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―獣人の里『モンストリア』―
244話 待ち時間
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「ここに行った時には、この質問を…」
「あ、じゃあこの質問も出来るならお願い」
「このお店、結構人が集まっているから狙い目かも。売ってるジュース美味しいよ」
「ここのモンストリア銘菓っての食べたい!」
竜崎の指示に従い、宿舎内で待機するさくら達。暇なので、街中の観光…もとい情報収集の準備をしていた。机にモンストリアの地図とノートを開きどこに行こうか話し合っているのだが、一度はレドルブでやったこと。その手際は存外手馴れていた。
「そういえば、さっき竜崎さんが言いかけていたことって何だったの?」
ふと、さくらは思い出し話を振る。モカは少し辺りを見渡し、声を潜めた。
「実はここモンストリアにはちょっと変な人達がいるの。『獣母信奉派』って私達は呼んでいるんだけど、要は獣母を神様のように崇めている人達のこと。そう沢山はいないんだけど、獣母を倒した勇者一行に恨みのようなものを持っている人もいるみたい」
「そうなの…!?」
驚くさくら。しかし、獣人の生い立ちを考えれば当然なのかもしれないと思い直す。オーガ族は素になった霊獣『白鬼』がいる。しかし獣人の素は恐らくそこらへんの動物達。と、なると獣母そのものが名の通り母の様な存在だと感じている人もいるのだろう。
「あ、もしかして…獣母を盗んだのって…」
もしや、とさくらは勘繰る。その獣母信奉派とやらが盗み出すのを手助け、または犯人そのものなのかもしれない。すると女の子4人に囲まれ居心地悪そうにしていたクラウスがようやく口を開いた。
「勿論その可能性もあるだろうよ。実際、ワルワスからの手紙によるとその獣母信奉派との諍いによって調査隊への連絡が遅れたらしい」
取り出した手紙を机の上に置くクラウス。さくら達が覗き込むと、そこにはモンストリア兵と獣母信奉派との小競り合いや、双方の言い分が簡単に書かれていた。どうやら、獣母信奉派はかなり疑われているらしい。一方の信奉派自体はそんなことする理由がないと突っぱねているようである。
「あ、そういやクラウスくん食べたい物とか行きたいとこないの?」
「いや俺は…」
「折角来たんだから楽しもうよ!この話は先生達に任せよ!」
考えるのが面倒になったのか、ネリーは唐突にクラウスに話を振った。まあ誰かを疑う疑わないという話をさくら達もしたいわけではない。
と、クラウスはネリーの問いかけから逃げるようにさくらへ語りかけた。
「しっかし、さくら。獣母信奉派のことも知らないのか?前から思っていたがお前知識無さ過ぎだろ」
「仕方ないよ。だってさくらちゃんの出身は…むぐっ!」
ネリーの口を慌てて塞ぐアイナ。眉をひそめるクラウスだったが、そんな彼の背後から元気な声が飛んできた。
「よっすクラウス!」
「ん…? お!ワルワス!」
現れたのはかつて代表戦で刃を交えた鳥人、ワルワス・バルダ。男がもう一人来てくれたことにクラウスはほっと息をつく。ワルワスはそんな彼の肩をバンバン叩いた。
「いやー本当に来てくれるとはな!」
「ジョージ先生にお願いしたら二つ返事だったんだよ。なんでもこいつらがついていくからってな」
親指で女子陣を指すクラウス。ワルワスはその中にいるさくらを見止めると声を上げた。
「おー!さくら。お前も来てたのか!なんだよクラウス、ハーレムじゃんか!」
んなわけないだろ。と顔を歪めるクラウスを余所に、ワルワスはキョロキョロと辺りを見回した。
「メストさんはいないのか?」
代表戦出場者が三人中二人もいればそう思うのも当然だろう。彼女は来ていないことを伝えると、ワルワスは少し残念そうな顔を浮かべた。
「そうなのか。空飛ぶ俺をいともたやすく仕留めた秘訣を教わりたかったんだけどな。まあいいや、どっか遊びに行かないか?」
「だめー! 『勝手な行動をしない』ってリュウザキ先生と約束したんだもん!監督役の人が来るの待ってて!」
誘うワルワスに向けブンブンと顔を横に振るネリー。
「いいじゃんか。ちょっとそこいらに出るだけだぜ」
「この間勝手な行動しちゃって先生達に迷惑をかけちゃったの。だから、ごめんねワルワスくん」
アイナの真剣な表情を見て、ワルワスは仕方ないなと引き下がった。
「えっ、あの喫茶店移転したの?」
「おう、大通りにほうにな。でも店内の様子は変わりないぞ」
地元民同士楽しそうに話し合うモカとワルワス。彼の勧めもあり、これから観光予定ルートをちょこちょこ調整していく。既にさくら達の中には『情報収集』という表向きの仕事意識すら消えかけていた。
暇だった時間も、ワルワスが語るモンストリアの話で大分潤い、気づけばお昼時。と、そこに…。
「待たせたな」
現れたのはシベルとマーサ。確か怪我人の治療に向かっていたはずだが…。さくらはなんとはなしに聞いてみた。
「お仕事のほうは良いんですか?」
「あぁ。既に怪我人はほとんど治っていた。残りも他のメンバーで対処が可能だ。なにかあれば連絡するよう頼んでおいたし、先生との約束通りお前たちの監督は俺らが務めよう」
「あら?そちらの子は?」
「ワルワス・バルダと言います。代表戦ではモンストリア代表として参加していました。ご一緒して宜しいですか?」
意外と礼儀正しく挨拶するワルワス。マーサは微笑み了承した。
「私は構いませんよ。シベルはどう?」
「別に良いだろう。俺も帰郷は久しいしな」
ということで、さくら達にシベルマーサ、ワルワスを加えた一行はようやく街へと繰り出した。
「あ、じゃあこの質問も出来るならお願い」
「このお店、結構人が集まっているから狙い目かも。売ってるジュース美味しいよ」
「ここのモンストリア銘菓っての食べたい!」
竜崎の指示に従い、宿舎内で待機するさくら達。暇なので、街中の観光…もとい情報収集の準備をしていた。机にモンストリアの地図とノートを開きどこに行こうか話し合っているのだが、一度はレドルブでやったこと。その手際は存外手馴れていた。
「そういえば、さっき竜崎さんが言いかけていたことって何だったの?」
ふと、さくらは思い出し話を振る。モカは少し辺りを見渡し、声を潜めた。
「実はここモンストリアにはちょっと変な人達がいるの。『獣母信奉派』って私達は呼んでいるんだけど、要は獣母を神様のように崇めている人達のこと。そう沢山はいないんだけど、獣母を倒した勇者一行に恨みのようなものを持っている人もいるみたい」
「そうなの…!?」
驚くさくら。しかし、獣人の生い立ちを考えれば当然なのかもしれないと思い直す。オーガ族は素になった霊獣『白鬼』がいる。しかし獣人の素は恐らくそこらへんの動物達。と、なると獣母そのものが名の通り母の様な存在だと感じている人もいるのだろう。
「あ、もしかして…獣母を盗んだのって…」
もしや、とさくらは勘繰る。その獣母信奉派とやらが盗み出すのを手助け、または犯人そのものなのかもしれない。すると女の子4人に囲まれ居心地悪そうにしていたクラウスがようやく口を開いた。
「勿論その可能性もあるだろうよ。実際、ワルワスからの手紙によるとその獣母信奉派との諍いによって調査隊への連絡が遅れたらしい」
取り出した手紙を机の上に置くクラウス。さくら達が覗き込むと、そこにはモンストリア兵と獣母信奉派との小競り合いや、双方の言い分が簡単に書かれていた。どうやら、獣母信奉派はかなり疑われているらしい。一方の信奉派自体はそんなことする理由がないと突っぱねているようである。
「あ、そういやクラウスくん食べたい物とか行きたいとこないの?」
「いや俺は…」
「折角来たんだから楽しもうよ!この話は先生達に任せよ!」
考えるのが面倒になったのか、ネリーは唐突にクラウスに話を振った。まあ誰かを疑う疑わないという話をさくら達もしたいわけではない。
と、クラウスはネリーの問いかけから逃げるようにさくらへ語りかけた。
「しっかし、さくら。獣母信奉派のことも知らないのか?前から思っていたがお前知識無さ過ぎだろ」
「仕方ないよ。だってさくらちゃんの出身は…むぐっ!」
ネリーの口を慌てて塞ぐアイナ。眉をひそめるクラウスだったが、そんな彼の背後から元気な声が飛んできた。
「よっすクラウス!」
「ん…? お!ワルワス!」
現れたのはかつて代表戦で刃を交えた鳥人、ワルワス・バルダ。男がもう一人来てくれたことにクラウスはほっと息をつく。ワルワスはそんな彼の肩をバンバン叩いた。
「いやー本当に来てくれるとはな!」
「ジョージ先生にお願いしたら二つ返事だったんだよ。なんでもこいつらがついていくからってな」
親指で女子陣を指すクラウス。ワルワスはその中にいるさくらを見止めると声を上げた。
「おー!さくら。お前も来てたのか!なんだよクラウス、ハーレムじゃんか!」
んなわけないだろ。と顔を歪めるクラウスを余所に、ワルワスはキョロキョロと辺りを見回した。
「メストさんはいないのか?」
代表戦出場者が三人中二人もいればそう思うのも当然だろう。彼女は来ていないことを伝えると、ワルワスは少し残念そうな顔を浮かべた。
「そうなのか。空飛ぶ俺をいともたやすく仕留めた秘訣を教わりたかったんだけどな。まあいいや、どっか遊びに行かないか?」
「だめー! 『勝手な行動をしない』ってリュウザキ先生と約束したんだもん!監督役の人が来るの待ってて!」
誘うワルワスに向けブンブンと顔を横に振るネリー。
「いいじゃんか。ちょっとそこいらに出るだけだぜ」
「この間勝手な行動しちゃって先生達に迷惑をかけちゃったの。だから、ごめんねワルワスくん」
アイナの真剣な表情を見て、ワルワスは仕方ないなと引き下がった。
「えっ、あの喫茶店移転したの?」
「おう、大通りにほうにな。でも店内の様子は変わりないぞ」
地元民同士楽しそうに話し合うモカとワルワス。彼の勧めもあり、これから観光予定ルートをちょこちょこ調整していく。既にさくら達の中には『情報収集』という表向きの仕事意識すら消えかけていた。
暇だった時間も、ワルワスが語るモンストリアの話で大分潤い、気づけばお昼時。と、そこに…。
「待たせたな」
現れたのはシベルとマーサ。確か怪我人の治療に向かっていたはずだが…。さくらはなんとはなしに聞いてみた。
「お仕事のほうは良いんですか?」
「あぁ。既に怪我人はほとんど治っていた。残りも他のメンバーで対処が可能だ。なにかあれば連絡するよう頼んでおいたし、先生との約束通りお前たちの監督は俺らが務めよう」
「あら?そちらの子は?」
「ワルワス・バルダと言います。代表戦ではモンストリア代表として参加していました。ご一緒して宜しいですか?」
意外と礼儀正しく挨拶するワルワス。マーサは微笑み了承した。
「私は構いませんよ。シベルはどう?」
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ということで、さくら達にシベルマーサ、ワルワスを加えた一行はようやく街へと繰り出した。
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