【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―かつての記憶―

219話 レドルブ奪還戦⑧

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「そりゃ!」

ガシャン!

重い一撃が骨を叩く音。迫る死霊兵相手にソフィアは拳を振るっていた。竜崎が目覚めた今、思う存分戦える。

しかし手にしているのは特製とはいえ即席のナックル。思うように相手を倒せない。それを見兼ねたのか、ニアロンが彼女を呼び寄せた。

―ソフィア、ちょっと手を出せ―

「え? こう?」

差し出されたナックルをニアロンはザッと撫でる。するとナックルを無数の岩棘が包み、更にはバチバチと雷光が輝いた。

―土と雷で強化しといたぞ。これで戦いやすくなるはずだ―

「ヒュゥ!ありがとニアロン!」

軽く口笛を吹き礼を言うソフィアを見て、ニアロンは微笑んだ。

―ようやく本調子に戻ったな。やはりお前は快活な姿が似合う―

それを聞き、竜崎もうんうんと頷いた。

「それでこそソフィアだよ」



今までの分を取り返すかのように戦うソフィア。それを援護しつつサラマンドを操る竜崎。雷と火が飛び交い、迫る死霊兵は打ち倒されていく。だが…。

「なんでこんなにいるの…!?」

いくらサラマンドが暴れようとも、次々と湧き出す死霊兵。逃げ道一本すら作れない。

「ヘェ…!そう動くんだ、そう戦うんだ…!ヒヒヒッ、面白い…」

一方のゴーリッチは死霊竜に寄りかかりながらニアロンのことを舐め回すように見つめていた。余裕綽々といった様子である。


―清人、ソフィア。あいつを叩きに行かないか?―

と、いい加減堪忍袋の緒が切れたのか、おでこに怒りマークを浮かべるニアロン。だがソフィア達は躊躇った。

「大丈夫なのかな。あれ一応、魔王軍の幹部なんでしょ?」

「このまま戦っていてもキリが無いのは確かだけど…」

―なに、ちょっと驚かす程度でいい。いい加減アリシャ達も探してくれている頃合いだろう。時間稼ぎだ―

ならこのまま戦い続けていたほうが良いのでは? ソフィアと竜崎の内心はそう一致していたが、ニアロンは姿を大人体形へと変えやる気満々。他に策はなく、かけてみることに。



「ウン?向かってくるんだ。じゃあこうしよう…!」

雑兵をサラマンドに任せ自身に迫るソフィア達を見て、ゴーリッチは魔導書を開く。すると…

ボゴゴッ!

足元から伸びるは沢山の骨の手。まるで雑草の如く生えてきたそれは竜崎達を絡めとろうと襲い来る。

「うわっキモッ!」

「ホラー映画みたい…!」

囲まれ思わず足を止めかけるソフィア達。だが、ニアロンだけは違った。

―この程度か?ハッ!―

鼻で笑った彼女は地面を勢いよく殴りつける。すると―。

ガガガガッ!

ニアロンを中心に地を衝撃波が駆け抜ける。伸びていた骨の手はその全てが吹き飛ばされ、粉々になった。

―いくぞ、2人共―

「「うん!」」

その隙を突き、ソフィア達は駆け出す。だがそれでも、ゴーリッチは笑みを消さなかった。

「フヒヒヒ…」

彼が顎をクイッと動かすと、控えていた死霊竜が暴れ出す。と、ソフィアが先行しその出だしを押さえた。

「こっちは私に任せて!」

「わかった!」

竜崎は地を蹴り、ゴーリッチに肉薄する。そして…。

―喰らえ!―
メキィ!

ニアロンの一撃がゴーリッチの顔にめり込む。その勢いでゴーリッチの身体は少し離れた位置に吹っ飛んだ。

「やったか!?」

その様子に竜崎はガッツポーズをしかける。しかし、それを否定したのはニアロンだった。

―いや、違う。あいつ…わざと喰らったな。しかも私の手を舐めてきた…!―

殴った、もとい舐められた手をピッピッと払いながら彼女は苦々し気に呟く。そんな中、倒れていたゴーリッチが悶え始めた。だが様子がおかしい。

「ヒ、ヒヒヒヒッヒッッ!痛い痛い痛ぁい! こんな感触なんだぁ!フヘヘヘヘッ!あんな味なんだぁ!」

悲鳴と言うより、嬌声。顔が大きく凹んでいるのにも関わらず興奮が極まっているといった様子である。

「決めた…!決めた…!もう少し待とう…!そうしたらもっと楽しくなるかもしれない…ヒッヒ‥!」

と、倒れていたゴーリッチの身体を死霊の魔獣が噛む。そして彼の奇妙な様子にドン引いていた竜崎の隙を突きそのままどこかへと走り始めた。

「友達が大事なら後ろを見たほうがいいよ?じゃ、またねェ!」

そんな意味深の言葉を残して。

「後ろ…!?」

ハッとした竜崎が急ぎ振り向くと同時だった。

バクンッ!

何かの噛みつき音が響く。なんとソフィアが死霊竜に噛みつかれ、その口内に閉じ込められていたのだ。



「ぐうっ…!」

唸るソフィア。骨だけとはいえ強化されている竜の顎、潰されないだけでも精一杯である。

「ソフィア!」

竜崎は急いで駆けよるが、ソフィアを噛んだ竜の首は持ち上がり、空中へと。これでは上手く助け出すことができない。

「どうすれば…!」

急ぎ思考を巡らす竜崎。するとソフィアの声が聞こえてきた。

「キヨト、ニアロン!サラマンドの攻撃が当たったところを狙って!ヒビ入ってる!」

どうやら噛みつかれたことで傷口が見えたらしい。竜崎はソフィアの指示通り暴れる竜の頭へと無理やり飛びついた。

「ここか…! ニアロンさん!」

―はっ!―

勢いよく殴りつけるニアロン。しかし、うまく壊れない。

「なんで…!?」

―外側が重点的に強化されているな。サラマンドの攻撃を止めるわけだ。だが、その分内側は粗雑なようだ―

「と、いうことは…」

―内側から壊すのが手っ取り早いな―

いやどうやって…竜崎はそう突っ込みかけたが、ソフィアは閃いたような声を出した。

「そうだ、爆弾で!」

「いやいやいやいや!!」

ソフィアの案に全力で首を振る竜崎。竜に噛まれ動けなくなっている現状、そんなことをしたら間違いなく彼女も爆発に巻き込まれる。

だが、ソフィアは退かなかった。

「きっと大丈夫よ!こんな時のために色々と機能はつけてあるから!」

「えぇ…。ほんとに大丈夫なの…?」

「ぶっちゃけ、わかんない! でも、この鎧の耐久度を確かめる良いチャンスじゃない?」

その言葉に唖然とする竜崎。そうこうしているうちに竜は飛び上がり、どこかへ向かおうとする。もしこのまま魔王軍の領地に連れていかれればどうなるかは明白。もう猶予はなかった。

「そういう危ない『ソフィアらしさ』は戻ってきてほしくなかったよ!」

「ごめーん! でもこの鎧、即席にしては自信あるの!信じて! あ、雷の付与だけ解除してもらっていい?」

「もう…! ニアロンさん、治癒魔術とかの用意もお願いします!」

―任せとけ―


竜崎は障壁を張り、すぐ動けるように待機。そしてソフィアは、腰についた爆弾を両ナックルの岩棘に上手く嵌めこんだ。

「ヒビの場所確認、良し。鎧の隙間完全封鎖、良し。ふうー…」

大きく息を吐くソフィア。性能を試すために自らが実験台になったのは過去にも幾度かあった。だがここまで危険なことは初めてかもしれない。下手したら…。

死ぬ気なのか? 思わず心の中で自分にそう問いかける。だが、すぐさまそれを鼻で笑い飛ばした。

「んなわけないじゃない。まだキヨトにまともなロボット作ってあげてないんだから! せーのっ!」

ガンッ! というナックルが竜頭にあたる音。そして…。

カッ!

頭骨の隙間から光が漏れ、直後、爆発音が轟いた。



「くっ…ソフィア!無事…うわっ!」

爆発の勢いで死霊竜は落下。大きくない骨はその地面に叩きつけられ粉々になっていく。竜崎も落ちてしまうが、なんとかニアロンに助けられ着地に成功した。

「ソフィア…!」

地面にドサリと落ちてきた竜頭に駆け寄る竜崎。ソフィアは魔術を使えないのだ。こんな高いとことから落ちれば無事では済まないだろう。急いで治癒を施そうと覗き込むが…。

「あれ…!? いない…!?」

よく見ると、竜頭の上顎は綺麗に吹っ飛んでいた。どこかに落ちたのかとキョロキョロ見回す竜崎だったが、ニアロンは笑いながら空を指さした。

―清人、あれを見ろ―

「え…? あっ!」

そこにいたのは背中の装甲を開き、パラシュートの様なものでふわりと降下してくる鎧の姿。ガシャンと着地すると、兜を勢いよく地面に脱ぎ捨てた。

「あッつい!火傷するかと思った! キヨト水かけて!」

「あ、うん。わかった…」





「そりゃ私空飛べないもの。高いところから落ちた時の対策ぐらい用意してるわよ」

「あーそうか。いやでも、そんな機構まで俺が気絶している間に仕込んでたの?凄すぎない?」

「フフン!これでも『才気煥発なる巧の者』として選ばれたんだからね」

瓦礫に腰かけ、ソフィア達は僅かな休息をとっていた。ソフィアのそんな言葉にふと、竜崎が笑いながら呟いた。

「ソフィアなら『ジェットパック』も作れちゃうのかもね」

「ロボットを空に飛ばすための機構だったわね。作ってみせましょうとも!」

歓談する彼ら。と、そこに…。

「ようやく見つけた。良かった」

スタンと降りてきたのは勇者達。

「2人共よく無事だった。…いや無事ではないのか」

「「アルサー様こそ大丈夫ですか?」」

ラヴィに肩を貸してもらいながら安堵するボロボロのアルサーに、ソフィア達は思わずそう返すのだった。
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