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知らない感情

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「そのサミュエルは…?」

「ああ、あの子爵家の令息のこと?」

まるで興味なさげな反応に本当にサミュエルの事なんか忘れてしまったような感じだった。

「あの…「ルド起きたんだね!!!」」

声を再度かけようと思ったら、父さんが部屋に入ってきてすぐに俺の元に駆け寄ってきた。
駆け寄ってきたと同時に抱きつかれ、ずっしりと父さんの体重がのしかかってきた。

ちょっと重たくて息苦しい。
ぎゅうぎゅうっと俺を抱きしめてくる父さんから啜り泣くような声が聞こえる。

あの時目の前で亡くなった父さんと母さんが偽物で、ここにいる父さんが本物である事だけはわかった。
抱きしめられてくる力は本当に強くて、それに暖かさを感じる事ができる。

あの世界が現実じゃなくて、ここが現実なんだって理解できた瞬間目頭が熱くなって涙が溢れ出てきた。
両親が生きている。

もうそれだけで俺は幸せだ…。
誰も助けてくれない、味方もいないあの世界で過ごすのは辛かった。

最後に出てきたあの人がどうしてこの世界でも俺の側に居るんだろうか。
あの世界は敵しかいなかったのに。

「ヴァンクラフトくん、どうお礼をしたらいいか分からないよ…」

漸く泣き止んだ父さんは俺から離れて起き上がり、俺の側に居る少年ヴァンクラフトに声をかけた。
どこかで聞いた事があるような名前に聞こえるけど、勘違いなのかなとは思ってしまう。

でも見た目はどこかで見たことがあるようには思えるけど、どこで見たのかは全く覚えていない。
ただいい思い出ではないのはわかる。

「いえ、当たり前の事をした迄です。それにルドを守るのは当たり前の事ですから」

何かを要望したわけでも無いようでホッとした。
どうしてこんな事にホッとしてるんだろう。

「王位から遠ざかりたいとは言っていたけど…本当に遠ざかりたいのかい?」

王族から遠ざかりたい?
この事態を収集して、俺を助けたとなれば相当優位な立場に立つことができるのにそれを自ら手放すってこと?

どうしてそんな考えを持ったのか分からないけど、そんな優位な立場を手放す人は初めて見た。

「ええ…僕には王位は似合いませんし、元々は王位継承権も願われたから持っていただけに過ぎないんです」

何故か俺に向いてきて、優しい笑顔を向けてくる。
ドキッと心臓が跳ねて顔が熱くなった。

どうして心臓が跳ねるのか分からないし、自分でも理解できないけどこの苦しさは悪い感じがしない。
ただ恥ずかしくなってヴァンクラフトから視線を外して見ないようにした。

ど、どうして笑いかけられるとこんなに心が苦しくなって、恥ずかしくなるんだろう。
初めての感覚にドギマギしてしまった。
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