【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
180 / 391
―オズヴァルドと共に―

179話 レドルブを歩く

しおりを挟む
「あれも~♪ これも~♪ 色々買える~♪」

あっちへふらふらこっちへふらふら。ネリーは気になる店を片っ端から覗き、飲み食い買いを繰り返している。友人であるモカは流石に不安になり、少し注意をする。

「ネリー買い過ぎじゃない?」

「へーきへーき!だってここレドルブの、安いの多いし!それに珍しいものばかりなんだもん!」

彼女の言う通り、ここで見かける商品はアリシャバージルで売られているものよりそこそこ安い。レドルブは商品の中継地であるため、輸送費護衛費による値段の上乗せ分が多少減額されているようだ。また、荷崩れ品も結構な数が出るらしく、割引価格の品も山ほどである。

更には人界魔界のあらゆる地域から様々な商品が集まる。魔神の棲む地で作られた質の良い武器防具や、各里の特産品、地方特有の植物動物などである。ネリーが狂喜乱舞するのも仕方ない。

「もう…しっかり仕事はしてよね」

「勿論! えっとね。さっき聞いたのは…」

とはいえネリーのような性格は情報収集にはうってつけ。裏心を一切悟られずに話を聞き出してくるのだ。モカもまた獣人としての能力を活かし、周囲の会話を盗み聞き。それを司令塔となったアイナとさくらがノートに纏めるといった形で任務を遂行していた。

「…あの店で聞いたのはそんな感じかなー。あ!あの店気になる!行ってきまーす!」

幾つかの情報をさくら達に伝え、ネリーはまたも近場の店へ飛び出していく。さくら達がそれを引き止めずに向かわせるのはネリーの腕前によるところもあるのだが、もう一つ理由があった。

「おっ!これ美味しそう!お姉さんこれ5つ!」

「あらまこんなおばちゃんにお姉さんなんて!良い男だし安くしてあげるわ!」

「わぁほんとに!気前良い!ありがとう!」

ネリー並みに、いやネリー以上か。まるでテーマパークに来た子供のようにはしゃいでいるのはオズヴァルドである。


教師である彼がここまでやりたい放題しているのだ。ネリーもそれに乗じてやりたい放題。街で情報収集という未知の任務であるため、さくら達にも何が正しい行動なのかが分からない状態である。ネリーを叱るに叱れない。

「はい皆、これ凄く美味しいよ!」

先程買ったおやつをさくら達に配るオズヴァルド。いつの間に購入したのか、帽子やマントを纏っている。もはやその見た目は学園の教師とはわからない。確かにここまで満喫していれば「追悼式」のため警戒にあたっている人だとは思われないだろうが、オズヴァルド自身はそれを考えているかというと…。

「やっぱこの街は良いなぁ!楽しい!」

考えてなさそうである。オズヴァルドのお守り、その意味が分かった気がするさくらである。


そんなオズヴァルドとネリーに振り回されつつ街を歩くさくら達。ふと、さくらはあることに気づいた。

「なんかここ、色々な国の兵士さんいませんか?」

時たま見かける警ら兵には見覚えのある鎧を着こんでいる者がちらほら。魔王軍、アリシャバージル、ゴスタリア、ラグナウルグル、オグノトス…。彼らは所属入り混じり、国の垣根を超えた様子で楽し気に会話をしながら見回りをしていた。

すると今度は果物を人数分買ってきたオズヴァルドがそれを手渡しながら肯いた。

「その通り。ここレドルブには魔王軍や各国騎士隊の一部が常駐しているんだ。商人を狙う盗賊達の討伐、それぞれの国に運ばれる品々の確認とかもしている。そしてもう一つ理由があってね。元主戦場であるこの地に各国の兵を集わせ仲良くさせることで、人界魔界、各国各里が共存共栄の道を進んでいることを商人達や観光客にアピールしているんだ。この発案者はリュウザキ先生なんだよ!」

何故か胸を張るオズヴァルド。と、何か思いついたらしく―。

「そうだ、リュウザキ先生に倣って献花しようか!」



突然のオズヴァルドの提案で、一行は花を買いとある一角へ。そこは商人でごった返す通りとは打って変わり、静かな雰囲気が漂っていた。

「ここって?」

「レドルブで亡くなった人達が眠っている場所だよ。リュウザキ先生はレドルブに来るたびここで慰霊をしているんだ。あ、『追悼式』が近いからか結構もうお花があるね」

率先して花を置き、黙祷を捧げるオズヴァルド。その後ろ姿ははどこか竜崎の祈り方と似ているようにも見える。

さくら達も彼を真似、黙祷をする。ここが主戦場だったということは、竜崎達もここで戦い、当時の魔王軍を追い返したのだろうか。そして、弔いの墓を作ったのもまた、彼らなのだろうか。自身が知らない世界の過去、しかし竜崎が経験したその過去に思いを馳せるさくらだった。




「お、あれ良いかも!さくらさんちょっと来て!」

墓前からの帰り際、オズヴァルドは何かに目をつけたらしく、珍しくさくらを名指しする。彼が入ったのは小物を売る店。そこの一角にある伊達メガネのところにオズヴァルドは足を運んでいた。

と、オズヴァルドはそのうちの幾つかを選び取りさくらの前に提示した。

「リュウザキ先生にどれが似合うと思う?」

「えっ! うーん…これですかね?」

突然のそんな質問にさくらは驚くものも、竜崎に似合いそうな眼鏡を指さす。するとオズヴァルドは一際嬉しそうな声。

「お、意見が一致した!これ買おう!」

そのまま彼は会計に走り、購入。あまりの早業に少々呆れつつ、戻ってきたオズヴァルドにさくらは問う。

「なんで私に聞くんですか?」

「だってさくらさん、学園に来てからリュウザキ先生と良くいるからね! そういえばさくらさんも私と同じくリュウザキ先生に助けられた口かい?」

「え、あはは…。まあそんなところです」

逆に鋭い質問を投げ返され、笑い誤魔化すさくらであった。




その後も暫く街を散策する一行。アイナが持っているノートは結構なページが埋まった。そろそろ引き上げ時なのかなとさくらが考えていると―。

「? あれって精霊…?」

人の隙間を縫うようにするりと現れたのは一匹の中位精霊。オズヴァルドの肩にふわっと乗ると、何かを耳打ちする仕草。しかし精霊は言葉を喋れないはずだが…。

「ふんふん…はーい。リュウザキ先生から。組合本部に来てくれ、だって」

「え、精霊が喋ったんですか!?」

さも当然のように伝達したオズヴァルドに驚くアイナ達。しかしさくらには思い当たる節があった。

「『精霊伝令』ですか?」

さくらがこの世界に来て直後、竜崎が行った謎の魔術『精霊伝令』。確か世界中の精霊に伝令を頼む技だと彼は言っていたが…。

「良く知ってるね!見たことあるの!?」

オズヴァルドはかなり面食らったような表情をする。さくらが思わず頷くと、彼は羨ましそうな表情を浮かべた。

「良いなぁ…私もあれまた見たいなぁ…。あ。ごめんごめん。その通り、この世でリュウザキ先生だけが使える大技『精霊伝令』その一端の技だよ。こうやって受け手をピンポイントで絞ることもできるんだ。最も、受け手に相応の精霊術の覚えが無ければ意味ないんだけど…。私はリュウザキ先生に直々に教わった1人なんだ!」

自慢するかのようなオズヴァルドはそのまま組合本部がある方向へと歩を進める。さくら達も慌ててそれについていく。

竜崎が、竜崎は、竜崎に、を繰り返すオズヴァルド。命の恩人に対して気軽に話しかける彼だが、その内心は竜崎に対してかなりの尊敬を抱いているようである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...