214 / 391
―かつての記憶―
213話 レドルブ奪還戦②
しおりを挟む
ミルスパールの進言もあり、アルサーは他の参謀達に身張られる前提で隊の長となった。しかし、当然ながら不満の声も上がる。
当代魔王は暴君であり、息子であるアルサーが虐げられていたことは知られてはいた。だが彼は魔界からきたばかり。なのにその決定はあまりにも突然すぎた。もしかしたら魔王の命で人界側をかき回しにきたのではないか、そんな考えも広がり始めた。
だが、それは即座に杞憂となった。
「35番隊から40番隊は3番地区に展開!迎撃態勢をとれ。そのうちに手すきの兵を裏通りから忍ばせ敵軍の横を突け。迎撃をしている隊はそれを確認次第攻勢に転じよ!」
「高い建物は気をつけよ。魔王軍の常套手段として遠距離からの魔術狙撃がある。迂闊に近づかず、死角を狙え」
「幹部がでてきたか。兵を引き、用意した空き地へ誘導せよ。周囲の警戒を怠らぬように挟みこめ!無茶をするな、疲労させることを最優先とするのだ!」
次々と繰り出される的確な指示により、レドルブは次々と攻略されていったのだ。
それだけではない。彼は隙あらば前線に立ち、陣頭指揮をとりつつ念魔術で敵を屠る。つい先日まで同胞であったはずの魔王軍を打ち砕く彼は『魔王に反旗を翻す魔王の息子』という事実を兵に知らしめ、兵の信頼を一気に獲得した。
そしてそれを手伝っていたのが…。
「来たぞ!『勇者一行』だ!構…グアァアア!」
敵兵が武器を構える暇なく薙ぎ払われる。獣達が吼える暇なく潰される。アルサーの指示に即座に従い、最前線で武器を振るうは予言に示されし4人。その勇猛振りは凄まじく、彼らだけで大隊の戦果を凌ぐほど。その強さにあてられた人界軍は士気を高め、魔王軍は逆に追い込まれ始めた。
「帰還部隊、ご苦労であった。休息の用意をさせてある、英気を養ってくれ。交代部隊は情勢が少しでも変わり次第伝令を!通達してある危険地帯へは踏み込むなよ」
「「「はっ!」」」
前線に立ち、駆けていく兵を見送りながら、少し息をつくアルサー。そんな彼に少女の声がかけられる。
「アルサー様もご休憩を!お水と軽食お持ちいたしました」
「ん?確か君は学園長殿の…」
「ラヴィと申します。娘です!ささ、どうぞ」
「有難う。しかし、君の様な子がこのような前線に出て来て危険ではないか?」
「大丈夫です!私が無理を言ってママに着いてきたんです。私もママも本当は早くパパのいるオグノトスに行きたいんですけど、この惨状ですし、ママは隊の長にされちゃうし…。でもアルサー様が来てくださって良かったです。おかげでオグノトスに向かえる…」
そこまで言って、少女はハッと手を口に当てる。アルサーは微笑みながら彼女の頭を撫でた。
「気にするな。もし私がこのまま隊の長で入れたならば、オグノトスに真っ先へ向かえるよう口利きしよう。…父親が好きか?」
「はい!パパもママも大好きです!」
「そうか。その気持ち、大事にするんだぞ。…ところで背負っているその大きな斧は?まさか君も戦うのか?」
「勿論です、そのために来たんですから。 あ、歳のこと気にしてます?他の隊には私と同じぐらいの年の子が参加しているとも聞きますし!」
フンス、と二振りの斧を構え意気込むラヴィ。と、そこに慌てた様子の伝令兵が入ってきた。
「き、緊急事態です! 先程誘導した幹部『レオルド・タガー』が力づくで包囲網を破り、『アルサーはどこだ!』と叫びながらこちらへ接近してきています!」
「撤退を急げ! 包囲していた兵は別ルートで回収し、予言の一行に伝令を! それまでの時間を私が稼ぐ!指名が入ったようだしな」
戦闘準備を整えるアルサー。そこにラヴィが名乗りを上げた。
「私も一緒に行きます!」
「だが…」
「簡単に死ぬ気なんてありませんよ!」
彼女は梃子でも引かぬ気概を見せる。時間が無い今、アルサーは渋々了承した。
「ううむ…わかった。だが危険だと判断したらすぐに逃げるんだぞ?」
はっ!と兵士の真似をするラヴィに一抹の不安を覚えながら、アルサーは迫る幹部に立ち向かいに行った。
当代魔王は暴君であり、息子であるアルサーが虐げられていたことは知られてはいた。だが彼は魔界からきたばかり。なのにその決定はあまりにも突然すぎた。もしかしたら魔王の命で人界側をかき回しにきたのではないか、そんな考えも広がり始めた。
だが、それは即座に杞憂となった。
「35番隊から40番隊は3番地区に展開!迎撃態勢をとれ。そのうちに手すきの兵を裏通りから忍ばせ敵軍の横を突け。迎撃をしている隊はそれを確認次第攻勢に転じよ!」
「高い建物は気をつけよ。魔王軍の常套手段として遠距離からの魔術狙撃がある。迂闊に近づかず、死角を狙え」
「幹部がでてきたか。兵を引き、用意した空き地へ誘導せよ。周囲の警戒を怠らぬように挟みこめ!無茶をするな、疲労させることを最優先とするのだ!」
次々と繰り出される的確な指示により、レドルブは次々と攻略されていったのだ。
それだけではない。彼は隙あらば前線に立ち、陣頭指揮をとりつつ念魔術で敵を屠る。つい先日まで同胞であったはずの魔王軍を打ち砕く彼は『魔王に反旗を翻す魔王の息子』という事実を兵に知らしめ、兵の信頼を一気に獲得した。
そしてそれを手伝っていたのが…。
「来たぞ!『勇者一行』だ!構…グアァアア!」
敵兵が武器を構える暇なく薙ぎ払われる。獣達が吼える暇なく潰される。アルサーの指示に即座に従い、最前線で武器を振るうは予言に示されし4人。その勇猛振りは凄まじく、彼らだけで大隊の戦果を凌ぐほど。その強さにあてられた人界軍は士気を高め、魔王軍は逆に追い込まれ始めた。
「帰還部隊、ご苦労であった。休息の用意をさせてある、英気を養ってくれ。交代部隊は情勢が少しでも変わり次第伝令を!通達してある危険地帯へは踏み込むなよ」
「「「はっ!」」」
前線に立ち、駆けていく兵を見送りながら、少し息をつくアルサー。そんな彼に少女の声がかけられる。
「アルサー様もご休憩を!お水と軽食お持ちいたしました」
「ん?確か君は学園長殿の…」
「ラヴィと申します。娘です!ささ、どうぞ」
「有難う。しかし、君の様な子がこのような前線に出て来て危険ではないか?」
「大丈夫です!私が無理を言ってママに着いてきたんです。私もママも本当は早くパパのいるオグノトスに行きたいんですけど、この惨状ですし、ママは隊の長にされちゃうし…。でもアルサー様が来てくださって良かったです。おかげでオグノトスに向かえる…」
そこまで言って、少女はハッと手を口に当てる。アルサーは微笑みながら彼女の頭を撫でた。
「気にするな。もし私がこのまま隊の長で入れたならば、オグノトスに真っ先へ向かえるよう口利きしよう。…父親が好きか?」
「はい!パパもママも大好きです!」
「そうか。その気持ち、大事にするんだぞ。…ところで背負っているその大きな斧は?まさか君も戦うのか?」
「勿論です、そのために来たんですから。 あ、歳のこと気にしてます?他の隊には私と同じぐらいの年の子が参加しているとも聞きますし!」
フンス、と二振りの斧を構え意気込むラヴィ。と、そこに慌てた様子の伝令兵が入ってきた。
「き、緊急事態です! 先程誘導した幹部『レオルド・タガー』が力づくで包囲網を破り、『アルサーはどこだ!』と叫びながらこちらへ接近してきています!」
「撤退を急げ! 包囲していた兵は別ルートで回収し、予言の一行に伝令を! それまでの時間を私が稼ぐ!指名が入ったようだしな」
戦闘準備を整えるアルサー。そこにラヴィが名乗りを上げた。
「私も一緒に行きます!」
「だが…」
「簡単に死ぬ気なんてありませんよ!」
彼女は梃子でも引かぬ気概を見せる。時間が無い今、アルサーは渋々了承した。
「ううむ…わかった。だが危険だと判断したらすぐに逃げるんだぞ?」
はっ!と兵士の真似をするラヴィに一抹の不安を覚えながら、アルサーは迫る幹部に立ち向かいに行った。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる