257 / 391
―獣人の里『モンストリア』―
256話 里を救いし高位精霊
しおりを挟む
「二人ともこっちに!」
竜崎はさくらとワルワスを抱き寄せ、竜崎は詠唱する。すると彼らの身体はふわりと空に浮き上がった。
―シベル達がいる建物には軽く障壁を張っておいたぞ。さぁ清人、誰を呼ぶ?―
手に魔法陣を形成しながらニアロンはそう問う。竜崎はそらんじるかのように口を開いた。
「火や水は街に被害を及ぼす可能性がある。獣人族は耳が良い人が多いし、轟音を伴う雷も辞めとこう。土や氷も今回には向いていない」
―となるとあいつだな。洗濯物が多少吹き飛ぶだろうが、許してもらおう―
竜崎とニアロン。2人は同時に魔術式を口ずさむ。それは複雑にして緻密、それを傍で聞いていたワルワスは舌を巻いていた。
「これが高位精霊召喚の術式…。何言っているのか全然わからない…」
当然さくらも理解することは出来ない。しかも火の高位精霊召喚術式とは全くの別物であるらしく、全く聞き覚えがないものであった。
そうこうしているうちに竜崎達の前の空中には巨大な魔法陣が。緑色に煌々と輝くそれに向け、竜崎は詠唱を締めた。
「力を貸してくれ、『エーリエル』!」
魔法陣の光は強まり、暴風を引き起こす。竜巻となり吹きすさぶそれの余波を受け、さくら達は思わず顔を覆う。
ブオッッ!
直後、竜巻は一際強く、人が吹き飛ばされそうな爆風となり発散。中から姿を現したのは…。
「魔神…エーリエル様!」
風と雲のドレスを身に纏い、同じく風で出来た日傘を手にした巨いなる淑女。魔神とも呼ばれし風の高位精霊、エーリエルの姿がそこにあった。
「あらあらまあまあ先日以来。一体今日はどうしたの?」
日傘をくるくると回しながら、エーリエルは竜崎に問う。巨大な彼女の姿に面食らうさくらを余所に、竜崎は事の顛末を伝えた。
「この里、『モンストリア』をスライムが襲い人が呑み込まれている。スライムを蹴散らしてくれ」
「なるほどなるほどわかったわ。その程度ならばお安い御用!」
即座に了承したエーリエルは傘を少し上に突き出す。するとふわりと風に乗り、彼女の身体は更に上空へとあがっていった。
「エーリエル様のスカートの中、あぁなっているんだ…」
「ちょ…ワルワス君何を…!」
ワルワスの突然の爆弾発言にさくらは彼を諫める。しかしワルワスはいやだってあれ…と上を指さした。
「…」
さくらは内心エーリエルに謝りつつも上を見てしまう。確かに空高くへとあがっていくエーリエルのスカートの中が見えてしまった。しかし、彼女のそこは風が渦巻き、足先のハイヒールしか見えなかった。
「こら」
即座に竜崎の手によりさくら達の首は下に向けられたが。
と、その勢いで地上の様子に目をうつすさくら達。捕らえていた獣母信奉派がスライムに続々と呑み込まれていくではないか。
「竜崎さん、あれマズいんじゃ…!」
「大丈夫、エーリエルを信じて」
竜崎の言葉に、さくら達は上空でようやく静止したエーリエルを再度見上げるしかできなかった。
「さあ始めましょう、踊りましょう」
日傘をパチンと閉じ、スカートの裾を軽くつまんだエーリエル。彼女はそのままダンスを踊るかの如くその場でクルクルと回りだす。
すると、彼女が動くたびにほんの小さなつむじ風が幾つも巻き起こる。まるで意志を持ったかのようなその風達はモンストリア中に飛んでいき、スライムの元へと―。
ゴォッッ!
瞬間、豹変。人を軽々包むほどに巨大化したつむじ風はスライムを怒涛の勢いで切り刻んでいく。その勢い、鎌鼬もかくやというほど。強力な魔術を当てなければ崩すことすらできないスライム達は続々と千切られ、粒となり辺りへ舞い散った。
囚われていた人々はどうなったのか。ご安心あれ、彼らは無傷。エーリエルが仕込んだ無風地帯、所謂台風の目の部分にすっぽりと収まっていたのである。スライム濡れになりながらも、彼らは全員が見事解放された。
「すごい…」
さくら達は大口を開けその一部始終を目で追っていた。眼下のスライム達も悉くが消し飛ばされ、モンストリアの危機は一瞬にして去った。これが高位精霊の力。さくら達が思わず拍手しようとした時だった。
「あら…? あらあら大変、まあ大変。スライムはほんの僅かに残っているのに」
エーリエルは踊りを止め、さくら達の元へと降りてくる。一体どうしたのだろうか、さくらが問うよりも先に、エーリエルが彼女の頬をふわっと触ってきた。
「まさかの事態ね大変よ。可愛く強いさくらちゃん、どうかリュウザキちゃんを守ってね」
「え…?」
妙な言葉を残し、エーリエルは手を離す。さくらが問い返すよりも先に、彼女は体の端からスウゥ…と消えていくではないか。
「エーリエルさん!?」
顔が消える瞬間、エーリエルはさくらへと軽く頷く。そして、完全に消えてしまった。すると次の瞬間―。
ガクンッ!
「「わっ!?」」
さくら達の身体が突如落下し始める。竜崎によって空中浮遊していたはずだが…。慌てて浮遊魔術を詠唱しようにも、間に合わない。このままではぶつかる…!
フワッ
「「えっ…?」」
地面にぶつかる直前、さくら達の身体は一瞬浮き、からがら着地する。なんとか大怪我を免れたさくらとワルワスは安堵の息をついた。
「た、助かったぁ…」
「翼があるとはいえ、怖かったな…でも一体何が…」
あまりにも突然なエーリエルの消滅、そして落下。恐らく原因は竜崎にある。さくらはエーリエルの言葉を思い出し、バッと竜崎の方を見やる。そこには―。
「竜崎さん!?」
地面に四つん這いとなり倒れる竜崎の姿があった。
竜崎はさくらとワルワスを抱き寄せ、竜崎は詠唱する。すると彼らの身体はふわりと空に浮き上がった。
―シベル達がいる建物には軽く障壁を張っておいたぞ。さぁ清人、誰を呼ぶ?―
手に魔法陣を形成しながらニアロンはそう問う。竜崎はそらんじるかのように口を開いた。
「火や水は街に被害を及ぼす可能性がある。獣人族は耳が良い人が多いし、轟音を伴う雷も辞めとこう。土や氷も今回には向いていない」
―となるとあいつだな。洗濯物が多少吹き飛ぶだろうが、許してもらおう―
竜崎とニアロン。2人は同時に魔術式を口ずさむ。それは複雑にして緻密、それを傍で聞いていたワルワスは舌を巻いていた。
「これが高位精霊召喚の術式…。何言っているのか全然わからない…」
当然さくらも理解することは出来ない。しかも火の高位精霊召喚術式とは全くの別物であるらしく、全く聞き覚えがないものであった。
そうこうしているうちに竜崎達の前の空中には巨大な魔法陣が。緑色に煌々と輝くそれに向け、竜崎は詠唱を締めた。
「力を貸してくれ、『エーリエル』!」
魔法陣の光は強まり、暴風を引き起こす。竜巻となり吹きすさぶそれの余波を受け、さくら達は思わず顔を覆う。
ブオッッ!
直後、竜巻は一際強く、人が吹き飛ばされそうな爆風となり発散。中から姿を現したのは…。
「魔神…エーリエル様!」
風と雲のドレスを身に纏い、同じく風で出来た日傘を手にした巨いなる淑女。魔神とも呼ばれし風の高位精霊、エーリエルの姿がそこにあった。
「あらあらまあまあ先日以来。一体今日はどうしたの?」
日傘をくるくると回しながら、エーリエルは竜崎に問う。巨大な彼女の姿に面食らうさくらを余所に、竜崎は事の顛末を伝えた。
「この里、『モンストリア』をスライムが襲い人が呑み込まれている。スライムを蹴散らしてくれ」
「なるほどなるほどわかったわ。その程度ならばお安い御用!」
即座に了承したエーリエルは傘を少し上に突き出す。するとふわりと風に乗り、彼女の身体は更に上空へとあがっていった。
「エーリエル様のスカートの中、あぁなっているんだ…」
「ちょ…ワルワス君何を…!」
ワルワスの突然の爆弾発言にさくらは彼を諫める。しかしワルワスはいやだってあれ…と上を指さした。
「…」
さくらは内心エーリエルに謝りつつも上を見てしまう。確かに空高くへとあがっていくエーリエルのスカートの中が見えてしまった。しかし、彼女のそこは風が渦巻き、足先のハイヒールしか見えなかった。
「こら」
即座に竜崎の手によりさくら達の首は下に向けられたが。
と、その勢いで地上の様子に目をうつすさくら達。捕らえていた獣母信奉派がスライムに続々と呑み込まれていくではないか。
「竜崎さん、あれマズいんじゃ…!」
「大丈夫、エーリエルを信じて」
竜崎の言葉に、さくら達は上空でようやく静止したエーリエルを再度見上げるしかできなかった。
「さあ始めましょう、踊りましょう」
日傘をパチンと閉じ、スカートの裾を軽くつまんだエーリエル。彼女はそのままダンスを踊るかの如くその場でクルクルと回りだす。
すると、彼女が動くたびにほんの小さなつむじ風が幾つも巻き起こる。まるで意志を持ったかのようなその風達はモンストリア中に飛んでいき、スライムの元へと―。
ゴォッッ!
瞬間、豹変。人を軽々包むほどに巨大化したつむじ風はスライムを怒涛の勢いで切り刻んでいく。その勢い、鎌鼬もかくやというほど。強力な魔術を当てなければ崩すことすらできないスライム達は続々と千切られ、粒となり辺りへ舞い散った。
囚われていた人々はどうなったのか。ご安心あれ、彼らは無傷。エーリエルが仕込んだ無風地帯、所謂台風の目の部分にすっぽりと収まっていたのである。スライム濡れになりながらも、彼らは全員が見事解放された。
「すごい…」
さくら達は大口を開けその一部始終を目で追っていた。眼下のスライム達も悉くが消し飛ばされ、モンストリアの危機は一瞬にして去った。これが高位精霊の力。さくら達が思わず拍手しようとした時だった。
「あら…? あらあら大変、まあ大変。スライムはほんの僅かに残っているのに」
エーリエルは踊りを止め、さくら達の元へと降りてくる。一体どうしたのだろうか、さくらが問うよりも先に、エーリエルが彼女の頬をふわっと触ってきた。
「まさかの事態ね大変よ。可愛く強いさくらちゃん、どうかリュウザキちゃんを守ってね」
「え…?」
妙な言葉を残し、エーリエルは手を離す。さくらが問い返すよりも先に、彼女は体の端からスウゥ…と消えていくではないか。
「エーリエルさん!?」
顔が消える瞬間、エーリエルはさくらへと軽く頷く。そして、完全に消えてしまった。すると次の瞬間―。
ガクンッ!
「「わっ!?」」
さくら達の身体が突如落下し始める。竜崎によって空中浮遊していたはずだが…。慌てて浮遊魔術を詠唱しようにも、間に合わない。このままではぶつかる…!
フワッ
「「えっ…?」」
地面にぶつかる直前、さくら達の身体は一瞬浮き、からがら着地する。なんとか大怪我を免れたさくらとワルワスは安堵の息をついた。
「た、助かったぁ…」
「翼があるとはいえ、怖かったな…でも一体何が…」
あまりにも突然なエーリエルの消滅、そして落下。恐らく原因は竜崎にある。さくらはエーリエルの言葉を思い出し、バッと竜崎の方を見やる。そこには―。
「竜崎さん!?」
地面に四つん這いとなり倒れる竜崎の姿があった。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる