204 / 391
―追悼式―
203話 迎え撃つ⑧
しおりを挟む
ズゥウン…とゆっくり倒れた竜。それとほぼ同時にソフィアと竜崎も降りてきた。
「ニルザルルじゃない!久しぶり!」
「ソフィアか。やはりその鎧姿では一瞬誰だが分からんものだな」
ガシャンガシャンと鎧を揺らしながら、賢者の手の上に召喚された神竜に手を振るソフィア。だが挨拶をそこそこに賢者が口を開いた。
「あの竜じゃが、『竜の生くる地』で行方不明となった竜の一体と特徴が一致しておる。ニルザルルも同意した。リュウザキよ、お前さんの教え子が送ってきた資料の34頁目に描かれていた竜じゃ」
「はい、確かに同じ竜だと思います。…最も、巨大化していますが」
その資料の存在こそ知らなかったものの、さくらもふっと思い出す。以前ニルザルルを訪ねに行った際、竜崎の教え子であるエルフの女性からそのような話を耳にした。まさかこの戦いに姿を現すとは…。しかも巨大化しているということは、間違いなく他の獣たちのように強化されてしまっているということであろう。
「残念ながら、わらわを以てしても竜達の動きを全て把握することは無理だ。故にあの子がどのようにして連れ去られたかは直接聞くしかない。案ずるな、権能が効いたのならば聞き出すことは造作もない」
妖精のように小さいニルザルルは賢者のしわしわの手に腰かけ、そう説明する。いくら魔神と言えど不可能なことはあるようだ。とはいえそれなら有難いと喜ぶ竜崎達。さくらもほっと息をつき、ふいと眠る竜の方に視線を移すと―。
「ひっ…!?」
つい先ほどまで目を瞑っていた竜の眼が最大まで開き切っていたのだ。しかし、誰かを睨みつけるのではなく、焦点が全く定まっていないような目の動きである。さくらは思わず小さい悲鳴をあげてしまう。
それに気づき、竜崎達もハッと竜の方を見る。と、それと同時に竜はその巨大な身を起き上がらせた。
「ニルザルル、起こしたのかの?」
地を大きく揺らしながら立ち上がる竜を警戒しつつ、賢者は手元のニルザルルにそう問う。
「いや…わらわが命じたのは『起きる許可を出すまで眠れ』ということだけだ。そしてその許可は出しておらぬ。わらわの力を打ち消したのか…!?」
だが帰ってきた回答はそれ。ニルザルル自身も予想外の出来事らしく、眉をひそめていた。
「グアアアァア!!」
鼓膜をつんざくほどに大きく吼えた竜は、その口内にボウウと炎を溜める。そして青白い火焔を吹き出した。しかし、その勢いは先程までの火焔の比ではないほどに苛烈だった。
「これは危険じゃの…!」
賢者は即座に詠唱。魔獣退治をしていた勇者達をも包みこむ障壁を作り出す。そこにすぐさま火焔が襲い掛かった。幸い障壁が破れることはなさそうだが、外に居た獣達は即座に焼き焦げ悲鳴をあげることなく骨と化した。慰霊場の目の前までの草原や森も広範囲が焦土と化し、その威力をまざまざと物語る。
―む。清人、竜の口元を見ろ―
火焔を吐き終えた竜を見て、何かに気づいたニアロン。注視してみると、竜の口はグズグズに溶けており、黒焦げになった牙のようなものがボロリボロリと零れ落ちてきた。
「――!!」
竜は叫ぼうとするが、声が一切出ていない。追加で火を吐こうとするが、それも出てこない様子。どうやら、あまりの高火力に体内まで焼け焦げたらしい。
苦しみ悶える様子の竜は、そのままさくら達がいる障壁へ顔や首を叩きつけ、体や尾でぶつかり、足で踏みつぶす。そんな巨体の暴れ様は追加で走り寄ってきた魔獣の悉くを叩き潰した。しかし障壁は固く、ぶつかる度に竜の鱗は千切れ飛び、肉は裂け、血が噴き出す。だが、竜は攻撃を止めようとはしなかった。
「自らの身も顧みないとはの…」
「暴走してますね…」
その壮絶さに賢者と竜崎は思わず言葉を漏らす。このままでは竜が自滅してしまうだけ。なんとかしなければと必死にさくらは頭を捻る。
「そうだ…!オグノトスの時みたいに『魔術を壊せば』…!」
思いついたのは、霊獣『白蛇』の出来事。巨大化していた白蛇は学園長の妙技によって解呪され元の大きさへと戻った。もしかしたらその方法が使えるのでは…!
しかしこの場に学園長はいない。今から呼んでくるにも、その間に竜は死んでしまうかもしれない。だが、ここにはその技を受け継いだ娘がいるのだ。
「ラヴィさん…!」
そう。ラヴィ・マハトリー、魔王の護衛を務める彼女のことである。
「ニルザルルじゃない!久しぶり!」
「ソフィアか。やはりその鎧姿では一瞬誰だが分からんものだな」
ガシャンガシャンと鎧を揺らしながら、賢者の手の上に召喚された神竜に手を振るソフィア。だが挨拶をそこそこに賢者が口を開いた。
「あの竜じゃが、『竜の生くる地』で行方不明となった竜の一体と特徴が一致しておる。ニルザルルも同意した。リュウザキよ、お前さんの教え子が送ってきた資料の34頁目に描かれていた竜じゃ」
「はい、確かに同じ竜だと思います。…最も、巨大化していますが」
その資料の存在こそ知らなかったものの、さくらもふっと思い出す。以前ニルザルルを訪ねに行った際、竜崎の教え子であるエルフの女性からそのような話を耳にした。まさかこの戦いに姿を現すとは…。しかも巨大化しているということは、間違いなく他の獣たちのように強化されてしまっているということであろう。
「残念ながら、わらわを以てしても竜達の動きを全て把握することは無理だ。故にあの子がどのようにして連れ去られたかは直接聞くしかない。案ずるな、権能が効いたのならば聞き出すことは造作もない」
妖精のように小さいニルザルルは賢者のしわしわの手に腰かけ、そう説明する。いくら魔神と言えど不可能なことはあるようだ。とはいえそれなら有難いと喜ぶ竜崎達。さくらもほっと息をつき、ふいと眠る竜の方に視線を移すと―。
「ひっ…!?」
つい先ほどまで目を瞑っていた竜の眼が最大まで開き切っていたのだ。しかし、誰かを睨みつけるのではなく、焦点が全く定まっていないような目の動きである。さくらは思わず小さい悲鳴をあげてしまう。
それに気づき、竜崎達もハッと竜の方を見る。と、それと同時に竜はその巨大な身を起き上がらせた。
「ニルザルル、起こしたのかの?」
地を大きく揺らしながら立ち上がる竜を警戒しつつ、賢者は手元のニルザルルにそう問う。
「いや…わらわが命じたのは『起きる許可を出すまで眠れ』ということだけだ。そしてその許可は出しておらぬ。わらわの力を打ち消したのか…!?」
だが帰ってきた回答はそれ。ニルザルル自身も予想外の出来事らしく、眉をひそめていた。
「グアアアァア!!」
鼓膜をつんざくほどに大きく吼えた竜は、その口内にボウウと炎を溜める。そして青白い火焔を吹き出した。しかし、その勢いは先程までの火焔の比ではないほどに苛烈だった。
「これは危険じゃの…!」
賢者は即座に詠唱。魔獣退治をしていた勇者達をも包みこむ障壁を作り出す。そこにすぐさま火焔が襲い掛かった。幸い障壁が破れることはなさそうだが、外に居た獣達は即座に焼き焦げ悲鳴をあげることなく骨と化した。慰霊場の目の前までの草原や森も広範囲が焦土と化し、その威力をまざまざと物語る。
―む。清人、竜の口元を見ろ―
火焔を吐き終えた竜を見て、何かに気づいたニアロン。注視してみると、竜の口はグズグズに溶けており、黒焦げになった牙のようなものがボロリボロリと零れ落ちてきた。
「――!!」
竜は叫ぼうとするが、声が一切出ていない。追加で火を吐こうとするが、それも出てこない様子。どうやら、あまりの高火力に体内まで焼け焦げたらしい。
苦しみ悶える様子の竜は、そのままさくら達がいる障壁へ顔や首を叩きつけ、体や尾でぶつかり、足で踏みつぶす。そんな巨体の暴れ様は追加で走り寄ってきた魔獣の悉くを叩き潰した。しかし障壁は固く、ぶつかる度に竜の鱗は千切れ飛び、肉は裂け、血が噴き出す。だが、竜は攻撃を止めようとはしなかった。
「自らの身も顧みないとはの…」
「暴走してますね…」
その壮絶さに賢者と竜崎は思わず言葉を漏らす。このままでは竜が自滅してしまうだけ。なんとかしなければと必死にさくらは頭を捻る。
「そうだ…!オグノトスの時みたいに『魔術を壊せば』…!」
思いついたのは、霊獣『白蛇』の出来事。巨大化していた白蛇は学園長の妙技によって解呪され元の大きさへと戻った。もしかしたらその方法が使えるのでは…!
しかしこの場に学園長はいない。今から呼んでくるにも、その間に竜は死んでしまうかもしれない。だが、ここにはその技を受け継いだ娘がいるのだ。
「ラヴィさん…!」
そう。ラヴィ・マハトリー、魔王の護衛を務める彼女のことである。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる