【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―魔の手―

296話 さくらの抵抗

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「タマちゃん!!」

思わず叫ぶさくら。しかし、タマの返事は返ってこない。それどころか…。

コヒュー…コヒュー…

壊れた扉の奥、竜崎の部屋内から聞こえてくるはタマの苦し気な呼吸音。神具の鏡の力か、はたまた壁にぶつかったせいか。当たりどころが悪く、大怪我を負ってしまったようだ。

「あ…」

さくらの脳裏には、先日の予言がまざまざと浮かび上がってくる。何者かにより、大切なものが奪われる。そして、下手をすれば大切な人が傷つくと。

タマは『白猫』という霊獣であって、人ではない。だが、大切な友達なのに変わりはない。予言が、真実になってしまった…! そう動揺するさくらを、盗賊魔術士は突き飛ばした。

「どけっ!」

「―! 駄目っ!」

足を踏ん張り、逃げようとする盗賊魔術士はが持つ自身の武器神具の鏡付きラケットを掴むさくら。いくら盗賊魔術士が引き剥がそうとしても、彼女は絶対に手を離さなかった。

勿論タマの様子も気がかり。しかし、こんなもの何でも弾く鏡が犯罪者の手に渡ればどうなるか。今のタマのような犠牲者が産まれてしまうのは想像に難くない。

それに、これは竜崎から借りている大切なもの。いくら予言にあっても、奪われるわけにはいかないのだ。


だが、相手は平気で馬車事故を引き起こさせるほどの犯罪者。彼が抵抗し返さないわけはなかった。

「俺が子供を殺せないとでも思ったか!」

盗賊魔術士はもう片方の手で持っていたナイフを握り直す。そして、さくらの肩目掛け勢いよく振り下ろした。

ボワッ
「―!? 何だ!?」

刃はさくらの肉を裂くことはできなかった。代わりに黒い靄のようなものが刺さる直前で発生、ナイフを包み込んだのだ。

「くそっ!」

焦った様子でナイフを何度も突き刺す盗賊魔術士。その度に黒い靄は生まれ、さくらの身を守っていく。

「チッ…! 『身代わり人形』か!」

盗賊魔術士は舌打ちする。流石はかつての魔王軍所属魔術士、知っていたようである。

「なら…!」

彼は掠れ声を振り絞って魔術を詠唱、以前メストがその毒牙にかかった、麻痺毒持ちの蛇を召喚した。

「シュルルル…!」

蛇は即座にさくらの身体を這い上り、彼女の身体にガブッと噛みつく。しかし…。

ボワッ
「畜生…駄目か! リュウザキだな…あの野郎…!」

蛇の毒すら防ぐ黒い靄に向け、盗賊魔術士はそう吐き捨てる。そして彼はナイフを投げ捨て、力いっぱいラケットを引っ張り出した。


「きゃっ…!」

そうなってしまえばさくらの形勢不利。あっという間にラケットを奪われてしまった。急ぎ逃げようとする盗賊魔術士だったが…。


「何の音?」
「ん!?そこにいるのは誰だ!」

タマが部屋を突き破った音を聞きつけ、職員寮の用務員や休みだった教員が幾人か姿を見せる。丁度逃げ道を封鎖される形となり、盗賊魔術士はギリィと歯ぎしりした。

身代わり人形がある以上、少女さくらを人質に使うことは意味をなさない。いくら神具の鏡があっても、怪我を負いまともに戦えない状況で、かの学園の教員達とまともに戦うことは難しい。

「ならば…!」

先程呼んだ毒蛇を時間稼ぎに放ち、盗賊魔術士は手にしたラケットで真横にあった窓を叩き割る。鏡の影響もあり、窓ガラスは一瞬で粉々に砕け散った。

どうやら窓から逃走を図ろうとしているらしい。それに気づいたさくらは、盗賊魔術士の服先をがっしり掴んだ。

「放せ!」

「放しません!」

足でさくらを蹴り、なんとかしようとする盗賊魔術士。しかしまたも、身代わり人形の黒い靄によって防がれてしまう。


そうこうしているうちに、蛇を倒した教員達が駆け足で迫ってくる。もはや逃げられぬと悟ったのか、イチかバチかに賭けたのか、盗賊魔術士はラケットを振り上げた。

「これでも食らえ!」

彼の狙いは、縋りつく少女さくらの頭。霊獣であるタマを一撃で瀕死に追い込むほどの威力を、脳天に食らえばただでは済まない。身代わり人形はあらゆる攻撃を肩代わりするが、即死するダメージを食らえば一度で壊れてしまうのだ。

もしそうなってしまえば、死ぬことは無いにしろ簡単に人質にされてしまう。さくらはハッとそのことに気づくが、時すでに遅し。神具の鏡はさくらの頭へと―。

ヒュッ!

瞬間、振り下ろされるラケットより素早く、何かが窓から飛び入ってくる。それはさくらの身体に即座に取り憑くと、腕を交差させ神具の鏡を迎え撃った。

バチィッ!
―ぐっ…!―

「ニアロンさん!?」

その正体、竜崎の友である霊体ニアロン。鏡の一撃を防ぎ切ってしまった。

「はっ…!?」

驚愕した様子の盗賊魔術士。慌ててもう一度ラケットを振り上げるが…。

ドッ!
「ぎぇっ…!」

窓から入ってきた何者かの足に顔面を蹴り飛ばされ、彼は反対側の壁にまで吹っ飛んだ。それと同時に、足の持ち主がスタンと窓から入ってきた。

「さくらさん、無事!?」

「竜崎さん!」
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