【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
316 / 391
―『何かに襲われ ―

315話 隠し玉

しおりを挟む
ガラガラガラと音を立て降ってくるは砕けた岩々。竜崎は急ぎ指示を飛ばした。

「ノウム、ポルクリッツ! 装置に落ちる瓦礫を砕け!」

「グググ!」
「キュウイ!」

一声鳴き、上位精霊二体は装置の真上に向け光線を撃ち出す。それに当たった岩の塊は砂や小石へと粉砕されるが、ほとんどの瓦礫はそのまま落下、周囲にはドドド…と幾多もの落下音が響いた。


「くっ…! 装置は…!?」

衝撃が収まりすぐさま、竜崎は装置の様子を見やる。幸いにして精霊による対処は間に合ったらしく、装置には多少の砂がかかった程度であった。

「良かった…」

ほっと息を吐く竜崎。が、その時だった。

「ヴル…ル…」

と、竜崎の背後からウルディーネの断末魔が聞こえる。竜崎がハッとそちらを見やると、消滅していくウルディーネ。そして…。

「り、竜崎さん…」

さくらが謎の魔術士により剣を突きつけられていた。




「さっきまで放っていた気迫が一瞬消えたなリュウザキィ…! そんなにあの『失敗作』なゴミ遺跡が大事か?」

嗤いに嗤う魔術士。今までの戦闘中、竜崎はさくらから少し距離をとっていたものの、もし魔術士が転移してきたら即座に戻り対処できるように構えていた。魔術士もそれを悟っていたようで、手出しを控えていたらしい。

しかし先程、竜崎とニアロンは魔術士を捕らえようと気を僅かに抜いた。いや、それだけならばまだ問題なかったのかもしれない。どちらかが即座に気づき戻ったであろうから。

問題は魔術士が起こしたと思しき落盤。崩壊してきた岩天井はあの『元の世界に帰れるかもしれない』装置を襲った。驚愕と対処への焦りとのダブルパンチで、竜崎は魔術士がさくらへ接近することを許してしまったのだ。




「おっと。動くな。少しでも動いたらコイツを刺し殺す。精霊達も消してもらおうか」

「…わかった」

脅す謎の魔術士に、素直に従う竜崎。ポルクリッツとノウム、他の中位精霊達は無念そうに消えていった。とそんな中、ニアロンが苦々しい表情で口を開いた。

―まさかこんな魔術を用意してるとはな…―

「土砂崩れの魔術だ。賢者様は一発で見抜いたが、お前らじゃ見抜けなかったみたいだなぁ」

―後から来て周到な準備をしただけだろ。で?お前の隠し玉は落盤で終わりか?―

苦し紛れか、煽るニアロン。だが、魔術士は「いいや」と答える。その直後だった。


ドスンッ
ボトンッ

「グルルルル」
「ブフー…ブフ―…」
「シュルル…」

竜崎の背後から…落盤した箇所から聞こえるは何かの落下音と、荒い鼻息。彼が振り向くと、そこには大量の魔獣達が唸り声をあげていた。

しかも、ここは魔界奥地。どの獣も数段大きい。中には依然アリシャバージルに現れた、牛サイズの猪もいた。

「これはこの間お前らが消し飛ばした、ラグナウルグルエルフの国の隠れ家で実験していた魔術だ。魔獣達を引き寄せ洗脳する、な」

「…? 道づくりの時か? そんなのあったか?」

―大方、幻惑の魔術でもかけていたんだろ。それより上を見ろ―

ニアロンに促され、竜崎は壊れた天井を見やる。大穴が空いたそこからは外の光と霧が舞い込んでいるが、加えて映し出されているのは魔獣達の影。まだまだいるらしい。その総数は当然、先程のネズミ達を優に超えている。



「リュウザキ、これでお前に逃げ場は無くなった。大人しく魔導書を渡すなら、俺は帰ってやる。まあ魔獣達がどう出るかは知らんけどな」

勝利を確信し、せせら笑う謎の魔術士。竜崎はゴソリと懐に手を入れた。

「…さくらさん、ごめん」

竜崎はそう一言謝罪する。さくらは息を呑んだ。もしかして、魔導書を渡そうとしているのか。 確かに装置の起動は済んでいる。だが、しかし…!

そんなさくらの想いの先を、竜崎は言葉を続けた。

「間違いなく悪人なそいつに、こんなもの禁忌魔術を渡したらどうなるかは想像に難くない。だから―」

―渡すわけないだろ、バーカ。―



「竜崎さん…!」

思わず歓喜の声をあげるさくら。自身が思っていたことは、竜崎も思っていた。それが嬉しかったのだ。しかし、その回答でタダで済むわけはない。

「アァ!? そうか、それがお前の答えか!」

怒り口調で、手にした剣に俄かに力を籠め始める謎の魔術士。その瞬間だった。

バッ

竜崎は地を蹴りさくらの元へ駆け出す。それと同時に懐から抜いた手を勢いよく背後へ、何かを投げつけた。

それは各種精霊石。そこから湧き出した精霊達は、威嚇している魔獣達へと突撃。瞬く間に屠り始めた。

「なっ…! チッ!コイツを殺してやる!」

俄かに驚いた様子を見せた魔術士は、剣を振り上げる。その時―!

キィッ ドドドドドッ!

さくらの学生服の背が光り、魔法陣が浮かび上がる。そして、飛び出したるは大量の先鋭なる矢じりの群れ。

「がっ…!?」

怯む魔術士。一方のさくらは目を丸くした。

「これって…さっき竜崎さんの背中に描かれていた…!」

そう、それは少し前に竜崎が背後に転移を繰り返す魔術士対策に使った『針鼠もどき』の魔術。しかし、いつの間に…。

「―あっ。」

そうだ、スライムを焼却する際に竜崎さんに抱きかかえられた。まさかその時に…!? さくらは竜崎達の抜け目の無さに舌を巻く。が―。


「クソッたれがぁああ!」

本格的に仕留めるにはそれでは力不足な様子。魔術士は破れかぶれに剣を振り回し、再度襲い来る。ガード間に合うか…!? さくらがラケットを慌てて構え直そうとした時だった。

「飛べ、ニアロン!」

―任せろ!―

背後から聞こえた竜崎達の言葉と共に、さくらは自らの肩に何かが憑りついた感覚を覚える。そのコンマ数秒後、さくらの視界には、ニアロンが魔術士に殴りかかる姿が写った。

―喰らえ!―
ドムッ!

「ガハッ…」

見事、魔術師のみぞおちに一撃が入る。彼は膝から崩れ落ち…。

シュンッ

―チッ! 転移したか!―

悔しがるニアロン。僅かに遅れて竜崎もさくらの元に。

「ごめんね、怖い目に遭わせちゃって」

どうやら、先程の謝罪はそういう意味だったらしい。さくらはふっと吹き出した。

「今更ですよ、竜崎さん!」






「ゲホッ…お前ら…下手したてに出てやりゃあ図に乗りやがって…! ゴハッ…」

元天井の瓦礫の山から聞こえる掠れた声。竜崎達が見やると、そこでは謎の魔術士が血を吐きながら四つん這いになっていた。

「殺してやる…殺してやる…!」

呪詛まがいの声に反応し、生き残った魔獣達は一斉に竜崎達の元へと駆け出す。竜崎はカシャンと杖を構えた。

「さくらさん、後ろに…」

「私も戦います!」

竜崎の声を遮るように、さくらはラケットを構える。渋い顔を浮かべる彼を、ニアロンはどうどうと宥めた。

―いつも通り、私が見ていてやるよ。 さくら、モンストリアの時と違い、守るのは装置と自分達の身だけだ。上位精霊の実践と行こうじゃないか!―
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...