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34(イディside)

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扉から聞こえてくるのはハーレライト令嬢の痛々しい悲鳴だけだ。
ホロの声を聞きたいのに、ホロの声は令嬢の声が邪魔をしていて全く聞こえない。

ホロは僕が知らないと思っているのだろうが、僕はホロがお母様から拷問術を習っている事を知っている。
僕の隣にいる侍従が拷問と尋問ができなかったと言っていたけど、ホロに拷問をさせる考えでそんな嘘を吐いたの?

「イディ様、尋問も拷問も記録を見ていただければお分かりになるかと思いますが、行うことはできませんでした」

僕の考えを読んだかのように侍従から放たれた言葉。
宰相の侍従は読心の魔法でも覚えているのか?

「それにしても見事な手腕です。ネヴィレント様の拷問と差異がない程の痛々しい悲鳴でございます」

「僕のホロができない訳がない」

「相当鍛錬なさったとお聞きしております。私にも適正があれば良かったのですが、その適正は全くざいませんでした。お陰で拷問に関しては拷問官を利用しないといけないハメになりましたが」

「別に合う合わないはあるでしょ。ホロは生まれつき体が弱いから体術は全くできない。僕だって拷問と殺しはまた別に感じて全く拷問はできない」

侍従から顔を逸らしながら僕の意見を伝えた。

「イディ様…それは慰めて下さっているのでしょうか?」

「そんなんじゃない。できない事を卑下するぐらいなら出来ることに目を向けるべきだ」

「そうですね。ありがとうございますイディ様」

侍従から礼を言われるなんて。
少し恥ずかしくて、余計に顔を逸らしてしまった。

一際大きな悲鳴が聞こえたと同時に、濃い血の匂いが鼻についた。
気持ち悪い匂いにハンカチをポケットから取り出して鼻を覆った。

「一体何が…ホロの血の匂いではないけど、ここまで濃い血の匂いってなると、相当出血した事になるけど…」

「ホロ様の実績をお調べした事がございますが、女性相手の拷問で特に好まれた拷問道具があるようです。その道具が使われた後は掃除をする者が吐き戻す程凄惨な光景になるとお聞きしております」

「そうなんだ。ホロが楽しめているならそれでいいよ。これが終わったら僕が隅々まであの汚い女の血を落としてあげるんだ」

「なんとも情熱的な気持ちをお持ちなのですね」

「情熱なんて綺麗な言葉では表現できないよ。これは…」

そう、これは執着だ。
情熱的な気持ちなんて綺麗な言葉ではない。

僕はホロだけを愛して、ホロだけを欲している。

「左様でございましたか」

侍従から追求される事なく、それ以上は何も聞かれることはなかった。
二人が無言になっている間、扉の奥からは令嬢の悲鳴が響き続けている。

その悲鳴も一際大きかった悲鳴より弱々しく、痛みと出血で意識が朦朧としているのだろう。

「イディ!」

僕の名前が急に呼ばれ、顔を上げればここにいない筈のアデライトがこちらに向かってきている。

「なぜ、お前が…」

「ホロが私たちのせいで…手を汚していると聞いて居てもたってもいられなかったのだ」

どういう事?
ホロが僕たちの所為で拷問を行なっているの?

それをなんでアデライトは知っているんだ?

「ここにいる魔法使いが私たちの系列の息子なんだ。どうやら令嬢の拷問を始める前に私たちの名前を聞いた途端に、ホロの様子が変わったと聞いてな。そこからは今の惨状だとも聞いている」

また一際大きな悲鳴が響いた。

「やめさせたいが、今は完全に必要な情報を出す為に働いているから、止めようにも止められない」

「ホロが…そんな、僕たちの所為で?」

「悪く考えるなイディ・ツェーリア。今は国の為に働いているホロを待ってやれ」

悔しいがアデライトのいう通り僕は待つ事しかできない。
嫌な顔でホロと会うと心配させるだけになるから、両頬をしっかりと叩いた。

「お前に心配されなくても僕は大丈夫だ」

「それでこそ、私のライバルだ」

アデライトと僕と侍従でホロの仕事が終わるのを待ち続けた。
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