子悪党令息の息子として生まれました

菟圃(うさぎはたけ)

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あの女の表情は私の言葉で真っ青に変わっていった。

「そ、そんなわけないじゃない…。だって、ここはゲームの世界なのよ!?登場人物も変わってないのよ!?」

登場人物…
まるで私たちは何かの物語の中にいる存在だと思っているのか?

そんなくだらない考えで保全されている世界を壊そうとしたのか。
せっかく壊さないでいてやっている世界をこの女が手にかけようとしたのか?

「お前は私の母が誰か知っているか?」

有名な私の母上を知らぬ者はいない。
この世界の住人であれば。

「亡くなったエルフのメルト・ツェーリアでしょ?父親はハンス・ツェーリア。何を当たり前のことを聞いてるのよ」

「不正解だ」

女の手の甲にナイフを突き刺す。
悲鳴が先ほどより小さく聞こえる。

魔法使いが魔法でこの女の痛覚を鈍くしたんだろうか。

「私の母はネヴィレント・ツェーリア。父はラグザンド・ツェーリアだ」

「はぁ!?ネヴィレントって…断罪されて死んでる筈よ!?」

やはりこの女は別世界の人間だ。
そしてあの聖女と同じようにこの世界の事を何らかしらの手段で情報を得ている。

その手段を潰さない限り第二、第三の女が来てしまう可能性がある。
まあ今はそんな事を考えたところで意味をなさないから、この女から情報を聞き出す事にしよう。

「母が何をして断罪されるというのだ。魔王を封印した影の英雄を、この国を発展に導いた人が…何をしたというんだ?」

「聖女をいじめた事で処刑された筈よ!聖女はこの世界で最も尊い存在なんだもの!」

聖女が必ずしも尊い存在ではない。
教会でも結局は教皇より上に立つ事ができず、王族から認められる事でようやく聖女としての称号が獲得できる。

また母上と私の様な精霊の愛し子は、聖女よりもこの世界では重要な立場になる。
だから聖女はそこまで重要視はされていない。

そこそこの権力を有することになるが、この二つの者には太刀打ちする事ができない。

「その聖女が落ちぶれて教会の下女になっている事も知らないのか?」

「へ?」

信じられない。
それを表情で語っている。

「信じたくないだろうな?お前が知っているのは聖女が優遇される世界で、私が悪者にされている世界なんだから」

「そんなの信じられる訳がないじゃない!必ずアンタを魔王にしてやるんだから!」

「ははっ…。力の源は封印されたが私は魔王そのものだが?どうやって魔王である私を魔王として覚醒させるというんだ?」

「え…?アンタが、もう…魔王?」

「正確には魔王の意識の残滓だが、既に魔王は私の中に存在していて、意識も魔王そのものだ」

「そ、そんな…じゃああたしは聖女になれない…!?」

愕然とする女。
そもそもここまで暴動を起こし、禁忌まで犯した者が聖女として任命される訳がないだろう。

例え聖魔法の持ち主であっても禁忌を犯した時点で死刑は確定だ。
だがその死刑を行う前に、情報を引き出す為に尋問と拷問を行うのだ。

この事件の首謀者はいるのか、裏に誰かいるのか、どこから魅了魔法の使用方法を聞いたのか。
その情報を吐き出させる為にここに連れてこられているのだから。

まあ、私以外は拷問を行える者がいるか分からないから、私主導による拷問になるだろうがな。
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