【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
183 / 391
―オズヴァルドと共に―

182話 やりたい放題オズヴァルド 再来

しおりを挟む
「ようし!そうと決まれば急ごうか!」

そう言い軽やかに走りだしたオズヴァルドに遅れないよう、必死でついていくさくら達。だが、まともに追いつけない。それもそのはず、竜崎に託されたのが嬉しいらしい彼は建物の屋根や壁を走っているのだ。その様子にざわつく人混みに道を阻まれ、さくら達は思うように進めない。

「オズヴァルド先生ぇ!待ってぇ!」

ネリーの必死な叫びでようやく止まった彼は、そのまま空中浮遊でさくら達の元へ。すると…。

「えい!」

短杖をさくら達に向け、何かを詠唱。次の瞬間、さくら達はふわりと浮かび上がった。

「えっ!?」
「きゃっ!?」
「わっ…!?」

驚くさくら達。どうやら浮遊魔術をかけられたらしい。あれよあれよと家の屋根付近まで体はあがり、さくら達は慌てて足を曲げスカートを押さえる。だがオズヴァルドはそんな事はお構いなし。さらに杖を軽く一振り。すると杖先から紐が伸び、さくら達3人をくるりと結ぶ。

「待っ…!」

嫌な予感がしたさくらはオズヴァルドを止めようとするが、もう遅い。

「さあ行っくよー!」

まるで紐つき風船をもつ子供のように杖を持ち換え、彼はまた壁を走り出す。当然繋がったさくら達もぐいっと引っ張られ…。

「「「「きゃああああ!!」」」

そのまま大通りの空中を引きずられてしまった。




「酷い目にあった…」

竜の発着場。地上に降ろされたさくら達は揃って膝に手をつき溜息をついていた。今オズヴァルドは竜を借りに行っている。どうやら調査隊の大きめな支部がレドルブにはあるらしく、『単独調査許可』のおかげでタダで速い竜を借りられるらしい。

「浮遊魔術をあんな簡単に…オズヴァルドさんって凄い…」

さくらはそう呟く。習得が難しく、消費魔力が多い魔術の一つ、浮遊魔術。ネリー達はまだ使えず、さくらとしても僅かな間高度を維持することができるだけ。しかもそれだけなのに集中力は毎秒ゴリゴリ削られる。そんな高難度魔術をさらっと3人にかけ、まるで風船の如く引っ張るとは。オズヴァルドの底知れなさに舌を巻くさくらであった。


そんな中モカが何かを思い出したらしく、顔を少しひきつらせつつ口を開いた。

「ねえ…確かオズヴァルド先生の竜操縦術って…」

「「あっ…」」

さくら達はここに来る直前、早朝のことを思い出す。あの時オズヴァルドは暴れ竜を完全に御したどころか、寧ろ疲れきるまで空中で曲芸させたのだ。その腕前は素晴らしかったが、素人でもわかる荒運転だった。

しまった…!すっかり忘れていた!と顔を見合わせ俄かに焦るさくら達。そこに竜をつれたオズヴァルドが戻ってきてしまった。

「はーい皆乗ってねー!飛ばすよー!!」

もうその言葉だけでも恐ろしい。イチかバチか、さくらはお願いをしてみる。

「あ、あのオズヴァルドさん…。安全運転でお願いしていいですか?朝みたいなのはちょっと…」

「勿論!リュウザキ先生に言われているんだ!『人を乗せる時は曲芸をするな』って!」

それを聞き、さくら達は胸を撫でおろす。そして心の中で竜崎に感謝し、竜に跨る。全員が乗ったことを確認したオズヴァルドは竜を操り空へと。

「あ、忘れてた」

と、彼はまたも何かを詠唱する。するとさくら達の体の周りに紐が現れ、身体を竜に固定していく。どうやらシートベルト代わりらしい。

「…数多くないですか?」

様子がおかしい。次から次へと現れた紐は数を増し、太くなり、きつくなっていく。まるでジェットコースターのバー並みにギュッと至る所を固定された。

「飛ばすからね! あ、舌噛まないように!」

オズヴァルドの忠告を聞き、さくら達はようやく気付く。曲芸運転を無くしたところで、運転が荒いのは変わらないのだ。

「はいよー!」
バシィン!
「グルルルル!!」

オズヴァルドの掛け声に、竜はひと啼き。次の瞬間、さくら達を襲ったのはトップギア飛行による衝撃と、それによって発生する強風だった。

「「「ひゃああああああああ!!!!」」」

竜崎の運転、ニアロンの加護がなんと有難かったことか。さくら達はまたも悲鳴を挙げるしかなかった。



「あ!あれが戦場跡だよ!まだ武器や鎧が転がっているでしょ!」
「お!あれは旧魔王軍が作った砦の一つだよ! もう今はただの廃墟だけどね!」

飛行中、オズヴァルドは何かを見つけるたびにそうさくら達に声をかける。そんなこと言われても、吹き付ける風で目が開けられない。仮に見れていたとしても、高速移動をしているのだから一瞬で通り過ぎてしまうのがオチである。

さくら達からまともに返事が返ってこなくとも、オズヴァルドは戦争遺跡を目にし次第紹介していく。そのせいで彼の口はほとんど閉じることがない。それほどまでにかなりの戦争跡が残っているらしい。主戦場の一つ、というのは伊達ではないようだ。



幾分経ったであろうか。どうやら目的の村に着いたらしい。竜は急ブレーキ、急降下。トドメと言わんばかりのその行動に、さくら達は意識が少し飛びかけた。

「はいとうちゃーく!!」

飛ばしたおかげでかなり追いついたらしく、村の竜発着場には仕事完了の一服をしようと煙草を咥えたばかりの竜運転手がいた。荒く降りてきたオズヴァルド運転の竜に心底驚き、火をつけた直後のたばこを地面に落としてしまったが。

荒運転によりくたくたになった竜からくたくたになったさくら達が降りる。

「もう動きたくない!」

その場でへたり込むネリー。よほど疲れたらしい。モカとさくらも足取りが少し覚束ない。オズヴァルドだけは元気いっぱいのまま竜へ強化魔術をかけていた。帰りもあれに乗ると思うと思わず身が震えてしまうさくら達であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...