328 / 391
― 大切なものが ―
327話 化物
しおりを挟む
「がぁっ…!?」
腕を断ち切られた獣人は顔を苦悶に歪める。手先はラケットを握りしめたまま、溢れ出る鮮血と共に地に落ちた。
大将首の突出に気を抜いたのが悪かった。返ってきたのは手痛い反撃。いくらラケット型に改良されているとはいえ、原型である鏡を今まで使ってきたのは竜崎なのだ。どこにどう攻撃を当てれば反射されまいかは熟知している。
だが、そんな竜崎も無事では済んでいない。
「ぐっ…」
彼は杖を取り落とし、腕を押さえる。相手は絶好調の上位精霊を拳一つで穿つ豪傑。受け流しをしたとはいえ、諸にその一撃を食らったのだ。
当然、腕の骨はイカレる。杖を持てないほどに。だが竜崎は、それを承知で攻撃を受け、自身の腕を犠牲に獣人の片腕を落としたのである。
まさに、『肉を切らせて骨を断つ』。自己犠牲の果ての荒業であった。
ともあれ、作戦は成功。後は獣人の反撃に気を配り、ラケットを回収するだけ。その反撃の対処のため、竜崎は即座に手を無理やり形作りガードを固め警戒する。
気をつけるべきは、もう片腕の一撃と、足蹴。それさえ凌げば離脱は可能…。
が、その刹那の出来事であった。
「あ…ぐぅう…ぐぅおおおっっら!!!!」
獣人の咆哮ともとれる叫びと共に、彼の赤いローブが背からビリリと裂けていく。そこから姿を現したのは…。
「…!!? 腕…!?」
見開かれた竜崎の目に映ったのは、同じく筋骨隆々の、紫の術紋走る一対の腕だった。
『複腕』…!獣人のガタイの良さには、そんな理由が…! 化物…! 突然雪崩れ込んできた事象に思考を逸らしてしまう竜崎。そこへ無情にも、新たに現れた腕が弧を描き―。
「しまっ…!」
ドゴッ!
竜崎の身体を凶悪に殴りつけた。
「がっ…!」
無事な片腕でも、足でもない、思わぬ方向からの一撃。竜崎は反応間に合わず、胸に直撃を貰う。
その威力は凄まじく、またも彼その身ごと吹き飛ばされた。フリムスカによって巻かれた、氷のギプスを粉にして散らしながら。
「嘘…リュウザキ…!!」
主の惨事に、フリムスカもまた大きな隙を曝してしまう。そこを―。
「余所見してんじゃねえぜ!」
獣人が、腕の一本を紫に輝かせ殴り掛かる。その手には拾い上げた、先程切り落とされた腕付きのラケットが。
「…!!」
フリムスカは急ぎガードを試みるが、時は既に遅し。張られた氷の障壁はラケットにより全て打ち砕かれ…
バギャァ!
「きゃあっ…!」
フリムスカの片腕から、胸の中心に至るまでを容易く砕き飛ばした。
「リュウザキ…お逃げに…!」
フリムスカは顔を歪めながら、主へと言葉を残す。直後―
「トドメだ!」
ゴッッ
返す刀で振られたラケットにより、フリムスカの頭は消し飛ばされる。彼女の身体は氷の破片となり、消滅していった。
「ハァ…ハァ…ハァ…勇者のヤロウに…とっておきたかった奥の手を使わせるたぁ…! 伊達に予言の存在に選ばれたわけじゃねぇってか…!」
召喚体とはいえ、高位精霊を叩きのめしたのだ。勝ち誇っても良いだろう。しかし、獣人は呼吸を荒くしたまま。
それもそのはず、彼も被害が大きい。片腕は切断され、片腕は超強化により暫くは使えない。そして、隠し玉である複腕までもお披露目してしまった。
されども、神具のラケットはその手にあり。彼は痛む腕に千切ったローブの端で応急処置を施し、ラケットにしがみついていた自分の腕を懐に丁重に仕舞った。
「やってくれるじゃねぇかリュウザキ…。あん時ガキがこうも強くなるか…!」
肩で呼吸をしながら、ズチャリズチャリと歩む獣人。行く先は、離れた地面に転がった竜崎の元。
「ぐっ…がはっ…」
地に這いずるようにしながら、竜崎は血を吐いていた。幸い、フリムスカ製の胸ギプスによって最悪の事態は免れた。しかし、その衝撃で折れていた肋骨が肺にでも刺さったのだろうか、呼吸もまともに出来ないほどになっていた。
「今回は俺の勝ちだ…兄弟の欲しがってるブツ、貰ってくぜ」
そんな彼に、獣人は手を伸ばす。懐にある、魔導書を奪い取るためである。が…
「くっ…」
パシッ
その手を、竜崎は弱弱しく叩く。獣人は気づいた。弱っているはずの彼が僅かに向けた目に、未だ反抗の意志が色濃く残っていることを。
「…へっ、大したもんだぜ…。 …殺しゃあしねえよ、お前も、あのガキもよ。『戦士へ敬意を表す』ってやつか? お前をそんだけ痛めつけりゃあ、勇者のヤロウの怒りを誘うには充分だしな」
もし兄弟が殺そうとしても、止めてやるからよ。そう言いながら獣人は再度手を伸ばす。しかし、その度に竜崎は弾く。なんとしても渡さないと言わんばかりに。
「…はぁ。しゃーねえなぁ…。ちょっと気を失ってろ」
仕方なしと肩を竦め、ラケットを握り直す獣人。竜崎の頭に狙いを定め…。
と、その時であった。
―それ以上清人に触れるなっ!!―
ドゴッ!
「うぁっ…!?」
突如、背後から声が響き、獣人の横っ面は殴られる。軽くふらついた彼が見たその正体は、単独で飛んできた、大人姿のニアロンであった。
腕を断ち切られた獣人は顔を苦悶に歪める。手先はラケットを握りしめたまま、溢れ出る鮮血と共に地に落ちた。
大将首の突出に気を抜いたのが悪かった。返ってきたのは手痛い反撃。いくらラケット型に改良されているとはいえ、原型である鏡を今まで使ってきたのは竜崎なのだ。どこにどう攻撃を当てれば反射されまいかは熟知している。
だが、そんな竜崎も無事では済んでいない。
「ぐっ…」
彼は杖を取り落とし、腕を押さえる。相手は絶好調の上位精霊を拳一つで穿つ豪傑。受け流しをしたとはいえ、諸にその一撃を食らったのだ。
当然、腕の骨はイカレる。杖を持てないほどに。だが竜崎は、それを承知で攻撃を受け、自身の腕を犠牲に獣人の片腕を落としたのである。
まさに、『肉を切らせて骨を断つ』。自己犠牲の果ての荒業であった。
ともあれ、作戦は成功。後は獣人の反撃に気を配り、ラケットを回収するだけ。その反撃の対処のため、竜崎は即座に手を無理やり形作りガードを固め警戒する。
気をつけるべきは、もう片腕の一撃と、足蹴。それさえ凌げば離脱は可能…。
が、その刹那の出来事であった。
「あ…ぐぅう…ぐぅおおおっっら!!!!」
獣人の咆哮ともとれる叫びと共に、彼の赤いローブが背からビリリと裂けていく。そこから姿を現したのは…。
「…!!? 腕…!?」
見開かれた竜崎の目に映ったのは、同じく筋骨隆々の、紫の術紋走る一対の腕だった。
『複腕』…!獣人のガタイの良さには、そんな理由が…! 化物…! 突然雪崩れ込んできた事象に思考を逸らしてしまう竜崎。そこへ無情にも、新たに現れた腕が弧を描き―。
「しまっ…!」
ドゴッ!
竜崎の身体を凶悪に殴りつけた。
「がっ…!」
無事な片腕でも、足でもない、思わぬ方向からの一撃。竜崎は反応間に合わず、胸に直撃を貰う。
その威力は凄まじく、またも彼その身ごと吹き飛ばされた。フリムスカによって巻かれた、氷のギプスを粉にして散らしながら。
「嘘…リュウザキ…!!」
主の惨事に、フリムスカもまた大きな隙を曝してしまう。そこを―。
「余所見してんじゃねえぜ!」
獣人が、腕の一本を紫に輝かせ殴り掛かる。その手には拾い上げた、先程切り落とされた腕付きのラケットが。
「…!!」
フリムスカは急ぎガードを試みるが、時は既に遅し。張られた氷の障壁はラケットにより全て打ち砕かれ…
バギャァ!
「きゃあっ…!」
フリムスカの片腕から、胸の中心に至るまでを容易く砕き飛ばした。
「リュウザキ…お逃げに…!」
フリムスカは顔を歪めながら、主へと言葉を残す。直後―
「トドメだ!」
ゴッッ
返す刀で振られたラケットにより、フリムスカの頭は消し飛ばされる。彼女の身体は氷の破片となり、消滅していった。
「ハァ…ハァ…ハァ…勇者のヤロウに…とっておきたかった奥の手を使わせるたぁ…! 伊達に予言の存在に選ばれたわけじゃねぇってか…!」
召喚体とはいえ、高位精霊を叩きのめしたのだ。勝ち誇っても良いだろう。しかし、獣人は呼吸を荒くしたまま。
それもそのはず、彼も被害が大きい。片腕は切断され、片腕は超強化により暫くは使えない。そして、隠し玉である複腕までもお披露目してしまった。
されども、神具のラケットはその手にあり。彼は痛む腕に千切ったローブの端で応急処置を施し、ラケットにしがみついていた自分の腕を懐に丁重に仕舞った。
「やってくれるじゃねぇかリュウザキ…。あん時ガキがこうも強くなるか…!」
肩で呼吸をしながら、ズチャリズチャリと歩む獣人。行く先は、離れた地面に転がった竜崎の元。
「ぐっ…がはっ…」
地に這いずるようにしながら、竜崎は血を吐いていた。幸い、フリムスカ製の胸ギプスによって最悪の事態は免れた。しかし、その衝撃で折れていた肋骨が肺にでも刺さったのだろうか、呼吸もまともに出来ないほどになっていた。
「今回は俺の勝ちだ…兄弟の欲しがってるブツ、貰ってくぜ」
そんな彼に、獣人は手を伸ばす。懐にある、魔導書を奪い取るためである。が…
「くっ…」
パシッ
その手を、竜崎は弱弱しく叩く。獣人は気づいた。弱っているはずの彼が僅かに向けた目に、未だ反抗の意志が色濃く残っていることを。
「…へっ、大したもんだぜ…。 …殺しゃあしねえよ、お前も、あのガキもよ。『戦士へ敬意を表す』ってやつか? お前をそんだけ痛めつけりゃあ、勇者のヤロウの怒りを誘うには充分だしな」
もし兄弟が殺そうとしても、止めてやるからよ。そう言いながら獣人は再度手を伸ばす。しかし、その度に竜崎は弾く。なんとしても渡さないと言わんばかりに。
「…はぁ。しゃーねえなぁ…。ちょっと気を失ってろ」
仕方なしと肩を竦め、ラケットを握り直す獣人。竜崎の頭に狙いを定め…。
と、その時であった。
―それ以上清人に触れるなっ!!―
ドゴッ!
「うぁっ…!?」
突如、背後から声が響き、獣人の横っ面は殴られる。軽くふらついた彼が見たその正体は、単独で飛んできた、大人姿のニアロンであった。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる