【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
346 / 391
―救いの手―

345話 魔術士達の正体

しおりを挟む
「なっ…顔が…! 顔の…!魔術がァ……!?」

顔を隠していた靄…幻惑魔術が突如消え始め、俄かに焦りだす魔術士。そんな彼に向け、賢者は杖を突きつけたまま口を開いた。

「この間モンストリアでちょいとぶつかり合った際にな、それの解呪法は大体推測できたからのう。これでようやく、お前さんの顔を拝めるわい」

せせら笑う賢者。魔術士は悶えるが、機動鎧の手の締め付けには敵わない。

「一体…どんな…!」

ゴクリと息を呑むソフィア。そうこうしているうちに、靄は全て晴れ…今まで隠されていた魔術士の顔が、露わになった。




「…魔族だったのね! 若い…のかしら?」

ソフィアが呟いた通り、その魔術師の顔は魔族のよう。そして、案外と若々しかった。

いや、ともすれば幼い…あどけなさすらも僅かに感じ取れる。先程までの罵詈雑言…癇癪のことを考えると、すんなり納得できてしまう。そんな顔であった。


「んー…ま、当たり前だけど覚えのない顔ねぇ」

機動鎧の兜越しにしげしげと眺め直したソフィアは、そう肩を竦める。それは普通のこと、犯罪者の顔を知ってるわけはない。最も彼女の工房は、荒くれ者を職人に仕立て上げることも生業としているが…。


…しかし、賢者の反応は違った。彼は魔術士の顔を見た瞬間、ぎゅっと顔を顰めたのだ。




「むぅ…! まさか、本当に…リュウザキの推測通りじゃったか…!」

「え? ミルスの爺様、こいつ知ってるの?」

賢者の反応を訝しみ、そう問うソフィア。しかし、彼は口を噤んだ。代わりに大きく息を吸い、細く吐き出す。そして、魔術士へ語り掛けた。

「…正直に答えるんじゃ。お前さん、20年前のあの時…!」

「…何のことですかねぇ…賢者様ァ…!」

賢者の言葉を遮るように、食い気味に返す魔術士。ムッとしたソフィアが、脅しのために機動鎧の握る力を強めようとした、その時だった。




ゴァッッッッッッ!


「きゃっ…!」
「むぅっ…!」

小さく声を漏らすソフィア達。彼らの背後で巨大な閃光が瞬き、衝撃波が押し寄せてきたのだ。またも神具同士の激突が発生したらしい。

すると、その直後―。

「ぐおおっ…!!」
ドガォッッ!

フリムスカの氷に、何かが勢いよく激突する。地面を足で無理やり抉り、スピードを殺しつつ飛んできたそれは、獣人であった。



「つぁあっ…!ックッソ…フェイントに引っかかちまったぜ…!」

失策を反省する舌打ちを鳴らし、頭をガリガリと掻く獣人。彼はそのまま、ぶつかり合った反動により軽く片膝をついている勇者を見やった。

「しっかし、流石勇者だなぁ、おい…!ちょいと力籠めんのミスると軽々吹っ飛ばしてきやがる…! こっちはその場に膝つかせることしかできなかったってのによ…!」

その喜び混じりの呟きには、弱っている様子は一切感じられない。いや、彼は見事にピンピンしていた。

先程の激突音と、獣人自身が足で描いた地面の抉れ。それから察するに、吹き飛ばされていたのが常人ならば、確実に即死している威力だったというのに。





「待ってろよォ…!勇者ァ…! まだまだ戦い合おうじゃねえか…!」

起き上がり、勇者の元に飛び出していこうとする獣人。氷の真後ろにいるソフィア達には全く目をくれる様子はない。彼の眼中には勇者しか映っていないのであろう。

と、そんな彼に向け、捕まっていた魔術士は叫んだ。


「おい…テメエ…!! 俺を…助けろ…!」

「…あん? うおっ兄弟!?なんで捕まってんだよ! 顔のも取れてるじゃねえか!」

相方の言葉で正気に引き戻された獣人は、驚いた表情を浮かべる。魔術士は、更に声を荒げた。

「テメエが暴れて、逃げる道を無くすからだろうが! 獣並みの知能の、粗暴野郎が!」

「あーあーうっせえな…。ったく、良いとこだってのによ…」


魔術士を救出するため、ズチャリと賢者達の元に足を踏み出す獣人。ソフィアは彼から出来るだけ距離を離すように、魔術士を掴んだ腕を遠ざけ警戒態勢をとる。

「…お前さんの方が話通じそうじゃの。一つ、聞かせてくれい」

と、賢者は何故か逆に一歩前に進み出た。そして静かに、厳かに、獣人にこう聞いた。

「ワシらと、…。初に出会ったのは、20年前の、『勇者決定戦』の時じゃな?」



そんな問いかけに、彼は―。

「ハッ!流石は賢者サマだ! 記憶力も良いと来てやがる!」

迷うことなく頷いた。そして、間髪入れず…衝撃の事実を、明らかにした。



「大当たりだぜ! 俺と兄弟は、あん時…勇者を決める闘いの日、喧嘩してたところをリュウザキに止められ、アンタに牢送りにされて出場を逃し、腹いせにアンタらが勇者一行乗ってた馬車を襲ったモンだ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...