【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
182 / 391
―オズヴァルドと共に―

181話 アイナ、失踪

しおりを挟む
組合本部の先程までいたあの部屋。さくら達はそこに戻り、窓から外を見ていた。この部屋は高い階にあり、窓からは通りの様子が見えるのだが…

「…すごいねー」
「…ねー」

時折、そこを竜崎達が駆けていくのだ。それぞれ手ずから纏めた資料や、さくら達が纏めたあのノートを持ちながら。追加で詳しく聞き込みを行ったり、尾行をしているらしい。

時には屋根の上を走り、軽やかにどこかへと移動していく。その際には竜崎達の補佐及び犯人回収のために、兵が通りをバタバタ走り彼らを追いかけていく。稀に小さな爆発音も聞こえてくる。恐らくその原因はオズヴァルドであろう。

「…なんか実力桁違いって感じだね」

続々と捕らえられた悪人達が移送されていくのを眺めながら、ふと4人の内誰かが漏らした言葉に一同頷く。生徒と教師、そもそも実力の差があるのはわかっているが、もし自分達が同じ状況に置かれたらああまで活躍できるとは思えない。

「リュウザキ先生が凄いのは知っているけど、オズヴァルド先生もあんなに凄いなんて思わなかったよ」

「勇者一行や魔王様、学園長やオグノトスの英雄、古今東西の『伝説』が認めた『天才』って呼ばれるだけはあるんだねー」

そうネリー達が会話する中、さくらは1人少し違うことを考えていた。竜崎のことである。彼は自分と同じ世界の出身、そんな彼があそこまで暴れ回れるまでにはどれほどの修練を積んだのだろうか。ニアロンという補助があるとはいえ、刃傷沙汰になるような事態は間違いなく元の世界より多いはず。剣の魔法の世界なのだ、当然であろう。そんな中でも臆さず、戦い抜けるためにはどれほどの苦労があったのか。


と、部屋の扉がノックされる。

「失礼します、直近の報告書を追加でお持ちしましたー」

どうやら報告書はまだあったらしい。職員が山盛り持ってきたそれを受け取り、よいしょと机の上に。

「さ、私達もお仕事しよう!」
アイナの号令に、ネリー達も窓から離れ仕事に取り掛かる。

「えっとこれは…」
「こっちだよ、これあっちに持っていって」

順調に作業は進み、気づけば日がだいぶ傾いていた。さくら達が腰を伸ばし一息つこうとしたその時だった。

「うそ…!」
突然アイナが声を引きつらせ、目を見開く。わなわなと震える手に握られているのは一枚の報告書。

どうしたの?とさくらが聞くよりも先に、アイナはその報告書を放り出し竜崎から貰ったお金袋の中身を確認。

「この金額なら竜で…!」

そう呟くと、彼女はさくら達へ少し焦ったような口調で伝えた。

「さくらちゃん達ごめん…ちょっと出かけてくる!すぐ戻るから…!」

友人たちの返答を待たず、部屋を飛び出すアイナ。その様子をさくら達は少しの間ポカンと眺めていた。

「アイナがあの慌てよう…。何かあったのかな…」

モカが漏らした言葉にさくらは正気に戻り、アイナが放り出した報告書を拾い上げ他2人と覗き込む。報告書の日付は昨日。そして書かれていたのはとある村での賊と村民の喧嘩のようだが…。

「あっこれ!アイナの出身村じゃん!」

ネリーの叫びに、さくら達は一層食い入るように報告書を読む。どうやら怪我人も何人か発生したらしい。その重傷者名前一覧に書かれていた内の1人は「ロウ・バルティ」。聞いたことのない男性の名前だが、その苗字には聞き覚えがあった。アイナと同じ苗字である。

「これって…!!」
「もしかしてアイナの…!」

間違いなく、家族の誰かであろう。ということは…。

「もしかしてアイナちゃんは1人で村に…!?」

3人は顔を見合わせ、一斉に駆けだす。とりあえず止めなければ…!そんな思いで彼女達は竜の発着場へ走っていった。



「え?茶髪の女の子?『学園』の服を着ている?確かにさっき来たよ、すごく焦ったような感じで運転手雇って飛んでいったよ」

竜の発着場。全力で走り心底息を絶え絶えにしながら辿り着いたさくら達。だが発着場職員からそう言われ愕然とする。遅かった―。

「どうしよう…」
「とりあえず先生に報告しないと…!」

また来た道をダッシュで戻るさくら達。途中で竜崎達と出会うことを祈りながら走るが、残念ながらそう都合の良いことは起きない。帰ってきてるかもと僅かな希望を信じ部屋へと戻ってきたが、やはり彼らはいなかった。

「ど、どうしよう!」

慌てるネリー。そんな彼女を宥めるさくらも心中平静でない。アイナは「すぐ戻る」と言っていた。恐らくお見舞いに向かったのだろう。そう心配する必要もないかもしれないが、もしもの事を考えると気が気でないのだ。

「どうにかして竜崎さんに伝えないと…」

しかし、都市中を飛び回っている彼らにその事実をどう伝えればいいのか。こんな時、スマホがあれば…。しかしここは異世界、そんなものはない。歯噛みするさくらだったが、ふとあることを思い出した。

「あっ!指輪!」

急いで御守りを取り出し、中に入っている指輪を取り出す。神具の鏡から出た端材で作られたこの指輪は、何故か魔術をかけると元の鏡、そして同じく作られたもう一つの指輪に反応を飛ばす。そして、そのもう一つの指輪は竜崎が持っているのだ。

「お願い…!」

さくらは指輪に向け、風の魔術を詠唱。すると呼応するように指輪は緑色に輝き、部屋の端に置いてあったさくらのラケットは周囲に風を起こす。その影響で書類が幾枚か宙を舞い始めた。

「な、なに!?」

驚くネリー達を余所に、さくらは目を瞑り魔術を使い続ける。竜崎さん、気づいて…!そう心で祈りつつ、数分経った頃だった。

コンコン

突然、窓がノックされる。さくらが目を開け、そちらを見ると―。

「竜崎さん!」

指輪を手にした竜崎が浮かんでいたのだ。



窓を開けてもらい、するりと中へ入る竜崎。

「何かあったの?」
―アイナのやつがいないが、どうした?トイレか?―

「実は…」



「そんなことが…!」

件の報告書に目を通しながら、さくらから説明を受ける竜崎。と、そこに―。

「どうしましたリュウザキ先生!そんなに休憩が楽しみだったんですか? 子供みたいですね!」

またも窓から現れたのはオズヴァルド。丁度運よく休憩時間に入るところだったらしい。彼にも詳細を説明する。

「えー。随分と勝手なことをしたなぁ。どうしましょうリュウザキ先生」

怒るというより思ったことをそのまま言ったような口調でオズヴァルドは竜崎の提案を待つ。竜崎は報告書を読みふけりながら答えた。

「そうだな…。オズヴァルド先生、先に様子確認に向かってくれる?まだ片付いていない案件いくつかあるから、私はそれを何とかしてから行くよ」

「はーい!」

「あ。あんまり怒らないであげてね」

「わかりました!」

そのやり取りにほっと胸を撫でおろすさくら達。よかった、動いてくれるようだ。そんな中、ネリーが手を挙げる。

「先生!私もついていきたい!アイナが心配だもん!」

「いいよ。オズヴァルド先生、お願いできる?」

「勿論ですとも!」

竜崎にそう頼まれ、ドンと胸を叩くオズヴァルド。さくらとモカも同じように頼み、まずは都合4人でアイナを追うことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...