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望みと欲望

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「殿下…どうか、どうかルドくんをお助けくださいっ…」

ヴァンクラフトはフレットに声を掛けられた事によってようやくフレットの事を認識した。
それまではヴァンクラフトはルドの存在しか認識していなかったのだ。

「魔道具伯爵…君一体いつから居たんだ?」

「殿下がお越しになられる前からです…。どうか、どうかルドくんを助けて頂けるのであればっ…私の全てを捧げますっ」

「そういえばルドは君の愛弟子だったね。まぁ、そもそもルドを助けるのは決定事項だけど君がついてくるなら儲けものかな」

フレットから視線を逸らし、ヴァンクラフトは今にもこと切れそうなルドの唇に口付ける。
薄く開いた唇の間から舌を滑り込ませ、ルドの舌を絡めとる。

ヴァンクラフトは口から黒い魔力を注ぎ込むとルドの体が跳ね、何かに抵抗するかのように体をばたつかせ始める。
バタつく事によって本人にその意思はなくてもヴァンクラフトに傷を増やしていく。

ようやく落ち着いたルドの唇から離れたヴァンクラフトは嬉しそうに笑みを浮かべている。

「最後」

ルドの口元に拳を持って力強く握りしめると血が滴り落ち、ルドの口の中にポタリと落ちた。
血を嚥下する姿を見たヴァンクラフトは笑みを消し、無表情の状態に戻りルドの口元についている血を指の腹で拭った。

ルドの体を宝物のように持ち、ルドの腹に手を滑らせるとぽっかり穴が空いていた場所は無くなり綺麗な肌がそこにあった。
奇跡の力だと言っても過言ではない力を、無能だと言われていた第五王子が行使した。

そんな事実をほとんどの生徒が受けいられずにいる。
散々ヴァンクラフトを侮辱し、罵り、謗り…そんな事をしてきた自身達の後悔が押し寄せている。

「殿下っ…、どうか、私にも回復をっ…」

ドレットは後悔してる生徒達とは違い、自身の傷を治す術を乞うていた。
未だに止まらない出血にドレットも焦っていたのだ。

「誰だっけ?」

「殿下!私はドレット・ハーペストです!は、伯爵家次男で…」

「なんだあいつの出涸らしか」

ヴァンクラフトが言うあいつはドレットの兄であり、優秀で人格者なハーペスト伯爵家の長男であり次期宰相である人だ。

「あ、兄のことをご存知なんですね…、そ、それであれば…私の治療も…」

「どうして?」

「え?」

「どうして君を僕が治さなければならないの?それに…」

ぶわっと急に魔力風が巻き起こり、ヴァンクラフトの瞳があらわになる。
漆黒の瞳はうっすらと紫がかった色に変わっており、怪しく光が蠢いている。

「僕のルドに死ぬ覚悟をさせた君を生かしてあげる理由もないんだけど」

ヴァンクラフトは壊れた物が好きだ。
だが、死を持ってして壊れた物は意味が無いと考えている。

壊れて欲しいと望んだ、いや望んでいるルドが死ぬのは本意でない。
だからこそルドが死ぬと決めた原因になったドレッドをヴァンクラフトは許せずにいた。
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