【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
256 / 391
―獣人の里『モンストリア』―

255話 迫りくるスライム

しおりを挟む
うようよと押し寄せてくるのは、手練れの戦士でも苦戦するという大きなスライム達。竜崎は杖を構え、さくらを守るように前に出た。

「さくらさん、危険だから建物内に戻っていて」

「いえ、戦わせてください!賢者さんから戦い方は学びました!」

自身の武器を引っ張り出し戦闘準備をするさくら。竜崎はニアロンに目配せし、彼女をさくらに憑りつかせた。

―よし、さくら。私が補助をしよう。くれぐれも周囲の建物を壊すんじゃないぞ―

「はい!」





「はぁっ!」

―おっ!中々スナップが効いてるな!―

ここは街中、爆破のような大きな魔術はそうは使えない。仕方なしにさくらはラケットをそのまま振るう。幸いラケットについている神具の鏡は強く、力いっぱい引っぱたけばスライムを爆散させることが出来た。

とはいえ、その戦法は距離を詰めなければできない。ニアロンがいるおかげで安全に対処出来ているが、下手したら呑み込まれ殺されるかもしれないのだ。

竜崎さんはニアロンさんの補助無しで一体どう戦っているんだろう、ふと思ったさくらは彼の方を見やる。すると―。

「行ってくれ」
「――!」

街の事を考えると上位精霊は思うように使えない。故に彼は妖精のような姿の精霊、『中位精霊』を用いて戦っていたのだが…なんと、その中位精霊をスライムの中に潜り込ませていた。

一体何を…!?驚いたさくらが見ている中、スライムに入った精霊はキィイと音を立て光輝く。次の瞬間…。

ボンッ!

精霊が発した力によりスライムは内部から爆散。任務を果たした精霊は意気揚々と竜崎の元に戻り、彼の周りをくるくる舞い始めた。

「そんな技が…」

言ってしまえば精霊を爆弾代わりにしたのである。とんでもない技を見て唖然としていたさくらにニアロンの叱声が降りかかった。

―さくら!気を抜くな!―

「えっ…?」

思いっきり隙を見せていたのだから当然だが、スライムの一体がさくらの眼前に迫っていた。突然のことに慌ててラケットを振るが、勢いが弱かったのが災いした。スライムは攻撃を無効化しさくらの手をゴプリと…。

「おっと」

と、急にさくらの身体に何者かの手が回り、後ろに引っぱられる。それにより、僅かに呑み込まれた手と武器も引きずり出された。

「危ない危ない。スライムを相手取る時はいつも以上に気を張っていてね」

「えっ、竜崎さん!? あれ!?」

さくらの身体を引っ張ったのは竜崎。しかしさっきまでちょっと離れた位置にいたはず。いつの間に…、困惑するさくらの頭をニアロンが軽くペシンと叩いた。

―清人がお前を気にかけていないわけないだろう。戦っているんだ、もっと集中しろ―

「ご、ごめんなさい…!」

竜崎の腕の中で謝るさくら。しかし好奇心は消えず、彼女は竜崎に恐る恐る聞いた。

「あ、あの!竜崎さん。さっきやった技って…」

「ん?あぁ『精霊爆発』のこと?ちょっと難しい技だけど、ああすれば周りに被害無く倒せるからね」

―なんださくら。やってみたいのか?精霊に大量の魔力を渡し、それを燃料に爆発させるんだ。清人考案の技だが、結構コツがいるぞ―

「そうなんですか?」

「まあとりあえずやってみようか。まずはね…」




「『我、汝の力を解放せん―』!」

竜崎による簡易特別講義を受けたさくらは限界突破機構を起動する。バチチッという音と共に魔力は溜まり、ラケットの上にちょこんと乗った精霊に注ぎ込まれていく。

「行って!」
「――!」

さくらの号令で、魔力の輝きを灯した精霊は一直線にスライムの中に。そして―。

ボンッ!

「おぉ!お見事さくらさん。大成功だよ!」

綺麗に爆散したスライムを見た竜崎はパチパチと拍手。

―限界突破機構の補助有りとはいえ一発成功か。やるな―

ニアロンからも褒められ、さくらはえへへと照れる。と、ニアロンは謎の張り合いを見せた。

―ちなみに私も出来るぞ―

「? この技をってことですよね」

―それもだが、私自身を使って『精霊爆発』が出来るんだ。精霊と同じ霊体だからな―

「えぇ…」

―ま、清人がピンチの時以外使わん。魔力を盛大に消費する技だ、身体が魔力で出来ている私は消滅しかけるからな―

カラカラと笑うニアロン。それはただの自爆技では?さくらはそう思いはしたが口には出さないことにした。




ボンッッ!

迫ってきていたスライムを全て仕留めた竜崎達。さくらはふぅと息をついた。

「これで全部ですかね…」

「…いや、まだだ!」

再度杖を構え直す竜崎。それと同時に路地や、建物の屋根からまたもスライム達がドプンドプンと現れたではないか。

「また…!?」

一体どこから湧いて出ているのか。魔術で作り出された魔物なのだから際限はあるはずなのだが…。さくらもラケットを握り直した時だった。

「リュウザキ様!」

空から現れたのは鳥人族のワルワス。モンストリアに戻ってきた際、単独で自らの所属する訓練所に向かっていったのだが…。彼は着地するや否や慌てた様子で口を切った。

「俺達の訓練所にもスライムが…!いえ、空を飛んでいて分かりました…里中に大量のスライムが…!奴ら、人を次々と取り込んでいっているんです!」

―清人、後ろを見ろ!―

ニアロンの言葉に竜崎達がハッと背後を見ると、地面に転がっていた獣母信奉派の1人をスライムが呑み込みどこかに連れ去ろうとしているではないか。顔だけ外に曝され他をスライムに包まれた獣人は暴れるが、スライムには無力。その様子を見た竜崎とニアロンは顔を顰めた。

「戦争時以来だな、あの手法…!」

―わざと人間を生かして取り込む面倒技だな。使役者はやはり戦争経験者か―

ただでさえ倒すのが手間なスライム。そこに生け捕られた捕虜が加わればどうなるか。全身が呑み込まれているならば爆破なりなんなりで対処できるが、顔が出ているとなると話は別である。

スライム全体を包む攻撃ではその捕虜を殺しかねない。さりとて内部から爆散させる方法も、下手すれば捕虜の身体ごと散らしてしまうだろう。仲間を救おうと相手が躊躇している間に、スライムは捕虜を輸送するなり攻撃を続行するなりやりたい放題できてしまうのだ。


竜崎級の腕ならば問題なく対処できるのだろう。しかし、それが今里全体で同時多発的に起こっている。一つ一つ対処している暇がないのはさくらにもわかった。

「ニアロン!こっちに!」

竜崎に呼ばれたニアロンはするりと竜崎の身体に戻る。彼女は身体を大人体へと変えながら息を吐いた。

―やるしかなさそうだな―

「あぁ。『高位精霊』を召喚する!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...