【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―獣人の里『モンストリア』―

251話 対上位精霊

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「また出してきたのか。相手さんも必死じゃのぅ」

突如現れた上位精霊達を見て、賢者はやれやれと息をつく。その口ぶりから察するに…さくらは彼に聞いてみた。

「さっきも出たんですか?」

「そうなんじゃよ。シルブが複数匹で襲ってきてのぅ、調査隊を悉く吹き飛ばしてきたわい。森も一部抉られてしまった」

ほれあそこじゃ、と賢者が指さしたのはとある森の端。確かに以前さくらが学園で(間違えて)やったように土は大きく抉れ木々は吹き飛んでいた。流石は天災級の存在である。と、ワルワスがあっと口を開いた。

「もしかしてさっき地図を捕まえようとした時の強風って…」

「ふむ、方角的には合っておるしシルブ達が引き起こした風かもしれんのぅ」

なるほど、強風の正体はわかった。しかし今のこの状況…森を抉り、遠く離れたモンストリアまで届くほどの風の攻撃が再度飛んでくるということでもある。

否、風だけではない。今目の前には各上位精霊が勢ぞろいである。一体どうなってしまうのか、ゴクリと息を呑むさくら達に応えるように、猛る上位精霊達は一斉に力を溜め始めた。

キュイイ…カッ!

勢いよく撃ちだされるは色とりどりの光線光弾。一見見惚れるほどに美しいそれらは真っ直ぐに調査隊へと向かっていくが…。

「ギャ…!」
「ガッ…!」

なんと、射線上にいた仲間の人獣達をも巻き込んでいく。地と獣達を焼き焦がし、吹き飛ばし、粉砕し…全てを屠り去りあっという間に調査隊の元へと―。

ギィィィン!

「ふぉっふぉっ、流石は上位精霊達の同時攻撃。障壁がビリビリ響くわい」

しかしその攻撃は賢者の張った障壁に防がれる。さくら達と調査隊のメンバーはほっと息をついた。

「竜崎さん達を手助けしなくていいんですか?」

安堵一瞬、さくらは慌ててラケットを取り出し賢者に問う。流石にあの数の上位精霊相手では大変だと思い微力ながら手伝おうとしたのだが、賢者に笑い飛ばされた。

「いいから大人しく座って観ていなされ。そうじゃな…『エイガ』を観る時のようにのぅ」

「エイガ…?あぁ、『映画』…」

そう言われてしまえば仕方ない。さくらは今一度座り直し、竜崎達の戦いぶりへと再度目を向けた。




「折角仲間にした子達が蹴散らされちゃったわねぇ。『白狼』来なさい」

グレミリオが指を鳴らすと、召喚されたのは巨大な白き狼。それに飛び乗ると、彼(彼女)は軽く鞭杖を振った。

「ガルル!」

高らかに一声鳴いた白狼は目にも止まらぬ速さで地を蹴った。当たれば即死、掠るだけでも魔力酔いを起こし戦闘不能になる上位精霊達の攻撃を右へ左へ軽やかに避けていく。一気に上位精霊が一体へと肉薄し―。

「私の元にいらっしゃい。『背信の鞭』!」

グレミリオの杖から出る鞭が勢いよく伸び、上位精霊の背を乱れ打つ。まるで術式を書き換えるかのような鞭の動きが終わった直後、叩かれた上位精霊は回れ右。即座に他の上位精霊に飛びかかっていった。

「さて、お次はどの子に…」

「ケエエエエン!」
キュイッ カッ!

次の相手を選ぶグレミリオの元に、空にいたシルブから風弾が叩きつけられる。あわや直撃コースかと思いきや…

「『白鬼』、『白鳥』来なさい」

即座に呼び出された召喚獣『白鬼』が棍棒で弾き返す。逆に強風を食らったシルブは思わず身をよじった。その隙にグレミリオは召喚獣『白鳥』で接近、鞭を叩きつけた。

「随分と下手な精霊術ねぇ…。リュウザキちゃんを見習いなさいな」



「…グレミリオ先生、上位精霊ですら使役を奪えるんだ…」

自らに迫ってきた上位精霊を全て引き込んだグレミリオを見て、ネリー達は唖然とする。使役術はそもそも野生の獣などを従えるだけの魔術。だがグレミリオの使う使役術はそんなものを軽く超えている。彼(彼女)が使役できない存在なんているのだろうか…?

と、そう恐れおののく彼女達の耳に飛び込んできたのはクラウスの声だった。

「見ろワルワス!あれがジョージ先生の真骨頂だ!」




「ハァッ!」

ジョージは迫る光線光弾を剣で切り裂き弾いていく。もはや人間業ではない。

「数と火力だけの素人精霊術ですなぁ。そろそろ反撃と行きましょう!」

彼は剣を握り直し、遠くにいる上位精霊達へ不敵な笑みを見せた。

「束となった上位精霊達と単独で相手どるのはかつての戦争以来ですかな!我が妙技、ご照覧あれ!『地裂』!」

剣を地面へと突き刺すジョージ。すると地面はボゴゴと盛り上がり、幾つかに枝分かれしながら上位精霊達の元へと突き進んだ。

「あれって地面を盛り上がらせて足を引っかける技じゃないの?」
「しっ!黙って見てろ!」

さくらの一言を黙らせるクラウス。そうこうしている間に『地裂』は上位精霊達の足元へと到達した。その時だった。

ドゴオオオオッ!
「「「ガッ…!?」」」

爆音を立て、地裂は噴き上がる。その様子、まるで間欠泉。だがその正体はジョージの斬撃らしく、巻き込まれた上位精霊達は空飛ぶシルブですらも例外なく細切れに屠り去られた。

「クラウスくんの『地裂』と全く違う…」
「先生と比べるなよ…。それに地面の中に斬撃を通すのだけでもとんでもなく難しいんだぞ」

苦々しい顔を浮かべるクラウスを皆で宥める。そんな中、上位精霊達の咆哮が耳をつんざいた。




「ガオオオ!」
「ウルルル!」
「ケエエエエン!」

竜崎担当のエリア。敵のサラマンドは竜崎のサラマンドと、敵のウルディーネは竜崎のウルディーネと…。各上位精霊達は同じ属性の上位精霊達と相対していた。

「うわ恐ろしい…」

誰かが漏らした言葉に皆一様に頷く。その様子、怪獣同士の縄張り争いである。これは確かに映画っぽい。いや他2教師の戦いぶりも充分それらしさはあるのだが。

「ガアアア!」
キュイッ カッ!

最初に仕掛けたのは敵の上位精霊達。先程と同じように強力な光線光弾を次々と撃ちだす。当たれば同じ上位精霊でもただでは済まないはず…!さくらは固唾を呑み成り行きを見守るが…。

ドゴォ!
「えっ!?直撃しちゃった!」

なんと竜崎達の上位精霊は身じろぎもせず光線光弾をその身に食らう。しかし―。

「…!なんともないの…?」

そこにいたのはケロッとしている竜崎の上位精霊。そんな彼らはお返しと言わんばかりに力を溜め始めた。

カッ!

撃ちだされたのは色が濃い、明らかに力が凝縮された光線光弾。その攻撃は相手の上位精霊達に風穴を開け、断末魔をあげさせる暇すらなく消滅させた。天災を引き起こせる彼らがまるで張りぼてのようである。

「流石リュウザキ先生の精霊達…」
「やっぱ精霊術ならリュウザキ先生最強だな…」

呆気にとられながら誉めそやすネリー達。さくらは思わず竜崎を探すが…

「あ、あれ…?竜崎さんは…?」

キョロキョロと目を動かすさくら。だが、眼下のどこにも竜崎の姿はなかったのだ。
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