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―見舞い客―
368話 見舞い客二組目 箝口令の主達と、予言者①
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突如現れたのは、学園長、予言者、そしてこの国の老王。まさしく、錚々たる顔ぶれ。
一部…眠っている竜崎や、勇者アリシャ、オズヴァルドを除いた面々は即座に傅こうとする。しかし老王は、それを手で制した。
「そうかしこまらなくてよい。儂もお主らと同じく、親友の容態を見舞いに来た老爺だ」
そう述べ、地味なローブで変装した彼は歩を進める。席を譲ろうとするエルフリーデやソフィア達を止め、真っ直ぐに竜崎の眠るベッド脇へと。
「…っ。 惨たらしいの…。…命に別状はないのか?」
「一応、な。呪いの影響で死の淵を彷徨っておったが…」
―こいつの愛弟子2人が全身全霊を以て治療してくれたんだ。勿論、お前が派遣してくれた医師団もな―
包帯巻きの竜崎を見て沈痛な顔を浮かべた王は、ミルスパールとニアロンの説明に安堵の息を吐く。そして、竜崎の肩に優しく触れた。
「リュウザキよ…。無理に戦へと招き入れてしまっただけではなく、幾多の我儘も聞いてくれたな…。まだ、その借りは返しきれておらぬ…。ここで死んではならぬぞ…。目覚めておくれよ…」
まるで莫逆の友を案じるかのような、王の口ぶり。と―、彼は更に一言付け加えた。
「我が孫を娶ってくれるという約束も、果たせてはおらぬのだからな」
「「「えっ」」」
さくらを始めとした数人が、思わず声を漏らす。娶る…つまり、結婚するということ。
突然に飛び出した王のその言葉に、場は一瞬ざわつく。それを叩き壊したのは、ニアロンの呆れ声だった。
―いやな…。それは清人が、聞かれたその場で断りを入れたろ…。いくら英雄と謳われていても、騎士号すらないのに次期女王の隣には立てないって―
「何を今更…! それに望むとあらば、爵位などいくらでも。 それに、国を興すという話もあったろう…!」
― だーかーら! こいつ…というか私達は無用な権力は欲していないって何度言わせるんだ! 建国の勧めも即座に拒否したろ! だいたい婚約を断ったあの時に、お前の孫娘には意中の相手がいる様子だって伝えたじゃないか!―
「そ、そうじゃが…。…しかし…あやつ、全幅の信頼を置けるほど優秀なのに、そちらの方面にのみ朴念仁なんじゃもの…」
服装も合いまり、威厳が完全に失われるほどに萎れる王。ニアロンはやれやれと肩をすくめた。
―もう少し待っていてやれ。清人の見立てでは、お前の孫娘が告白すれば、あいつは多少迷いつつも受けるだろう。王族から輿入れの頼みをするなんて締まらないだろうが…下手に場を取り持てば、意固地になって跳ねのけるのはお前の孫娘のほうだ―
そうなれば、ますます婚姻は遠のくぞ。そう脅され、王はしょんぼりと肩を落とす。
と、流石にそれを見兼ねたのか…。ソフィアが彼を励ました。
「ご心配なく、陛下。もしもの時は、キヨトは確実に動いてくれます。なにせ実績があるんですから。私と夫を結んでくれたように!」
「…そうかのぅ。ならば、ますますリュウザキには生きてもらわなければな…!」
彼女の一言に、王は少し笑みを取り戻した。
「陛下、本題に移りましょう」
と、場の隙を突き、賢者から渡されたカルテを見ていた学園長が促す。王はそうであったと咳払いをし、改めて皆を見やった。
「先にミルスパールが伝えたであろうが、此度の出来事には箝口令を敷く。各々、それを心得よ」
威厳を取り戻した王の言葉に、全員が強く頷く。あの箝口令は、賢者、学園長、そして国王の連名による命。彼らはそれを伝えに来たのだと、さくらも改めて理解した。
「既にミルスパールの分身が描いた似顔絵記載の手配書は、続々と複製され各国へと回っておる。並びに竜崎の容態等を伏せた、伝えられる情報も機密事項として全ての王達へ申し送った」
齢80には思えないほどに、威風堂々とした姿。そんな彼は、更に続ける。
「加えて、各地での緊急用配備も着々と進められておる。仮にどのようなことが起きても、対応できるようにな。そして―。シビラよ」
「はい。陛下」
指示を受けた祈祷師シビラは、手にしていた書類をエルフリーデに手渡す。行き渡ったのを確認し、王は再度口を開いた。
「魔王による『竜崎を伴った虚偽の』遠征の依頼書だ。それをよく読みこみ、口裏を合わせよ。学園については、ブラディにも託しておる」
「お任せください」
礼を払う学園長。エルフリーデ達もそれに従う。なおオズヴァルドは小突かれて。
頼むぞ、と頷いた王は、そのまま勇者一行とさくらへ向き直った。
「魔王、そしてラヴィ教官も見舞いを打診してきたが…。これ以上事を大きくすると、襤褸が出やすくなる。すまないが、儂の一存で取り止めてもらった」
かくいう儂も、お忍びで来ておる。そろそろ戻らなければいけない。 そう述べた王は、今一度竜崎に触れ、名残惜しそうにベッドを離れる。
と、そんな折。祈祷師シビラがおずおずと手を挙げた。
「陛下…私も少々お時間を頂いて宜しいでしょうか」
「勿論、構わぬぞ」
「寛大なお心、感謝いたします」
王の返答に深々と頭を下げたシビラは、少し駆け寄るようにベッドへと。そして、竜崎の無事を祈るかのような仕草を。
その後に…彼女はさくらの元へ。そして跪くようにして、少女の手を握った。
「さくらちゃん…。あなたは怪我してない…? 私の『予言』…当たってしまったのよね…」
シビラが、さくらと竜崎に見た予言。それは、『勇者一行の現れ』ほどに正確なものではなかった。『何かに襲われ、大切な物を奪われる』―。彼女の経験則から見出された、朧げなる凶相であった。
…しかし、流石は予言者として名を馳せる彼女と言うべきであろうか。それはピタリと当たってしまったのだ。
それも、最悪レベルの形で。自身か大切な人かが傷つくかもしれない、しかし警戒すれば避けられないこともなく、すぐさま災厄は去る。シビラはそう補足した。
だが結果的に、2人共に命の危機に瀕してしまった。幸いに、警戒―、即ち竜崎が作った身代わり人形のおかげで、さくらは怪我をせずに済んだ。しかし…。
「…はい。でも、私の分も…竜崎さんが、全部引き受けてくれて…。…っ…」
シビラにそう答えつつ、さくらは言葉を詰まらせる。鮮明に思い出してしまったのだ。自身を守るために竜崎が割って入り、その身を、臓腑を、穿ち貫かれたことを。
「ごめんなさいね…。辛い思いさせてしまって…」
顔を伏せるさくらを、シビラは優しく包む。そして立ち上がり、王の前に傅いた。
「…陛下。この場を借りて、お願いがございます」
祈祷師シビラの突然の行動に、全員がどよめく。王も戸惑いを見せていたが、一つ呼吸を置き、責務を果たした。
「…申してみよ」
許可を得たシビラは、先程よりも深く、深く一礼。そして顔を上げ、衝撃の一言を放った。
「私は―、祈祷師を辞そうと思っております」
一部…眠っている竜崎や、勇者アリシャ、オズヴァルドを除いた面々は即座に傅こうとする。しかし老王は、それを手で制した。
「そうかしこまらなくてよい。儂もお主らと同じく、親友の容態を見舞いに来た老爺だ」
そう述べ、地味なローブで変装した彼は歩を進める。席を譲ろうとするエルフリーデやソフィア達を止め、真っ直ぐに竜崎の眠るベッド脇へと。
「…っ。 惨たらしいの…。…命に別状はないのか?」
「一応、な。呪いの影響で死の淵を彷徨っておったが…」
―こいつの愛弟子2人が全身全霊を以て治療してくれたんだ。勿論、お前が派遣してくれた医師団もな―
包帯巻きの竜崎を見て沈痛な顔を浮かべた王は、ミルスパールとニアロンの説明に安堵の息を吐く。そして、竜崎の肩に優しく触れた。
「リュウザキよ…。無理に戦へと招き入れてしまっただけではなく、幾多の我儘も聞いてくれたな…。まだ、その借りは返しきれておらぬ…。ここで死んではならぬぞ…。目覚めておくれよ…」
まるで莫逆の友を案じるかのような、王の口ぶり。と―、彼は更に一言付け加えた。
「我が孫を娶ってくれるという約束も、果たせてはおらぬのだからな」
「「「えっ」」」
さくらを始めとした数人が、思わず声を漏らす。娶る…つまり、結婚するということ。
突然に飛び出した王のその言葉に、場は一瞬ざわつく。それを叩き壊したのは、ニアロンの呆れ声だった。
―いやな…。それは清人が、聞かれたその場で断りを入れたろ…。いくら英雄と謳われていても、騎士号すらないのに次期女王の隣には立てないって―
「何を今更…! それに望むとあらば、爵位などいくらでも。 それに、国を興すという話もあったろう…!」
― だーかーら! こいつ…というか私達は無用な権力は欲していないって何度言わせるんだ! 建国の勧めも即座に拒否したろ! だいたい婚約を断ったあの時に、お前の孫娘には意中の相手がいる様子だって伝えたじゃないか!―
「そ、そうじゃが…。…しかし…あやつ、全幅の信頼を置けるほど優秀なのに、そちらの方面にのみ朴念仁なんじゃもの…」
服装も合いまり、威厳が完全に失われるほどに萎れる王。ニアロンはやれやれと肩をすくめた。
―もう少し待っていてやれ。清人の見立てでは、お前の孫娘が告白すれば、あいつは多少迷いつつも受けるだろう。王族から輿入れの頼みをするなんて締まらないだろうが…下手に場を取り持てば、意固地になって跳ねのけるのはお前の孫娘のほうだ―
そうなれば、ますます婚姻は遠のくぞ。そう脅され、王はしょんぼりと肩を落とす。
と、流石にそれを見兼ねたのか…。ソフィアが彼を励ました。
「ご心配なく、陛下。もしもの時は、キヨトは確実に動いてくれます。なにせ実績があるんですから。私と夫を結んでくれたように!」
「…そうかのぅ。ならば、ますますリュウザキには生きてもらわなければな…!」
彼女の一言に、王は少し笑みを取り戻した。
「陛下、本題に移りましょう」
と、場の隙を突き、賢者から渡されたカルテを見ていた学園長が促す。王はそうであったと咳払いをし、改めて皆を見やった。
「先にミルスパールが伝えたであろうが、此度の出来事には箝口令を敷く。各々、それを心得よ」
威厳を取り戻した王の言葉に、全員が強く頷く。あの箝口令は、賢者、学園長、そして国王の連名による命。彼らはそれを伝えに来たのだと、さくらも改めて理解した。
「既にミルスパールの分身が描いた似顔絵記載の手配書は、続々と複製され各国へと回っておる。並びに竜崎の容態等を伏せた、伝えられる情報も機密事項として全ての王達へ申し送った」
齢80には思えないほどに、威風堂々とした姿。そんな彼は、更に続ける。
「加えて、各地での緊急用配備も着々と進められておる。仮にどのようなことが起きても、対応できるようにな。そして―。シビラよ」
「はい。陛下」
指示を受けた祈祷師シビラは、手にしていた書類をエルフリーデに手渡す。行き渡ったのを確認し、王は再度口を開いた。
「魔王による『竜崎を伴った虚偽の』遠征の依頼書だ。それをよく読みこみ、口裏を合わせよ。学園については、ブラディにも託しておる」
「お任せください」
礼を払う学園長。エルフリーデ達もそれに従う。なおオズヴァルドは小突かれて。
頼むぞ、と頷いた王は、そのまま勇者一行とさくらへ向き直った。
「魔王、そしてラヴィ教官も見舞いを打診してきたが…。これ以上事を大きくすると、襤褸が出やすくなる。すまないが、儂の一存で取り止めてもらった」
かくいう儂も、お忍びで来ておる。そろそろ戻らなければいけない。 そう述べた王は、今一度竜崎に触れ、名残惜しそうにベッドを離れる。
と、そんな折。祈祷師シビラがおずおずと手を挙げた。
「陛下…私も少々お時間を頂いて宜しいでしょうか」
「勿論、構わぬぞ」
「寛大なお心、感謝いたします」
王の返答に深々と頭を下げたシビラは、少し駆け寄るようにベッドへと。そして、竜崎の無事を祈るかのような仕草を。
その後に…彼女はさくらの元へ。そして跪くようにして、少女の手を握った。
「さくらちゃん…。あなたは怪我してない…? 私の『予言』…当たってしまったのよね…」
シビラが、さくらと竜崎に見た予言。それは、『勇者一行の現れ』ほどに正確なものではなかった。『何かに襲われ、大切な物を奪われる』―。彼女の経験則から見出された、朧げなる凶相であった。
…しかし、流石は予言者として名を馳せる彼女と言うべきであろうか。それはピタリと当たってしまったのだ。
それも、最悪レベルの形で。自身か大切な人かが傷つくかもしれない、しかし警戒すれば避けられないこともなく、すぐさま災厄は去る。シビラはそう補足した。
だが結果的に、2人共に命の危機に瀕してしまった。幸いに、警戒―、即ち竜崎が作った身代わり人形のおかげで、さくらは怪我をせずに済んだ。しかし…。
「…はい。でも、私の分も…竜崎さんが、全部引き受けてくれて…。…っ…」
シビラにそう答えつつ、さくらは言葉を詰まらせる。鮮明に思い出してしまったのだ。自身を守るために竜崎が割って入り、その身を、臓腑を、穿ち貫かれたことを。
「ごめんなさいね…。辛い思いさせてしまって…」
顔を伏せるさくらを、シビラは優しく包む。そして立ち上がり、王の前に傅いた。
「…陛下。この場を借りて、お願いがございます」
祈祷師シビラの突然の行動に、全員がどよめく。王も戸惑いを見せていたが、一つ呼吸を置き、責務を果たした。
「…申してみよ」
許可を得たシビラは、先程よりも深く、深く一礼。そして顔を上げ、衝撃の一言を放った。
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