【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―追悼式―

195話 追悼式本番

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魔界、魔都近郊。かつての戦争で命を落とした人々の名が刻まれている慰霊碑群前。豪華に、されど閑かに厳かに飾り立てられた中央の献花台前にさくら達は並んでいた。

辺りをそっと見回してみると、共に並び座るのは各国要人達。以前代表戦で見た顔ぶれとは比べ物にならない。顔を知っている者だけでもドワーフの王やエルフの女王、ゴスタリアの王にオグノトスの長、そしてアリシャバージル王に、今さくらの隣にいる学園長…。諸国のトップ揃い踏みである。それだけではなく、ディレクトリウス公爵卿を始めとした各国の名門貴族や商業組合の人々や各界の著名人までいる。

仕方の無いことだが、空気はどこかピリピリとしている。当然ではあるだろう、下手したらこれから起きる戦いで命を落とすかもしれないのだ。当然出席を見送った人も数多く、空席も目立つ。

「やっぱり異世界なんだなぁ…」

さくらはふと、そう呟く。その理由は周囲で要人達を警備する兵の武装である。魔王軍兵、各国護衛兵問わず全員が鎧を纏い、剣や弓を持っている。また、一部参加者達は自前の武器を帯剣している。元の世界の式典ではまず見られない光景である。

流石にきょろきょろし過ぎだと自分でも思ったさくらは体を戻し、椅子に座り直す。と、横に座っていた学園長から詫びるような声がかけられた。

「ごめんなさいねさくらちゃん。学園生徒の参加を中止してしまったから…」

生徒参加を中止した手前、さくらが学生服を着て参列することは出来なかった。しかも各国要人が出席する式に『英雄リュウザキの弟子』として特別参加をするため、生半可な服装は許されず、かっちりとした着慣れぬ服を身に纏うことに。幸い魔王が貸してくれたのでなんとかはなったが、確かに少々動きづらい。あまりにももぞもぞし過ぎて服が合っていないと思われてしまったようだ。

「いえ、こういう場に出るのは初めてで…」

少し恥ずかしくなり言い訳をしたさくらは誤魔化すように改めて正面を見据える。今彼女の横には竜崎はいない。何故ならば、彼を含めた『勇者一行』は魔王の護衛をしているからである。


献花台前に用意された壇にあがる魔王。そんな彼の傍に控えているのが勇者一行である。『勇者』アリシャ、『賢者』ミルスパール、『発明家』ソフィア、そして『術士』竜崎。彼らもまた、一様にしっかりとした服を着ている。とはいえ戦争を収めた彼らはそのイメージ優先なのか、竜崎やミルスパールはいつもより綺麗ではあるものの普段とあまり変わらぬ服装であった。

ただしいつも汚れたタンクトップのソフィアや、ボロ服や下着姿でうろついているらしい勇者はまともな服を着(させられ)ていた。

そして彼らに続いてラヴィを始めとした魔王軍の猛者が並ぶ。恐らく幹部達であろうか、鎧や独特の服を身に纏った彼らは我が主を守らんと目を光らせていた。


そんな中、魔王は悠然と歩を進め壇の中央へ。そして開式の辞を述べ始めた。魔術でも使っているのだろうか、その声は来賓席全体によく通った。

「我が父、先代魔王が討たれ戦争が終結してから20年。被害にあった各国各村の復興は着実に進んでいる―」

式はつつがなく進行していく。魔王の話を聞き入りながらもさくらはたまに周囲を確認するが、未だ何かが起こる気配はない。


式辞が終わり、魔王はその場で身体を翻し献花台、及び慰霊碑の方へと向く。

「あっ…」

さくらは見逃さなかった。その直前、魔王は勇者一行や幹部達に目配せをしたのだ。

「多分そろそろね」

何かが起きる前触れであろう。学園長の言葉にさくらはごくりと息を呑む。



参加者全員が立つよう促され、さくら達が立ち上がったのを確認して担当の者が号令をかけた。

「かつての戦いで命を落とした者達に黙祷!」

ゴーン…ゴーン…ゴーン…

周囲にある教会や街から同時に鐘が鳴り響く。それに合わせ参加者は一斉に目を閉じ黙祷を捧げる。それは魔王、そして勇者一行、魔王軍幹部達も御多分に漏れず。


と、その時だった。

キュンッ!

絶好の隙を突き、空を裂きながらどこからともなく飛来したのは高速の魔術弾。それが魔王の頭目がけて…!

ギィン!

「守らなくて良いといったはずだが…」
「申し訳ありません、体が動いてしまいました…」

当たれば魔王の頭部をぶち抜いていたであろうその一撃は、巨大なる斧によって弾かれた。そう、ラヴィである。魔王は小さく溜息をついた。

「せっかくの見せ場だったのだが…まあ良いか。守ってくれたこと、感謝するぞラヴィ」

「…!もったいなきお言葉!」


突然の攻撃にざわつく参加者達。それを更に脅すかのように、獣達の雄叫びが遠くから響き渡る。

「「「グルオオオオオ!!!」」」

怯え始める一部の来賓客。だが魔王達は違った。

「さあ、来るぞ!皆のもの、準備は良いか!」

魔王の声に合わせ、竜崎達は剣を、槍を、斧を、杖を、一斉に武器を構え臨戦態勢をとった。開戦である。
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