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―2人の治癒魔術講師―
237話 治癒魔術(聖魔術)講師 マーサ
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「では、皆さん。お配りしたロザリオを手に、祈りを捧げましょう」
教師役の合図に、さくら含む生徒達は目を瞑り祈る。教室は静まり返り、衣擦れの音すらほとんどしない。
「私達が祈りを捧げる方は、『神聖国家メサイア』に御座します『聖なる魔神』、『メサイア』様です。彼女は祈りある全ての者に祝福を授けてくださいます」
そんな中、さくらは薄く目を開け前を見る。黒板に張られているのは大きな一枚の絵。そこに描かれているのは純白の衣を纏い、白き翼を幾枚も背に宿し、神々しく輝く天使の輪の様なものを頭上に浮かべた女性の姿。その美しさはどんな遠くからでもわかるほどで、もし元の世界ならば有名美術館の目玉にでもなっていたであろう。
その絵に視線が惹きつけられ、思わずぼーっと眺めてしまうさくら。と―。
ぺんっ
「あうっ…」
さくらのおでこが優しく押される。そして優しく叱る声が。
「めっ、ですよさくらさん。メサイア様が美しいのはわかりますが、今は集中して頂かないと。聖魔術は『祈り』こそが全ての核なのですから」
「ご、ごめんなさい…」
それで我に返ったさくらは、改めて教師の顔を見る。先程受けた回復魔術のシベル先生は男性獣人だったが、彼女は人間の女性であった。
見た目を一言でいえば、シスター。教会で神に祈るあの人々である。敬虔な乙女という言葉がぴったりの風貌の彼女は、さくらが謝るのを聞くと微笑みを浮かべた。
「とはいえ、さくらさんにとって初めての聖魔術の授業。興味を持っていただけて嬉しいです」
そしてやはりあるのが実習。ただし、回復魔術の授業と違うところがある。それは、渡されたのがナイフと水が入った小瓶ということである。
「では、実習に移ります。その小瓶の中身は『聖水』です。熟達した聖魔術使いにしか作れない物ですが、これに少しの聖魔術を付与して使うことで回復薬や解毒薬、消毒薬といった様々な効果をもたらします。もし傷が治らない場合はこれをお使いください」
軽く説明を挟んだマーサはそこで一呼吸置く。そしてゆっくりと、少し申し訳なさそうに口を開いた。
「皆さん毎回お辛いでしょうが、これも聖魔術を学ぶため。メサイア様を信じて自らの身体に傷をおつけください」
どうやら、この授業は自身の肉体だけで実習を行うようだ。とはいえ有難いことに、さくらは先程そのやり方を少しだけ学んだ。それでも自分の腕に刃を入れることはかなり抵抗があるが…。
「うっ…!」
ほんの僅か、チッと腕は切れる。自分でやるのは初めてだったが、この状態を見るのは二度目。痛くはあるが上手く行ったようだ。落ち着いて、聖魔術を詠唱するが…。
「あれ…!?」
ところが、傷が塞がらない。さっきは上手く出来たのに…!焦るさくらを煽るように、腕の上の血はぷっくりと小さい半球を作る。それを見てさらに動揺してしまい―。
「まずはゆっくりと深呼吸を。そして、あの絵に描かれたお方に治癒の加護をお祈りください」
と、マーサの声。さくらは指示通り息を深く吸い、祈る。どこかにいるメサイア様。どうかこの傷を治してください―!
すると、怪我の位置にどこからともなく光が差す。ジュウウと音が聞こえた気がし、傷はかさぶたへと変わった。
「その調子ですよ、さくらさん」
にこりと笑い、マーサは他の生徒の元へ。さくらはそんな彼女を目で追う。丁度、生徒の1人が彼女を呼び止めた。
「あ、あの…マーサ先生…」
「どうしました?」
「やっぱり切るのが怖くて…」
ナイフを手に震える生徒。当然であろう。誰もかれもが自身に刃を当てることを良しとするわけがない。どう対応するのか気になったさくらが見ていると―。
「そうですか。わかりました」
軽く返事をしたマーサはナイフを受け取ると、迷うことなく自分の手の甲を切った。
「それでは、この傷を治してもらってよろしいですか? …そうです、メサイア様を思い浮かべて…段々痛くなくなってきました。上手ですね」
自らの身体を差し出し、痛みをおくびにも出さない。そして慈愛を湛えた表情で生徒を宥め励ますマーサ。そんな彼女の姿はまさに聖母の如く、であった。
教師役の合図に、さくら含む生徒達は目を瞑り祈る。教室は静まり返り、衣擦れの音すらほとんどしない。
「私達が祈りを捧げる方は、『神聖国家メサイア』に御座します『聖なる魔神』、『メサイア』様です。彼女は祈りある全ての者に祝福を授けてくださいます」
そんな中、さくらは薄く目を開け前を見る。黒板に張られているのは大きな一枚の絵。そこに描かれているのは純白の衣を纏い、白き翼を幾枚も背に宿し、神々しく輝く天使の輪の様なものを頭上に浮かべた女性の姿。その美しさはどんな遠くからでもわかるほどで、もし元の世界ならば有名美術館の目玉にでもなっていたであろう。
その絵に視線が惹きつけられ、思わずぼーっと眺めてしまうさくら。と―。
ぺんっ
「あうっ…」
さくらのおでこが優しく押される。そして優しく叱る声が。
「めっ、ですよさくらさん。メサイア様が美しいのはわかりますが、今は集中して頂かないと。聖魔術は『祈り』こそが全ての核なのですから」
「ご、ごめんなさい…」
それで我に返ったさくらは、改めて教師の顔を見る。先程受けた回復魔術のシベル先生は男性獣人だったが、彼女は人間の女性であった。
見た目を一言でいえば、シスター。教会で神に祈るあの人々である。敬虔な乙女という言葉がぴったりの風貌の彼女は、さくらが謝るのを聞くと微笑みを浮かべた。
「とはいえ、さくらさんにとって初めての聖魔術の授業。興味を持っていただけて嬉しいです」
そしてやはりあるのが実習。ただし、回復魔術の授業と違うところがある。それは、渡されたのがナイフと水が入った小瓶ということである。
「では、実習に移ります。その小瓶の中身は『聖水』です。熟達した聖魔術使いにしか作れない物ですが、これに少しの聖魔術を付与して使うことで回復薬や解毒薬、消毒薬といった様々な効果をもたらします。もし傷が治らない場合はこれをお使いください」
軽く説明を挟んだマーサはそこで一呼吸置く。そしてゆっくりと、少し申し訳なさそうに口を開いた。
「皆さん毎回お辛いでしょうが、これも聖魔術を学ぶため。メサイア様を信じて自らの身体に傷をおつけください」
どうやら、この授業は自身の肉体だけで実習を行うようだ。とはいえ有難いことに、さくらは先程そのやり方を少しだけ学んだ。それでも自分の腕に刃を入れることはかなり抵抗があるが…。
「うっ…!」
ほんの僅か、チッと腕は切れる。自分でやるのは初めてだったが、この状態を見るのは二度目。痛くはあるが上手く行ったようだ。落ち着いて、聖魔術を詠唱するが…。
「あれ…!?」
ところが、傷が塞がらない。さっきは上手く出来たのに…!焦るさくらを煽るように、腕の上の血はぷっくりと小さい半球を作る。それを見てさらに動揺してしまい―。
「まずはゆっくりと深呼吸を。そして、あの絵に描かれたお方に治癒の加護をお祈りください」
と、マーサの声。さくらは指示通り息を深く吸い、祈る。どこかにいるメサイア様。どうかこの傷を治してください―!
すると、怪我の位置にどこからともなく光が差す。ジュウウと音が聞こえた気がし、傷はかさぶたへと変わった。
「その調子ですよ、さくらさん」
にこりと笑い、マーサは他の生徒の元へ。さくらはそんな彼女を目で追う。丁度、生徒の1人が彼女を呼び止めた。
「あ、あの…マーサ先生…」
「どうしました?」
「やっぱり切るのが怖くて…」
ナイフを手に震える生徒。当然であろう。誰もかれもが自身に刃を当てることを良しとするわけがない。どう対応するのか気になったさくらが見ていると―。
「そうですか。わかりました」
軽く返事をしたマーサはナイフを受け取ると、迷うことなく自分の手の甲を切った。
「それでは、この傷を治してもらってよろしいですか? …そうです、メサイア様を思い浮かべて…段々痛くなくなってきました。上手ですね」
自らの身体を差し出し、痛みをおくびにも出さない。そして慈愛を湛えた表情で生徒を宥め励ますマーサ。そんな彼女の姿はまさに聖母の如く、であった。
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