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―追悼式―

196話 迎え撃つ①

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魔王の声が飛ぶ。
「手筈通り、来賓客を安全な場へ。その後周囲の警戒に移れ!何かあれば信号弾を打ち上げよ!」

命を聞くと同時に、周囲に控えていた幹部達はラヴィ1人を残して一斉に地を蹴り動き出す。各国の要人達は兵に促されるまま魔王城へと。どうやら魔王軍の大半を用いて安全な退路を確保していたらしい。

続いて竜崎の声が。
「こちらも作戦通りに! ソフィアは王様達の護衛へ。賢者様は慰霊碑の保護と周囲の感知を!」

「任せて!」
元気に返事を返したソフィアはダッシュであらかじめ用意してあった機動鎧の元へと。戦闘用らしく、今まで見てきた機動鎧よりも二回りほどは大きいゴーレムのように重厚なそれに乗り込む。腕に取り付けられた障壁発生機構『シールドシステム』を起動し盾としながら護衛の列に加わった。

「リュウザキよ、慰霊碑の重ね保護も済んだぞい」

賢者の言葉通り、ずらりと立ち並ぶ大量の慰霊碑群にはいつのまにかそれぞれに障壁が被せられている。よく見ると、障壁は二重になっている。慰霊碑には元から障壁術式は備わっていたようだ。

続々とその場を後にする来賓客を背に、さくらは先日の魔王との会談を思い出していた。




「魔王軍の警備展開を調整し、慰霊場の奥から先を警備がいない、または少ない空白の地としておいた。無論怪しまれることのない程度にな。幸いそこは広大な平原と森だ。逆賊が潜むには絶好の場。この警備情報をわざと流出させた結果、既に放牧や移送を装い大量の家畜や獣を連れた連中が集結していると報告を受けている」

地図を机に広げ、魔王は駒を置きながら今まで得た情報と作戦を説明していく。魔王がお忍びでアリシャバージルに来た理由。それは竜崎達と作戦会議をするためである。

「となると、主戦場は慰霊場となるわけかい?」

「不本意ではあるが、な。だがあの場なら開けていて戦いやすく、人を逃がしやすい。慰霊碑には死霊術防止の結界ついでに障壁術式も施してある。ミルスパールの障壁も重ねて貰えればまず壊れる心配はないだろう」

竜崎の問いに魔王はそう答える。

「我らが数を減らしている間に兵を回り込ませ、逆賊達を捕える。それまでは思いっきり暴れてくれ」

わざと敵を一か所に誘導し、迎え撃つ算段のようだ。その魔王の作戦に、竜崎は一様に頷いた。





「さくらちゃん。どうする?」

「えっ?」

さくらがふと気づくと、自分の顔を覗き込む者が。若い女性の、いや若くなった学園長の顔である。ハッと振り向くと、彼女は夫であるオグノトスの里長と共に戦闘準備万端。来賓客の護衛を手伝う気らしい。

「ここは危険よ。皆と一緒に魔王城に戻る?」

「え、いや、でも…」

魔王から見届け人を(冗談ではあるだろうが)任命されている。勝手に帰っていいものか悩むさくらだったが…。

「きゃ…!」

突然ふわりと体が浮く。そのままぐいっと引っ張られ、賢者の元に連れてこられた。

「離れていると守りにくいのでな。ここにいなされ」

賢者の真横にふわふわ浮かされたさくらはこくこくと頷く。それを見た竜崎は心配そうな表情を浮かべ、さくらに助言する。

「怖くなったり気分が悪くなったらすぐに言ってね。賢者様、その時は…」

さくらのことを気遣ってくれる竜崎に、さくらは安心する。それに、かの『勇者一行』の雄姿を見たくはあったのだ。全てを見届ける覚悟を決めるさくらを見て、賢者は微笑む。

「皆まで言うなリュウザキ。すぐさま魔王城に運んでやるわい。それよりほれ、相手さんが…」

「来たよ」

賢者の言葉を遮るように、唯一慰霊場の奥を見つめていた勇者は呟く。竜崎に持ってきてもらった愛剣をスラリと引き抜き片手に、空を睨みつけた。そこに迫ってきていたのは…。

「鳥…?」

鳩のように小さな鳥の大群が、遠くから飛び迫ってきていた。
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