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―2人の治癒魔術講師―
240話 battle2 辻癒し勝負
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「道行く皆さーん、身体にお怪我はされていませんかー? 今ならなんと学園の治癒魔術の先生が治してくれますよー!」
手に『怪我を診ます』と書かれた看板を持ち、声高々に呼び込むネリーとさくら。ここは街の広場が一つ。シベル達は医療道具や椅子を空いている場所に設置し、簡易医務室を作り上げた。
『辻癒し勝負』。聞くところによると、どうやら過去に喧嘩する2人を見兼ねて竜崎が提案した(してしまった)代物らしい。その内容は来た人の怪我の度合いや個数をどれだけ治せたかを競うものである。
とはいえ学園の教員2人による突然の奇行。人々は「なんだあれ…」と彼らの様子を恐る恐る窺っていた。
このままでは勝負にならない。どう人を呼べばいいか悩むさくら達。そんな彼女達に訝しむ声が。
「何してるの?」
「シベル先生とマーサ先生だよね、あれ」
「あ!アイナとモカ!」
バイト…もとい給仕のクエストをしていたはずの2人。どうやら広場の一角にあるお店で働いていたらしい。丁度終わったところらしく、騒ぎを聞きつけ見に来てくれたようだ。
「実はね…」
彼女達に事情を話すさくら。するとアイナ達は丁度良かったと喜んだ。
「実はさっき、お客さんが割った食器を片付けてたら指切っちゃって…」
「私も、熱いの運んでいる時に軽い火傷しちゃった」
それを聞き、これ幸いと2人を連れ込むさくら達。暇していたシベル達の手により怪我はあっという間に治された。
それを皮切りに、1人、また1人と近づいてくる人が。アイナとモカに列の管理を頼み、さくらはシベル、ネリーはマーサの計測に周った。ようやく勝負の開始である。
「怪我の度合い1、箇所3つだ」
「怪我の度合い1が一つ、度合い2が一つです」
シベル達は患者の怪我度合いを判断し、治しながら伝える。さくら達はそれを事前に渡されていた計測用紙に書き込んでいく。
「なんか学校に来てた歯科検診のお医者さん達みたい…」
さくらは思わずそう呟く。シベルの後ろでメモをとる自分の今の状況が、歯科医師の後ろでよくわからない歯の番号やら状態やらを記録しているあの助手の人に思えたのだ。
切り傷、打撲、火傷に二日酔い…。病院に行くほどではないが、痛くてたまらない怪我はごまんとある。それを治してもらえるならばと次第に人は増えていく。
「あれ…?」
と、さくらはあることに気づく。シベルとマーサ、2人並んで治療しているというのに列の長さがおかしい。マーサの方が長いのだ。
それは少しずつ顕著になり、シベルのほうには閑古鳥が鳴き始める。一体何が…首を捻るさくらだが、シベルは理由がわかっているようで溜息をついた。
「チッ…そうだった、こうなるんだった」
「どういうことなんですか?」
「俺の顔だよ。怖いからって皆マーサのほうに行くんだ」
「あぁ…」
さくらは納得してしまう。来ている患者はほとんどが緊急性の無いもの。そして、聖母のように優しく美しいシスターと強面の獣人男性が並んでいたら誰も彼も選ぶ方は決まっている。
「仕方ない、前と同じ方法で行くか」
並ぶ人がいなくなったタイミングを見計らって、シベルは素早く道具を片付け始める。
「え、何を…?」
「河岸を変える。すまないがついて来てくれ」
さくら、そして列を管理していたモカはとりあえず頷く。すると、シベルは2人をひょいと小脇に抱えた。
「急ぐぞ」
「「え、ちょっ…!」」
さくら達が止めるのも聞かず、シベルは獣人の力で勢いよく走りだした。
「よし、ここだ」
「あーびっくりした…ここって」
「調査隊の本部、だよね」
ようやく降ろしてもらえたさくら達が顔を上げると、そこは学院に付属する調査隊本部。シベルはそこで簡易医務室を再度設営した。
「何でここなんですか?」
「怪我をしている者はここが一番多いからな。それに、俺の顔もここでは目立たない」
なるほど。調査隊では魔獣と戦ったり、危険な地に潜ったりと生傷絶えぬクエストばかり。当然それを受け帰ってきた傭兵達は街中にいる人達の何倍もの傷を負っている。点数稼ぎにはもってこいである。
そして、戦いに身を投じる彼らは総じて顔つきが険しい。シベルより怖い顔つきの人も幾らでもいる。そんな人達の相手をするのは少し怖いが、さくら達はお手伝いに励むことに。
「怪我の度合い1が20、度合い2が20、度合い3が一つだ」
明らかに一人当たりの怪我数が増えている。そして回復魔術は聖魔術に比べて詠唱が楽、つまりかなりの速度で傷が治されていく。一気に遅れを取り戻せたが、代わりにさくらはひたすらメモに追われることになった。
そんな中、とある傭兵が入ってくる。その人物の怪我を診て、シベルは少し表情を変えた。
「む、これは呪いの魔術によるものだな。回復魔術だと時間がかかり、痛みも走る。今なら街の広場で俺と同じことをしている女がいるから、そっちに行くことをお勧めする。精霊に案内させよう。鎮痛魔術だけかけておくぞ」
問診と所感を纏めた紹介状を渡し、患者を見送るシベル。さくらは恐る恐る聞いてみた。
「良いんですか?マーサさんのところに行かせて」
「あの怪我ならば、あいつのほうが痛みなく素早く治癒させることが出来るからな。治癒魔術は使い分けが重要だ」
「…」
唖然とするさくら。と、彼女の背後から声がかけられた。
「あのー…。広場のシスターさんからここにいる獣人の先生に傷を治してもらえると言われてきたんですけど…」
さくらがそちらを見やると、精霊を連れた農夫然とした姿の人。手には紹介状を持っていた。シベルはそれを見止めると手招きをした。
「その紹介状を見せてみろ。 全身に渡る細かな擦過傷か、茨に突っ込んだようだな。鎮痛魔術もかけてあるか。効果が切れないうちに治してやる」
次に待っていた人に詫びを入れ、回復魔術を施していくシベル。瞬く間に傷は治された。その様子を見ていたさくらはボソリと呟いた。
「…なんでこの2人、喧嘩しているんだろう…」
顔を合わせればそりが合わないといがみ合うシベルとマーサ。しかし、相手の魔術の利点をしっかり理解してもいる。その事実にさくらは眉を潜めるばかりだった。
手に『怪我を診ます』と書かれた看板を持ち、声高々に呼び込むネリーとさくら。ここは街の広場が一つ。シベル達は医療道具や椅子を空いている場所に設置し、簡易医務室を作り上げた。
『辻癒し勝負』。聞くところによると、どうやら過去に喧嘩する2人を見兼ねて竜崎が提案した(してしまった)代物らしい。その内容は来た人の怪我の度合いや個数をどれだけ治せたかを競うものである。
とはいえ学園の教員2人による突然の奇行。人々は「なんだあれ…」と彼らの様子を恐る恐る窺っていた。
このままでは勝負にならない。どう人を呼べばいいか悩むさくら達。そんな彼女達に訝しむ声が。
「何してるの?」
「シベル先生とマーサ先生だよね、あれ」
「あ!アイナとモカ!」
バイト…もとい給仕のクエストをしていたはずの2人。どうやら広場の一角にあるお店で働いていたらしい。丁度終わったところらしく、騒ぎを聞きつけ見に来てくれたようだ。
「実はね…」
彼女達に事情を話すさくら。するとアイナ達は丁度良かったと喜んだ。
「実はさっき、お客さんが割った食器を片付けてたら指切っちゃって…」
「私も、熱いの運んでいる時に軽い火傷しちゃった」
それを聞き、これ幸いと2人を連れ込むさくら達。暇していたシベル達の手により怪我はあっという間に治された。
それを皮切りに、1人、また1人と近づいてくる人が。アイナとモカに列の管理を頼み、さくらはシベル、ネリーはマーサの計測に周った。ようやく勝負の開始である。
「怪我の度合い1、箇所3つだ」
「怪我の度合い1が一つ、度合い2が一つです」
シベル達は患者の怪我度合いを判断し、治しながら伝える。さくら達はそれを事前に渡されていた計測用紙に書き込んでいく。
「なんか学校に来てた歯科検診のお医者さん達みたい…」
さくらは思わずそう呟く。シベルの後ろでメモをとる自分の今の状況が、歯科医師の後ろでよくわからない歯の番号やら状態やらを記録しているあの助手の人に思えたのだ。
切り傷、打撲、火傷に二日酔い…。病院に行くほどではないが、痛くてたまらない怪我はごまんとある。それを治してもらえるならばと次第に人は増えていく。
「あれ…?」
と、さくらはあることに気づく。シベルとマーサ、2人並んで治療しているというのに列の長さがおかしい。マーサの方が長いのだ。
それは少しずつ顕著になり、シベルのほうには閑古鳥が鳴き始める。一体何が…首を捻るさくらだが、シベルは理由がわかっているようで溜息をついた。
「チッ…そうだった、こうなるんだった」
「どういうことなんですか?」
「俺の顔だよ。怖いからって皆マーサのほうに行くんだ」
「あぁ…」
さくらは納得してしまう。来ている患者はほとんどが緊急性の無いもの。そして、聖母のように優しく美しいシスターと強面の獣人男性が並んでいたら誰も彼も選ぶ方は決まっている。
「仕方ない、前と同じ方法で行くか」
並ぶ人がいなくなったタイミングを見計らって、シベルは素早く道具を片付け始める。
「え、何を…?」
「河岸を変える。すまないがついて来てくれ」
さくら、そして列を管理していたモカはとりあえず頷く。すると、シベルは2人をひょいと小脇に抱えた。
「急ぐぞ」
「「え、ちょっ…!」」
さくら達が止めるのも聞かず、シベルは獣人の力で勢いよく走りだした。
「よし、ここだ」
「あーびっくりした…ここって」
「調査隊の本部、だよね」
ようやく降ろしてもらえたさくら達が顔を上げると、そこは学院に付属する調査隊本部。シベルはそこで簡易医務室を再度設営した。
「何でここなんですか?」
「怪我をしている者はここが一番多いからな。それに、俺の顔もここでは目立たない」
なるほど。調査隊では魔獣と戦ったり、危険な地に潜ったりと生傷絶えぬクエストばかり。当然それを受け帰ってきた傭兵達は街中にいる人達の何倍もの傷を負っている。点数稼ぎにはもってこいである。
そして、戦いに身を投じる彼らは総じて顔つきが険しい。シベルより怖い顔つきの人も幾らでもいる。そんな人達の相手をするのは少し怖いが、さくら達はお手伝いに励むことに。
「怪我の度合い1が20、度合い2が20、度合い3が一つだ」
明らかに一人当たりの怪我数が増えている。そして回復魔術は聖魔術に比べて詠唱が楽、つまりかなりの速度で傷が治されていく。一気に遅れを取り戻せたが、代わりにさくらはひたすらメモに追われることになった。
そんな中、とある傭兵が入ってくる。その人物の怪我を診て、シベルは少し表情を変えた。
「む、これは呪いの魔術によるものだな。回復魔術だと時間がかかり、痛みも走る。今なら街の広場で俺と同じことをしている女がいるから、そっちに行くことをお勧めする。精霊に案内させよう。鎮痛魔術だけかけておくぞ」
問診と所感を纏めた紹介状を渡し、患者を見送るシベル。さくらは恐る恐る聞いてみた。
「良いんですか?マーサさんのところに行かせて」
「あの怪我ならば、あいつのほうが痛みなく素早く治癒させることが出来るからな。治癒魔術は使い分けが重要だ」
「…」
唖然とするさくら。と、彼女の背後から声がかけられた。
「あのー…。広場のシスターさんからここにいる獣人の先生に傷を治してもらえると言われてきたんですけど…」
さくらがそちらを見やると、精霊を連れた農夫然とした姿の人。手には紹介状を持っていた。シベルはそれを見止めると手招きをした。
「その紹介状を見せてみろ。 全身に渡る細かな擦過傷か、茨に突っ込んだようだな。鎮痛魔術もかけてあるか。効果が切れないうちに治してやる」
次に待っていた人に詫びを入れ、回復魔術を施していくシベル。瞬く間に傷は治された。その様子を見ていたさくらはボソリと呟いた。
「…なんでこの2人、喧嘩しているんだろう…」
顔を合わせればそりが合わないといがみ合うシベルとマーサ。しかし、相手の魔術の利点をしっかり理解してもいる。その事実にさくらは眉を潜めるばかりだった。
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