【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―かつての記憶―

213話 レドルブ奪還戦②

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ミルスパールの進言もあり、アルサーは他の参謀達に身張られる前提で隊の長となった。しかし、当然ながら不満の声も上がる。

当代魔王は暴君であり、息子であるアルサーが虐げられていたことは知られてはいた。だが彼は魔界からきたばかり。なのにその決定はあまりにも突然すぎた。もしかしたら魔王の命で人界側をかき回しにきたのではないか、そんな考えも広がり始めた。

だが、それは即座に杞憂となった。

「35番隊から40番隊は3番地区に展開!迎撃態勢をとれ。そのうちに手すきの兵を裏通りから忍ばせ敵軍の横を突け。迎撃をしている隊はそれを確認次第攻勢に転じよ!」

「高い建物は気をつけよ。魔王軍の常套手段として遠距離からの魔術狙撃がある。迂闊に近づかず、死角を狙え」

「幹部がでてきたか。兵を引き、用意した空き地へ誘導せよ。周囲の警戒を怠らぬように挟みこめ!無茶をするな、疲労させることを最優先とするのだ!」

次々と繰り出される的確な指示により、レドルブは次々と攻略されていったのだ。

それだけではない。彼は隙あらば前線に立ち、陣頭指揮をとりつつ念魔術で敵を屠る。つい先日まで同胞であったはずの魔王軍を打ち砕く彼は『魔王に反旗を翻す魔王の息子』という事実を兵に知らしめ、兵の信頼を一気に獲得した。


そしてそれを手伝っていたのが…。

「来たぞ!『勇者一行』だ!構…グアァアア!」

敵兵が武器を構える暇なく薙ぎ払われる。獣達が吼える暇なく潰される。アルサーの指示に即座に従い、最前線で武器を振るうは予言に示されし4人。その勇猛振りは凄まじく、彼らだけで大隊の戦果を凌ぐほど。その強さにあてられた人界軍は士気を高め、魔王軍は逆に追い込まれ始めた。



「帰還部隊、ご苦労であった。休息の用意をさせてある、英気を養ってくれ。交代部隊は情勢が少しでも変わり次第伝令を!通達してある危険地帯へは踏み込むなよ」

「「「はっ!」」」

前線に立ち、駆けていく兵を見送りながら、少し息をつくアルサー。そんな彼に少女の声がかけられる。

「アルサー様もご休憩を!お水と軽食お持ちいたしました」

「ん?確か君は学園長殿の…」

「ラヴィと申します。娘です!ささ、どうぞ」

「有難う。しかし、君の様な子がこのような前線に出て来て危険ではないか?」

「大丈夫です!私が無理を言ってママに着いてきたんです。私もママも本当は早くパパのいるオグノトスに行きたいんですけど、この惨状ですし、ママは隊の長にされちゃうし…。でもアルサー様が来てくださって良かったです。おかげでオグノトスに向かえる…」

そこまで言って、少女はハッと手を口に当てる。アルサーは微笑みながら彼女の頭を撫でた。

「気にするな。もし私がこのまま隊の長で入れたならば、オグノトスに真っ先へ向かえるよう口利きしよう。…父親が好きか?」

「はい!パパもママも大好きです!」

「そうか。その気持ち、大事にするんだぞ。…ところで背負っているその大きな斧は?まさか君も戦うのか?」

「勿論です、そのために来たんですから。 あ、歳のこと気にしてます?他の隊には私と同じぐらいの年の子が参加しているとも聞きますし!」

フンス、と二振りの斧を構え意気込むラヴィ。と、そこに慌てた様子の伝令兵が入ってきた。

「き、緊急事態です! 先程誘導した幹部『レオルド・タガー』が力づくで包囲網を破り、『アルサーはどこだ!』と叫びながらこちらへ接近してきています!」

「撤退を急げ! 包囲していた兵は別ルートで回収し、予言の一行に伝令を! それまでの時間を私が稼ぐ!指名が入ったようだしな」

戦闘準備を整えるアルサー。そこにラヴィが名乗りを上げた。

「私も一緒に行きます!」

「だが…」

「簡単に死ぬ気なんてありませんよ!」

彼女は梃子でも引かぬ気概を見せる。時間が無い今、アルサーは渋々了承した。

「ううむ…わかった。だが危険だと判断したらすぐに逃げるんだぞ?」

はっ!と兵士の真似をするラヴィに一抹の不安を覚えながら、アルサーは迫る幹部に立ち向かいに行った。
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