297 / 391
―魔の手―
296話 さくらの抵抗
しおりを挟む
「タマちゃん!!」
思わず叫ぶさくら。しかし、タマの返事は返ってこない。それどころか…。
コヒュー…コヒュー…
壊れた扉の奥、竜崎の部屋内から聞こえてくるはタマの苦し気な呼吸音。神具の鏡の力か、はたまた壁にぶつかったせいか。当たりどころが悪く、大怪我を負ってしまったようだ。
「あ…」
さくらの脳裏には、先日の予言がまざまざと浮かび上がってくる。何者かにより、大切なものが奪われる。そして、下手をすれば大切な人が傷つくと。
タマは『白猫』という霊獣であって、人ではない。だが、大切な友達なのに変わりはない。予言が、真実になってしまった…! そう動揺するさくらを、盗賊魔術士は突き飛ばした。
「どけっ!」
「―! 駄目っ!」
足を踏ん張り、逃げようとする盗賊魔術士はが持つ自身の武器を掴むさくら。いくら盗賊魔術士が引き剥がそうとしても、彼女は絶対に手を離さなかった。
勿論タマの様子も気がかり。しかし、こんなものが犯罪者の手に渡ればどうなるか。今のタマのような犠牲者が産まれてしまうのは想像に難くない。
それに、これは竜崎から借りている大切なもの。いくら予言にあっても、奪われるわけにはいかないのだ。
だが、相手は平気で馬車事故を引き起こさせるほどの犯罪者。彼が抵抗し返さないわけはなかった。
「俺が子供を殺せないとでも思ったか!」
盗賊魔術士はもう片方の手で持っていたナイフを握り直す。そして、さくらの肩目掛け勢いよく振り下ろした。
ボワッ
「―!? 何だ!?」
刃はさくらの肉を裂くことはできなかった。代わりに黒い靄のようなものが刺さる直前で発生、ナイフを包み込んだのだ。
「くそっ!」
焦った様子でナイフを何度も突き刺す盗賊魔術士。その度に黒い靄は生まれ、さくらの身を守っていく。
「チッ…! 『身代わり人形』か!」
盗賊魔術士は舌打ちする。流石はかつての魔王軍所属魔術士、知っていたようである。
「なら…!」
彼は掠れ声を振り絞って魔術を詠唱、以前メストがその毒牙にかかった、麻痺毒持ちの蛇を召喚した。
「シュルルル…!」
蛇は即座にさくらの身体を這い上り、彼女の身体にガブッと噛みつく。しかし…。
ボワッ
「畜生…駄目か! リュウザキだな…あの野郎…!」
蛇の毒すら防ぐ黒い靄に向け、盗賊魔術士はそう吐き捨てる。そして彼はナイフを投げ捨て、力いっぱいラケットを引っ張り出した。
「きゃっ…!」
そうなってしまえばさくらの形勢不利。あっという間にラケットを奪われてしまった。急ぎ逃げようとする盗賊魔術士だったが…。
「何の音?」
「ん!?そこにいるのは誰だ!」
タマが部屋を突き破った音を聞きつけ、職員寮の用務員や休みだった教員が幾人か姿を見せる。丁度逃げ道を封鎖される形となり、盗賊魔術士はギリィと歯ぎしりした。
身代わり人形がある以上、少女を人質に使うことは意味をなさない。いくら神具の鏡があっても、怪我を負いまともに戦えない状況で、かの学園の教員達とまともに戦うことは難しい。
「ならば…!」
先程呼んだ毒蛇を時間稼ぎに放ち、盗賊魔術士は手にしたラケットで真横にあった窓を叩き割る。鏡の影響もあり、窓ガラスは一瞬で粉々に砕け散った。
どうやら窓から逃走を図ろうとしているらしい。それに気づいたさくらは、盗賊魔術士の服先をがっしり掴んだ。
「放せ!」
「放しません!」
足でさくらを蹴り、なんとかしようとする盗賊魔術士。しかしまたも、身代わり人形の黒い靄によって防がれてしまう。
そうこうしているうちに、蛇を倒した教員達が駆け足で迫ってくる。もはや逃げられぬと悟ったのか、イチかバチかに賭けたのか、盗賊魔術士はラケットを振り上げた。
「これでも食らえ!」
彼の狙いは、縋りつく少女の頭。霊獣であるタマを一撃で瀕死に追い込むほどの威力を、脳天に食らえばただでは済まない。身代わり人形はあらゆる攻撃を肩代わりするが、即死するダメージを食らえば一度で壊れてしまうのだ。
もしそうなってしまえば、死ぬことは無いにしろ簡単に人質にされてしまう。さくらはハッとそのことに気づくが、時すでに遅し。神具の鏡はさくらの頭へと―。
ヒュッ!
瞬間、振り下ろされるラケットより素早く、何かが窓から飛び入ってくる。それはさくらの身体に即座に取り憑くと、腕を交差させ神具の鏡を迎え撃った。
バチィッ!
―ぐっ…!―
「ニアロンさん!?」
その正体、竜崎の友である霊体ニアロン。鏡の一撃を防ぎ切ってしまった。
「はっ…!?」
驚愕した様子の盗賊魔術士。慌ててもう一度ラケットを振り上げるが…。
ドッ!
「ぎぇっ…!」
窓から入ってきた何者かの足に顔面を蹴り飛ばされ、彼は反対側の壁にまで吹っ飛んだ。それと同時に、足の持ち主がスタンと窓から入ってきた。
「さくらさん、無事!?」
「竜崎さん!」
思わず叫ぶさくら。しかし、タマの返事は返ってこない。それどころか…。
コヒュー…コヒュー…
壊れた扉の奥、竜崎の部屋内から聞こえてくるはタマの苦し気な呼吸音。神具の鏡の力か、はたまた壁にぶつかったせいか。当たりどころが悪く、大怪我を負ってしまったようだ。
「あ…」
さくらの脳裏には、先日の予言がまざまざと浮かび上がってくる。何者かにより、大切なものが奪われる。そして、下手をすれば大切な人が傷つくと。
タマは『白猫』という霊獣であって、人ではない。だが、大切な友達なのに変わりはない。予言が、真実になってしまった…! そう動揺するさくらを、盗賊魔術士は突き飛ばした。
「どけっ!」
「―! 駄目っ!」
足を踏ん張り、逃げようとする盗賊魔術士はが持つ自身の武器を掴むさくら。いくら盗賊魔術士が引き剥がそうとしても、彼女は絶対に手を離さなかった。
勿論タマの様子も気がかり。しかし、こんなものが犯罪者の手に渡ればどうなるか。今のタマのような犠牲者が産まれてしまうのは想像に難くない。
それに、これは竜崎から借りている大切なもの。いくら予言にあっても、奪われるわけにはいかないのだ。
だが、相手は平気で馬車事故を引き起こさせるほどの犯罪者。彼が抵抗し返さないわけはなかった。
「俺が子供を殺せないとでも思ったか!」
盗賊魔術士はもう片方の手で持っていたナイフを握り直す。そして、さくらの肩目掛け勢いよく振り下ろした。
ボワッ
「―!? 何だ!?」
刃はさくらの肉を裂くことはできなかった。代わりに黒い靄のようなものが刺さる直前で発生、ナイフを包み込んだのだ。
「くそっ!」
焦った様子でナイフを何度も突き刺す盗賊魔術士。その度に黒い靄は生まれ、さくらの身を守っていく。
「チッ…! 『身代わり人形』か!」
盗賊魔術士は舌打ちする。流石はかつての魔王軍所属魔術士、知っていたようである。
「なら…!」
彼は掠れ声を振り絞って魔術を詠唱、以前メストがその毒牙にかかった、麻痺毒持ちの蛇を召喚した。
「シュルルル…!」
蛇は即座にさくらの身体を這い上り、彼女の身体にガブッと噛みつく。しかし…。
ボワッ
「畜生…駄目か! リュウザキだな…あの野郎…!」
蛇の毒すら防ぐ黒い靄に向け、盗賊魔術士はそう吐き捨てる。そして彼はナイフを投げ捨て、力いっぱいラケットを引っ張り出した。
「きゃっ…!」
そうなってしまえばさくらの形勢不利。あっという間にラケットを奪われてしまった。急ぎ逃げようとする盗賊魔術士だったが…。
「何の音?」
「ん!?そこにいるのは誰だ!」
タマが部屋を突き破った音を聞きつけ、職員寮の用務員や休みだった教員が幾人か姿を見せる。丁度逃げ道を封鎖される形となり、盗賊魔術士はギリィと歯ぎしりした。
身代わり人形がある以上、少女を人質に使うことは意味をなさない。いくら神具の鏡があっても、怪我を負いまともに戦えない状況で、かの学園の教員達とまともに戦うことは難しい。
「ならば…!」
先程呼んだ毒蛇を時間稼ぎに放ち、盗賊魔術士は手にしたラケットで真横にあった窓を叩き割る。鏡の影響もあり、窓ガラスは一瞬で粉々に砕け散った。
どうやら窓から逃走を図ろうとしているらしい。それに気づいたさくらは、盗賊魔術士の服先をがっしり掴んだ。
「放せ!」
「放しません!」
足でさくらを蹴り、なんとかしようとする盗賊魔術士。しかしまたも、身代わり人形の黒い靄によって防がれてしまう。
そうこうしているうちに、蛇を倒した教員達が駆け足で迫ってくる。もはや逃げられぬと悟ったのか、イチかバチかに賭けたのか、盗賊魔術士はラケットを振り上げた。
「これでも食らえ!」
彼の狙いは、縋りつく少女の頭。霊獣であるタマを一撃で瀕死に追い込むほどの威力を、脳天に食らえばただでは済まない。身代わり人形はあらゆる攻撃を肩代わりするが、即死するダメージを食らえば一度で壊れてしまうのだ。
もしそうなってしまえば、死ぬことは無いにしろ簡単に人質にされてしまう。さくらはハッとそのことに気づくが、時すでに遅し。神具の鏡はさくらの頭へと―。
ヒュッ!
瞬間、振り下ろされるラケットより素早く、何かが窓から飛び入ってくる。それはさくらの身体に即座に取り憑くと、腕を交差させ神具の鏡を迎え撃った。
バチィッ!
―ぐっ…!―
「ニアロンさん!?」
その正体、竜崎の友である霊体ニアロン。鏡の一撃を防ぎ切ってしまった。
「はっ…!?」
驚愕した様子の盗賊魔術士。慌ててもう一度ラケットを振り上げるが…。
ドッ!
「ぎぇっ…!」
窓から入ってきた何者かの足に顔面を蹴り飛ばされ、彼は反対側の壁にまで吹っ飛んだ。それと同時に、足の持ち主がスタンと窓から入ってきた。
「さくらさん、無事!?」
「竜崎さん!」
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる