をお預かりしてもよろしいでしょうか?」

「えぇ、実力がハッキリしない者達に準備をさせてしまったからね。フェルオメル、ノートに綺麗にして貰うんだよ」

「う…はい」

アザヤさんのお膝の上から下ろしてもらって、僕は久しぶりに床に足をついた。
足には何かをつけられてて、いつも感じる物が足の裏から感じることがなくてそわそわする。

「フェルオメル様参りましょう」

最初に僕が怖がってしまったせいでノートは僕から距離を取ってお話をする。

「ちょっとだけ待ってください」

このふわふわを返さなきゃ。
レインさんの所に行って、お膝の上にふわふわのぬいぐるみをそっと置いた。

「レインさ…ぬいぐるみありがとうございました。その、お返し致します」

レインさんの大切な物を貰う訳にはいかなかったからお返ししたら、レインさんの目からどっと涙が出てきた。

「え、え…!?」

急に泣くレインさんにびっくりした。

「そ、そんなに…僕のプレゼ、ント…いや、だった…?」

「僕のって言ってくれましたけど、こんなにふわふわのぬいぐるみはきっと良い物です。そんな良い物はきっとレイン…の大切なぬいぐるみなので貰えないです」

「あはは~、レインちょーショック受けてんじゃん」

フィデリスさんが楽しそうに笑っている。
何か楽しいことでもあったのかな?
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