上 下
251 / 391
―獣人の里『モンストリア』―

250話 スライムの倒し方

しおりを挟む
「まだまだ出てくるのぅ。盗賊連中、よほど獣母の搬送に手間取っていると見える」

他人事のような賢者。ふと竜崎達が戦っているのを見て思いついたのか、さくら達の方にくるりと向き直った。

「丁度よい、お前さん達にスライムの倒し方を教えておこうかの」


「スライムの…」
「倒し方…ですか?」

「そうじゃ、知っているものはおるかの?」

賢者の問いに、誰も手を挙げない。その様子を見た賢者は軽く笑った。

「まあじゃろうなぁ。スライムは強いが寿命は短く生成も手間じゃて、戦い以外で見ることは稀な存在。授業で戦い方を教えるには後回しになるしの」

と、賢者は手を開き何かを詠唱する。するとポムポムと現れたのは小さな手乗りスライム達だった。

「ほれ、触ってみなされ」

投げ渡されたスライムをさくら達が恐る恐る突いてみると、プルンプルンと身体を震わせた。意外と可愛らしいのかもしれない…?

「それが通常状態じゃ。移動、待機などは手で持てるほどに固まっている。しかしひとたび戦闘状態に入ると…」

にやりと微笑み賢者は指を振る。すると次の瞬間プルプルだったスライムはドロリと溶けだし持っていた手を覆ったのだ。

「わっキモッ!」

ネリーが正直な感想を漏らす。確かにこれは気持ち悪い。さくら達は取り除こうとするが…

「あれ…!手から…!」
「離れない…!?」

いくらこそげ落とそうとしても、スライムはぬたりぬたりとくっつき離れない。それどころか近づけたもう片方の手までも飲み込み、両手は思うように動かせなくなってしまった。

「手足にとりつけば動きが制限され、口や鼻を塞がれてしまえばすぐさま窒息死となる。スライムは言ってしまえば対生物最強の魔物じゃな」




「さて、倒し方じゃが…最も簡単な方法は『魔術か属性の力を付与した武器で粉々に散らせる』というものじゃ。一度細かくちぎってしまえばよほど近くに集まらない限り復活はしないからの」

「でも、賢者様。身体に纏わりつかれた場合はどうするんですか?」

スライムに両手を捕らえられながら、クラウスは問う。確かにこの状態ならば武器は持てず、魔術をぶつければ身が焼けるのみだろう。すると賢者は至って平然と答えた。

「同じじゃよ。爆破なり水流なり、とにかく吹き飛ばせばいい」

「「「えぇ…」」」

超荒業を提案されて困惑するさくら達。賢者はふぉっふぉっと笑い皆を宥めた。

「安心せい、とりついたスライム自体が防御壁となり肌まで届かん。怖がることなく対処するようにの。じゃが、口を塞がれた際には詠唱に支障が出る。その対策に口を使わぬ魔術や、魔力を注ぐだけで属性の力を起こせる精霊石を用意しておくべきじゃな」



賢者に言われた通りの方法を試してみるさくら達。確かに軽い爆破や火でスライムは溶け落ち、肌には火傷の一つも残らなかった。

「意外と簡単ですね…」

対生物最強の魔物と言うには正直弱いのではないか?そんなさくらの心を読んだかのように、賢者はにやつきながら地上を指さした。

「さあ、問題は大きさじゃ。その小さいサイズならばちょいと魔術を齧った者なら簡単に倒せるじゃろうて。しかし今リュウザキ達が戦っている人間サイズのスライムならどうかの?」

彼の指を追い、さくら達は真下を見やる。そこにいたのは調査隊の他面子。竜崎達のところから漏れ出た魔獣達を狩っていたらしいが…。と、何かに気づいたネリーが声をあげた。

「あ!あれ!誰かがスライムに呑み込まれてる!」




「くそっ…!魔導剣が効かない!」

「私の魔術じゃ…!」

呑み込まれた仲間を救出するため戦う調査隊メンバー。しかし彼らは苦戦していた。しっかりと魔術や属性を付与した武器を振るっているのだが、それらの攻撃は全て流動なるスライムの身体に吸収されてしまっていた。

「何で…!?」
「賢者様、あれマズいんじゃ…!」

困惑するさくら達。しかし賢者は慌てることなく指をピッと振った。

ドゴォン!

刹那、人を呑み込んだスライムが大きな爆炎に包まれる。炎が消えた後に残ったのは、呑み込まれていた人がゲホゲホとえずく姿だけだった。

「スライムは大きければ大きいほど魔術への抵抗がつく。生半可な魔術は無効化されてしまうのがオチでのぅ、ちょっと腕に自信がある程度では勝てんのじゃよ」

スライムに殺されたくなければ鍛錬を怠るのではないぞ?そんな賢者の言葉に、さくら達は一斉に頷いた。




「そういえばリュウザキ先生達はどう対処してるんだろ」

と、ネリーが改めて目を下に動かす。さくら達が賢者に講釈を受けている間も、当然ながら彼らは戦っていた。

「確かに、もしかしたら参考になるかもな」

クラウスの言葉に、一同は再度竜崎達を注視する。幸運なことに、彼らは丁度スライムと相対していた。




「『剛炎刃』―。」

まずはジョージ。敵の只中で何かを詠唱していた彼の剣に宿ったのは、刀身まで揺らめくほどの紅蓮の炎。その剣技にさくらは見覚えがあった。ゴスタリアの騎士団長、バルスタインが使っていた技である。

「行きますぞ!」

彼は迫る巨大スライム達に突貫。一刀の元両断した。すると恐るべきことが。切られた断面から業火が噴き出し、スライムはいとも簡単に溶け消えてしまったのだ。

だが切られたのはスライムだけではない。堅そうなゴーレム、空中を飛び回る精霊達も瞬く間にたたっ切られ燃え崩れていく。ジョージの通った後に残るは焼け野原だけであった。




「うーん。やっぱり暴走人獣達には使役術の効きが悪いわね…」

お次はグレミリオ。どうやら悩んでいるらしい。自らの使役下に置いた魔獣達に囲まれ首を捻っていた。

「あらスライム。丁度いいところに」

と、近寄ってきたスライム達をみつけた彼(彼女)は鞭杖でバシリバシリと叩いていく。流動体の彼ら相手でも使役を奪うことが可能らしく、スライム達は即座に暴走人獣達に向かっていった。

「ガ…ゴボッ」

強化された人獣なんのその。スライムはいともたやすく包み込み、窒息死させていく。強力な敵は自らの味方につければ良いだけ、そう言わんばかりのグレミリオは従えた魔獣達による蹂躙を進めていくのだった。




―清人、増援みたいだぞ―

「だな。薙ぎ払え、精霊達!」

そして竜崎。蠢くスライム達に向け発射されたのは上位精霊達の強力な光線光弾。スライムどころか増援に来たゴーレム召喚獣達までもが一瞬にて存在を消滅させられていた。

その隙を突き、竜崎達は近場のスライムに肉薄。何をするかと思えば…。

―弾けろっ!―

ニアロンによる光輝くパンチ。当たったスライムはパァンと音を立て砕け散った。

―今のとこ私達が一歩リードだ。この勢いのままなら勝てるな!―

カラカラ笑う彼女を連れ、竜崎は上位精霊を指揮し再び魔物の群れへと飛び込んでいった。




「「「参考にならない…!!!」」」

強者3人の活躍にそう零すさくら達。調査隊の他面子が苦戦するスライム達をもののついでのように屠り去っていく竜崎達の動きなぞ、真似できるわけがない。

「3人共、伊達に先の戦争で活躍しとらんからのぅ。それよりほれ、もっと見ごたえのあるのが来たぞい」

賢者の言葉にさくら達は眉を潜める。一体何がと視線を写した時だった。

ブオッ!

「わっ!?」
「風が…!」

突如吹き付けたのは身体が吹き飛びそうなほどの強風。賢者が固定してくれていたおかげで服が多少まくれあがった程度で済んだ。

「さっき街で食らった風に似てるな…」

ワルワスがぼそりと呟く。と、モカがある一点を指さした。

「皆!あそこ!」

先程増援が出てきた森があっという間に燃え盛る。ノシリノシリと現れたのは巨大な火蜥蜴。そう、サラマンドである。しかも、彼だけではなかった。

「あそこ飛んでいるのってシルブじゃない!?」

「あの光っているのって雷の上位精霊ポルクリッツだろ!?」

火、水、風、土、雷、氷…。現れたのは一匹だけで災害をも引き起こす各種上位精霊達。しかもそれぞれ何匹もいるではないか。

「…あれ、どう見ても竜崎さんの召喚した精霊じゃない…」

竜崎が普段召喚する上位精霊達よりも数段猛っている彼らを見て、確信するさくら。間違いない、あれは誰かが召喚した『敵』である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

処理中です...