10 / 120
1
10
しおりを挟む 偶に来る残党を迎撃しながら包囲を続けていると、程なくして洞窟から、試験官が数名の男女を連れて出てくる。
「終わったぞ。怪我人はいないか?」
試験官は受験者達の方を確認する。
受験者達の周りには、返り討ちにした残党の死体は何体もあったが、傷を負っている人は一人もいなかった。
「上出来だ。今回の受験者は優秀だな。みんな、試験結果の方は期待すると良い」
実質の合格宣言をされ、受験者達は表情を明るくさせる。
試験官は迎撃の様子を見ていなかったが、無傷で撃退したという結果は、チームワークが取れている何よりの証拠であった。
「では、街へ帰ろう」
突発の討伐を終えて帰ろうとしたその時、試験官の腹部から剣が飛び出した。
「うぐっ……。お前は……何故っ……」
試験官を後ろから刺していたのは、最初に殺したはずの、マフィアのボスであった。
「これはお返しだよ。ひゃひゃひゃ」
剣を引き抜くと、試験官は地面へと倒れる。
直後、凛がマフィアのボスへと飛び掛かった。
振り下ろしたハンマーを、マフィアのボスは紙一重で避ける。
「うおっと」
マフィアのボスが飛び退いて距離が空いたところで、凛が他の受験者達に言う。
「試験官の治療を!」
その声でハッとしたガーネットとラピスが、慌てて倒れた試験官の下へと駆け寄る。
「見ていたぞ。あの中では、お前が一番能力が高いな」
「ふざけんじゃないわよ! 試験官が死んじゃったら、せっかくやった試験がパーじゃないの!」
凛はマフィアのボスの足元の地面を凹ませるが、その瞬間に勘付かれて飛び退かれる。
「はっはっはっ、油断はしねーぞ」
最初は油断して試験官にやられたマフィアのボスだが、その後は死んだふりをして、敵の実力を見計らっていた。
腕が立つ上に、警戒心も強い厄介な相手であった。
ハンマーでは速度が足りないと判断した凛は、ハンマーを模っていた土を組み替えて、双剣に切り替える。
そしてすぐさまマフィアのボスへと飛び掛かった。
マフィアのボスも迎え撃ち、二人は打ち合いを始める。
「む」
双剣の連撃による手数の多さから、マフィアのボスは腕や足をどんどん斬り付けられて行く。
そして、傷に意識を取られた隙を突き、凛はその片目を剣で貫いた。
剣は脳にまで届くほど、深く突き刺さる。
だが、マフィアのボスは平然とした顔で言う。
「お前、思っていた以上にヤベーな。ひひっ。ヤバ過ぎて、笑いが込み上げてくるぜ」
マフィアのボスは刺された目を庇いもせず、剣を振り下ろした。
凛は咄嗟に、首に刺した剣から手を放して、飛び退く。
マフィアのボスが目に刺さった剣を抜いて捨てると、傷口から血が滝のように流れ出すが、全く物ともしない様子だった。
目だけでなく、試験官が刺した胸の傷からも、夥しい量の血が流れ出ている。
「何で、そんな状態で生きてるのよ」
「ひっひっひっ、秘密だよ」
目の傷も胸の傷も、明らかに致命傷であるのに、マフィアのボスは一切倒れる様子がなかった。
残った片目が血走っており、手足が若干痙攣しているが、それだけである。
(再生系のアーティファクト? それともモンスター化の薬? どれもちょっと違うわ……)
凛は心当たりのあるアイテムを思い返してみるが、どの効果とも当てはまらなかった。
しかし、何かしらのアイテムの効果によるものだろうと考えたところで、一つ別の危険性に気付く。
「みんな、気を付けて! さっき倒して奴ら、まだ死んでない可能性があるわ!」
凛が他の人達に警笛を鳴らすと、マフィアのボスが笑って答える。
「心配するな。あれは貴重な物だから、使ってるのは俺だけだ。ひひゃひゃ」
マフィアのボスはアイテムによるものであることを自白した。
(何のアイテムか分からないけど、何にしても不死身になることはあり得ない。なら……)
凛は飛び掛かり、凄まじい速度で連撃を行う。
「無駄だよ、無駄ぁー」
マフィアのボスは一切効いていない様子だが、凛は構わずダメージを与えて行く。
そうしているうちに、首が半分千切れ、内臓は飛び出し、人の形を保っていられるのが怪しくなってきた。
喉が壊れて声も出さなくなっていたが、戦う手は止めず、狂ったように反撃を続けている。
目の焦点は合っておらず、既に正気は失っていた。
「もう化け物じゃないの……」
身体が崩壊しているのに死なないその姿に、凛は恐怖を抱いていた。
周りで見ていた他の受験者達も、恐れ戦いている。
「こんなの生かしておいちゃいけないわ」
凛は再度、マフィアのボスの足元を凹ませる。
既に真面な意識がなかったマフィアのボスは、足を引っかけて、あっけなく地面に倒れた。
すると、凛は即座に飛び退いて距離を開け、武器を再びハンマーに替える。
それを振り上げると、一回り二回りと大きくなり、大きなハンマーとなった。
そしてそのハンマーをマフィアのボスへと振り下ろす。
ハンマーが地面とぶつかり、地響きが鳴る。
凛はすぐにハンマーを持ち上げ、何度も打ち付けた。
十分な回数を打ち付けてから退かせると、そこには血溜まりだけとなっていた。
「……死んだわよね?」
凛は血溜まりの中に僅かに残っている潰れたミンチ肉を凝視する。
もしかするとまだ動くかもしれないと考えていたが、動くことはなかった。
決着が着いたところで、ラピスがヘルプを出す。
「凛さんっ、終わったなら手を貸してくださいっ。何とか命は繋いでますが、弱ってて私達だけじゃ……」
「オッケー、任せて」
凛はハンマーを消して、治療に参加する。
その後、凛の上級治癒魔法で試験官の人は無事回復し、みんなは街へと帰還した。
ギルドに戻ると、すぐに全員に合格が渡され、受験者達はそれぞれ笑顔で解散した。
凛達がギルドを出たところで、ガーネットが声を掛けてくる。
「貴方、本当に凄い人だったのね。悔しいけど、魔法使いとしても冒険者としても、今の貴方には勝てそうにないわ。でもね。いつか勝ってみせるから」
ガーネットは一方的にそれだけ言って去って行った。
「認めてくれたってこと?」
「そうですね。ガーネちゃん素直じゃないから」
凛達は微笑ましく去り行くガーネットの背を見送った。
「終わったぞ。怪我人はいないか?」
試験官は受験者達の方を確認する。
受験者達の周りには、返り討ちにした残党の死体は何体もあったが、傷を負っている人は一人もいなかった。
「上出来だ。今回の受験者は優秀だな。みんな、試験結果の方は期待すると良い」
実質の合格宣言をされ、受験者達は表情を明るくさせる。
試験官は迎撃の様子を見ていなかったが、無傷で撃退したという結果は、チームワークが取れている何よりの証拠であった。
「では、街へ帰ろう」
突発の討伐を終えて帰ろうとしたその時、試験官の腹部から剣が飛び出した。
「うぐっ……。お前は……何故っ……」
試験官を後ろから刺していたのは、最初に殺したはずの、マフィアのボスであった。
「これはお返しだよ。ひゃひゃひゃ」
剣を引き抜くと、試験官は地面へと倒れる。
直後、凛がマフィアのボスへと飛び掛かった。
振り下ろしたハンマーを、マフィアのボスは紙一重で避ける。
「うおっと」
マフィアのボスが飛び退いて距離が空いたところで、凛が他の受験者達に言う。
「試験官の治療を!」
その声でハッとしたガーネットとラピスが、慌てて倒れた試験官の下へと駆け寄る。
「見ていたぞ。あの中では、お前が一番能力が高いな」
「ふざけんじゃないわよ! 試験官が死んじゃったら、せっかくやった試験がパーじゃないの!」
凛はマフィアのボスの足元の地面を凹ませるが、その瞬間に勘付かれて飛び退かれる。
「はっはっはっ、油断はしねーぞ」
最初は油断して試験官にやられたマフィアのボスだが、その後は死んだふりをして、敵の実力を見計らっていた。
腕が立つ上に、警戒心も強い厄介な相手であった。
ハンマーでは速度が足りないと判断した凛は、ハンマーを模っていた土を組み替えて、双剣に切り替える。
そしてすぐさまマフィアのボスへと飛び掛かった。
マフィアのボスも迎え撃ち、二人は打ち合いを始める。
「む」
双剣の連撃による手数の多さから、マフィアのボスは腕や足をどんどん斬り付けられて行く。
そして、傷に意識を取られた隙を突き、凛はその片目を剣で貫いた。
剣は脳にまで届くほど、深く突き刺さる。
だが、マフィアのボスは平然とした顔で言う。
「お前、思っていた以上にヤベーな。ひひっ。ヤバ過ぎて、笑いが込み上げてくるぜ」
マフィアのボスは刺された目を庇いもせず、剣を振り下ろした。
凛は咄嗟に、首に刺した剣から手を放して、飛び退く。
マフィアのボスが目に刺さった剣を抜いて捨てると、傷口から血が滝のように流れ出すが、全く物ともしない様子だった。
目だけでなく、試験官が刺した胸の傷からも、夥しい量の血が流れ出ている。
「何で、そんな状態で生きてるのよ」
「ひっひっひっ、秘密だよ」
目の傷も胸の傷も、明らかに致命傷であるのに、マフィアのボスは一切倒れる様子がなかった。
残った片目が血走っており、手足が若干痙攣しているが、それだけである。
(再生系のアーティファクト? それともモンスター化の薬? どれもちょっと違うわ……)
凛は心当たりのあるアイテムを思い返してみるが、どの効果とも当てはまらなかった。
しかし、何かしらのアイテムの効果によるものだろうと考えたところで、一つ別の危険性に気付く。
「みんな、気を付けて! さっき倒して奴ら、まだ死んでない可能性があるわ!」
凛が他の人達に警笛を鳴らすと、マフィアのボスが笑って答える。
「心配するな。あれは貴重な物だから、使ってるのは俺だけだ。ひひゃひゃ」
マフィアのボスはアイテムによるものであることを自白した。
(何のアイテムか分からないけど、何にしても不死身になることはあり得ない。なら……)
凛は飛び掛かり、凄まじい速度で連撃を行う。
「無駄だよ、無駄ぁー」
マフィアのボスは一切効いていない様子だが、凛は構わずダメージを与えて行く。
そうしているうちに、首が半分千切れ、内臓は飛び出し、人の形を保っていられるのが怪しくなってきた。
喉が壊れて声も出さなくなっていたが、戦う手は止めず、狂ったように反撃を続けている。
目の焦点は合っておらず、既に正気は失っていた。
「もう化け物じゃないの……」
身体が崩壊しているのに死なないその姿に、凛は恐怖を抱いていた。
周りで見ていた他の受験者達も、恐れ戦いている。
「こんなの生かしておいちゃいけないわ」
凛は再度、マフィアのボスの足元を凹ませる。
既に真面な意識がなかったマフィアのボスは、足を引っかけて、あっけなく地面に倒れた。
すると、凛は即座に飛び退いて距離を開け、武器を再びハンマーに替える。
それを振り上げると、一回り二回りと大きくなり、大きなハンマーとなった。
そしてそのハンマーをマフィアのボスへと振り下ろす。
ハンマーが地面とぶつかり、地響きが鳴る。
凛はすぐにハンマーを持ち上げ、何度も打ち付けた。
十分な回数を打ち付けてから退かせると、そこには血溜まりだけとなっていた。
「……死んだわよね?」
凛は血溜まりの中に僅かに残っている潰れたミンチ肉を凝視する。
もしかするとまだ動くかもしれないと考えていたが、動くことはなかった。
決着が着いたところで、ラピスがヘルプを出す。
「凛さんっ、終わったなら手を貸してくださいっ。何とか命は繋いでますが、弱ってて私達だけじゃ……」
「オッケー、任せて」
凛はハンマーを消して、治療に参加する。
その後、凛の上級治癒魔法で試験官の人は無事回復し、みんなは街へと帰還した。
ギルドに戻ると、すぐに全員に合格が渡され、受験者達はそれぞれ笑顔で解散した。
凛達がギルドを出たところで、ガーネットが声を掛けてくる。
「貴方、本当に凄い人だったのね。悔しいけど、魔法使いとしても冒険者としても、今の貴方には勝てそうにないわ。でもね。いつか勝ってみせるから」
ガーネットは一方的にそれだけ言って去って行った。
「認めてくれたってこと?」
「そうですね。ガーネちゃん素直じゃないから」
凛達は微笑ましく去り行くガーネットの背を見送った。
551
お気に入りに追加
601
あなたにおすすめの小説

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?


聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

モラトリアムは物書きライフを満喫します。
星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息
就職に失敗。
アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。
自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。
あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。
30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。
しかし……待てよ。
悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!?
☆
※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。


新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる