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―見舞い客―
376話 眠れる彼に
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「さ。長居するのも悪いし、そろそろお暇しましょ!」
さくらとの約束を結び、グレミリオは号令をかける。―と、彼女…もとい彼はえいえいおーと腕を振った。
「我ら『召喚術士チーム』、一丸となって練習頑張っちゃいましょー! さくらちゃん、そしてリュウザキちゃんのため!」
「なんですかそれ?」
首を捻るオズヴァルド。するとグレミリオはウフフと笑った。
「チーム名決めたほうが、やる気って湧いてくるじゃなぁい? 丁度皆、召喚術の専門家なんだから♪」
「私、基礎魔術講師ですけどねー!」
「良いのよぉ細かいことは! オズヴァルドちゃん、腕は私達並みにあるじゃなあい!」
手をひらひらさせるグレミリオ。彼は そ・れ・と・も♡ と続けた。
「『リュウザキちゃんへお返しし隊』とかにしちゃう? あ、リーダーの名前を取って『さくらちゃんと頑張る教師達』とか!」
「お! 良いですね、そういうの!」
乗り出すオズヴァルド。イヴやエルフリーデ達も話に参加し始め、場はわいわいと。
その様子を少し苦笑いで見つめていたさくら。そこへ、ソフィアが声をかけた。
「さくらちゃん、とりあえずはうちに来なさいな。 キヨトが起きるまでどれくらいかかるか定かじゃないんだし、1人でいるのも寂しいでしょ?」
それはさくらにとって有難いお誘い。いくらタマがおり、教員に知り合いも増えてきたとはいえ…教員寮の角部屋で、しかも隣部屋に竜崎がいない状態で寝泊まりするのは少し辛かった。
普段ならまだしも、事が事。特に扉が壊れた竜崎の部屋を見るたびに、間接的にとはいえ彼を傷つけてしまった事実が頭をよぎり、責に苛まれてしまいそうだった。
それに…いくらナディやイヴ、メルティ―ソン達が庇ってくれるとはいえ、他教員からの質問攻めは免れないだろう。なにせ暴漢に襲われもしたのだから。
「マリアも、杖のことで相談したいことがあるって。属性の力で形成したドレス、そこそこ形にはなったのだけど…戦闘向けまではいかないらしくてね」
あでも。杖としては使えるようにはなってるわよ。 と、ソフィアは付け加える。依頼していたさくら専用の短杖、ある程度は完成しているらしい。
特殊機構…魔法少女のように変身できる機構は未だ完成に至っていないようだが、なにぶん武器を奪われてしまった身。それで十分。いや十二分である。
竜崎への贈り物への助力、そして道具は揃った。あとは練習を積むだけ。
(待っててください竜崎さん…! …でも、早く目覚めてもください…!)
内心そう意気込み、さくらは竜崎の顔へ目を向ける。 と―
「ご主じーん……起きてくださいよぉ…」
タマがペロペロと、彼の頬を舐めていた。
タマにとっても、未だ信じられぬ出来事なのだろう。怪我によって一晩病院で休んでいたら、主がその間にそれ以上の大怪我を負い入院していたなんて。
しかも、目を覚まさないのだ。いつも竜崎を起こす役を務めている彼にとって、それは中々に胸を突く事柄であった。
「ご主じーん…」
だが…如何ともしがたい。既に出来うる限りの治療を受けているのだ、霊獣とはいえ、一介の獣がどうにかできることでもない。
彼はただ、舐め続けることしかできなかった。舐め、自らのふわふわな白長毛を擦りつける。普段ならば舌のザリザリか、モフモフのくすぐったさですぐに起きてくれるのだから。
しかし…やはり昏睡状態の竜崎は眉1つも動かしはしない。痛みを感じぬように、静かに呼吸をしているのみ。
「タマ、駄目。 キヨトの顔が傷つくから」
そして残念ながらドクターストップ…ではなく勇者アリシャからストップをかけられてしまった。確かにこれ以上舐め続けると、竜崎の頬が削れてしまう。
アリシャに抱え上げられ、竜崎の腰当たりに移動させられるタマ。彼は名残惜しそうに呟いた。
「ご主人、どうやったら起きてくれるんでしょう…」
「自然に任せるしかないのぅ。それか、リュウザキの深層意識が覚醒に動けば、じゃな」
賢者はそう説明するが、タマはシュンと。それを宥めるように賢者は続けた。
「本当に長期間目覚めなければの策はあるが…。今は心身ともに休ませてやるべきじゃ。とりあえず数週は様子見じゃの」
「無理もないわよね…。傷も酷かったけど、あの呪いがねぇ…。 今も、呪いで眠ってるようなものなんでしょ?」
ソフィアに問われ、頷く賢者。 ―そんな時であった。
「呪い…。眠る…」
突如、アリシャがぼそりと呟く。そしてそのままさくらの方を。
「さくら、『呪いで眠らせられるお話』、ある?」
「へ? え?」
急に訳の分からない質問を振られ、困惑するさくら。呪いで眠るって…。…そういえば…。
「あ、あります…。おとぎ話ですけど…」
ふと頭に浮かんだのは、童話が幾つか。そんなことを聞いて何を―? さくらがそう思った矢先だった。
「よかった」
深く聞こうとはせず、小さく微笑むアリシャ。そのまま立ち上がり、リュウザキの顔の横へと歩み寄る。
「…! ちょ、ちょっとアリシャ…!?」
何かを察したのか、俄かに立ち上がって彼女を止めようとするソフィア。そしてさくらも、その瞬間ハッと息を呑んだ。
「も…もしかして…!」
思わず、揺れる声が漏れてしまう。先程頭に浮かんだ童話から、推測するに…!!
「?」
「あら…?」
そのさくら達の様子に気づいた教師陣も、何事かと目を移す。そんな衆目の前で、アリシャは気にすることなく片髪を耳にかけ―。
「ん…」
眠れる竜崎の唇に、キスを落とした。
「わぁ…!」
「なっ…!?」
「ひゃっ…!?」
目を輝かせるオズヴァルドと、あ然とするエルフリーデと、顔を真っ赤にするナディ。
「あらぁん♡」
「っ…!?」
「まぁ…!」
にやにやと身をくねらせつつ笑むグレミリオと、慌てて目を覆おうとするメルティ―ソンと、どこか楽し気なイヴ。
「ふぉっふぉっふぉっ!」
「あわわわ…!」
「間に合っ…てないわねこれ!」
慈愛の笑い声をあげる賢者と、ごめん寝態勢で見て見ぬふりしようとするタマと、慌てて動きさくらの目を覆ったソフィア。
そして、当のさくらは―。
(え…えええええええっ!?)
…ガッツリ見ていた。 というか、ソフィアの指の隙間から今もしっかり見えてる。
いやまあ竜崎さんとアリシャさんはそんな関係かもとは思ってたしキスするのは多分普通の事であって、だけどこんな皆が見ている中で平然とするなんて凄く肝が据わっているしというか多分勇者さんが天然なんだろうだけど、というか呪いがキスで覚めるって童話を知ってた…あぁ竜崎さんから聞いてたのかもしれない…さっきのはその確認ということ…けどそもそも王子様がお姫様にキスするから立場が逆だし…てか、長くない…!?き、キス、長くない…!?!?
……さくらの胸中を言葉にするとしたら、このような感じか。もはや洪水状態。加えて彼女は、自身の顔が赤くなって火照っていくのも感じていた。
そんなさくらの…もといさくら達の内心を一切気にすることなく、アリシャは竜崎へ口づけをしたまま。
そして軽いキスとは言い難いそれを終え、顔を上げると―。
「…起きない…」
少ししょんぼりとした様子で呟いた。
「…なにしてんのよ…」
「前、キヨトから聞いた。呪いはこうすれば消えて、目覚めるって。愛するひとのキスで」
呆れ顔のソフィアに、アリシャは平然と答える。それを聞いたソフィアは、溜息ひとつ。
「だーかーら…! それはキヨトの世界のお伽噺だし、そもそもそういう呪いじゃないっての…!」
「でも…」
何か言いたそうなアリシャ。ソフィアは更に畳みかけた。
「てか、それ昔試してたじゃない! 呪いが消えないかって!」
…………試してたんだ……。 当時の詳細を知らぬさくら達や教師陣の内心は、見事にその一言で一致していた。
―とはいえ呪いで昏睡したのはこれが二度目だからなぁ…。もしやと思ったんだが…―
一方で、ニアロンは残念そうな面持ちであった。実は彼女、アリシャが竜崎にキスしている間、声も上げず優しく見守っていたのだ。
―流石にタイミングの問題じゃないか…。まあそれで解呪できたら、私の努力はなんだったのかだしな…―
そうブツブツと呟くニアロン。と、彼女の手を、アリシャが引いた。
「ニアロンも」
―ん? そうだな。 清人、起きてくれ―
誘われたニアロンは、ふわりと竜崎の顔へ。薄くなっている手で彼の頬を優しく支え―。
―ん……―
唇と唇を、重ねた。
「…………。」
もはやさくらは、思考がオーバーヒートしていた。大人のキスなんて、ドラマや漫画ぐらいでしかみたことがない。
それを、目の前でやられたのだ。しかも、二回。 もう顔から火や煙が出そうだった。
それはさておき、当然ながら竜崎は目を覚まさない。 すると、更に―。
「ソフィアは?」
今度はソフィアを誘うアリシャ。可能性がある相手を選び、呼んでいる様子。 それに対しソフィアはというと…。
「……遠慮しとくわよ」
少し迷った素振りも見えたが、肩を竦めて断った。 ―と、直後。誰にも聞こえないような声で、しかし目隠しされていた都合上、抱きかかえられていたさくらの耳には入ってしまう声で…。
「大体、アンタら2人がキスして目覚めなかったら、私で起きるわけないでしょうよ…」
そう、少々怒ったかのような言葉を口にした。
そんな台詞は露知らず。アリシャは次の相手を選び出す。それは―。
「じゃあ、さくら」
…まさかの、さくらであった。
「ふぇっ!? え、えっと…その…!!」
指名を受け、物凄い勢いでどきまぎするさくら。目はあっちゃこっちゃに泳ぎ、心臓はバクバク音を立てだした。
断るべきか、断らざるべきか。惑いに惑っていると、ソフィアが助け船がてら溜息を吐いた。
「あーもう…。さくらちゃん困ってんだから止めなさいな…」
頭をぼりぼりと掻く彼女。そして、叫んだ。
「てか、何もみんなの前でやることないでしょうよ! あとでやんなさい、あとで!!」
ソフィアの最も(?)なツッコミは、病室内に響き渡ったのだった。
さくらとの約束を結び、グレミリオは号令をかける。―と、彼女…もとい彼はえいえいおーと腕を振った。
「我ら『召喚術士チーム』、一丸となって練習頑張っちゃいましょー! さくらちゃん、そしてリュウザキちゃんのため!」
「なんですかそれ?」
首を捻るオズヴァルド。するとグレミリオはウフフと笑った。
「チーム名決めたほうが、やる気って湧いてくるじゃなぁい? 丁度皆、召喚術の専門家なんだから♪」
「私、基礎魔術講師ですけどねー!」
「良いのよぉ細かいことは! オズヴァルドちゃん、腕は私達並みにあるじゃなあい!」
手をひらひらさせるグレミリオ。彼は そ・れ・と・も♡ と続けた。
「『リュウザキちゃんへお返しし隊』とかにしちゃう? あ、リーダーの名前を取って『さくらちゃんと頑張る教師達』とか!」
「お! 良いですね、そういうの!」
乗り出すオズヴァルド。イヴやエルフリーデ達も話に参加し始め、場はわいわいと。
その様子を少し苦笑いで見つめていたさくら。そこへ、ソフィアが声をかけた。
「さくらちゃん、とりあえずはうちに来なさいな。 キヨトが起きるまでどれくらいかかるか定かじゃないんだし、1人でいるのも寂しいでしょ?」
それはさくらにとって有難いお誘い。いくらタマがおり、教員に知り合いも増えてきたとはいえ…教員寮の角部屋で、しかも隣部屋に竜崎がいない状態で寝泊まりするのは少し辛かった。
普段ならまだしも、事が事。特に扉が壊れた竜崎の部屋を見るたびに、間接的にとはいえ彼を傷つけてしまった事実が頭をよぎり、責に苛まれてしまいそうだった。
それに…いくらナディやイヴ、メルティ―ソン達が庇ってくれるとはいえ、他教員からの質問攻めは免れないだろう。なにせ暴漢に襲われもしたのだから。
「マリアも、杖のことで相談したいことがあるって。属性の力で形成したドレス、そこそこ形にはなったのだけど…戦闘向けまではいかないらしくてね」
あでも。杖としては使えるようにはなってるわよ。 と、ソフィアは付け加える。依頼していたさくら専用の短杖、ある程度は完成しているらしい。
特殊機構…魔法少女のように変身できる機構は未だ完成に至っていないようだが、なにぶん武器を奪われてしまった身。それで十分。いや十二分である。
竜崎への贈り物への助力、そして道具は揃った。あとは練習を積むだけ。
(待っててください竜崎さん…! …でも、早く目覚めてもください…!)
内心そう意気込み、さくらは竜崎の顔へ目を向ける。 と―
「ご主じーん……起きてくださいよぉ…」
タマがペロペロと、彼の頬を舐めていた。
タマにとっても、未だ信じられぬ出来事なのだろう。怪我によって一晩病院で休んでいたら、主がその間にそれ以上の大怪我を負い入院していたなんて。
しかも、目を覚まさないのだ。いつも竜崎を起こす役を務めている彼にとって、それは中々に胸を突く事柄であった。
「ご主じーん…」
だが…如何ともしがたい。既に出来うる限りの治療を受けているのだ、霊獣とはいえ、一介の獣がどうにかできることでもない。
彼はただ、舐め続けることしかできなかった。舐め、自らのふわふわな白長毛を擦りつける。普段ならば舌のザリザリか、モフモフのくすぐったさですぐに起きてくれるのだから。
しかし…やはり昏睡状態の竜崎は眉1つも動かしはしない。痛みを感じぬように、静かに呼吸をしているのみ。
「タマ、駄目。 キヨトの顔が傷つくから」
そして残念ながらドクターストップ…ではなく勇者アリシャからストップをかけられてしまった。確かにこれ以上舐め続けると、竜崎の頬が削れてしまう。
アリシャに抱え上げられ、竜崎の腰当たりに移動させられるタマ。彼は名残惜しそうに呟いた。
「ご主人、どうやったら起きてくれるんでしょう…」
「自然に任せるしかないのぅ。それか、リュウザキの深層意識が覚醒に動けば、じゃな」
賢者はそう説明するが、タマはシュンと。それを宥めるように賢者は続けた。
「本当に長期間目覚めなければの策はあるが…。今は心身ともに休ませてやるべきじゃ。とりあえず数週は様子見じゃの」
「無理もないわよね…。傷も酷かったけど、あの呪いがねぇ…。 今も、呪いで眠ってるようなものなんでしょ?」
ソフィアに問われ、頷く賢者。 ―そんな時であった。
「呪い…。眠る…」
突如、アリシャがぼそりと呟く。そしてそのままさくらの方を。
「さくら、『呪いで眠らせられるお話』、ある?」
「へ? え?」
急に訳の分からない質問を振られ、困惑するさくら。呪いで眠るって…。…そういえば…。
「あ、あります…。おとぎ話ですけど…」
ふと頭に浮かんだのは、童話が幾つか。そんなことを聞いて何を―? さくらがそう思った矢先だった。
「よかった」
深く聞こうとはせず、小さく微笑むアリシャ。そのまま立ち上がり、リュウザキの顔の横へと歩み寄る。
「…! ちょ、ちょっとアリシャ…!?」
何かを察したのか、俄かに立ち上がって彼女を止めようとするソフィア。そしてさくらも、その瞬間ハッと息を呑んだ。
「も…もしかして…!」
思わず、揺れる声が漏れてしまう。先程頭に浮かんだ童話から、推測するに…!!
「?」
「あら…?」
そのさくら達の様子に気づいた教師陣も、何事かと目を移す。そんな衆目の前で、アリシャは気にすることなく片髪を耳にかけ―。
「ん…」
眠れる竜崎の唇に、キスを落とした。
「わぁ…!」
「なっ…!?」
「ひゃっ…!?」
目を輝かせるオズヴァルドと、あ然とするエルフリーデと、顔を真っ赤にするナディ。
「あらぁん♡」
「っ…!?」
「まぁ…!」
にやにやと身をくねらせつつ笑むグレミリオと、慌てて目を覆おうとするメルティ―ソンと、どこか楽し気なイヴ。
「ふぉっふぉっふぉっ!」
「あわわわ…!」
「間に合っ…てないわねこれ!」
慈愛の笑い声をあげる賢者と、ごめん寝態勢で見て見ぬふりしようとするタマと、慌てて動きさくらの目を覆ったソフィア。
そして、当のさくらは―。
(え…えええええええっ!?)
…ガッツリ見ていた。 というか、ソフィアの指の隙間から今もしっかり見えてる。
いやまあ竜崎さんとアリシャさんはそんな関係かもとは思ってたしキスするのは多分普通の事であって、だけどこんな皆が見ている中で平然とするなんて凄く肝が据わっているしというか多分勇者さんが天然なんだろうだけど、というか呪いがキスで覚めるって童話を知ってた…あぁ竜崎さんから聞いてたのかもしれない…さっきのはその確認ということ…けどそもそも王子様がお姫様にキスするから立場が逆だし…てか、長くない…!?き、キス、長くない…!?!?
……さくらの胸中を言葉にするとしたら、このような感じか。もはや洪水状態。加えて彼女は、自身の顔が赤くなって火照っていくのも感じていた。
そんなさくらの…もといさくら達の内心を一切気にすることなく、アリシャは竜崎へ口づけをしたまま。
そして軽いキスとは言い難いそれを終え、顔を上げると―。
「…起きない…」
少ししょんぼりとした様子で呟いた。
「…なにしてんのよ…」
「前、キヨトから聞いた。呪いはこうすれば消えて、目覚めるって。愛するひとのキスで」
呆れ顔のソフィアに、アリシャは平然と答える。それを聞いたソフィアは、溜息ひとつ。
「だーかーら…! それはキヨトの世界のお伽噺だし、そもそもそういう呪いじゃないっての…!」
「でも…」
何か言いたそうなアリシャ。ソフィアは更に畳みかけた。
「てか、それ昔試してたじゃない! 呪いが消えないかって!」
…………試してたんだ……。 当時の詳細を知らぬさくら達や教師陣の内心は、見事にその一言で一致していた。
―とはいえ呪いで昏睡したのはこれが二度目だからなぁ…。もしやと思ったんだが…―
一方で、ニアロンは残念そうな面持ちであった。実は彼女、アリシャが竜崎にキスしている間、声も上げず優しく見守っていたのだ。
―流石にタイミングの問題じゃないか…。まあそれで解呪できたら、私の努力はなんだったのかだしな…―
そうブツブツと呟くニアロン。と、彼女の手を、アリシャが引いた。
「ニアロンも」
―ん? そうだな。 清人、起きてくれ―
誘われたニアロンは、ふわりと竜崎の顔へ。薄くなっている手で彼の頬を優しく支え―。
―ん……―
唇と唇を、重ねた。
「…………。」
もはやさくらは、思考がオーバーヒートしていた。大人のキスなんて、ドラマや漫画ぐらいでしかみたことがない。
それを、目の前でやられたのだ。しかも、二回。 もう顔から火や煙が出そうだった。
それはさておき、当然ながら竜崎は目を覚まさない。 すると、更に―。
「ソフィアは?」
今度はソフィアを誘うアリシャ。可能性がある相手を選び、呼んでいる様子。 それに対しソフィアはというと…。
「……遠慮しとくわよ」
少し迷った素振りも見えたが、肩を竦めて断った。 ―と、直後。誰にも聞こえないような声で、しかし目隠しされていた都合上、抱きかかえられていたさくらの耳には入ってしまう声で…。
「大体、アンタら2人がキスして目覚めなかったら、私で起きるわけないでしょうよ…」
そう、少々怒ったかのような言葉を口にした。
そんな台詞は露知らず。アリシャは次の相手を選び出す。それは―。
「じゃあ、さくら」
…まさかの、さくらであった。
「ふぇっ!? え、えっと…その…!!」
指名を受け、物凄い勢いでどきまぎするさくら。目はあっちゃこっちゃに泳ぎ、心臓はバクバク音を立てだした。
断るべきか、断らざるべきか。惑いに惑っていると、ソフィアが助け船がてら溜息を吐いた。
「あーもう…。さくらちゃん困ってんだから止めなさいな…」
頭をぼりぼりと掻く彼女。そして、叫んだ。
「てか、何もみんなの前でやることないでしょうよ! あとでやんなさい、あとで!!」
ソフィアの最も(?)なツッコミは、病室内に響き渡ったのだった。
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