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―魔の手―
295話 タマの抵抗
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―どういうことだ!?―
本を投げ出し強く問うニアロン。伝令兵は思わず片膝をつきながら詳細を明かした。
「実は…捕らえて頂いた人さらい達には余罪が複数ありまして、本日はその現地確認に赴かせていたのです。ですが、彼らを乗せた馬車隊が何故か急に帰還。付いていた兵達が突如として暴徒と化したのです」
その言葉を聞き、困惑する竜崎達。しかし、次には息を呑んだ。思い当たる節があったからだ。
「もしかして、彼らは…」
「お察しの通りですリュウザキ様。彼らには先日の脱獄盗賊と同じ洗脳魔術が付与されておりました。出先でかけられたものと思われます。幸い、エルフリーデ様を始めとした救援がかけつけ、そのほとんどは鎮圧済みです。しかし…」
そこで言葉を区切る兵士。言いにくそうに、後の言葉を続けた。
「かの魔術士、かつての戦争時に魔王軍側に与していた彼の者のみ行方知れずなのです。目撃証言を辿る限り、恐らく街中へ逃走したと思われます」
―だがそいつには魔術を封印する呪魔術をかけておいたはずだ。怪我も負っているし、そう簡単に逃げおおせられるはずがないが…―
「それが…どうやら魔術を使っていたようなのです。何者かによって解呪されたものと思われます」
―チッ…! おい清人、探し物は後回しだ。行くぞ―
舌打ち一つ、竜崎を急かすニアロン。しかし竜崎は顔面蒼白な様子でニアロンに質問し返した。
「ニアロン、さくらさんに精霊を飛ばしたのはどれくらい前だ!」
―確か30分ほど前だ。特に異常なしと回答していたが…。おいまさか…!―
竜崎はそれには答えず、詠唱しつつ兵士へ一言。
「私は少し確認してから捜索に加わります。失礼!」
瞬間、部屋に強風が吹く。本の幾つかは吹き飛び、兵は思わず目を瞑る。彼が目を開けた時には竜崎の姿はその場になく、遠くの方で何者かが書庫を飛び出していく音がしただけだった。
場所代わり、教員寮。さくらにあてがわれた部屋の前。さくらは何者かに口を塞がれ部屋から引きずり出されていた。
「む―!?」
一瞬のうちに口に布を詰め込まれたその手際は手慣れている。しかしこの動き、先日も体験したばかり…!必死に身体をくねらせ自らを捕らえた犯人を見て、さくらは驚愕した。
(この間の人さらい…!?)
さくらを羽交い締めにし、ナイフを突きつけていたのは先日メストと自分を襲った盗賊の魔術士。未だ傷が癒え切ってないらしく、至る所に包帯をつけている。
「動くな! 『神具の鏡』をよこせ!」
「む…!?」
喉を焼かれた影響か、魔術士は掠れ声。そんな彼の口から出たのは思わぬ一言。何故、彼がそのことを知っている…!? さくらは目を見開いた。
少なくとも先日囚われた時には、彼ら盗賊はさくらの武器であるラケットをその場に捨てて行ったのだ。つまり、それに鏡が取り付けてあるということは知らなかったはず。
なのに、何故…! 混乱するさくらを余所に、魔術士はさくらが背負った袋に手を伸ばした。神具の鏡付きラケットが入っている袋に。
「むぅ…!!(ダメ)!」
身悶えし、必死に抵抗するさくら。しかし、大人の力には勝てず引き抜かれてしまう。
「これか…!」
光を反射させ、輝くラケットに恍惚とする魔術士。さくらは瞬間、魔術士の目を捉えた。彼の瞳はどこか狂ったような様子であり、およそ正気とは思えなかった。
「さくらさんを放しなさい!」
と、さくらの部屋から飛び出してきたのは人並みのサイズがある巨大な白猫。タマである。獅子の如くガルルル…と唸りながら迫る彼を見て、魔術士はナイフを再度さくらに突きつけた。
「動くな! こいつがどうなっても良いのか!」
逃げても追いつかれると踏んでの凶行だろう。さくらを人質にし、魔術士はじりじりと下がっていく。
しかし、今のさくらは普通の人質とは違う。このまま逃げられるわけにはいかない。彼女は服の上からぎゅっと『身代わり人形』を握り、覚悟を決めた。
「むー! むー! (私ごとやって!)」
塞がれた口では思うように言えなかったが、タマはそれで察してくれた。シャキリと爪を出し、牙を剥いた。
「目を瞑って、さくらさん!」
フシャアア!と勢いよくタマは飛び掛かる。さくらを傷つけぬよう、極力狙いを定めて。もし相手がただの盗賊程度ならば、それでなんとか沈黙させることができたであろう。
しかし、一つ誤算が生じた。魔術士はナイフ以外にも武器を手にしていたのだ。ひとつは、解呪されたことによる魔術。そして、今さっき奪い取った『何でも弾く、神具の鏡付きのラケット』を。
「クソッ!」
魔術士は手を伸ばし、タマに向け火炎弾を撃ちだす。正面から強かに食らったタマは身悶え。その隙を、戦争経験がある魔術士は逃さなかった。
「これでも食らえ…!」
咄嗟にラケットに持ち替え、タマの横顔を勢いよく殴りつけたのだ。
カッ!
「フギャッ…!」
軽く使っても、人をいとも簡単に吹き飛ばす鏡の力。悲鳴を残し、タマの巨体は真横へと吹っ飛んだ。そして…。
バギャアッ!
竜崎の部屋の扉を頭から突き破っていった。
本を投げ出し強く問うニアロン。伝令兵は思わず片膝をつきながら詳細を明かした。
「実は…捕らえて頂いた人さらい達には余罪が複数ありまして、本日はその現地確認に赴かせていたのです。ですが、彼らを乗せた馬車隊が何故か急に帰還。付いていた兵達が突如として暴徒と化したのです」
その言葉を聞き、困惑する竜崎達。しかし、次には息を呑んだ。思い当たる節があったからだ。
「もしかして、彼らは…」
「お察しの通りですリュウザキ様。彼らには先日の脱獄盗賊と同じ洗脳魔術が付与されておりました。出先でかけられたものと思われます。幸い、エルフリーデ様を始めとした救援がかけつけ、そのほとんどは鎮圧済みです。しかし…」
そこで言葉を区切る兵士。言いにくそうに、後の言葉を続けた。
「かの魔術士、かつての戦争時に魔王軍側に与していた彼の者のみ行方知れずなのです。目撃証言を辿る限り、恐らく街中へ逃走したと思われます」
―だがそいつには魔術を封印する呪魔術をかけておいたはずだ。怪我も負っているし、そう簡単に逃げおおせられるはずがないが…―
「それが…どうやら魔術を使っていたようなのです。何者かによって解呪されたものと思われます」
―チッ…! おい清人、探し物は後回しだ。行くぞ―
舌打ち一つ、竜崎を急かすニアロン。しかし竜崎は顔面蒼白な様子でニアロンに質問し返した。
「ニアロン、さくらさんに精霊を飛ばしたのはどれくらい前だ!」
―確か30分ほど前だ。特に異常なしと回答していたが…。おいまさか…!―
竜崎はそれには答えず、詠唱しつつ兵士へ一言。
「私は少し確認してから捜索に加わります。失礼!」
瞬間、部屋に強風が吹く。本の幾つかは吹き飛び、兵は思わず目を瞑る。彼が目を開けた時には竜崎の姿はその場になく、遠くの方で何者かが書庫を飛び出していく音がしただけだった。
場所代わり、教員寮。さくらにあてがわれた部屋の前。さくらは何者かに口を塞がれ部屋から引きずり出されていた。
「む―!?」
一瞬のうちに口に布を詰め込まれたその手際は手慣れている。しかしこの動き、先日も体験したばかり…!必死に身体をくねらせ自らを捕らえた犯人を見て、さくらは驚愕した。
(この間の人さらい…!?)
さくらを羽交い締めにし、ナイフを突きつけていたのは先日メストと自分を襲った盗賊の魔術士。未だ傷が癒え切ってないらしく、至る所に包帯をつけている。
「動くな! 『神具の鏡』をよこせ!」
「む…!?」
喉を焼かれた影響か、魔術士は掠れ声。そんな彼の口から出たのは思わぬ一言。何故、彼がそのことを知っている…!? さくらは目を見開いた。
少なくとも先日囚われた時には、彼ら盗賊はさくらの武器であるラケットをその場に捨てて行ったのだ。つまり、それに鏡が取り付けてあるということは知らなかったはず。
なのに、何故…! 混乱するさくらを余所に、魔術士はさくらが背負った袋に手を伸ばした。神具の鏡付きラケットが入っている袋に。
「むぅ…!!(ダメ)!」
身悶えし、必死に抵抗するさくら。しかし、大人の力には勝てず引き抜かれてしまう。
「これか…!」
光を反射させ、輝くラケットに恍惚とする魔術士。さくらは瞬間、魔術士の目を捉えた。彼の瞳はどこか狂ったような様子であり、およそ正気とは思えなかった。
「さくらさんを放しなさい!」
と、さくらの部屋から飛び出してきたのは人並みのサイズがある巨大な白猫。タマである。獅子の如くガルルル…と唸りながら迫る彼を見て、魔術士はナイフを再度さくらに突きつけた。
「動くな! こいつがどうなっても良いのか!」
逃げても追いつかれると踏んでの凶行だろう。さくらを人質にし、魔術士はじりじりと下がっていく。
しかし、今のさくらは普通の人質とは違う。このまま逃げられるわけにはいかない。彼女は服の上からぎゅっと『身代わり人形』を握り、覚悟を決めた。
「むー! むー! (私ごとやって!)」
塞がれた口では思うように言えなかったが、タマはそれで察してくれた。シャキリと爪を出し、牙を剥いた。
「目を瞑って、さくらさん!」
フシャアア!と勢いよくタマは飛び掛かる。さくらを傷つけぬよう、極力狙いを定めて。もし相手がただの盗賊程度ならば、それでなんとか沈黙させることができたであろう。
しかし、一つ誤算が生じた。魔術士はナイフ以外にも武器を手にしていたのだ。ひとつは、解呪されたことによる魔術。そして、今さっき奪い取った『何でも弾く、神具の鏡付きのラケット』を。
「クソッ!」
魔術士は手を伸ばし、タマに向け火炎弾を撃ちだす。正面から強かに食らったタマは身悶え。その隙を、戦争経験がある魔術士は逃さなかった。
「これでも食らえ…!」
咄嗟にラケットに持ち替え、タマの横顔を勢いよく殴りつけたのだ。
カッ!
「フギャッ…!」
軽く使っても、人をいとも簡単に吹き飛ばす鏡の力。悲鳴を残し、タマの巨体は真横へと吹っ飛んだ。そして…。
バギャアッ!
竜崎の部屋の扉を頭から突き破っていった。
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