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―オズヴァルドと共に―
184話 泥棒の隠れ家
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主から再度命令を受け、匂いを嗅ぎ直した霊獣白犬もとい白ケルベロスはまたもどこかへ向かっていく。疑心暗鬼ながらついていくさくら達だったが、今度は村から少し離れた森へと到着した。
「お、沢山の動物が通った跡があるね。ここで間違いないかな!」
オズヴァルドが気づいた通り、森の中には不自然に踏み固められた一本の獣道。つい最近出来たばかりのようだ。牧場主のお爺さんがここにくるわけもないため、家畜泥棒達が通った道でまず間違いないであろう。
一行はその道を辿るように森の中へと。オズヴァルドは霊獣の背にさくら達を乗せようとしたが…。
「これ枝にぶつかりません?」
白犬の上に乗ると、無造作に生えた枝々がさくら達を阻む。このまま進めば尖った枝先で顔中傷まみれになってしまうだろう。
「じゃあ私が全部折っていくよ!」
オズヴァルドは平然とそう提案するが、それは木々に申し訳ない。さくら達は謹んで搭乗を辞退した。
「そう?じゃあ『白犬』!小さくなって!」
主の合図で巨大だった霊獣は瞬く間にチワワみたいに。キャンッ!と可愛く一鳴きすると、獣道をふんふん嗅ぎながら歩き始めた。
「いいなぁ…私も召喚術真剣に学ぼうかなぁ…フワフワにいつでも触れるし…」
そうネリーがボソリと漏らす。さくらも少し興味を惹かれてしまう。最も、寮に帰れば真っ白毛玉の白猫霊獣タマがいくらでも触らせてくれるのだが。
「私のじゃ駄目?」
と、モカがポツリと呟く。いつの間にか彼女は帽子を外しており、フワフワなケモ耳がぴょこんと立っていた。
「えっ! 触ってもいいの!? あ、もしかして焼きもち焼いた?」
ネリーの言葉にモカは図星を指されたかのようにビクッとなる。対抗意識はあったらしい。そんなことは気づかぬ様子で、ネリーは彼女の耳に手を伸ばした。
「あ…ちょっと強いって…。んっ…。 えっ!?アイナとさくらちゃんまで…!? きゅぅ…!」
3人にわしゃわしゃ撫でられ身をプルプル震わすモカだった。
いつ人獣達が襲い掛かってきてもいいように周囲を警戒しながら、岩を乗り越え倒れた木を跨ぎさくら達は森を進む。そろそろ日が暮れ始めということもあり、風で揺れる木々がおどろおどろしいものに見え始めてきた。
そんな恐怖心を紛らすためにか、さくらはふと思いついたことをオズヴァルドに聞いてみる。
「そういえば人獣ってアリシャバージルでは見ませんよね」
以前幾度か森に入りクエストをしたが、獣は見たものの二足歩行の人獣は一度も目にしていない。ドワーフの国やエルフの国、オグノトスなどでは結構目にしたと言うのにである。
「アリシャバージルは調査隊本部や学園学院、優秀な騎士団がいるからね。危険な魔獣人獣は極力排除されているんだよ!」
オズヴァルドの答えにさくらは納得する。先日行ったオグノトスと似たような感じらしい。オグノトスは里で、アリシャバージルは国、しかも王が座す都周辺である。その排除具合は当然か。もし妙なのが現れても、メストが狩りに出ていたようにすぐさま討伐依頼がなされるのだろう。
「あ、そうだ! 元戦場の森を歩く時は人獣に注意してね!」
その話題で何か思い出したのか、オズヴァルドは急に忠告を飛ばす。注意なら先程からしているのだが…
ガサリッ
急に近くの茂みが動く。さくら達は反射的に武器を構える。姿を現したのは一匹の人獣。そしてその手には…。
「剣!?」
古ぼけ、欠けてはいるがそれは間違いなく剣であった。人獣はそれを振り上げ、さくら達を仕留めようと走り出す。
だがそんな人獣はまるで空中に糊付けされたかのようにピタリと止められ、次の瞬間森の奥へと吹き飛ばされた。ハッと気づいたさくらがオズヴァルドのほうを向くと、彼は使い終えた杖を懐にしまいながら説明を始めた。
「戦場となった地には打ち捨てられた鎧や武器が未だ数多く残っている。人獣は元々武器を持たせ兵とするために作られた生物だ、武装して襲ってくることも多々ある。気を付けて。 …ってリュウザキ先生は言ってたよ」
その事実を今まざまざと見せつけられたのだ。さくら達は思わず身を寄せ合った。
とうとう日はほとんど沈み、もう少し経てば周囲は闇に包まれる時刻に。先行する白犬を追って森を歩いてきたさくら達だったが、ふと開けた地にでた。どうやら森は終わりらしい。
「グルルル…」
すると白犬は立ち止まり唸る。さくら達がその先を見ると…
「―! 砦だ!」
戦争の名残であろう小さめの要塞がそこに建っていた。しかしその壁や屋根の一部は大きく破壊されている。かつてここでも戦闘が繰り広げられたようだ。
白犬の反応から、どうやら家畜泥棒達はそこにいるらしい。さくら達が意を決して近づこうとすると…。
「おい!何者だ!お前達が家畜泥棒か!?」
誰かの声が響く。しまった、見つかったか!?と身を竦めるさくら達だが、声の方向は砦からではなく、森の別方向から。現れたのは二人の鎧を着た兵とシェパードのような犬だった。彼らの警戒する目からさくら達を守るように、オズヴァルドは名乗った。
「アリシャバージル『学園』所属、オズヴァルド・リュー・ジニアス。そちらと同じく家畜泥棒を追ってきたんです」
「オズヴァルド様でしたか…!何故ここに?」
彼のことを知っているらしく、兵2人は驚いた様子。話を聞いてみると、彼らはレドルブから派遣された兵であり、オズヴァルド達が来る少し前に捜査を始めていたらしい。
「もしやあの家畜泥棒が危険分子だったのですか!?」
「それはわからないですねー。ただ、この子達が泥棒を見過ごせないって」
オズヴァルドに指されたさくら達を見て、兵達は流石学園の子達だ…と感心している。その発端は生徒一人の勝手な行動なのだが、語らない方が良さそうである。
「応援を呼ぶために引き返そうとしていたのですが…オズヴァルド様がいらっしゃるならば安心ですね!是非お力を拝見させてください!」
面倒事を丸投げせんとおだてる兵達。オズヴァルドは見事それに乗り、胸を叩いた。
「お任せあれ!泥棒程度、ちょちょいと片付けましょう!」
言うが早いか彼はダッと地面を蹴り、あっという間に砦の真下へ。すると…
「ほいっと!」
ドッゴォン!!
壁を豪快に爆破、中へ侵入していった。
「うそぉ…」
その場に取り残されたさくら達と兵達は呆然。そんな間にも砦内部からは爆発音が聞こえてくる。手当たり次第に探しているようだ。既に使われていない砦とはいえ、遠慮がない。
「私達も行く…?」
ネリーはさくら達にそう尋ねるが、明らかに行きたくなさそう。と、そんな時だった。
「皆!周りに!!」
「ヴ~!バウッ!」
モカと兵が連れてきた犬が同時に叫ぶ。何事かと周囲を見やると…。
「グルルル…」
「フシュウウ…」
多数の唸り声。ガチャンガチャンと鎧が揺れる音。さくら達を取り囲むように、人獣達が迫ってきていたのだ。全員、もとい全匹が古ぼけた胴鎧を身に纏い、ボロボロの武器を手にしていた。
「どこから…!?」
さっきまでは間違いなくいなかった。さくら達は一斉に武器を構える。こんな危険な時に限ってオズヴァルドはいない。呼ぼうにも、ここからでは声が届かない。
「来るよ!」
そして思考する間もなく、人獣達は次々と襲い掛かってきた。
「危なっ!」
「魔術が効きにくい…!」
「数が…!」
木の枝よりも危険度が数倍高い武器が振り回され、躱すので精一杯。鎧を着ているため、弱い魔術は弾かれる。そして数が多いため、上手く仕掛けられない。ネリー、アイナ、モカは追い込まれる一方である。
さくらは神具武器で応戦する。攻撃が当たれば一発で人獣を吹き飛ばせるが、四方八方から襲い掛かられ上手く活用できていない。魔力球を作り出そうにも精霊を呼ぼうにも詠唱する隙がまともになく、数体程度しか削れていなかった。
兵2人はなんとかさくら達を守ろうと必死で武器を振り、兵が連れてきた犬も果敢に戦っている。だが多勢に無勢。人獣達の力任せの攻撃にじわじわと押し込まれていく。
頼みの綱であるオズヴァルドはいない今、この場でもっとも戦力になりそうなのは霊獣『白犬』だが…。
「……クアァ」
チワワサイズのケルベロスはちょこんとお座りしたまま動かない。欠伸までしている。召喚獣であるため、主の命がなければ全く動かないようだ。
「オズヴァルド先生ぃ…」
肝心な時に命令ミス。いや命令すらしていないからのこの有様。せめてこちらに気づいてと祈るさくら達だったが、それを裏切るかの如く砦からはまたも爆発音が響いた。
「ギャウッ!!」
と、シェパードの悲鳴が聞こえる。どうやら力いっぱい蹴り飛ばされたらしい。地面に転がった犬はその場で悶える。どうやら骨でも折れたようだ。
傷を負った獲物を仕留めんと、一匹の人獣が動けずにいるその犬に迫る。剣を振り上げ、叩き殺す気である。
「だめっ…!」
それに気づいたアイナは走り、人獣と犬の間に。呼び出していた精霊と精霊石自体で攻撃を防ごうとするがどう見ても敵うわけがない。
「アイナちゃん!!」
さくらは急いでアイナの元に駆けよろうとする。だが、間に合わない。あわや剣が振り下ろされる―!
ビュウッ!!
突如、その場に一陣の風が吹きつける。そして直後には…。
ガキンッ!
金属同士がぶつかり合う音。それは、アイナに向けて振り下ろされた剣が何者かの杖によって止められた音。アイナを抱えるようにして守ったその人物は、剣を軽く弾くと杖をくるりと回す。そして尖った杖先を怯んでいた人獣の胸に突き刺した。胴鎧にはいとも簡単に穴が空き、体を貫かれた人獣はその場に力なく倒れ伏した。
僅かとなった日の光と、砦から上がる火を頼りにさくらはその正体を確認する。白いローブを身に纏い、ほんの少しの黒髪交じりな白髪。そして顔には、先程オズヴァルドから貰った眼鏡を律儀にかけていた。
「竜崎さん!」
「ごめん、遅くなっちゃった」
「お、沢山の動物が通った跡があるね。ここで間違いないかな!」
オズヴァルドが気づいた通り、森の中には不自然に踏み固められた一本の獣道。つい最近出来たばかりのようだ。牧場主のお爺さんがここにくるわけもないため、家畜泥棒達が通った道でまず間違いないであろう。
一行はその道を辿るように森の中へと。オズヴァルドは霊獣の背にさくら達を乗せようとしたが…。
「これ枝にぶつかりません?」
白犬の上に乗ると、無造作に生えた枝々がさくら達を阻む。このまま進めば尖った枝先で顔中傷まみれになってしまうだろう。
「じゃあ私が全部折っていくよ!」
オズヴァルドは平然とそう提案するが、それは木々に申し訳ない。さくら達は謹んで搭乗を辞退した。
「そう?じゃあ『白犬』!小さくなって!」
主の合図で巨大だった霊獣は瞬く間にチワワみたいに。キャンッ!と可愛く一鳴きすると、獣道をふんふん嗅ぎながら歩き始めた。
「いいなぁ…私も召喚術真剣に学ぼうかなぁ…フワフワにいつでも触れるし…」
そうネリーがボソリと漏らす。さくらも少し興味を惹かれてしまう。最も、寮に帰れば真っ白毛玉の白猫霊獣タマがいくらでも触らせてくれるのだが。
「私のじゃ駄目?」
と、モカがポツリと呟く。いつの間にか彼女は帽子を外しており、フワフワなケモ耳がぴょこんと立っていた。
「えっ! 触ってもいいの!? あ、もしかして焼きもち焼いた?」
ネリーの言葉にモカは図星を指されたかのようにビクッとなる。対抗意識はあったらしい。そんなことは気づかぬ様子で、ネリーは彼女の耳に手を伸ばした。
「あ…ちょっと強いって…。んっ…。 えっ!?アイナとさくらちゃんまで…!? きゅぅ…!」
3人にわしゃわしゃ撫でられ身をプルプル震わすモカだった。
いつ人獣達が襲い掛かってきてもいいように周囲を警戒しながら、岩を乗り越え倒れた木を跨ぎさくら達は森を進む。そろそろ日が暮れ始めということもあり、風で揺れる木々がおどろおどろしいものに見え始めてきた。
そんな恐怖心を紛らすためにか、さくらはふと思いついたことをオズヴァルドに聞いてみる。
「そういえば人獣ってアリシャバージルでは見ませんよね」
以前幾度か森に入りクエストをしたが、獣は見たものの二足歩行の人獣は一度も目にしていない。ドワーフの国やエルフの国、オグノトスなどでは結構目にしたと言うのにである。
「アリシャバージルは調査隊本部や学園学院、優秀な騎士団がいるからね。危険な魔獣人獣は極力排除されているんだよ!」
オズヴァルドの答えにさくらは納得する。先日行ったオグノトスと似たような感じらしい。オグノトスは里で、アリシャバージルは国、しかも王が座す都周辺である。その排除具合は当然か。もし妙なのが現れても、メストが狩りに出ていたようにすぐさま討伐依頼がなされるのだろう。
「あ、そうだ! 元戦場の森を歩く時は人獣に注意してね!」
その話題で何か思い出したのか、オズヴァルドは急に忠告を飛ばす。注意なら先程からしているのだが…
ガサリッ
急に近くの茂みが動く。さくら達は反射的に武器を構える。姿を現したのは一匹の人獣。そしてその手には…。
「剣!?」
古ぼけ、欠けてはいるがそれは間違いなく剣であった。人獣はそれを振り上げ、さくら達を仕留めようと走り出す。
だがそんな人獣はまるで空中に糊付けされたかのようにピタリと止められ、次の瞬間森の奥へと吹き飛ばされた。ハッと気づいたさくらがオズヴァルドのほうを向くと、彼は使い終えた杖を懐にしまいながら説明を始めた。
「戦場となった地には打ち捨てられた鎧や武器が未だ数多く残っている。人獣は元々武器を持たせ兵とするために作られた生物だ、武装して襲ってくることも多々ある。気を付けて。 …ってリュウザキ先生は言ってたよ」
その事実を今まざまざと見せつけられたのだ。さくら達は思わず身を寄せ合った。
とうとう日はほとんど沈み、もう少し経てば周囲は闇に包まれる時刻に。先行する白犬を追って森を歩いてきたさくら達だったが、ふと開けた地にでた。どうやら森は終わりらしい。
「グルルル…」
すると白犬は立ち止まり唸る。さくら達がその先を見ると…
「―! 砦だ!」
戦争の名残であろう小さめの要塞がそこに建っていた。しかしその壁や屋根の一部は大きく破壊されている。かつてここでも戦闘が繰り広げられたようだ。
白犬の反応から、どうやら家畜泥棒達はそこにいるらしい。さくら達が意を決して近づこうとすると…。
「おい!何者だ!お前達が家畜泥棒か!?」
誰かの声が響く。しまった、見つかったか!?と身を竦めるさくら達だが、声の方向は砦からではなく、森の別方向から。現れたのは二人の鎧を着た兵とシェパードのような犬だった。彼らの警戒する目からさくら達を守るように、オズヴァルドは名乗った。
「アリシャバージル『学園』所属、オズヴァルド・リュー・ジニアス。そちらと同じく家畜泥棒を追ってきたんです」
「オズヴァルド様でしたか…!何故ここに?」
彼のことを知っているらしく、兵2人は驚いた様子。話を聞いてみると、彼らはレドルブから派遣された兵であり、オズヴァルド達が来る少し前に捜査を始めていたらしい。
「もしやあの家畜泥棒が危険分子だったのですか!?」
「それはわからないですねー。ただ、この子達が泥棒を見過ごせないって」
オズヴァルドに指されたさくら達を見て、兵達は流石学園の子達だ…と感心している。その発端は生徒一人の勝手な行動なのだが、語らない方が良さそうである。
「応援を呼ぶために引き返そうとしていたのですが…オズヴァルド様がいらっしゃるならば安心ですね!是非お力を拝見させてください!」
面倒事を丸投げせんとおだてる兵達。オズヴァルドは見事それに乗り、胸を叩いた。
「お任せあれ!泥棒程度、ちょちょいと片付けましょう!」
言うが早いか彼はダッと地面を蹴り、あっという間に砦の真下へ。すると…
「ほいっと!」
ドッゴォン!!
壁を豪快に爆破、中へ侵入していった。
「うそぉ…」
その場に取り残されたさくら達と兵達は呆然。そんな間にも砦内部からは爆発音が聞こえてくる。手当たり次第に探しているようだ。既に使われていない砦とはいえ、遠慮がない。
「私達も行く…?」
ネリーはさくら達にそう尋ねるが、明らかに行きたくなさそう。と、そんな時だった。
「皆!周りに!!」
「ヴ~!バウッ!」
モカと兵が連れてきた犬が同時に叫ぶ。何事かと周囲を見やると…。
「グルルル…」
「フシュウウ…」
多数の唸り声。ガチャンガチャンと鎧が揺れる音。さくら達を取り囲むように、人獣達が迫ってきていたのだ。全員、もとい全匹が古ぼけた胴鎧を身に纏い、ボロボロの武器を手にしていた。
「どこから…!?」
さっきまでは間違いなくいなかった。さくら達は一斉に武器を構える。こんな危険な時に限ってオズヴァルドはいない。呼ぼうにも、ここからでは声が届かない。
「来るよ!」
そして思考する間もなく、人獣達は次々と襲い掛かってきた。
「危なっ!」
「魔術が効きにくい…!」
「数が…!」
木の枝よりも危険度が数倍高い武器が振り回され、躱すので精一杯。鎧を着ているため、弱い魔術は弾かれる。そして数が多いため、上手く仕掛けられない。ネリー、アイナ、モカは追い込まれる一方である。
さくらは神具武器で応戦する。攻撃が当たれば一発で人獣を吹き飛ばせるが、四方八方から襲い掛かられ上手く活用できていない。魔力球を作り出そうにも精霊を呼ぼうにも詠唱する隙がまともになく、数体程度しか削れていなかった。
兵2人はなんとかさくら達を守ろうと必死で武器を振り、兵が連れてきた犬も果敢に戦っている。だが多勢に無勢。人獣達の力任せの攻撃にじわじわと押し込まれていく。
頼みの綱であるオズヴァルドはいない今、この場でもっとも戦力になりそうなのは霊獣『白犬』だが…。
「……クアァ」
チワワサイズのケルベロスはちょこんとお座りしたまま動かない。欠伸までしている。召喚獣であるため、主の命がなければ全く動かないようだ。
「オズヴァルド先生ぃ…」
肝心な時に命令ミス。いや命令すらしていないからのこの有様。せめてこちらに気づいてと祈るさくら達だったが、それを裏切るかの如く砦からはまたも爆発音が響いた。
「ギャウッ!!」
と、シェパードの悲鳴が聞こえる。どうやら力いっぱい蹴り飛ばされたらしい。地面に転がった犬はその場で悶える。どうやら骨でも折れたようだ。
傷を負った獲物を仕留めんと、一匹の人獣が動けずにいるその犬に迫る。剣を振り上げ、叩き殺す気である。
「だめっ…!」
それに気づいたアイナは走り、人獣と犬の間に。呼び出していた精霊と精霊石自体で攻撃を防ごうとするがどう見ても敵うわけがない。
「アイナちゃん!!」
さくらは急いでアイナの元に駆けよろうとする。だが、間に合わない。あわや剣が振り下ろされる―!
ビュウッ!!
突如、その場に一陣の風が吹きつける。そして直後には…。
ガキンッ!
金属同士がぶつかり合う音。それは、アイナに向けて振り下ろされた剣が何者かの杖によって止められた音。アイナを抱えるようにして守ったその人物は、剣を軽く弾くと杖をくるりと回す。そして尖った杖先を怯んでいた人獣の胸に突き刺した。胴鎧にはいとも簡単に穴が空き、体を貫かれた人獣はその場に力なく倒れ伏した。
僅かとなった日の光と、砦から上がる火を頼りにさくらはその正体を確認する。白いローブを身に纏い、ほんの少しの黒髪交じりな白髪。そして顔には、先程オズヴァルドから貰った眼鏡を律儀にかけていた。
「竜崎さん!」
「ごめん、遅くなっちゃった」
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