227 / 391
―夜は更け、朝に―
226話 更け行く夜 ~魔界の何処か~
しおりを挟む
所は変わり、昼間の戦場から少し離れた山中。街の灯りは遠く、闇に包まれたその場にドスンと何者かが着地する音が。
「ったく…突然戻ってきたと思ったら実験途中の竜を持っていきやがって。かと思いきや今度はいくら使いを出しても音沙汰無しときた。面倒な野郎だな」
ぶつぶつ言いながら手にしたランタンに火をつけたのは顔の見えぬほど深く赤いローブを纏った巨躯の男声。
「あ…? うおっ!?」
何とはなしに地面に視線を写した彼は思わず後ろに飛び逃げる。何故ならば、地一面にびっちりと大量の魔法陣が描かれていたからである。
「起動はしてねえな…?」
それを足先でつんつんと触り、動いていないことを確認するとこわごわ足を踏み出す巨躯の男。その先の闇の中から聞こえてくるガリガリと何かを引っ掻く音へと歩を進めた。
「いたいた、何してんだ兄弟。もう連中は魔王軍にとっ捕まっただろ?」
そこにいたのは一心不乱になって地面に魔術式を書いている、小汚いローブを纏った男性。彼は巨躯の男性を一瞥することなく、ただぼそりと呟いた。
「あの竜に施した魔術式、ニルザルルの権能を偶然にも弾いた。つまりこれを改良すれば…ここを…いやここを変えて…!」
「権能を!?マジかよ…。禁忌というだけはあるんだな」
巨躯の男性は驚いて大声を出したが、小汚いローブを纏った彼は気にすることなく魔術式を書いては消し、書いては消しを繰り返す。どうやら地面に残された魔法陣はその過程で作り出された失敗作のようである。
「ここで考えるのは構わねぇが、しっかり痕跡消してけよ?」
一応注意をする巨躯の男性。と、小汚いローブを纏った男性の様子がおかしい。四つん這いで魔術式を書き込んでいた彼だが、突然手にしていた魔道具を落とし、体の至る所を抑えながら丸まり始めた。
「ぐううっ…! あ゛っ…あ゛…」
悲鳴をあげる彼。小汚いローブには土汚れが付き、更に汚く。だが巨躯の男性はそれを見ても慌てることなく、やれやれと肩を竦めた。
「やっぱりか。兄弟、お前追加の花を持っていくの忘れてただろ。お前の今の身体は催眠効果のあるこれが無ければまともに動かねえんだから」
彼がポケットをゴソゴソと漁り取り出したのは極彩色の花数本。あの『魔界の薬草』である。うずくまる小汚いローブの男性は目の端でそれを捉えると、震える腕を必死に伸ばした。
「花を…花をよこせ…!」
「おらよ」
手渡されたその花を奪うように受け取ると、小汚いローブの男性は口の中に急いで突っ込む。少しの間ムシャムシャシャキシャキと咀嚼音が響き、食べ終わったのか彼はゆっくりと立ち上がった。
「痛みは治まったか?」
「あぁ…」
ふらつきながらも近場の岩に腰かける彼を見て、巨躯の男性は溜息をついた。
「しっかし、禁忌の転移術式を身体へ直に刻み込んだだけでなく、緊急時用に行使に必要な魔鉱物や薬品まで体内に仕込んでおくのはなぁ…。常軌を逸してるぜ」
「お前も似たようなものだろうが獣風情が!誰がその身体に改良してやったと思っている!」
癇に障ったのか、ブチ切れる小汚いローブ姿の男性。巨躯の男性はどうどう、と彼を宥めた。
「おーこわこわ。ったく、体調悪いと恐ろしいほどキレるんだから。昔からそこは変わらねえなぁ」
暫くし、痛みも完全に収まったのか立ち上がる小汚いローブの男性。地面の魔法陣を全て消し、巨躯の男性に目で促した。
「いくぞ」
「あ? どこに?」
「決まっているだろう。捕まった雑魚共のところだ」
「昼間反乱を起こした元魔王軍の連中か。助けるのか?」
「そんなわけない。あいつら、『竜巻』の禁忌魔術を借りていったのに使わずむざむざ捕まりやがった。牢から引きずり出して行使させる」
彼の回答に、巨躯の男性はへっと笑う。
「死んだ魔王の亡霊に憑りつかれた連中だ。現魔王に一矢報いるためなら命なんて簡単に捨てるだろうよ。…一応聞くが、怖気づいたらどうする?」
「洗脳でもして強制的に、だ」
「いつもの、だな。うっし、じゃあ行こうぜ!」
そう言葉を残し、彼らは闇の中に消えていった。
「ったく…突然戻ってきたと思ったら実験途中の竜を持っていきやがって。かと思いきや今度はいくら使いを出しても音沙汰無しときた。面倒な野郎だな」
ぶつぶつ言いながら手にしたランタンに火をつけたのは顔の見えぬほど深く赤いローブを纏った巨躯の男声。
「あ…? うおっ!?」
何とはなしに地面に視線を写した彼は思わず後ろに飛び逃げる。何故ならば、地一面にびっちりと大量の魔法陣が描かれていたからである。
「起動はしてねえな…?」
それを足先でつんつんと触り、動いていないことを確認するとこわごわ足を踏み出す巨躯の男。その先の闇の中から聞こえてくるガリガリと何かを引っ掻く音へと歩を進めた。
「いたいた、何してんだ兄弟。もう連中は魔王軍にとっ捕まっただろ?」
そこにいたのは一心不乱になって地面に魔術式を書いている、小汚いローブを纏った男性。彼は巨躯の男性を一瞥することなく、ただぼそりと呟いた。
「あの竜に施した魔術式、ニルザルルの権能を偶然にも弾いた。つまりこれを改良すれば…ここを…いやここを変えて…!」
「権能を!?マジかよ…。禁忌というだけはあるんだな」
巨躯の男性は驚いて大声を出したが、小汚いローブを纏った彼は気にすることなく魔術式を書いては消し、書いては消しを繰り返す。どうやら地面に残された魔法陣はその過程で作り出された失敗作のようである。
「ここで考えるのは構わねぇが、しっかり痕跡消してけよ?」
一応注意をする巨躯の男性。と、小汚いローブを纏った男性の様子がおかしい。四つん這いで魔術式を書き込んでいた彼だが、突然手にしていた魔道具を落とし、体の至る所を抑えながら丸まり始めた。
「ぐううっ…! あ゛っ…あ゛…」
悲鳴をあげる彼。小汚いローブには土汚れが付き、更に汚く。だが巨躯の男性はそれを見ても慌てることなく、やれやれと肩を竦めた。
「やっぱりか。兄弟、お前追加の花を持っていくの忘れてただろ。お前の今の身体は催眠効果のあるこれが無ければまともに動かねえんだから」
彼がポケットをゴソゴソと漁り取り出したのは極彩色の花数本。あの『魔界の薬草』である。うずくまる小汚いローブの男性は目の端でそれを捉えると、震える腕を必死に伸ばした。
「花を…花をよこせ…!」
「おらよ」
手渡されたその花を奪うように受け取ると、小汚いローブの男性は口の中に急いで突っ込む。少しの間ムシャムシャシャキシャキと咀嚼音が響き、食べ終わったのか彼はゆっくりと立ち上がった。
「痛みは治まったか?」
「あぁ…」
ふらつきながらも近場の岩に腰かける彼を見て、巨躯の男性は溜息をついた。
「しっかし、禁忌の転移術式を身体へ直に刻み込んだだけでなく、緊急時用に行使に必要な魔鉱物や薬品まで体内に仕込んでおくのはなぁ…。常軌を逸してるぜ」
「お前も似たようなものだろうが獣風情が!誰がその身体に改良してやったと思っている!」
癇に障ったのか、ブチ切れる小汚いローブ姿の男性。巨躯の男性はどうどう、と彼を宥めた。
「おーこわこわ。ったく、体調悪いと恐ろしいほどキレるんだから。昔からそこは変わらねえなぁ」
暫くし、痛みも完全に収まったのか立ち上がる小汚いローブの男性。地面の魔法陣を全て消し、巨躯の男性に目で促した。
「いくぞ」
「あ? どこに?」
「決まっているだろう。捕まった雑魚共のところだ」
「昼間反乱を起こした元魔王軍の連中か。助けるのか?」
「そんなわけない。あいつら、『竜巻』の禁忌魔術を借りていったのに使わずむざむざ捕まりやがった。牢から引きずり出して行使させる」
彼の回答に、巨躯の男性はへっと笑う。
「死んだ魔王の亡霊に憑りつかれた連中だ。現魔王に一矢報いるためなら命なんて簡単に捨てるだろうよ。…一応聞くが、怖気づいたらどうする?」
「洗脳でもして強制的に、だ」
「いつもの、だな。うっし、じゃあ行こうぜ!」
そう言葉を残し、彼らは闇の中に消えていった。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる