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―オズヴァルドと共に―

185話 竜崎の説教

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「シルブ!人獣を吹き飛ばせ!」

さくらへ返事を返した直後、竜崎は空へ叫ぶ。

「ケエェエン!!」

すると高らかな鳥の鳴き声が響き、その場に突風が吹き荒れる。さくら達人間を全て避け、暴れる人獣達のみを遥か遠くへと吹っ飛ばした。竜の羽音が聞こえず、まるで風に乗ってきたかのように突然現れた彼だが、どうやらシルブに乗ってきたらしい。

敵がいなくなり、その場にいた全員はふうっと息をつく。そんな中、竜崎の腕に守られていたアイナは慚愧ざんきの至りといった様子で震えながら謝罪の言葉を口にした。

「ごめんなさいリュウザキ先生…勝手な行動をしてしまって…」

無理を頼んで任務についてきたというのに、親の怪我に慌てすぎて何一つ詳細を話さず街を勝手に飛び出してしまったのだ。しかもオズヴァルド達に足労をかけ、挙句の果てに今大怪我を負うところだった。

言い訳もしようがないほどの完全な重荷状態。どんなに怒られようが、殴られようが文句はいえない。しかもその迷惑をかけた相手は自分の村の復興も手伝ったことのある英雄「勇者一行のリュウザキ」なのだ。ギュッと身を固め叱責を待つアイナだが、竜崎からまずかけられたのは質問だった。

「どこか痛む?怪我はしてない?」

「えっ? は、はい…」

「ほんと? あ、ここ擦りむいているじゃないか」

いつついたのだろうか本人でもわからないほどの小さな傷を見つけた竜崎は治癒魔術でそれを治す。そしてアイナと目の高さを合わせると、事実確認のように問いかけた。

「それで、自分が何をしたかわかっている?」

「勝手に動いてしまい、先生や友達に大迷惑をかけてしまいました…」

「もう二度としない?」

「はい…!」

アイナのその決意をするかのような言葉を聞き、竜崎に微笑んだ。

「なら良し。ところでご家族の容態はどうだった?」

「え…あっ。怪我はしていましたけど元気でした。あの、もう怒らないんですか…?」

「心の底から反省しているなら問題ないさ。それに親を労わる気持ちからの行動だものね、強く叱れないよ。ただし、今日得た反省は今後絶対に忘れないこと!そして今度からはしっかりと連絡を入れてから動くこと。約束してね」

「―!はい! あ、そういえばワンちゃんは…!?」

許しを貰いようやく緊張が緩んだのか、アイナは今庇った犬を気にする。すると、いつの間にか犬の傍にいたニアロンがふわりと戻ってくる。

―心配するな、怪我は負っているが命に別状はない。応急処置は済ませといたぞ―

「そうだ、作ってくれたあのノートなんだけど。他の調査員たちの報告には無かった情報ばかりでね、悪人をわんさか捕まえられたんだよ。皆に褒賞が出るって」

思わぬ臨時報酬が確定し、思わず喜ぶさくら達であった。




―さて、次はあいつか。あまり叱ってやるなよ―

「そうはいかないよ…」

次に竜崎達が目を移したのは、爆発被害でところどころ燃え、廃墟感に磨きがかかった砦。

「リュウザキせんせーい!」

ようやくさくら達の様子に気づいた、というか竜崎が来たことに気づいたらしく砦の方から竜崎の元に走り寄ってくるのはオズヴァルド。だが目の前に来た彼を、竜崎は叱りつけた。

「オズヴァルド、何故何も対策をせずに生徒達から離れた」

普段出すことのない怒声で叱る竜崎。さくら達が迷惑をかけてもほとんど怒ることが無かった彼がここまでキレるのは始めて見る。オズヴァルドはビクッと体を竦め、こちらも普段見ることのないかしこまった態度に。

「あ…その…つい…」

「つい、で済むと思うか! ここは街や村のように安全な場所じゃない、最悪死人が出るかもしれなかったんだぞ」

慕う相手に激怒され、オズヴァルドは可哀そうなほど縮こまる。

「でも泥棒のねぐらは突き止めました…」

「それはお手柄だよ。だが、それとこれとは話が違う。守る立場としての自覚を持てと何度言えばわかる!召喚獣に指示を出すなり、障壁を張るなり方法は幾らでもあっただろう!」

―清人、それぐらいにしとけ―

ニアロンに諭され、ようやく竜崎は矛を収める。オズヴァルドは叱られた子犬のようにしょんぼりと反省していた。そんな空気を変えるためか、ニアロンは彼に問う。

―ところでオズヴァルド。お前、手に持ってるのなんだ?―

「そうでした。リュウザキ先生これを!砦に残されてました」

沈み込んでいたオズヴァルドは即座に調子を取り戻し、砦から持ってきたであろう何かを竜崎に手渡す。それは…。

「花束、ですか?」

さくらは見たままの名称を口にする。幾本かのの花が纏められ、軽くラッピングされたそれは、先程さくら達も献花に使ったものと同じである。こんな場所に不釣り合いではあるが、元戦地の砦ならばあり得ない話でもないのかもしれない。

「―!」

と、竜崎は何かに気づき顔色を真剣なものへと。それを崩さぬまま、オズヴァルドに問いかけた。

「砦の中に人はいたかい?」

「それが…誰もいないんです。もう逃げたんですかね?」
肩を竦めるオズヴァルド。砦を破壊しまくっていたのは隠れているかもしれない泥棒を探していたからのようだ。しかし先程、霊獣は泥棒がここにいると反応していた。少なくともさくら達が来るまではいたはずだが…。

―おい清人、このタイプの砦は…―

「わかっている。オズヴァルド、感知魔術で周囲の森を探ってくれないか?」

「わかりました!」

名誉挽回のチャンスと勇むオズヴァルドは即座に詠唱。彼を中心に円形魔法陣が広がり始めるが…

「うわっ!足元になんか沢山いる!人じゃない…豚とか牛とかだ!」

彼はぎょっとした表情を浮かべた。盗まれた家畜達であろうか。

「この砦は地下が広いんだ。隠し出入口もあるから、多分あの人獣達はそこを通って出てきたんだよ。泥棒達は既にそこから逃げ出した可能性がある」

訳知り顔の竜崎はそう説明をしてくれた。なんでそんなことを知っているかさくらが効いてみると…。

「かつて、同じタイプの砦攻略の際に奇襲されて死にかけてね…」

少し苦い表情を浮かべる彼。経験から来る知識だったようだ。


僅かな間むむむと唸っていたオズヴァルド。何かを感知したらしく、嬉しそうな声をあげた。

「お! いましたいました! 砦左奥、森の中を頑張って走っている人らしき反応。数は五人、こんな夜更けに村人じゃないですし…」

「よし、捕えよう。絶対に一人も逃さないで!」

「ええ!」

竜崎はさくらに花束を預け、オズヴァルドと共に勢いよく地面を蹴り空中へ。そのまま逃げる泥棒の位置へと飛び込んでいった。さくら達の護衛として残されたのは風の上位精霊シルブ。そして警戒命令を受け大きい姿に戻った霊獣白犬である。

竜崎とオズヴァルド。教員仲間、友人同士、命を救った側と救われた側。2人の関係をそう見ていたさくらだったが、今の彼らは教師とその生徒というようにも見えた。
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