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―風の高位精霊―
233話 感じ取れた魔力
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「あらあら、あらあら? どうしたの? もしかして、ひょっとして、来た理由は違ったの?」
自身の胸に抱かれているさくらの呆けたような表情、そして竜崎の苦笑いを見て、エーリエルは歌うような口調のまま首を傾げる。
「てっきり私、家が恋しいさくらちゃんに、故郷の風を楽しませに、来たものだと思ったの」
―すまないな、エーリエル。今日の用事はそれじゃない。別に清人の時と同じことをしなくても良いぞ―
クスクスと笑いながらニアロンは否定する。それはどういう―、思わずそう聞こうとしたさくらを遮るように竜崎は咳払いした。
「ちょっと力を貸してほしくてね。シルブを呼んで欲しいんだ」
今回の目的、それは先程生まれたシルブに籠められた魔力を調査すること。とはいえ風の精霊は世界中を自由に揺蕩っており、捕獲は難しいということはさくらも授業で習っていた。
だからこそ、風精霊達の元締めであるエーリエルの元に赴き、呼び出してもらいに来たのだ。他の上位精霊達と違い、空を飛ぶシルブ達は高位精霊の呼びかけに応じることが可能なのである。
「あらあら良いわよ、わかったわ。一体どの子を呼びたいの?」
「今日の朝方に、魔王城付近で発生した竜巻から生まれた子なんだけど。わかる?」
「えぇ勿論よ、簡単よ。あの子達なら近くにいるわ」
抱きしめていたさくらを離し、エーリエルは天を仰ぐ。すると、またも風の流れは変わり、周りを囲む竜巻の一部にぽっかりと大穴が空く。
「「ケェエエン!」」
そこから大きな翼をはためかせ、現れたのは二体のシルブ。エーリエルの横に傅くように止まった。
「はいどうぞ、お好きなように」
「ありがとうエーリエル。 ニアロン、頼んだ」
―あぁ―
羽を畳み、大人しく待つシルブの元に近寄った竜崎は、ニアロンをシルブへと憑りつかせる。
―ふむ…これは…―
暫くシルブの身体に手を当てていたニアロンだが、確認が終わったのかふわりと竜崎の身体に戻ってきた。
「どうだった? 亡くなった元魔王軍の人達と一致した?」
―あぁ、確かに奴らの魔力は感じ取れたぞ。もしもの時のために生きているうちに確認していてよかった。だが、一つ該当しない魔力の感覚があったな―
「お、それは良い。いや悪いのか?」
その『該当しない魔力』は、禁忌魔術を行使した魔術士の者である可能性が高い。しかし遺体の中に該当する魔力の持ち主がいないということは、その『謎の魔術士』は逃げたということでもある。
「まあとりあえず手がかりは掴めたか。それを忘れないようにしてくれ。後で魔王城に報告をしよう」
―あぁ…そうだな…―
「? どうした?」
何故か生返事のニアロン。竜崎が問うと、彼女は記憶の奥底を探るように呟いた。
―いや…この魔力、以前何処かで触れた気がしてな…―
「なんだって!? 誰のだかわかるか?」
―間違いなく知り合いではないな…。最近の記憶ではないし、洞窟に囚われる前のものでもない。ただの勘違いか?―
うーんうーんと唸るニアロン。だが結局思い出すことが出来なかったのか、半ば思考放棄気味に叫んだ。
―わからん!あれほどの魔術を使えるやつだ。いずれぶつかるだろうし、相対せばわかるだろ―
「おいおい…」
呆れ顔の竜崎。彼からの追及を逃れるように、ニアロンはもう一匹のシルブに乗り移る。と、彼女は少し驚いたような声をあげた。
―うん? このシルブ、ほとんどさくらの魔力で構成されてるな―
「えっ?」
竜崎達のやりとりをなんか鑑識みたいなだなとボーッと見ていたさくら。ニアロンの言葉に少し遅れて反応する。
「あらあらまあまあ、それほんと? ちょっと失礼さくらちゃん」
エーリエルはさくらの顔をそっと触る。と、周囲の空気が渦巻きさくらの身体を撫でた。
「くすぐったい…!」
この世界に来た時、ニアロンさんに初めてやられた魔術?に似ていると思いながら耐えるさくら。すぐにそれは終わり、エーリエルはさくらの頭を撫でると今度はシルブへ手を触れた。
「あらあらまあまあ、本当ね! この子の魔力はさくらちゃん!」
―そういえばあっちのほうにはさくらの魔力ほぼ無かったな―
「竜巻本体と、さくらさんの攻撃で相互的に生まれたという事か? そんなことあるのか」
首を捻る竜崎。そんな彼の頭をポンと触れ、ニアロンは笑みを浮かべた。
―なら丁度いい。さくらにはこいつがぴったりだろ―
「まあそれもそうか。上手く行けばそんな戦わなくとも認めてもらえるかもね」
「え? あの、何を…?」
妙な会話を交わす2人に、さくらは恐る恐る問う。するとニアロンは平然と答えた。
―折角来たんだ。シルブと契約を結ぶため、戦っていくだろう?―
自身の胸に抱かれているさくらの呆けたような表情、そして竜崎の苦笑いを見て、エーリエルは歌うような口調のまま首を傾げる。
「てっきり私、家が恋しいさくらちゃんに、故郷の風を楽しませに、来たものだと思ったの」
―すまないな、エーリエル。今日の用事はそれじゃない。別に清人の時と同じことをしなくても良いぞ―
クスクスと笑いながらニアロンは否定する。それはどういう―、思わずそう聞こうとしたさくらを遮るように竜崎は咳払いした。
「ちょっと力を貸してほしくてね。シルブを呼んで欲しいんだ」
今回の目的、それは先程生まれたシルブに籠められた魔力を調査すること。とはいえ風の精霊は世界中を自由に揺蕩っており、捕獲は難しいということはさくらも授業で習っていた。
だからこそ、風精霊達の元締めであるエーリエルの元に赴き、呼び出してもらいに来たのだ。他の上位精霊達と違い、空を飛ぶシルブ達は高位精霊の呼びかけに応じることが可能なのである。
「あらあら良いわよ、わかったわ。一体どの子を呼びたいの?」
「今日の朝方に、魔王城付近で発生した竜巻から生まれた子なんだけど。わかる?」
「えぇ勿論よ、簡単よ。あの子達なら近くにいるわ」
抱きしめていたさくらを離し、エーリエルは天を仰ぐ。すると、またも風の流れは変わり、周りを囲む竜巻の一部にぽっかりと大穴が空く。
「「ケェエエン!」」
そこから大きな翼をはためかせ、現れたのは二体のシルブ。エーリエルの横に傅くように止まった。
「はいどうぞ、お好きなように」
「ありがとうエーリエル。 ニアロン、頼んだ」
―あぁ―
羽を畳み、大人しく待つシルブの元に近寄った竜崎は、ニアロンをシルブへと憑りつかせる。
―ふむ…これは…―
暫くシルブの身体に手を当てていたニアロンだが、確認が終わったのかふわりと竜崎の身体に戻ってきた。
「どうだった? 亡くなった元魔王軍の人達と一致した?」
―あぁ、確かに奴らの魔力は感じ取れたぞ。もしもの時のために生きているうちに確認していてよかった。だが、一つ該当しない魔力の感覚があったな―
「お、それは良い。いや悪いのか?」
その『該当しない魔力』は、禁忌魔術を行使した魔術士の者である可能性が高い。しかし遺体の中に該当する魔力の持ち主がいないということは、その『謎の魔術士』は逃げたということでもある。
「まあとりあえず手がかりは掴めたか。それを忘れないようにしてくれ。後で魔王城に報告をしよう」
―あぁ…そうだな…―
「? どうした?」
何故か生返事のニアロン。竜崎が問うと、彼女は記憶の奥底を探るように呟いた。
―いや…この魔力、以前何処かで触れた気がしてな…―
「なんだって!? 誰のだかわかるか?」
―間違いなく知り合いではないな…。最近の記憶ではないし、洞窟に囚われる前のものでもない。ただの勘違いか?―
うーんうーんと唸るニアロン。だが結局思い出すことが出来なかったのか、半ば思考放棄気味に叫んだ。
―わからん!あれほどの魔術を使えるやつだ。いずれぶつかるだろうし、相対せばわかるだろ―
「おいおい…」
呆れ顔の竜崎。彼からの追及を逃れるように、ニアロンはもう一匹のシルブに乗り移る。と、彼女は少し驚いたような声をあげた。
―うん? このシルブ、ほとんどさくらの魔力で構成されてるな―
「えっ?」
竜崎達のやりとりをなんか鑑識みたいなだなとボーッと見ていたさくら。ニアロンの言葉に少し遅れて反応する。
「あらあらまあまあ、それほんと? ちょっと失礼さくらちゃん」
エーリエルはさくらの顔をそっと触る。と、周囲の空気が渦巻きさくらの身体を撫でた。
「くすぐったい…!」
この世界に来た時、ニアロンさんに初めてやられた魔術?に似ていると思いながら耐えるさくら。すぐにそれは終わり、エーリエルはさくらの頭を撫でると今度はシルブへ手を触れた。
「あらあらまあまあ、本当ね! この子の魔力はさくらちゃん!」
―そういえばあっちのほうにはさくらの魔力ほぼ無かったな―
「竜巻本体と、さくらさんの攻撃で相互的に生まれたという事か? そんなことあるのか」
首を捻る竜崎。そんな彼の頭をポンと触れ、ニアロンは笑みを浮かべた。
―なら丁度いい。さくらにはこいつがぴったりだろ―
「まあそれもそうか。上手く行けばそんな戦わなくとも認めてもらえるかもね」
「え? あの、何を…?」
妙な会話を交わす2人に、さくらは恐る恐る問う。するとニアロンは平然と答えた。
―折角来たんだ。シルブと契約を結ぶため、戦っていくだろう?―
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