【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
290 / 391
―予言者な祈祷師―

289話 予言者な祈祷師①

しおりを挟む
夕日が街を照らす中、馬車は王宮へとパカパカ走る。その中に乗っているのはさくらと竜崎であった。

「『予言者』って、あの?」

「そう。かつての戦争、それを終わらせる予言をした祈祷師だよ。そして、私の存在を見つけてくれた方でもあるんだ」

さくらの問いに竜崎はそう説明する。予言…ダークエルフ闇を秘めた鋭俊豪傑アリシャ勇者学院最高顧問老練にして英明果敢ミルスパール賢者街工房の一人娘年若く才気煥発ソフィア発明家、そして異世界から来た異界より来たりし竜崎術士が世界を救うというこの世界では子供でも知っている文句である。

そして、それは見事叶った。だからこそ予言と言われているのだが。言ってしまえば、その祈祷師こそが世界を救った人物なのかもしれない。

さくらもその存在は知っており、少し気になりはしていたが、会う機会は無かった。

それが突然の顔合わせ。なんでも竜崎曰く、その祈祷師からさくらを連れてきて欲しいと頼まれたらしい。

いつ会わせようか悩んでいたらしい彼はそれを快諾。今に至るというわけである。



(一体どんな人なんだろう?)

馬車に揺られながら、さくらは想像を膨らませる。

予言を降ろすほどの人物なのだから、かなり…それこそジャラジャラとした装飾品を全身につけ、トランス状態な人だったり…。いやいや、ミルスパールさんみたいな髭をたくわえた老爺、いや老婆かもしれない。しかも傲岸不遜だったりヒステリックだったりするのかも…。

考えれば考えるほど正体はわけわからなくなり、緊張も増してくる。もうこうなったら聞いた方が早いと、さくらは正面に座る竜崎に問いかけた。

「竜崎さん、その祈祷師さんってどんな…。あっ」

日に暖められ、心地よく揺れる馬車。そんな場所に数日間ほぼ寝ていない人が乗ったらどうなるか、自明の理である。

「すぅ…すぅ…」

竜崎は思いっきり舟をこいでいた。普段ならニアロンがさくらの問いに答えるか、竜崎を叩き起こすかするだろうが、今回に限っては彼女も寝ている。

さくらは思わず両手で自らの口をパシリと押さえ、席に深く腰掛け直す。そして、先程貰った『身代わり人形』をそっと取り出した。

起こしてはいけない、自分とメストのためにこんな御守りを作ってくれたのだもの。身代わり人形をぐにぐにと動かし遊ぶさくらの顔は自然と綻んでいた。


「…でもこれ、私の髪の毛入りなのか…」

ふと材料を想起し苦笑いしてしまうさくら。更に彼女は思い出す。先のメストの言葉を。

「竜崎さんの血も入ってるんだよね…?」

さくらは恐る恐る人形を鼻に近づけ嗅いでみる。が、血の匂いはしない。というか無臭である。少し安心したさくらはそれを大切にしまった。

どれだけの血を注いだのかわからないが、これを作るのに相当な労力がかかったのは間違いない。有難いが、それよりも…。

「むにゃ…さくらさん…無茶しないで…」

「無茶してるのは竜崎さんのほうですよ…」

思わず竜崎の寝言に突っ込むさくらであった。






「いやー…ごめんね。寝ちゃってた…」

眠気を追っ払うように頭を振り、竜崎はさくらと共に馬車を降りる。なおニアロンは未だ夢の中らしく、竜崎の身体に近寄るとすうすうと小さな寝息が聞こえてくる。

案内の王宮兵に連れられ、着いた先は王宮の端の方にある尖塔。見上げるほどに高いその塔の最上階に預言者な祈祷師はいるらしい。

「登るの大変そうですね…」

手で夕日を遮りながら真上を見たさくらは呟く。階段で行くとするとどれだけかかることやら…。と、竜崎はそんな彼女に一言。

「あぁ、エレベーターあるから大丈夫だよ」




「本当にエレベーターだ…」

ゴンドラ式かつ非常にゆっくりとはいえ、自動で登っていくそれに感銘を受けるさくら。手を出さないようにねと注意を入れながら竜崎は説明してくれた。

「毎回階段で昇り降りするのは面倒そうだったしね。だいぶ前に取り付けさせてもらったんだ」

「この技術を伝えたのも竜崎さんなんですか?」

「いや、私はちょっとしたことしか伝えてないよ。錘で引っ張りあげるとか、周りにゴンドラを通すレール?があった方が良いとか程度。ほとんどはソフィアが構想して作ったものだよ」

流石は発明家、こんなものまで作り上げるとは。でも、わざわざエレベーターを作るほどなんて、待ち受けている祈祷師はいったい何者なのだろうか…! さくらは内心戦々恐々としていた。




エレベーターの終点は最上階、の一回下の階。そこには一つの扉が。竜崎はそこをノックした。

「竜崎です。さくらさんを連れてきました」

「はーい!」

中から聞こえてきたのは女性の声。次いでパタパタと小走りの音。そして扉がギィイと開いた。

「わざわざ来てくれてありがとね、さくらちゃん」

現れたのは、トランス状態の巫女でも、傲岸不遜な老爺でもヒステリックな老婆でもなく…ちょっとふくよかなおばちゃんだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

処理中です...