お助けキャラに転生したのに主人公に嫌われているのはなんで！？

ストーリーが開始されました！

やりかえし

全身で喰らった魔法は痛すぎて悲鳴をあげる事も、気絶することも許されなかった。
唯一許されたのは無様に地面に転がることだけ。

一体誰が魔道具の使用を阻んだんだ…。
見慣れない靴が顔の前に来る。

「あの馬鹿がしくじった様ですが、この私は優しくありませんよ」

ドレットだ…。
フレット先生の姿が足に阻まれて見えない。

「ドレットくん！これは越権行為です！」

ドレットを批難するフレット先生の声が聞こえて安心した。
あの魔法の餌食になってなかったんだ…。

「たかが魔道具伯爵程度が私に指図しないで頂きたい。私は次期宰相ですよ？」

ドレットが宰相になれたのは実力ではなく、聖者として覚醒する前から親しい存在であったからなれただけだ。
ドレットルートとハーレムルート以外ではドレットは宰相になることはなかった。

ドレットの兄の方が実力も能力も高く、性格も人格者であった為宰相候補として既に名を上げている。
そんな兄を差し置いて宰相になるには、聖者としての名を借りないとなる事は絶対に出来ない。

ドレットは確かに天才ではあるけど圧倒的な天才ではなく、凡才の中での天才なだけなんだ。
天才の中の天才であるドレットの兄に勝てる訳がない。

「さて…邪魔者も居なくなりましたことですし、私の愛おしいサミュに力を返しなさい」

力の譲渡なんて存在しない。
それを奪う術も禁忌にも存在しない。

段々と冷えていく感覚が体を襲ってくる。
目では見えないけどきっと何処からか出血してるんだ…。

このままだと本当に死んでしまう…。
アンクレットに魔力を通しても治癒の魔法が全く反応しない。

まさか…魔法の衝撃で魔石が割れてしまった…？
俺はこんな所で死ぬの？

魔道具がないと治癒の魔法を行使出来ない自分が恨めしい…。
でもそれ以上に意味の分からない理由で攻撃してきたサミュエルも、防御魔法の展開を妨害してきたドレットも、簡単に操られた様に俺に暴言を吐くクラスメイト達の方が恨めしい。

どうして俺にばかり悪意を向けるんだ。
ドレットに前髪を掴まれ、余計な痛みのせいで呻き声が口から漏れる。

「まだ渡す気がないのですが？その強情さが仇になることを教えて差し上げましょう」

ほぼ無動作でドレットは懐から取り出したナイフを右目に躊躇いもなく刺してきた。

「うﾞっ、ぐっ…」

まともに悲鳴もあげられない体に刺しこまれたナイフは熱と痛みの両方が襲ってくる。

「ドレットいい加減になさいっ！くそっ！どうして衛兵が君たちの言うことをっ！」

右頬を伝う熱い血。
なんでもいいからこいつらに痛手を加えなきゃ…。

ブレスレットに魔力を流せば沢山吸われていく感覚がする。
この魔道具は無事だったんだ…。

これならきっとこいつらは絶望するよね？
無属性唯一の攻撃魔法で…自分事ドレッドを貫いた。

腹を貫かれる感触と共に激痛に意識が呑まれた。