上 下
105 / 199
ストーリーが開始されました!

ギレスタの決意

しおりを挟む
ルドが自身の魔法で腹を貫いてから、一週間経ったが全く目を覚まさなかった。
怪我はヴァンクラフトによって治され、医師からもリリエルからも体には異常がないと結果を下されているのに目を覚まさなかった。

目を覚さない理由は不明で、治癒魔法をかけても起床の魔法をかけてもルドは目を覚さなかった。
治療を施したヴァンクラフト自身は何か知っている様だったが、何も話すことなくただルドの側に居続けた。

「ヴァンクラフトくん…」

「叔父上いかがなされましたか?」

ルドの父親であるギレスタは憔悴しきった表情でヴァンクラフトの名を呼んだ。
ここまでの暴挙を、息子が起こした行動を、ギレスタは何一つ想定していなかった。

ただ自身の甘い考えが故に起こってしまった事に打ちし挽かれていた。

「私はダメな親なんです…。ルドが辛い目に遭っているのに何一つ策を練ることもなく、登校を許してしまいました」

「そうですね。本当にルドを心配するのであれば登校を絶対に許さず、先にあの罪人を裁いてから登校させるべきでした」

「そうだね…」

ヴァンクラフトの言葉は正論だ。
その正論の言葉を受けてギレスタは余計に自身の行動を悔いた。

今は怪我もなくただ寝ているだけのルド。
それでもたった一週間前までは死にかけていた。

「叔父上そこまで心配なされなくても、後一週間もあればルドは目を覚ましますよ」

「君が慰めてくれるだけでもありがたいよ…」

ヴァンクラフトにとっては慰めですらなかった。
ただ本人は事実を言っていただけなのだから。

何も知らない人からすればヴァンクラフトの言葉は慰めの言葉になり、悲観している人を元気づけようと思っている心優しい少年に思えた事だろう。

「慰めでもなんでもありません。ルドは一週間後に必ず目を覚まします」

「どうして言い切れ…」

漸くヴァンクラフトの顔を見たギレスタは言葉を止めてしまった。
ヴァンクラフトは穏やかな表情を浮かべている。

悲観して待っている人の表情とは余りにも違いがある表情だった。

「本当に…ルドは一週間後に目が覚めるんだね?」

「はい。ルドは僕の為に、僕の隣に立つ為に必ず目を覚まします」

何故なのか、どうしてヴァンクラフトの為なのか、ギレスタの中で疑問が湧き上がるがその疑問に蓋をした。
ルドが目を覚ましてくれるのであればそれでいい…それがギレスタの願いだった。

自身の行動が遅すぎたのだから憎まれてもいい、嫌われてしまってもいい。
ルドがどうか目を覚まして元気に動き、好きな魔道具を作って楽しんでいる姿を見れたらそれでいい。

ギレスタはそう考え、ルドがその環境下で生きられるように徹底的に邪魔者を排除することに決めた。

「ヴァンクラフトくん今日はありがとう。私はやることができたから、どうかこのままルドの側に居てあげてほしい」

覚悟を決めたギレスタの表情は普段の穏やかさとは程遠い物だった。

「分かりました。僕の部下もお貸しいたしましょう」

「ありがとう。それでは行ってくるよ」

ギレスタはルドの部屋から出て、ただ邪魔者を排除し環境を整えるその事だけを心に刻み込んだ。
しおりを挟む
感想 83

あなたにおすすめの小説

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

処理中です...