上 下
3 / 120
1

3

しおりを挟む
授業自体はつつがなく進んだ。
この授業中に私の傷は三箇所程増えたと言っておこう。

「先生少しお話を宜しいでしょうか」

「如何なされましたか?」

教師はイディの声掛けに笑顔で答えている。
私はイディの無表情に何があったのかと思った。

イディのその表情に教師は全く気がついていない。
何せイディの表情は私と父上と母上しか理解出来ないから、この教師にはこの無表情の状態がデフォルトだと思っている。

「貴方はここに何をしに来たのでしょうか」

「え?そのご質問はどの様な意図を含んでいらっしゃるのでしょうか?」

イディに立たされて今日ペンで刺された腕の服を捲られた。
白いシャツには血が滲んでいて、そこそこ出血しているのが見られる。

今日はかなり深く刺されてしまったようだ。

「何故ホロにこんな事を毎回するの?僕のホロに毎回こんな事をして許されると思っているの?」

イディは私の傷の事を知っていた。
知っていた上で私が言い出すまでイディは待っていてくれた。

「僕の種族を忘れていたようだね」

そうだったな。。
イディは吸血鬼であるのだから、出血してしまえばイディはその匂いをすぐに嗅ぎ取ってしまう。

だから私に傷ができる度にイディが甲斐甲斐しく世話をしてくれていたのだ。

「お母様」

まさか…
扉の所に視線を向ければ扉が開くのではなく、扉の前に母上が姿を現した。

透明の魔法を使用するのはかなり難しい筈なのに、この母上はそれをなんと無しにこなしている。
その実力の高さと魔力の多さで成年になる前に高位魔術師の称号を貰い受けた。

「私達の愛おしい子に…一介の子爵令息如きが怪我を継続して怪我を負わせるなど言語道断」

私たちに普段デレデレしている母上とは全く違う。
貴族としての母上の姿で、そして私たちを守ろうとする強い姿だ。

「令息夫人…このそれは…」

「言い訳など不要。ただの容姿だけで子に怪我を負わせる様な存在はこの伯爵家では不要だ。そうだな…」

母上の周りに精霊が沢山集まり始めている。
精霊を利用して何かを使用と考えているのだろうか。

「知る限りの全ての人間にお前が行った事を全て話すとしよう。裕福ではない子爵家の生まれのようだから職を失えば苦しい思いをするだろう。私は死ぬなんて優しい事を許すことはしない」

貴族は自身のプライドを守る為に死ぬ事厭わない事が多い。
でも母上は聖女の一件があってから、貴族には死を与えるのではなくそれを反省させる為にではなく、苦痛を与える為に死ぬことを許さないようにしているらしい。

普段はふわふわしている母上なのに、こういう時は冷徹な父上よりも恐ろしい存在になる。
イディもそれをわかった上でこの場に母上を呼んだのだろう。

私を守るその為だけに。

「そ、それだけはお許しください!鮮血の魔術師様!!」

「自身の子を意味もなく傷つけられ許す親がいるとでも思っているとでも?」

母上に土下座をする教師の頭を母上は容赦なく踏みつけた。

「ねえどうすればそんなくだらない事を考えられるの?私にそのくだらない思考を教えておくれよ」

「申し訳ございません!申し訳ございません!」

「謝るのは私にではない。怪我を負わせた私の子にだろう!」

教師に怒る母上の瞳は興奮しすぎて赤く染まっていた。
これは父上がいないと誰も止められない。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息 就職に失敗。 アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。 自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。 あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。 30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。 しかし……待てよ。 悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!? ☆ ※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。 ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが

ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク 王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。 余談だが趣味で小説を書いている。 そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが? 全8話完結

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...