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―救いの手―

350話 簡易型収束魔導術砲

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20年前、かつての戦争。その激戦が一つ、『レドルブ奪還戦』。

魔王軍に蹂躙され、主要拠点とされた『界境国家レドルブ』その王都。そこへ向け人界軍は反攻作戦へと出た。その中には当然、『勇者一行』の姿も。


熾烈を極めたその戦いだったが、とある一撃により事実上の終止符が打たれる。それにより、人界側の勝利となったのだ。



起死回生の一手として行われた、『勇者一行による本陣潜入』。目的は巨大なるレドルブ城に隠された転移魔法陣の破壊。それを壊すことにより、魔王軍側の兵士の補充を止めることが目的だった。


しかし、その策は本陣の防衛をしていた2人の魔王軍幹部『サモ・イスカイ』と『ヒルトラウト・リールシュ』により阻まれる。勇者の腕と遜色なき実力を持つ彼らにより、勇者一行は壊滅寸前まで追い込まれた。

しかし、『老練にして英明果敢たる賢の者』…賢者ミルスパール・ソールバルグは一つの奥の手を隠し持っていた。否、むしろその発動のために無謀ともいえる策に同意したのかもしれない。


その奥の手こそが、『収束魔導術砲』である。



類まれなる魔力保持量、そして長きにわたり研鑽を積んだ魔術の才。その二つがあってこその大技。巨大竜が複数匹入るほどの太さを持つ、極大のレーザービーム。

それは残っていた魔王軍戦力、張られていた幾重もの障壁や防御魔術、そして転移魔法陣を全て消滅させ、城のどてっぱらを抉り抜き破砕せしめた。恐らくその威力、『魔神』である高位精霊達の渾身の一撃にも並ぶであろう。





そして今、ソフィアの駆る機動鎧から放たれているのは、その名を冠する一撃。『簡易型』と銘打たれた通り、規模はかなり縮小されているが―。


コォオッッッッッッッ!!

人の胴よりも確実に太いその光線は、周囲の空気を衝撃波へと変え突き進む。その威力は、先程の神具同士のぶつかり合いにも等しかった。


「はああああああ!?!?」

目を白黒させた獣人は、自らの身体を可能な限り捻り、防御態勢をとる。しかし勇者への対応に追われていたせいで、神具を持つ腕は思うように動かせない。

そこで彼が取った行動は、巨大氷を盾代わりとすること。自らの目の前に投げ捨てるかのように置いたそれに、レーザービームは直撃し―。


バチチチチチッッッッッッッッ―!!


電撃の如き、白い雷光が散る。とりあえずは防げたと息を吐きかけた獣人―、その瞬間だった。



ジ…ジジジ…ジゥゥッッッッ―

「…ッ!? お…おォ…!?」

耳へ届いた異音、そして目の前で弾け続ける閃光に獣人は愕然とする。

削れている―。魔神とも呼ばれる高位精霊が一柱、氷のフリムスカが作り出した鉄壁なる氷塊に、穴が開き始めている―。



神具同士の激突による衝撃波、化け物ネズミを屠り去るマジックミサイル、獣人の巨体の衝突、及び彼による力任せの振り回し…その全てに耐えた氷が―。

幾度と繰り返された勇者達との激突でもヒビすら入らず、賢者が剣に付与した炎でも表面を多少溶かす程度に収まり、恐らく神具の鏡の一撃すらも容易に凌ぐであろうその氷が―。

「マジ、かよォ…!? 抉られて…!」

―そう、溶かされている、砕かれている、抉られている。氷の中で一部が乱反射し、カレイドスコープのような輝きを周囲へ散らしながら。


否、それだけではない。乱反射したその細き光線すらも凄まじき破壊力を誇っている。それを示すように、巨大氷の各所が泡立ち、穴が生まれる。


ジゥウウ…カァッッッッッ!


瞬く間にレーザービームは巨大氷を貫通。それと同時である。大きな風穴と、それに連なる細かな孔穴群が開けられた氷にはピシッと音を立て…。

バゴォッッ!

粉々に砕け散ってしまった。






「ッッ…!?!?」

最早言葉すら漏らせぬ獣人。しかし、その氷の壁は最善策であった。生まれた数秒の猶予の間に、彼は神具の鏡ラケットを引き戻し、レーザービームとかち合うように構えたのだ。


火の上位精霊サラマンドが放った火焔レーザーすらをも容易く反転せしめる神具の鏡。巨大氷こそ粉砕したが、『全てを跳ね返す』鏡の前では、収束魔導術砲も―。


ッッッ― バチチチチチチッッッッッ!!

「ぐおおおおおおぁっ!?!?」

弾け、ない。いや、鏡はしっかりと機能している。それを証明するかのように、細かい光の粒になったビームの破片が周囲に霧散していく。

しかし、弾き返し切れないのだ。怒涛に迫るレーザーの勢いを、打ち消しきれないのである。




「ほう…あれほどとはの…!」

竜崎を治療する手を止めぬまま、賢者は感心したかのように呟く。竜崎もまた、微かに目の光を取り戻した。

「あ…れは…高位精霊達の…攻撃を…捌いた時と…同じ…。ということ…は…!」

「『魔神』の一撃と遜色ないということじゃな。やりおるわい、ソフィア」

揃って感嘆の声をあげる賢者達。竜崎に至っては、苦しみを一時的に忘れたかのように。



―そう。規模こそ格段に縮小されているものの、ソフィアの機動鎧が放つ『簡易型収束魔導術砲』の威力は賢者の技に引けを取らぬ威力を備えていた。

人生全てを魔術に捧げたともいえる老爺が放った奥義を、魔術の一切を使うことが出来ない工房職人が技術のみで再現せしめたのである。


舐めてはいけない。彼女は…ソフィアは『才気煥発たる巧の者』として選ばれた勇者一行の一員なのだ。









「うおうおうおうおうおおおおっ…!! んだこりゃ…んだこりゃあっっ!! おおおおッッ…!」

怒涛なるレーザービームの勢いに、獣人はひたすら耐えるしかできない。その凄まじき力により、彼の巨体はどんどん押し込まれる。

足を止めていた粘着弾はとうに千切れているというのに、彼は動けなかった。耐えるだけで精一杯だった。

もしこのビームをその身で食らおうものならば、死なないまでも無事では済まない。そのことが直感的にわかってしまったのである。




「―やべえッ!」

ハッと獣人は気づく。気づけば、壁際間近まで押し込まれていたのだ。このまま激突すれば、背負っている魔術士に被害が及ぶ。それを察したのである。

「ッく! おおりゃああっ!」

獣人は急ぎ片足をあげ、背後へ盛大にキック。壁にビキィッと亀裂を入れるほど蹴り込み、無理やり激突を阻止した。

自然と、彼の背は斜めに。勿論、隠れている魔術士も。

―と、その瞬間を狙った者がいた。


「―はぁっ!」


地を駆けるは、闇を湛えし勇の者―、アリシャである。





「なあっ…!?」

驚愕する獣人。しかし、アリシャがこの瞬間を狙ったのも当然であった。邪魔であった巨大氷は砕け散り、神具の鏡は防御に使われている。

身体の動きは機動鎧のレーザービームで制限され、残った黒刃による対処も、間に合わない。


獣人が見せた、絶対なる隙。アリシャは手にした剣を引き、魔術士と獣人を同時に貫かんと―!


―その時であった。




「止めろ! この…阿婆擦れがァ!!」

獣人の服の隙間から無理やり顔を出し、そう叫んだのは魔術士。すると…思いがけないことが起こったのだ。


「―! その顔…」


なんと、アリシャの腕の動きは…ピタリと止めてしまったのだ。
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