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―閑話―
175話 MPの測り方②
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騒動後、医務室を後にした竜崎とさくら。歩きながらさくらは謝っていた。
「ごめんなさい…」
壊した魔力計は竜崎が弁償を引き受けてくれた。その罪悪感から来た謝罪である。しかし竜崎は全く気にしていない。それどころか―。
「代表戦からそう時間は経っていない。しかもオグノトスで魔力を消費したばかりだよな。なんでだ?やっぱりニアロンの魔力が吸い取られたのか?」
―いや、以前施した言語魔術のように相手の肉体や魂と深くつながり合うものじゃなければ私の魔力は吸い取られないようだ。寧ろ私が憑りついていた時間分さくらの魔力を吸い取ったぞ―
「それでも、か。やっぱり素の魔力貯蔵量がとんでもない多さなんだな」
実に楽しそうに、興味深そうに。竜崎とニアロンは議論を交えていた。その様子に有難いやら少し恥ずかしいやらなさくらは、代わりに次の行き先を聞く。
「あのー…。竜崎さん次はどこに?」
医務室から出る際、竜崎に「ちょっと付き合ってくれないか?」と言われ今に至るのだ。説明をしてなかったことに気づいた竜崎はごめんごめんと謝ってから答えた。
「調査隊の本部だよ」
武器や鎧を装備した戦士達が集い、熱気あふれるギルドの受付。学院の一角にある調査隊本部である。傭兵や魔術士達が依頼を吟味したり戦利品を整理したりと常にガヤガヤと賑わい、外では竜が整備されている。さくらとしてもここに来るのは幾度目か。というかこの前報酬受け取りに来たばかりである。
「ここで何を?」
さくらが竜崎に尋ねようとした時には、横に竜崎はいなくなっていた。見渡すと、いつの間にか受付で何かを話していた。
「あれを…」
「良いですよ。では貸出書にサインを…」
よく聞き取れず、さくらも竜崎のところへ。すると受付の人はどこかへ行き、戻ってきたときには細長い箱が沢山入った籠を抱えてさくら達の前へ置いた。
「えっと、あ、これは新品ですね。あとは…これをどうぞ」
受付の人は籠内から幾つか選び取り、さくら達の前に並べていく。竜崎がそのうちの一つを開けると、中に入っていたのは太めの棒。恵方巻ぐらいであろうか。ただし、片側は何かに突き刺す用なのか少し尖っており、もう片側はよくわからない目盛りと魔法術式が描かれていた。
「これって?」
「魔力計の大型版。本来は地面に突き刺して、地中の魔力量を計測する際に使うんだ」
竜崎はそう言いながら、尖った方に使い捨てのカバーらしきものをはめ込む。と、受付の人が竜崎に問いかけた。
「しかしリュウザキ様、これで良いのですか?龍脈測定用のもっと大きいのがございますが…」
「とりあえずこれで。測るのは地面じゃないですから」
そう答えた竜崎は、その魔力計をさくらの前に差し出した。
「はい、さくらさん。咥えてみて」
「やっぱりですかぁ…」
まあ薄々そんな気はしていた。しかし、ここで…?辺りに人は沢山、さくらは躊躇する。
「咥える以外の方法は無いんですか…?」
「うーん…。後はおへそとかに刺す方法が。けっこう時間かかっちゃうけど」
「わかりました咥えます!」
服の中に隠しきれない長さの魔力計、公衆の面前でおへそ丸出しで長時間いるよりかマシである。そこまで異世界慣れはしていない。竜崎の期待の目に抗えず、さくらは渋々咥えることに。受付の人も少ししげしげと見つめてくる。それはやはり、普通と違う使い方をしているからであろう。とても恥ずかしい。
「んむ…」
尖った先端で口の中を傷つけないよう、ゆっくり魔力計を含んでいくさくら。恵方巻ならば噛みちぎりたいところだが、これは計測道具。噛み切ることはできないし、傷つけるわけにはいかない。さっき小型の魔力計を壊してしまったこともあり、さくらは柔らかな手つきで魔力計を支えて落とさないように意識を集中させた。
「何してんだあれ?」
「さあ…」
受付のど真ん中で魔力計を咥える少女は実に奇異なのだろう。周囲にいた何人かがさくらに視線を集中させる。さくらはそれになるべく気を向けないようにするしかない。
「ひゃ…」
と、涎が口の端から少し垂れてきてしまう。慌てて拭うさくらだが、手で拭ってもまたちょっとずつ漏れ出してくる。色んな人に見られながら太いものを無理やり咥え、しまいには涎を垂らす自分を想像すると恥ずかしいなんてものじゃない。さくらの心中は早く終われと必死になっていた。
その思いが届いたのかは定かではないが、魔力計に描かれた術式の色が変わる。青から黄。そして赤。更には―。
「あっ、白に…!」
受付の人が驚いた声を出す。魔力計の目盛りは先端に到達し、術式は白く輝き始めたのだ。竜崎は驚いたような声で合図をだした。
「さくらさん、もう外して良いよ」
竜崎の言葉を聞き、さくらは口の中から魔力計を抜く。思わずケホッとえずいてしまうが、竜崎が手渡してくれた未使用のハンカチで口元を拭った。
「ケホッ…どうだったんですか…?」
目に少し涙を浮かべながら、さくらは竜崎の方を向く。すると竜崎だけでなく、受付の人や近くにいた魔術士まで今までさくらが咥えていた魔力計を覗き込んでいた。
「これは凄いな…計測限界に到達した…」
「稀にここまで魔力を持つ人はいるみたいですけど…私始めて見ましたよ」
「え、一応お伺いしますけど、あの子人間ですよね? 霊獣妖精とかの類じゃないですよね?」
ざわざわと騒ぎ出す人々。どうやら予想外の結果が弾き出されたらしい。さくらが咥えていた魔力計をさりげなく水精霊や火精霊の力で綺麗にした竜崎は受付の人に何かを耳打ちする。
「やっぱり龍脈計測用のを…」
「わかりました…!」
受付の人が2人、どこかへと駆けていく。その間にも異常を嗅ぎつけた戦士や魔術士が野次馬のように集まってきた。
「何があったんだ?」
「いや、あの女の子がな…」
勿論注目の的となるのはさくら。気恥ずかしさがかなりあるが、自分の才能を褒められているだけあってまあまあ気分が良く、くすぐったい。
「お待たせしました!」
と、受付の人が戻ってくる。2人がかりでえっほえっほと持ってきたのは太いポールのようなもの。同じように片側は尖り、もう片側には目盛りと術式。だが本体が大きい分、それらも大きい。
「え…これを…?」
こんなものを咥えたら顎が確実に外れてしまうだろう。しかもところどころに土汚れらしいものがついている。先っぽを恐る恐るつつきながらさくらは尻込みする。正直、口に入れたくない。かといって、おへそをこんな衆目の中出すのは…。
そんなさくらの逡巡に気づいたらしく、竜崎は使い方を説明してくれた。
「あぁ、これは咥えなくていいよ。先っぽを力いっぱい握ってくれれば。手汗が出るとなお良い」
「それで良いんですか?」
「これは反応精度が良いからね。その代わり、魔力量が多くないと目盛りが動きすらしないんだけど…さくらさんならきっと…!」
少年のようなワクワク目をした竜崎をクスリと笑いつつ、さくらは安心して龍脈用魔力計の先端を掴む。龍脈、魔力を潤沢に含んだ地脈のことであり、イヴはそこから魔力を得て一万体以上のゴーレムを作り出したというが…それほどまでの魔力が自分にあるのだろうか。流石に緊張してきたさくら。周囲から向けられる視線も相まって、手もじんわり汗ばんできた。
と、そんな時だった。
「あっ!!動きました!!」
受付の1人が声をあげる。さくら竜崎を含めた周囲の目が一斉に目盛りに集中する。ググっと動きを見せた目盛りは、表示盤の5分の1ほど進むとピタリと止まる。術式の輝きも赤色で固定された。
「あれ…?」
いくら力を籠めても、念じてもそれ以上目盛りは動かない。どうやら測定終了のようだ。
「そんなぁ…」
これだけ人が集まっておいて、こんな結果に終わってしまうとは。さぞ竜崎さんがっかりしただろうなとさくらが彼の顔を見ると…。
「……」
唖然とする竜崎。訝しむさくらだったが、ふと、周囲がざわついているのに気づく。
「おいおい、マジかよ…」
「あの魔力計が壊れてるってわけじゃねえよな…」
「ヤバすぎだろ…!」
聞こえてくるのはそんな声。どういう意味合いなのか困惑していると、今までずっとニヤニヤしながら見ていたニアロンがさくらに近づいてきた。
―さくら、目盛りがちょっとしか動かなくて残念って思っているだろ?―
「え、はい…」
図星をつかれ、素直に頷くさくら。しかしニアロンは
―この魔力計は龍脈用だ。さっき清人も言った通り、生半可な魔力量では目盛りはピクリとも動かない。上位精霊一体が保持する魔力でやっと動くぐらいでな。つまり、人間1人で動かせる代物ではないんだ―
「えっ! ということは…」
―お前の魔力量は『ちょっとした龍脈並み』、上位精霊数体分はあるということだ。これを動かしたのは私とミルスパールぐらいのものだぞ―
魔力そのもので形を成す霊体ニアロンや、学院最高顧問である『賢者』。そんな彼らと同じ領域とは…嬉しさよりも驚きが勝るさくらである。
騒ぎになり始めた調査隊本部から足早に抜け出し、学園への帰り道。竜崎は興奮気味に聞いてきた。
「さくらさんの魔力量がまさかあれほどとは…! 元の世界で何か特別なことでもしてた?」
「いえ特には…」
勿論、思い当たる節なんてない。魔力の概念が無いのだから。
「じゃあやっぱり才能なんだな。これは魔術の教え甲斐があるなぁ。いずれ超優秀な魔術士になったりして!」
まるで自分のことのように楽し気に語る竜崎。ニアロンもまた嬉しそうにさくらに語り掛けた。
―『異世界から来た』という事実並みに重要なことが判明したな。清人達みたいに2つ名もつけられそうなほどだぞ?―
「二つ名、ですか」
イヴの「ゴーレム軍団長」や、オズヴァルドの「伝説が認めた天才」のようなものか。ニアロンは勝手に考え始めた。
―そうだな…『歩く龍脈』とかはどうだ?―
「なんか嫌です…」
―じゃあ『魔力貯蔵子』―
「もっと嫌です!」
「ごめんなさい…」
壊した魔力計は竜崎が弁償を引き受けてくれた。その罪悪感から来た謝罪である。しかし竜崎は全く気にしていない。それどころか―。
「代表戦からそう時間は経っていない。しかもオグノトスで魔力を消費したばかりだよな。なんでだ?やっぱりニアロンの魔力が吸い取られたのか?」
―いや、以前施した言語魔術のように相手の肉体や魂と深くつながり合うものじゃなければ私の魔力は吸い取られないようだ。寧ろ私が憑りついていた時間分さくらの魔力を吸い取ったぞ―
「それでも、か。やっぱり素の魔力貯蔵量がとんでもない多さなんだな」
実に楽しそうに、興味深そうに。竜崎とニアロンは議論を交えていた。その様子に有難いやら少し恥ずかしいやらなさくらは、代わりに次の行き先を聞く。
「あのー…。竜崎さん次はどこに?」
医務室から出る際、竜崎に「ちょっと付き合ってくれないか?」と言われ今に至るのだ。説明をしてなかったことに気づいた竜崎はごめんごめんと謝ってから答えた。
「調査隊の本部だよ」
武器や鎧を装備した戦士達が集い、熱気あふれるギルドの受付。学院の一角にある調査隊本部である。傭兵や魔術士達が依頼を吟味したり戦利品を整理したりと常にガヤガヤと賑わい、外では竜が整備されている。さくらとしてもここに来るのは幾度目か。というかこの前報酬受け取りに来たばかりである。
「ここで何を?」
さくらが竜崎に尋ねようとした時には、横に竜崎はいなくなっていた。見渡すと、いつの間にか受付で何かを話していた。
「あれを…」
「良いですよ。では貸出書にサインを…」
よく聞き取れず、さくらも竜崎のところへ。すると受付の人はどこかへ行き、戻ってきたときには細長い箱が沢山入った籠を抱えてさくら達の前へ置いた。
「えっと、あ、これは新品ですね。あとは…これをどうぞ」
受付の人は籠内から幾つか選び取り、さくら達の前に並べていく。竜崎がそのうちの一つを開けると、中に入っていたのは太めの棒。恵方巻ぐらいであろうか。ただし、片側は何かに突き刺す用なのか少し尖っており、もう片側はよくわからない目盛りと魔法術式が描かれていた。
「これって?」
「魔力計の大型版。本来は地面に突き刺して、地中の魔力量を計測する際に使うんだ」
竜崎はそう言いながら、尖った方に使い捨てのカバーらしきものをはめ込む。と、受付の人が竜崎に問いかけた。
「しかしリュウザキ様、これで良いのですか?龍脈測定用のもっと大きいのがございますが…」
「とりあえずこれで。測るのは地面じゃないですから」
そう答えた竜崎は、その魔力計をさくらの前に差し出した。
「はい、さくらさん。咥えてみて」
「やっぱりですかぁ…」
まあ薄々そんな気はしていた。しかし、ここで…?辺りに人は沢山、さくらは躊躇する。
「咥える以外の方法は無いんですか…?」
「うーん…。後はおへそとかに刺す方法が。けっこう時間かかっちゃうけど」
「わかりました咥えます!」
服の中に隠しきれない長さの魔力計、公衆の面前でおへそ丸出しで長時間いるよりかマシである。そこまで異世界慣れはしていない。竜崎の期待の目に抗えず、さくらは渋々咥えることに。受付の人も少ししげしげと見つめてくる。それはやはり、普通と違う使い方をしているからであろう。とても恥ずかしい。
「んむ…」
尖った先端で口の中を傷つけないよう、ゆっくり魔力計を含んでいくさくら。恵方巻ならば噛みちぎりたいところだが、これは計測道具。噛み切ることはできないし、傷つけるわけにはいかない。さっき小型の魔力計を壊してしまったこともあり、さくらは柔らかな手つきで魔力計を支えて落とさないように意識を集中させた。
「何してんだあれ?」
「さあ…」
受付のど真ん中で魔力計を咥える少女は実に奇異なのだろう。周囲にいた何人かがさくらに視線を集中させる。さくらはそれになるべく気を向けないようにするしかない。
「ひゃ…」
と、涎が口の端から少し垂れてきてしまう。慌てて拭うさくらだが、手で拭ってもまたちょっとずつ漏れ出してくる。色んな人に見られながら太いものを無理やり咥え、しまいには涎を垂らす自分を想像すると恥ずかしいなんてものじゃない。さくらの心中は早く終われと必死になっていた。
その思いが届いたのかは定かではないが、魔力計に描かれた術式の色が変わる。青から黄。そして赤。更には―。
「あっ、白に…!」
受付の人が驚いた声を出す。魔力計の目盛りは先端に到達し、術式は白く輝き始めたのだ。竜崎は驚いたような声で合図をだした。
「さくらさん、もう外して良いよ」
竜崎の言葉を聞き、さくらは口の中から魔力計を抜く。思わずケホッとえずいてしまうが、竜崎が手渡してくれた未使用のハンカチで口元を拭った。
「ケホッ…どうだったんですか…?」
目に少し涙を浮かべながら、さくらは竜崎の方を向く。すると竜崎だけでなく、受付の人や近くにいた魔術士まで今までさくらが咥えていた魔力計を覗き込んでいた。
「これは凄いな…計測限界に到達した…」
「稀にここまで魔力を持つ人はいるみたいですけど…私始めて見ましたよ」
「え、一応お伺いしますけど、あの子人間ですよね? 霊獣妖精とかの類じゃないですよね?」
ざわざわと騒ぎ出す人々。どうやら予想外の結果が弾き出されたらしい。さくらが咥えていた魔力計をさりげなく水精霊や火精霊の力で綺麗にした竜崎は受付の人に何かを耳打ちする。
「やっぱり龍脈計測用のを…」
「わかりました…!」
受付の人が2人、どこかへと駆けていく。その間にも異常を嗅ぎつけた戦士や魔術士が野次馬のように集まってきた。
「何があったんだ?」
「いや、あの女の子がな…」
勿論注目の的となるのはさくら。気恥ずかしさがかなりあるが、自分の才能を褒められているだけあってまあまあ気分が良く、くすぐったい。
「お待たせしました!」
と、受付の人が戻ってくる。2人がかりでえっほえっほと持ってきたのは太いポールのようなもの。同じように片側は尖り、もう片側には目盛りと術式。だが本体が大きい分、それらも大きい。
「え…これを…?」
こんなものを咥えたら顎が確実に外れてしまうだろう。しかもところどころに土汚れらしいものがついている。先っぽを恐る恐るつつきながらさくらは尻込みする。正直、口に入れたくない。かといって、おへそをこんな衆目の中出すのは…。
そんなさくらの逡巡に気づいたらしく、竜崎は使い方を説明してくれた。
「あぁ、これは咥えなくていいよ。先っぽを力いっぱい握ってくれれば。手汗が出るとなお良い」
「それで良いんですか?」
「これは反応精度が良いからね。その代わり、魔力量が多くないと目盛りが動きすらしないんだけど…さくらさんならきっと…!」
少年のようなワクワク目をした竜崎をクスリと笑いつつ、さくらは安心して龍脈用魔力計の先端を掴む。龍脈、魔力を潤沢に含んだ地脈のことであり、イヴはそこから魔力を得て一万体以上のゴーレムを作り出したというが…それほどまでの魔力が自分にあるのだろうか。流石に緊張してきたさくら。周囲から向けられる視線も相まって、手もじんわり汗ばんできた。
と、そんな時だった。
「あっ!!動きました!!」
受付の1人が声をあげる。さくら竜崎を含めた周囲の目が一斉に目盛りに集中する。ググっと動きを見せた目盛りは、表示盤の5分の1ほど進むとピタリと止まる。術式の輝きも赤色で固定された。
「あれ…?」
いくら力を籠めても、念じてもそれ以上目盛りは動かない。どうやら測定終了のようだ。
「そんなぁ…」
これだけ人が集まっておいて、こんな結果に終わってしまうとは。さぞ竜崎さんがっかりしただろうなとさくらが彼の顔を見ると…。
「……」
唖然とする竜崎。訝しむさくらだったが、ふと、周囲がざわついているのに気づく。
「おいおい、マジかよ…」
「あの魔力計が壊れてるってわけじゃねえよな…」
「ヤバすぎだろ…!」
聞こえてくるのはそんな声。どういう意味合いなのか困惑していると、今までずっとニヤニヤしながら見ていたニアロンがさくらに近づいてきた。
―さくら、目盛りがちょっとしか動かなくて残念って思っているだろ?―
「え、はい…」
図星をつかれ、素直に頷くさくら。しかしニアロンは
―この魔力計は龍脈用だ。さっき清人も言った通り、生半可な魔力量では目盛りはピクリとも動かない。上位精霊一体が保持する魔力でやっと動くぐらいでな。つまり、人間1人で動かせる代物ではないんだ―
「えっ! ということは…」
―お前の魔力量は『ちょっとした龍脈並み』、上位精霊数体分はあるということだ。これを動かしたのは私とミルスパールぐらいのものだぞ―
魔力そのもので形を成す霊体ニアロンや、学院最高顧問である『賢者』。そんな彼らと同じ領域とは…嬉しさよりも驚きが勝るさくらである。
騒ぎになり始めた調査隊本部から足早に抜け出し、学園への帰り道。竜崎は興奮気味に聞いてきた。
「さくらさんの魔力量がまさかあれほどとは…! 元の世界で何か特別なことでもしてた?」
「いえ特には…」
勿論、思い当たる節なんてない。魔力の概念が無いのだから。
「じゃあやっぱり才能なんだな。これは魔術の教え甲斐があるなぁ。いずれ超優秀な魔術士になったりして!」
まるで自分のことのように楽し気に語る竜崎。ニアロンもまた嬉しそうにさくらに語り掛けた。
―『異世界から来た』という事実並みに重要なことが判明したな。清人達みたいに2つ名もつけられそうなほどだぞ?―
「二つ名、ですか」
イヴの「ゴーレム軍団長」や、オズヴァルドの「伝説が認めた天才」のようなものか。ニアロンは勝手に考え始めた。
―そうだな…『歩く龍脈』とかはどうだ?―
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―じゃあ『魔力貯蔵子』―
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