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サミュエルとルド5

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「だそうですよ…殿下」

「無理に決まっている。奪った記憶はルドの希望通り溶かして消してしまった。が神であったとしてもその記憶を取り戻すことは叶わない」

「うそよ…彼の記憶が消えた…?それなら、私を覚えてる人は…?ど、どこにいるの…?」

「そうそうアイツが言い忘れてたみたいだけどいいことを教えてあげるね」

雰囲気がいつものヴァンクラフトに戻った。
どうやら別の人は内側に引っ込んだみたい…。

「君あの世界で普通に生きてるよ?」

「へ…?だって私ここにいて…」

「あの世界では元々ルドは居ない存在となったから普通に女優?の仕事をして悠々自適な生活を送ってるけど?ここに居る君はただルドの魂にまとわりついていた思念体って言えばいいのかな?」

「な、なら…私は一体なんだっていうの…?」

「ただの思念体で、ルドの邪魔をする存在しがいのない存在?ルドにとってもだけど、僕にとってもアイツにとっても必要のない存在ってことだけは間違いないかな?ただ…前のルドを知っているのは僕とアイツと君だけだってことぐらいだよ」

「そ、それなら…私はずっとこの世界で一人で生きていかなきゃ…いけないの…?彼も居ないところで…?」

「一応ルドの魂自体はルドの中にあるけど、記憶が無いのと顔が好みじゃない時点で死んでるも同然の扱いをするなんて…。ルドに失礼だとは思わないみたいなんだけね」

「いや、いやよ…私の彼を返してよぉぉおお!!!」

サミュエルの慟哭は牢屋の中で響くだけで、誰も助ける為に手を差し伸べる人は居ない。
俺もヴァンクラフトも…。

「ルド満足したかな?」

「最後にひとつ答えてもらってないものがあるんだ…。だけど、この調子じゃ答えられないかもね…」

「何故君のことをいじめ続けたかってこと?」

「うん」

「それなら簡単だよ。ルドの魂の匂いに引っ付いていた存在だから、魂に惹かれるのに自身が望んだ存在ではないからその苛立ちを言葉に出来ず、ルドに暴力という形で具現化させただけだよ。それが余計にルドを、前世の君を傷つけるとは知らずにね」

「そう…」

子供のように泣きじゃくるサミュエルの姿は少し可哀想に見えてしまった。
本人が転生してきた訳では無いけど、望まない転生でただ彼女にとっては愛しい人を失った絶望感は耐え難いことだろう。

ずっと張ってきた虚勢は意味をなさず、求めた人は既に居ない。
そんな絶望の中で生きることが決まったのはどれだけ辛いことなのだろうか。

「あぁ…そういえば聞こえてるか分からないけど。魔王の助けで喜んでたけど、あれ助けでもなんでもないからね」

牢から出ていく直前にヴァンクラフトが放った言葉はサミュエルに届いたのだろうか。
届いたかは分からないけど、サミュエルの泣き声はより一層大きくなった。

パタンと閉じられた牢から微かにサミュエルの泣き声が聞こえるだけで、先程のように不安になるような感覚は襲ってこない。

「うっ…」

どこかで聞いたことがあるうめき声に下を見れば、ヴァンクラフトが引きずったであろう騎士団長が床にいる。
そういえばこの人の事忘れてた。

「ルド…もう家に帰ろうか」

「わかった…」

騎士団長を床に放り投げて俺たちはこの牢屋から離れた。
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