195 / 391
―追悼式―
194話 来客
しおりを挟む
悲しいかな、人の口に戸は立てられぬ。それが噂好きの子供達ならなおのこと。
「ねえねえ聞いた?追悼式の話…」
「うん…!魔王様達が戦うって…」
授業中、休み時間問わず学園内あちらこちらでモカ達が盗み聞きした話は広がってしまった。しかも当然の如く尾ひれがつきまくり、魔王が殺されるだの魔王軍が大規模な戦争を起こすだの、果てには20年前の戦争の繰り返しとまで。
流石に無視することはできず、学園長達が昼休みに正しい内容を通達し、張り紙も詳細が書かれた内容へと張り替えられた。なお、盗み聞きをした子達は見つかり次第こってりと絞られてしまった。
そんな中、さくらは竜崎の元に向かっていた。先程の「魔王が反乱軍を迎え撃つ」という件の詳細を聞きたかったのだ。モカの話が確かならば、竜崎も参加するらしい。ならば詳しいことを知っているはずである。
「お、さくらさん。さっき盗み聞きしていたでしょう?」
ようやく見つけた竜崎の開幕第一声はそれであった。悪戯っ子をメッと叱るような口調の彼にしっかり謝り、話を聞こうとするさくらだったが―。
「そうだ、この後時間ある?」
「え? はい」
「ちょっと王城に来客が来ていてね。ついでに来る?」
「え?どなたなんですか?」
―それは行ってのお楽しみだ。だが、さくらが聞きたいことに間違いなく関係はある奴だな―
はぐらかす彼らに首を捻りつつ、さくらはその提案に乗ることに。
「お疲れさまですリュウザキ様。皆様お揃いですよ」
さくら達が通されたのは王宮の応接間。うやうやしく一礼をして入る竜崎に続いてさくらも足を踏み入れると…。
「おぉリュウザキ。おやさくらちゃんも来たか」
親し気に名を呼ぶのはアリシャバージル王。そして『賢者』ミルスパールと『発明家』ソフィア。エルフの国にいる勇者を除いた『勇者一行』揃い踏みである。そんな彼らと歓談していたのは…。
「!? ま、魔王…様…!!?」
灰色の肌に端正な顔立ち、威厳とカリスマに溢れるその姿。かつて魔都の居城で謁見した、世界の半分を占める魔界を統治する王『魔王』である。しかもお供を誰一人つけていない。
そんな彼に軽く挨拶を交わし、空いている席によいしょと座る竜崎。さくらもおっかなびっくりそれに続く。
「どうださくら。この世界には慣れたか?」
「は、はい!楽しくやってます!」
突然の魔王からの問いにガチガチになるさくら。その様子を見た周囲からは笑いが漏れる。
「何故ここに…?」
「少々打ち合わせをな。それと、もしグレミリオ達が納得しなかったら説得しようと来たのだが…杞憂だったようだ。これはお忍びでの来国だ、秘密にしておいてくれ」
しー、とジェスチャーをされ、さくらは全力で頷く。先程の盗み聞きの比ではない秘匿事項である。
「で、でも…。大丈夫なんですか…?戦うって…。殺されちゃうんじゃ…」
不安気に問うさくら。すると、思わぬことが起こった。なんと竜崎達は爆笑したのだ。アリシャバージル王や魔王もご多分に漏れず。ニアロンに至っては一際大きく。
困惑するさくらに、竜崎は笑い涙を拭いながら教えてくれた。
「ここが剣と魔術の世界、そして今話している相手は魔神達にも認められた魔界を統べる『魔王』だというの忘れないでね」
そういえば、とさくらは思い出す。以前魔王の右腕であるラヴィと竜崎が闘った際、魔王自らアリーナの障壁を張っていた。となると、間違いなく魔術を扱えるということ。彼もゲームとかに出てくる魔王達のようにとてつもない実力をもっているだろう。
と、笑いを収めた魔王は微笑みながら竜崎達へ視線を送った。
「それに我には頼もしい友がいるからな」
「言うわね魔王様!」
ソフィアは楽しそうに魔王を小突く。『勇者一行』の彼らにとって、現魔王は仲良しの友達と同義のようだ。それを笑って流しながら、魔王はさくらへとある提案をする。
「丁度いい。さくらよ、追悼式に来ないか?」
「え、でも危険なんじゃ…」
「対策は既にしてある。それに、我が軍と『勇者一行』総動員だ。寧ろ安全まであるぞ?」
「絶対に危険とわかっている場所に連れて行きたくはないんだけどね…」
と竜崎は少し渋い顔。だが結局はいつもの如くさくらの意志に委ねた。そしてさくらが出した答えは…。
「行きます!」
怖いのは確か。だが竜崎を始めとする猛者達に守られるとなると安心できる。それに、自分達が端を掴んだ事件、その結末をこの目で見たくもあったのだ。
「ところで、何故さくらは反乱が起きることを知っている?リュウザキ、お前が教えたのか?」
「いやぁ。朝の教員会議を盗み聞きされていて…。生徒間で変な噂まで出てきちゃったんだよ…ごめん」
「そうだったか、可愛らしいものだ。なら、それを掻き消す戦果を挙げるだけのこと。さくらよ、見届け人の役は頼むぞ」
そう言い、魔王はさくらへと笑みを向けた。
「ねえねえ聞いた?追悼式の話…」
「うん…!魔王様達が戦うって…」
授業中、休み時間問わず学園内あちらこちらでモカ達が盗み聞きした話は広がってしまった。しかも当然の如く尾ひれがつきまくり、魔王が殺されるだの魔王軍が大規模な戦争を起こすだの、果てには20年前の戦争の繰り返しとまで。
流石に無視することはできず、学園長達が昼休みに正しい内容を通達し、張り紙も詳細が書かれた内容へと張り替えられた。なお、盗み聞きをした子達は見つかり次第こってりと絞られてしまった。
そんな中、さくらは竜崎の元に向かっていた。先程の「魔王が反乱軍を迎え撃つ」という件の詳細を聞きたかったのだ。モカの話が確かならば、竜崎も参加するらしい。ならば詳しいことを知っているはずである。
「お、さくらさん。さっき盗み聞きしていたでしょう?」
ようやく見つけた竜崎の開幕第一声はそれであった。悪戯っ子をメッと叱るような口調の彼にしっかり謝り、話を聞こうとするさくらだったが―。
「そうだ、この後時間ある?」
「え? はい」
「ちょっと王城に来客が来ていてね。ついでに来る?」
「え?どなたなんですか?」
―それは行ってのお楽しみだ。だが、さくらが聞きたいことに間違いなく関係はある奴だな―
はぐらかす彼らに首を捻りつつ、さくらはその提案に乗ることに。
「お疲れさまですリュウザキ様。皆様お揃いですよ」
さくら達が通されたのは王宮の応接間。うやうやしく一礼をして入る竜崎に続いてさくらも足を踏み入れると…。
「おぉリュウザキ。おやさくらちゃんも来たか」
親し気に名を呼ぶのはアリシャバージル王。そして『賢者』ミルスパールと『発明家』ソフィア。エルフの国にいる勇者を除いた『勇者一行』揃い踏みである。そんな彼らと歓談していたのは…。
「!? ま、魔王…様…!!?」
灰色の肌に端正な顔立ち、威厳とカリスマに溢れるその姿。かつて魔都の居城で謁見した、世界の半分を占める魔界を統治する王『魔王』である。しかもお供を誰一人つけていない。
そんな彼に軽く挨拶を交わし、空いている席によいしょと座る竜崎。さくらもおっかなびっくりそれに続く。
「どうださくら。この世界には慣れたか?」
「は、はい!楽しくやってます!」
突然の魔王からの問いにガチガチになるさくら。その様子を見た周囲からは笑いが漏れる。
「何故ここに…?」
「少々打ち合わせをな。それと、もしグレミリオ達が納得しなかったら説得しようと来たのだが…杞憂だったようだ。これはお忍びでの来国だ、秘密にしておいてくれ」
しー、とジェスチャーをされ、さくらは全力で頷く。先程の盗み聞きの比ではない秘匿事項である。
「で、でも…。大丈夫なんですか…?戦うって…。殺されちゃうんじゃ…」
不安気に問うさくら。すると、思わぬことが起こった。なんと竜崎達は爆笑したのだ。アリシャバージル王や魔王もご多分に漏れず。ニアロンに至っては一際大きく。
困惑するさくらに、竜崎は笑い涙を拭いながら教えてくれた。
「ここが剣と魔術の世界、そして今話している相手は魔神達にも認められた魔界を統べる『魔王』だというの忘れないでね」
そういえば、とさくらは思い出す。以前魔王の右腕であるラヴィと竜崎が闘った際、魔王自らアリーナの障壁を張っていた。となると、間違いなく魔術を扱えるということ。彼もゲームとかに出てくる魔王達のようにとてつもない実力をもっているだろう。
と、笑いを収めた魔王は微笑みながら竜崎達へ視線を送った。
「それに我には頼もしい友がいるからな」
「言うわね魔王様!」
ソフィアは楽しそうに魔王を小突く。『勇者一行』の彼らにとって、現魔王は仲良しの友達と同義のようだ。それを笑って流しながら、魔王はさくらへとある提案をする。
「丁度いい。さくらよ、追悼式に来ないか?」
「え、でも危険なんじゃ…」
「対策は既にしてある。それに、我が軍と『勇者一行』総動員だ。寧ろ安全まであるぞ?」
「絶対に危険とわかっている場所に連れて行きたくはないんだけどね…」
と竜崎は少し渋い顔。だが結局はいつもの如くさくらの意志に委ねた。そしてさくらが出した答えは…。
「行きます!」
怖いのは確か。だが竜崎を始めとする猛者達に守られるとなると安心できる。それに、自分達が端を掴んだ事件、その結末をこの目で見たくもあったのだ。
「ところで、何故さくらは反乱が起きることを知っている?リュウザキ、お前が教えたのか?」
「いやぁ。朝の教員会議を盗み聞きされていて…。生徒間で変な噂まで出てきちゃったんだよ…ごめん」
「そうだったか、可愛らしいものだ。なら、それを掻き消す戦果を挙げるだけのこと。さくらよ、見届け人の役は頼むぞ」
そう言い、魔王はさくらへと笑みを向けた。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる