196 / 391
―追悼式―
195話 追悼式本番
しおりを挟む
魔界、魔都近郊。かつての戦争で命を落とした人々の名が刻まれている慰霊碑群前。豪華に、されど閑かに厳かに飾り立てられた中央の献花台前にさくら達は並んでいた。
辺りをそっと見回してみると、共に並び座るのは各国要人達。以前代表戦で見た顔ぶれとは比べ物にならない。顔を知っている者だけでもドワーフの王やエルフの女王、ゴスタリアの王にオグノトスの長、そしてアリシャバージル王に、今さくらの隣にいる学園長…。諸国のトップ揃い踏みである。それだけではなく、ディレクトリウス公爵卿を始めとした各国の名門貴族や商業組合の人々や各界の著名人までいる。
仕方の無いことだが、空気はどこかピリピリとしている。当然ではあるだろう、下手したらこれから起きる戦いで命を落とすかもしれないのだ。当然出席を見送った人も数多く、空席も目立つ。
「やっぱり異世界なんだなぁ…」
さくらはふと、そう呟く。その理由は周囲で要人達を警備する兵の武装である。魔王軍兵、各国護衛兵問わず全員が鎧を纏い、剣や弓を持っている。また、一部参加者達は自前の武器を帯剣している。元の世界の式典ではまず見られない光景である。
流石にきょろきょろし過ぎだと自分でも思ったさくらは体を戻し、椅子に座り直す。と、横に座っていた学園長から詫びるような声がかけられた。
「ごめんなさいねさくらちゃん。学園生徒の参加を中止してしまったから…」
生徒参加を中止した手前、さくらが学生服を着て参列することは出来なかった。しかも各国要人が出席する式に『英雄リュウザキの弟子』として特別参加をするため、生半可な服装は許されず、かっちりとした着慣れぬ服を身に纏うことに。幸い魔王が貸してくれたのでなんとかはなったが、確かに少々動きづらい。あまりにももぞもぞし過ぎて服が合っていないと思われてしまったようだ。
「いえ、こういう場に出るのは初めてで…」
少し恥ずかしくなり言い訳をしたさくらは誤魔化すように改めて正面を見据える。今彼女の横には竜崎はいない。何故ならば、彼を含めた『勇者一行』は魔王の護衛をしているからである。
献花台前に用意された壇にあがる魔王。そんな彼の傍に控えているのが勇者一行である。『勇者』アリシャ、『賢者』ミルスパール、『発明家』ソフィア、そして『術士』竜崎。彼らもまた、一様にしっかりとした服を着ている。とはいえ戦争を収めた彼らはそのイメージ優先なのか、竜崎やミルスパールはいつもより綺麗ではあるものの普段とあまり変わらぬ服装であった。
ただしいつも汚れたタンクトップのソフィアや、ボロ服や下着姿でうろついているらしい勇者はまともな服を着(させられ)ていた。
そして彼らに続いてラヴィを始めとした魔王軍の猛者が並ぶ。恐らく幹部達であろうか、鎧や独特の服を身に纏った彼らは我が主を守らんと目を光らせていた。
そんな中、魔王は悠然と歩を進め壇の中央へ。そして開式の辞を述べ始めた。魔術でも使っているのだろうか、その声は来賓席全体によく通った。
「我が父、先代魔王が討たれ戦争が終結してから20年。被害にあった各国各村の復興は着実に進んでいる―」
式はつつがなく進行していく。魔王の話を聞き入りながらもさくらはたまに周囲を確認するが、未だ何かが起こる気配はない。
式辞が終わり、魔王はその場で身体を翻し献花台、及び慰霊碑の方へと向く。
「あっ…」
さくらは見逃さなかった。その直前、魔王は勇者一行や幹部達に目配せをしたのだ。
「多分そろそろね」
何かが起きる前触れであろう。学園長の言葉にさくらはごくりと息を呑む。
参加者全員が立つよう促され、さくら達が立ち上がったのを確認して担当の者が号令をかけた。
「かつての戦いで命を落とした者達に黙祷!」
ゴーン…ゴーン…ゴーン…
周囲にある教会や街から同時に鐘が鳴り響く。それに合わせ参加者は一斉に目を閉じ黙祷を捧げる。それは魔王、そして勇者一行、魔王軍幹部達も御多分に漏れず。
と、その時だった。
キュンッ!
絶好の隙を突き、空を裂きながらどこからともなく飛来したのは高速の魔術弾。それが魔王の頭目がけて…!
ギィン!
「守らなくて良いといったはずだが…」
「申し訳ありません、体が動いてしまいました…」
当たれば魔王の頭部をぶち抜いていたであろうその一撃は、巨大なる斧によって弾かれた。そう、ラヴィである。魔王は小さく溜息をついた。
「せっかくの見せ場だったのだが…まあ良いか。守ってくれたこと、感謝するぞラヴィ」
「…!もったいなきお言葉!」
突然の攻撃にざわつく参加者達。それを更に脅すかのように、獣達の雄叫びが遠くから響き渡る。
「「「グルオオオオオ!!!」」」
怯え始める一部の来賓客。だが魔王達は違った。
「さあ、来るぞ!皆のもの、準備は良いか!」
魔王の声に合わせ、竜崎達は剣を、槍を、斧を、杖を、一斉に武器を構え臨戦態勢をとった。開戦である。
辺りをそっと見回してみると、共に並び座るのは各国要人達。以前代表戦で見た顔ぶれとは比べ物にならない。顔を知っている者だけでもドワーフの王やエルフの女王、ゴスタリアの王にオグノトスの長、そしてアリシャバージル王に、今さくらの隣にいる学園長…。諸国のトップ揃い踏みである。それだけではなく、ディレクトリウス公爵卿を始めとした各国の名門貴族や商業組合の人々や各界の著名人までいる。
仕方の無いことだが、空気はどこかピリピリとしている。当然ではあるだろう、下手したらこれから起きる戦いで命を落とすかもしれないのだ。当然出席を見送った人も数多く、空席も目立つ。
「やっぱり異世界なんだなぁ…」
さくらはふと、そう呟く。その理由は周囲で要人達を警備する兵の武装である。魔王軍兵、各国護衛兵問わず全員が鎧を纏い、剣や弓を持っている。また、一部参加者達は自前の武器を帯剣している。元の世界の式典ではまず見られない光景である。
流石にきょろきょろし過ぎだと自分でも思ったさくらは体を戻し、椅子に座り直す。と、横に座っていた学園長から詫びるような声がかけられた。
「ごめんなさいねさくらちゃん。学園生徒の参加を中止してしまったから…」
生徒参加を中止した手前、さくらが学生服を着て参列することは出来なかった。しかも各国要人が出席する式に『英雄リュウザキの弟子』として特別参加をするため、生半可な服装は許されず、かっちりとした着慣れぬ服を身に纏うことに。幸い魔王が貸してくれたのでなんとかはなったが、確かに少々動きづらい。あまりにももぞもぞし過ぎて服が合っていないと思われてしまったようだ。
「いえ、こういう場に出るのは初めてで…」
少し恥ずかしくなり言い訳をしたさくらは誤魔化すように改めて正面を見据える。今彼女の横には竜崎はいない。何故ならば、彼を含めた『勇者一行』は魔王の護衛をしているからである。
献花台前に用意された壇にあがる魔王。そんな彼の傍に控えているのが勇者一行である。『勇者』アリシャ、『賢者』ミルスパール、『発明家』ソフィア、そして『術士』竜崎。彼らもまた、一様にしっかりとした服を着ている。とはいえ戦争を収めた彼らはそのイメージ優先なのか、竜崎やミルスパールはいつもより綺麗ではあるものの普段とあまり変わらぬ服装であった。
ただしいつも汚れたタンクトップのソフィアや、ボロ服や下着姿でうろついているらしい勇者はまともな服を着(させられ)ていた。
そして彼らに続いてラヴィを始めとした魔王軍の猛者が並ぶ。恐らく幹部達であろうか、鎧や独特の服を身に纏った彼らは我が主を守らんと目を光らせていた。
そんな中、魔王は悠然と歩を進め壇の中央へ。そして開式の辞を述べ始めた。魔術でも使っているのだろうか、その声は来賓席全体によく通った。
「我が父、先代魔王が討たれ戦争が終結してから20年。被害にあった各国各村の復興は着実に進んでいる―」
式はつつがなく進行していく。魔王の話を聞き入りながらもさくらはたまに周囲を確認するが、未だ何かが起こる気配はない。
式辞が終わり、魔王はその場で身体を翻し献花台、及び慰霊碑の方へと向く。
「あっ…」
さくらは見逃さなかった。その直前、魔王は勇者一行や幹部達に目配せをしたのだ。
「多分そろそろね」
何かが起きる前触れであろう。学園長の言葉にさくらはごくりと息を呑む。
参加者全員が立つよう促され、さくら達が立ち上がったのを確認して担当の者が号令をかけた。
「かつての戦いで命を落とした者達に黙祷!」
ゴーン…ゴーン…ゴーン…
周囲にある教会や街から同時に鐘が鳴り響く。それに合わせ参加者は一斉に目を閉じ黙祷を捧げる。それは魔王、そして勇者一行、魔王軍幹部達も御多分に漏れず。
と、その時だった。
キュンッ!
絶好の隙を突き、空を裂きながらどこからともなく飛来したのは高速の魔術弾。それが魔王の頭目がけて…!
ギィン!
「守らなくて良いといったはずだが…」
「申し訳ありません、体が動いてしまいました…」
当たれば魔王の頭部をぶち抜いていたであろうその一撃は、巨大なる斧によって弾かれた。そう、ラヴィである。魔王は小さく溜息をついた。
「せっかくの見せ場だったのだが…まあ良いか。守ってくれたこと、感謝するぞラヴィ」
「…!もったいなきお言葉!」
突然の攻撃にざわつく参加者達。それを更に脅すかのように、獣達の雄叫びが遠くから響き渡る。
「「「グルオオオオオ!!!」」」
怯え始める一部の来賓客。だが魔王達は違った。
「さあ、来るぞ!皆のもの、準備は良いか!」
魔王の声に合わせ、竜崎達は剣を、槍を、斧を、杖を、一斉に武器を構え臨戦態勢をとった。開戦である。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる