【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
312 / 391
―『何かに襲われ ―

311話 対、大群スライム

しおりを挟む
―いたのか? どんなだ?―

「小さいスライム達が合体して大きくなるっての。まあ今の状況とは逆だけど」

ズルズルと攻めてくるスライムの大群の真ん中で、ニアロンとそう駄弁りあいながら竜崎はくるくると杖を回す。

「ちまちま倒していてもすぐ仲間呼ばれて、気づけば合体しちゃう。だから、良い倒し方があるんだ。はい、お願い」

と、竜崎は小さくどこかを指さしながらニアロンに杖を手渡した。赤い光を湛えたそれを見て、彼女は得心したらしい。

―なるほど、王道技だな―




「シルブ、フロウズ! 大きいスライムを細切れにしてくれ!」

「ケェエエン!」
「―――!!」

主の声に、攻撃を仕掛ける上位精霊達。先程と同じように巨大スライムは砕かれ、刻まれ地面へと落ちる。そして、すぐさま溶けると細かなスライムとなり這いずりだした。

「はっ! 無駄だ無駄だ!」

高笑いする謎の魔術士。と、その時だった。

「そぅらっ!」

ニアロンが勢いよく何かをブン投げる。それは、竜崎から渡された杖。思わず怯みガード体勢をとる謎の魔術士だが、杖の行き先は彼の元ではなく…。

ザンッ!
「うし、狙い通りだ」

先程竜崎が落とした、火の精霊石群のど真ん中だった。


「―!? スライム!あの杖を奪え!」

何かを予感した謎の魔術士は、火の精霊石付近に纏わりついていたスライムに指示を飛ばす。が、時すでに遅し。

カッ! ボウッ!

地面に刺さった杖は赤く発光し、それに呼応し火の精霊石は発火。周囲にいたスライム達はたちどころに蒸発し消滅する。

直接止めに入ろうにも、精霊石の火が柵のようになり接近不可能。謎の魔術士が歯噛みする暇もなく直後、杖から止める暇もなく即座に赤い光の柱が聳え立った。

「グオオオオン!」

召喚されたのは炎を纏う巨大なトカゲ、火の上位精霊『サラマンド』。精霊石の補助もあり、短縮召喚で呼ばれたというのに力強い烈火を放っていた。

「チッ…!リュウザキ貴様…! は…?」

舌打ちをし、謎の魔術士は竜崎を見やる。しかし、唖然と言うように言葉を詰まらせた。何故なら…竜崎は背を向けその場から走り去っていたのだから。





「さくらさん、荷物をしっかり抱えて!」

「えっ!はい!」

竜崎が走った先は、岩の上で格闘していたさくらの元。言われた通りにしたさくらを、彼はさっと抱き上げた。

「シルブ! フロウズ!」

牽制をしていた二匹の上位精霊を引き寄せ、その力でドーム状になっているこの場の天井付近まで飛び上がり、自らの周りに防御陣を作り出す竜崎。そして、猛っていたサラマンドに向け命令を飛ばした。

「サラマンド! 装置以外、手あたり次第燃やし尽くせ!」


「グオオオオオッ!」

一際強く咆哮せしめたサラマンドは、精霊石から沸き立っていた炎を吸収。力を即座にチャージする。そして―。

ドオオッッ!

燃え盛るその身体からこの場全体へと放たれたのは強烈な炎の波。勢いよく燃え広がっていく猛火はサラマンドを中心に、竜崎が居た位置も、さくらが居た岩も、入口に至るまでの悉くを呑み込み、メラメラと音を立てる真紅に染めあげた。

ドジュウウ…

業火に焼かれ、地を埋め尽くしていたスライム達は軒並み蒸発、消滅していく。羽虫が火に飛び込んだ時のようにプチプチと音を立てて。

先程のような大型スライムならばあるいは耐えられたのかもしれない。しかし、今はその全てが小型。火の化身による純粋な魔力火焔により、復活の隙すら窺う事能わず消し飛ばされてしまった。


「クソがぁ…」

間一髪、装置の真上に転移、退避した謎の魔術士。しかし、時すでにその場全ては空気すらも焦げるほどの高温。呼吸すらままならず、詠唱が紡げない。

この中で唯一無事であるのは、竜崎達が作り上げた上位精霊二体による防御陣の中のみ。そこだけ適温の空気であり、さくら達は眼下に広がる業炎を落ち着いて眺めることが出来た。


「うわぁ…」

思わず声を漏らすさくら。先ほどまで岩が幾つか転がっているだけの不毛地帯だったその場は、もはや生物が生きていけないほどの灼熱地帯に。自身が隠れていた岩が見えないほどの炎に覆われている。

ゾっとする光景の中、竜崎は微笑んだ。

「合体される前に全体攻撃、ってね」

…いやこれ全体攻撃(味方も攻撃対象)では…? 内心そう思ったさくらだが、口に出すのは耐えた。




「…でもこれ、どうするんですか?」

スライムは全ていなくなったとはいえ、未だ下では炎が燃えている。魔力が込められた炎だからか、火種となるものが無くとも暫くは消えることは無いようである。

このままでは着地が出来ない。空中戦としても、さくらを抱いている以上竜崎が不利となるのは明白だが…。

―それは問題ない。シルブ!―

ニアロンの呼び声に、竜崎達を包んでいたシルブは離れる。と、空中で静止し…。

「ケエエンッ!」

地面すれすれ…つまり火の元へと飛び込み、大きく回転し始めたではないか。風が起こり、火は次々と巻き込まれ消火されていく。

と、出来上がったのは赤と緑が輝き合う炎渦巻く風の球。シルブはそれを、装置の上に載っていた魔術士へと吹き飛ばした。

「クッ…!」

直撃を食らう魔術士。が、なんとか詠唱出来たのか装置の横へと転移し難を逃れた。しかし、小汚いローブには火による焦げが追加されていた。


着地し、さくらを同じく岩陰に隠した竜崎は、サラマンドから杖を受け取り謎の魔術士へと歩を進める。

それに従うように、シルブ、フロウズ、サラマンドは魔術士を取り囲んだ。

―どうだ?先程よりも状況が悪くなったぞ?―
「大人しく投降しろ」

杖を突きつける竜崎達。しかし、謎の魔術士はギリリと歯ぎしりをした。

「…楽に殺してやろうとしたのに…。もう容赦しねえぞ…!」
ヒュンッ!

瞬間、転移する魔術士。竜崎から少し距離をとり、怒り心頭の様子で懐を探る。取り出したのは…縄に縛られたネズミの束と、あの謎鉱物から出来た注射器であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...