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―魔王の過去―
210話 若かりし『魔王』②
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アルサーが僅かに残った兵と逃げ出してからそう経たぬうちに、戦争は始まった。
いくら『観測者達』からの勧告があったとはいえ、人界側は完全に出遅れた。一方で魔王軍は魔界全土から徴兵を行い、禁忌魔術も交えた強大なる戦力で一気呵成に侵攻を開始。人界側につく村を蹂躙し、魔の手は瞬く間に人界魔界の境界線に。そして―。
「レドルブが…陥落しただと…!?」
各国の民はその報に驚いた。界境国家『レドルブ』。人界魔界双方の中間点にあるその国家は古き時から中立を保ち、かつての侵攻、いがみ合い、紛争を調停してきたという歴史を持っていた。
此度も同じように、魔王軍側を諫めようとしていたようだが、此度の魔王は聞く耳を持たない。更には…。
「王族全てを処刑…!? 馬鹿な!あの、要塞と名高きレドルブだぞ!?こうも簡単に…!」
双方の板挟みとなり、調停を行う役割を引き受けていたレドルブには『自衛する力』があったはず。特に王族が住まう王都は厚く高い壁に覆われ、軍備も充実していた。それこそ、今まで境界線を守護してこれるほどには。
だが魔獣人獣をメインに据えた人海戦術はそれらを力ずくで打ち破り、魔王軍はレドルブを占拠。人界侵略の足掛かりとした。そのあまりの迅速さに、気を抜いていた諸国は慌てて兵を増員させた。
しかし時すでに遅く。各国合同軍は勢力を増した魔王軍の侵攻を遅らせることだけで精いっぱいだった。なにせ相手は禁忌の存在『獣母』により戦力が無尽蔵に等しい。次第に人界側の兵は減り始めていく。
その間に魔王軍は有り余る兵を以て近くの村や街、小国へと侵攻、これを占拠。更には至る所に砦を建設し、状況は人界側が劇的に不利な形へとなっていた。
魔界、とある森の奥地。アルサーはそこに隠れていた。
残された僅かな部下、そして立ち上がった民を御し、レジスタンスを立ち上げたのだ。魔王の息子が現体制に反旗を翻したという事実は大きく、賛同者は多かった。
しかしその戦果は芳しくなく、むしろ劣勢であった。当然である。周囲は魔王軍に囲まれ、支援はほとんどないのだ。
日増しに沈んでいくメンバーの空気を持ち前のカリスマで必死に保たせながら、アルサーは内心焦燥していた。
彼にはわかっていた。父である魔王は部下に自分達のことを『捨て置け』と命じたのだ。この数か月の間戦っている魔王軍の動きを見ればわかる。アルサーの死を進言した幹部以下が躍起になって自兵を動かしているだけで、その勢いは侵攻軍本隊とはかけ離れ、緩慢であった。
つまりは、魔王にとって自分達は歯牙にもかけない存在であるということ。ただ自らの弱さを痛感するしかなかった。
しかし、そんな彼の元に一つの希望が舞い降りた。遠き国、アリシャバージルで予言が舞い降りたのだ。その内容は『魔を払い、共存共栄の道を歩むための4人』を知らせたもの。
そして選ばれた彼らは旅立ち、襲い来る魔王軍を打ち払いながらレドルブの目前にまで迫っているというのだ。
「彼らに賭けるしかない…!」
アルサーは信の置ける配下数名にレジスタンスの指揮を任せ、少数精鋭で一路レドルブへと走った。
いくら『観測者達』からの勧告があったとはいえ、人界側は完全に出遅れた。一方で魔王軍は魔界全土から徴兵を行い、禁忌魔術も交えた強大なる戦力で一気呵成に侵攻を開始。人界側につく村を蹂躙し、魔の手は瞬く間に人界魔界の境界線に。そして―。
「レドルブが…陥落しただと…!?」
各国の民はその報に驚いた。界境国家『レドルブ』。人界魔界双方の中間点にあるその国家は古き時から中立を保ち、かつての侵攻、いがみ合い、紛争を調停してきたという歴史を持っていた。
此度も同じように、魔王軍側を諫めようとしていたようだが、此度の魔王は聞く耳を持たない。更には…。
「王族全てを処刑…!? 馬鹿な!あの、要塞と名高きレドルブだぞ!?こうも簡単に…!」
双方の板挟みとなり、調停を行う役割を引き受けていたレドルブには『自衛する力』があったはず。特に王族が住まう王都は厚く高い壁に覆われ、軍備も充実していた。それこそ、今まで境界線を守護してこれるほどには。
だが魔獣人獣をメインに据えた人海戦術はそれらを力ずくで打ち破り、魔王軍はレドルブを占拠。人界侵略の足掛かりとした。そのあまりの迅速さに、気を抜いていた諸国は慌てて兵を増員させた。
しかし時すでに遅く。各国合同軍は勢力を増した魔王軍の侵攻を遅らせることだけで精いっぱいだった。なにせ相手は禁忌の存在『獣母』により戦力が無尽蔵に等しい。次第に人界側の兵は減り始めていく。
その間に魔王軍は有り余る兵を以て近くの村や街、小国へと侵攻、これを占拠。更には至る所に砦を建設し、状況は人界側が劇的に不利な形へとなっていた。
魔界、とある森の奥地。アルサーはそこに隠れていた。
残された僅かな部下、そして立ち上がった民を御し、レジスタンスを立ち上げたのだ。魔王の息子が現体制に反旗を翻したという事実は大きく、賛同者は多かった。
しかしその戦果は芳しくなく、むしろ劣勢であった。当然である。周囲は魔王軍に囲まれ、支援はほとんどないのだ。
日増しに沈んでいくメンバーの空気を持ち前のカリスマで必死に保たせながら、アルサーは内心焦燥していた。
彼にはわかっていた。父である魔王は部下に自分達のことを『捨て置け』と命じたのだ。この数か月の間戦っている魔王軍の動きを見ればわかる。アルサーの死を進言した幹部以下が躍起になって自兵を動かしているだけで、その勢いは侵攻軍本隊とはかけ離れ、緩慢であった。
つまりは、魔王にとって自分達は歯牙にもかけない存在であるということ。ただ自らの弱さを痛感するしかなかった。
しかし、そんな彼の元に一つの希望が舞い降りた。遠き国、アリシャバージルで予言が舞い降りたのだ。その内容は『魔を払い、共存共栄の道を歩むための4人』を知らせたもの。
そして選ばれた彼らは旅立ち、襲い来る魔王軍を打ち払いながらレドルブの目前にまで迫っているというのだ。
「彼らに賭けるしかない…!」
アルサーは信の置ける配下数名にレジスタンスの指揮を任せ、少数精鋭で一路レドルブへと走った。
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