231 / 391
―夜は更け、朝に―
230話 会議
しおりを挟む
「いやぁすごい魔術だった!」
「リュウザキ様の弟子はどの子も素晴らしいが、君はその中でも群を抜いているな!」
来賓客である各国要人にやんややんやと囲まれたさくらはただ笑うしかなかった。その集まり方は昨日の語り部をした際より格段に増えている。更には学園長達から今までの業績が語られ、彼女に集まる称賛の声は今までにないほど高まった。
「アリシャさぁん…」
次第に気恥ずかしくなったさくらは思わず横に控える勇者に助けを求める。すると彼女はさくらの頭をよしよしと撫でた。
「今のさくら、昔のキヨトみたい。かわいい」
所変わり、同時刻。魔王城中枢の会議室。ピンと張り詰めた空気が場を支配する。
「報告を」
魔王の言葉を合図に、集まっていた魔王軍の面々、そしてさくらの見守りをしている勇者以外の『勇者一行』面子は顔を引き締める。そんな中、賢者は臆することなく手を挙げた。
「ではワシから行こうかの。先程の竜巻、発生源の調査結果じゃ。リュウザキと共に現場を調査したんじゃが、妙な巨大魔法陣跡を見つけての。その術式は『禁忌魔術』に該当するものじゃった」
その言葉を聞き、ざわつく会議室。だが賢者はまだ序の口と言わんばかりに言葉を続けた。
「その魔法陣の上に覆いかぶさっていたのは大量の死体。先日の魔獣達じゃろう、異形の獣達がほとんどじゃったが、中には人間の死体も見受けられた。人、獣問わず全身を深く傷つけられ、その血を魔法陣が吸っていた」
想像したのか、幾人かが顔を顰める。賢者はそこで一旦言葉を切った。
「さて、ここからワシの報告は二つに分かれるが…先に『魔法陣にあった人の死体』の方から行こうかの。自ら刃を刺した者あり、顔を潰されている者あり、抵抗した痕跡を持つ者もありとその傷は多種多様じゃった。そしてその者達の正体なんじゃが…」
と、賢者は別の席に座る魔王軍兵に目配せをする。その兵は頷くと、手元の資料を捲り言葉を続けた。
「賢者様から指示を受け、遺体の調査を行いました。彼らの正体は『脱獄した元魔王軍の反乱者達』でした。その全員分の遺体を確認…つまり、昨日捕らえた反乱者達は全て死んでしまったということになります」
「何故!?」
「口封じということ…!?」
「脱獄させたというのにか!?」
会議室をどよめきが包む。脱獄犯が全て見つかったという安堵が少し、それを掻き消すほどの不可解な結果に驚愕がほとんどといった反応。賢者はそれを一旦抑え、言葉を続けた。
「もう一つ報告がある。リュウザキ」
「はい」
名指しを受けた竜崎は報告を引き継ぐ。
「竜巻の発生源と思しき魔法陣ですが、以前私が発見したとある術式と類似していました。魔界、『万水の地』で起きたとある生贄未遂事件。そこで用いられた魔術札にです」
「む、それはあの子達のか」
ラヴィの言葉に竜崎は頷いた。
「血によって発動し、天候を悪化させる魔術が刻まれた魔術札。恐らく今回発見された禁忌魔術を改造したものでしょう。その札を渡し、洗脳魔術を使った『謎の魔術士』は、少なくとも今回の騒動に関係していると思われます。『反魔王の人々』の敵か味方かは、現状不明ですが…。禁忌魔術を操れるとなれば転移魔術も簡単に扱える可能性が高く、脱獄を手引きしたのもその魔術士かもしれません」
彼の推測を聞きいる会議室。そんな中、今までふんふんと話を聞いていたソフィアが口を開いた。
「洗脳魔術と聞くと、アリシャバージルを襲ってミルスの爺様に追い払われた魔術士を思い出すわね。あれも確か盗賊達を脱獄、洗脳させて学園を襲わせたんでしょ? しかも反乱者達が持っていた『妙な鉱物』と同じものを持っていたと聞いてるし…そいつじゃないの?」
「かもしれんのう。じゃが魔術で顔を隠しておったせいでわからず仕舞いじゃ。せめてその鉱物の産地がわかれば良いのじゃが…」
と、賢者の言葉に補足するように兵の1人が手を挙げた。
「その件について報告を、捕えた反乱者達から回収した『謎の呪薬入り鉱物』、中の液体を確かめようとしたのですが、穴を開けた瞬間中身が全て蒸発し消え失せてしまいました。調べることは不可能かと」
情報源であるはずの反乱者達は死に、呪薬の正体は不明のまま。魔王は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「そうか…暫くは鉱物を頼りに調査を進めるしかないか。『レドルブ』近郊から連れてこられた獣達、『竜の生くる地』から攫われた竜、そして『万水の地』付近でも用いられた天候を操る魔術…敵は予想以上に各地に広がっている。…来賓として来た各国の代表を集めてくれ。この事態を全て伝え、警戒するように呼びかけよう。また、兵を再編し、各地の警邏体制を強化する!」
魔王の命を受け、兵は一斉に動き出す。と、魔王は賢者達に呼びかけた。
「ミルスパール、リュウザキ。2人は我が軍の学者を連れ、土の高位精霊『アスグラド』の元へ向かってくれ。彼ならば鉱物の正体に見当がつくかもしれない」
「わかった」
返事をして立ち上がる竜崎だが、それを賢者が止めた。
「まあ待てリュウザキよ。お前さんには『風易の地』、エーリエルの元へ向かってもらいたい」
「あぁ、さっき生まれたシルブの件ですね」
「さよう。さくらちゃんの力によって偶然生まれたようじゃが、あれなら上手く行けば魔法陣を作った魔術士の魔力が感じ取れるはずじゃ。魔法陣の方は血で汚れすぎていて判別は出来なかったしの」
「わかりました。では早速向かいます」
「リュウザキ様の弟子はどの子も素晴らしいが、君はその中でも群を抜いているな!」
来賓客である各国要人にやんややんやと囲まれたさくらはただ笑うしかなかった。その集まり方は昨日の語り部をした際より格段に増えている。更には学園長達から今までの業績が語られ、彼女に集まる称賛の声は今までにないほど高まった。
「アリシャさぁん…」
次第に気恥ずかしくなったさくらは思わず横に控える勇者に助けを求める。すると彼女はさくらの頭をよしよしと撫でた。
「今のさくら、昔のキヨトみたい。かわいい」
所変わり、同時刻。魔王城中枢の会議室。ピンと張り詰めた空気が場を支配する。
「報告を」
魔王の言葉を合図に、集まっていた魔王軍の面々、そしてさくらの見守りをしている勇者以外の『勇者一行』面子は顔を引き締める。そんな中、賢者は臆することなく手を挙げた。
「ではワシから行こうかの。先程の竜巻、発生源の調査結果じゃ。リュウザキと共に現場を調査したんじゃが、妙な巨大魔法陣跡を見つけての。その術式は『禁忌魔術』に該当するものじゃった」
その言葉を聞き、ざわつく会議室。だが賢者はまだ序の口と言わんばかりに言葉を続けた。
「その魔法陣の上に覆いかぶさっていたのは大量の死体。先日の魔獣達じゃろう、異形の獣達がほとんどじゃったが、中には人間の死体も見受けられた。人、獣問わず全身を深く傷つけられ、その血を魔法陣が吸っていた」
想像したのか、幾人かが顔を顰める。賢者はそこで一旦言葉を切った。
「さて、ここからワシの報告は二つに分かれるが…先に『魔法陣にあった人の死体』の方から行こうかの。自ら刃を刺した者あり、顔を潰されている者あり、抵抗した痕跡を持つ者もありとその傷は多種多様じゃった。そしてその者達の正体なんじゃが…」
と、賢者は別の席に座る魔王軍兵に目配せをする。その兵は頷くと、手元の資料を捲り言葉を続けた。
「賢者様から指示を受け、遺体の調査を行いました。彼らの正体は『脱獄した元魔王軍の反乱者達』でした。その全員分の遺体を確認…つまり、昨日捕らえた反乱者達は全て死んでしまったということになります」
「何故!?」
「口封じということ…!?」
「脱獄させたというのにか!?」
会議室をどよめきが包む。脱獄犯が全て見つかったという安堵が少し、それを掻き消すほどの不可解な結果に驚愕がほとんどといった反応。賢者はそれを一旦抑え、言葉を続けた。
「もう一つ報告がある。リュウザキ」
「はい」
名指しを受けた竜崎は報告を引き継ぐ。
「竜巻の発生源と思しき魔法陣ですが、以前私が発見したとある術式と類似していました。魔界、『万水の地』で起きたとある生贄未遂事件。そこで用いられた魔術札にです」
「む、それはあの子達のか」
ラヴィの言葉に竜崎は頷いた。
「血によって発動し、天候を悪化させる魔術が刻まれた魔術札。恐らく今回発見された禁忌魔術を改造したものでしょう。その札を渡し、洗脳魔術を使った『謎の魔術士』は、少なくとも今回の騒動に関係していると思われます。『反魔王の人々』の敵か味方かは、現状不明ですが…。禁忌魔術を操れるとなれば転移魔術も簡単に扱える可能性が高く、脱獄を手引きしたのもその魔術士かもしれません」
彼の推測を聞きいる会議室。そんな中、今までふんふんと話を聞いていたソフィアが口を開いた。
「洗脳魔術と聞くと、アリシャバージルを襲ってミルスの爺様に追い払われた魔術士を思い出すわね。あれも確か盗賊達を脱獄、洗脳させて学園を襲わせたんでしょ? しかも反乱者達が持っていた『妙な鉱物』と同じものを持っていたと聞いてるし…そいつじゃないの?」
「かもしれんのう。じゃが魔術で顔を隠しておったせいでわからず仕舞いじゃ。せめてその鉱物の産地がわかれば良いのじゃが…」
と、賢者の言葉に補足するように兵の1人が手を挙げた。
「その件について報告を、捕えた反乱者達から回収した『謎の呪薬入り鉱物』、中の液体を確かめようとしたのですが、穴を開けた瞬間中身が全て蒸発し消え失せてしまいました。調べることは不可能かと」
情報源であるはずの反乱者達は死に、呪薬の正体は不明のまま。魔王は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「そうか…暫くは鉱物を頼りに調査を進めるしかないか。『レドルブ』近郊から連れてこられた獣達、『竜の生くる地』から攫われた竜、そして『万水の地』付近でも用いられた天候を操る魔術…敵は予想以上に各地に広がっている。…来賓として来た各国の代表を集めてくれ。この事態を全て伝え、警戒するように呼びかけよう。また、兵を再編し、各地の警邏体制を強化する!」
魔王の命を受け、兵は一斉に動き出す。と、魔王は賢者達に呼びかけた。
「ミルスパール、リュウザキ。2人は我が軍の学者を連れ、土の高位精霊『アスグラド』の元へ向かってくれ。彼ならば鉱物の正体に見当がつくかもしれない」
「わかった」
返事をして立ち上がる竜崎だが、それを賢者が止めた。
「まあ待てリュウザキよ。お前さんには『風易の地』、エーリエルの元へ向かってもらいたい」
「あぁ、さっき生まれたシルブの件ですね」
「さよう。さくらちゃんの力によって偶然生まれたようじゃが、あれなら上手く行けば魔法陣を作った魔術士の魔力が感じ取れるはずじゃ。魔法陣の方は血で汚れすぎていて判別は出来なかったしの」
「わかりました。では早速向かいます」
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる