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たすけてくれたひと

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「い、家に帰してくれるだけで…いいんです…。俺を、父さんと…母さんの元に…」

「どうして?ルドのここは離れられないって叫んでるはずだけど?」

手を当てられたのは心臓の上。
思考を読めるってのは分かってたけど、俺の体の何もかも全部わかるってこと…?

嫌な鼓動を打つ心臓は止まってくれなくて、ずっと嫌な鼓動だけを刻み続ける。

「ルドは本当に僕が居なくても耐えられる?平常心でいられる?」

俺の手を取っていた方の手が外れ、心臓の上に置いていた手も離れていく。
俺から離れていこうとするヴァンクラフト。

どうして俺から離れていこうとするの?
違う!

そんな事を考えたい訳じゃない!
家に帰して欲しいって考えなきゃ…

「本当に…離れて欲しい?」

バクバクと鳴る鼓動が大きな音になっていく。
ヴァンクラフトはきっと言わせたいだけだ。

俺に離れて欲しくないと言わせて、それが俺の考えだと刷り込もうとしてるだけなんだ。

「そうなんだね。それじゃあ僕はルドの傍に居ないでいるね」

ヴァンクラフトが俺の傍から離れ、離れていく気配がする。
やっと嫌な言葉も言われない。

心を掻き乱されることもない。
少し落ち着いて考え事ができーー…

「ルドどうしたの?」

なんで俺にそんな事を聞くの?
見たくなくてずっと下を向いていると腕を掴まれた。

掴まれた腕の方を見れば俺が無意識にヴァンクラフトの服の裾を掴んでいた。
掴んだ覚えがない。

「無意識でも僕のことをこの部屋に留めてくれたの?」

違う…。
俺はそんな事を望んでない。

「なら、この手はなんなのかな?」

今も裾を掴んでいる手は離れる感じが全くなく、自分の意思に反して離れる感じがなくむしろ強く握っている気がする。

「俺は、望んでない…。で、殿下が…俺の事操って、るだけで…」

「ルドの体を操るなんてことは出来ないよ。できるのは心に新たな感情を芽吹かせる事だけ。それも芽吹かせるだけで育て手がしっかりと育てないと、枯れてしまうような物だよ?」

「う、そ…嘘にきまってる…」

「僕はルドに嘘はつかないよ。本当にただ感情を芽吹かせただけ。そしてその芽吹いた感情を育てたのはルド自身なんだよ」

「違うっ!!俺は、俺は…」

「一人ぼっちがいい?それとも誰かと一緒にいたい?」

「ひと、一人はやだ…。もう、あの中に一人は嫌だぁ…」

「じゃあ誰といたい?」

思考がぐるぐるして、鼻から流れ出てくる血が伝っていく感覚が気持ち悪い。
誰と居たい…?

俺を、死の淵から…助けてくれた人と居たい…。

「ルド僕を見て」

視線を上げれば何故かヴァンクラフトの顔がぼんやりとして見えない。
顔が見えない事で、この人が…ヴァンクラフトが夢のあの人だってわかった。

でも、あれは夢で…。

「あれは夢だけど、あそこにいた僕は本物の僕だよ。本当は自力で夢から覚めて欲しかったけど…厳しい世界だったからルドの心が壊れてしまう前に助け出したかったんだ」

何を考えて話してるんだろうか。
表情が全く見えない。

「殿下が…俺を助けて、くれた人…?」

「そうだよ」

モヤが晴れて見えたヴァンクラフトの表情は悲しげな表情だった。
どうしてそんな悲しげな表情を浮かべるの?

「ごめんなさい…」

「謝らなくていいんだよ。少しずつでも僕のことを理解してくれたらいいからね?」

俺を救ってくれたヴァンクラフトを怖がるなんて何を思っていたんだろうか…。

「沢山疲弊させちゃったから明日からゆっくりとお話しよう?今日はおやすみ」

ゆっくりと寝かされ、頭を優しく撫でられる。
確かに疲れたから…ゆっくり休みたいな…。

寝落ちた時俺の隣のヴァンクラフトがどんな表情をしてるかも知らずに、俺は呑気に寝落ちてしまった。
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