上 下
172 / 391
―鬼の頼み―

171話 蛇の纏め方

しおりを挟む
「「「シャアアアアッ!」」」

先程までの暴れようとは何か様子が違う白蛇達。自らの身が傷つくのを一切恐れないかのような気迫である。

「メルティ―ソンさん!ウルディーネに!」

さくらの声に、メルティ―ソンは急いでウルディーネに掴まる。暴れる蛇を避けながら、彼女はなんとかさくら達の元へ帰還した。

「大丈夫ですかメルティ―ソンさん」

「は、はい。なんとか…。…ごめんなさい」

一つの頭を正気に戻したことから始まった暴走。責任を感じたのか、メルティ―ソンは申し訳なさそうに頭を下げる。

「メルティ―ソン先生は何も悪くないよ」

「そうよ。一つ目は正気に戻せたんだから」

友人教師2人はそう励ます。代わりにニアロンがメルティ―ソンに問いかけた。

―しかし、突然変貌したな。一体何があったんだ?―

「そのことなんですが、白蛇さんが暴走した理由はです。あれは…」

彼女がそう説明しようとした時だった。

「おい、我らよ!一体どうしたというんだ!」

聞こえてくるのは白蛇の声。さくら達がそちらを見ると、一匹だけ正気を取り戻した白蛇が他の白蛇達に襲われていたのだ。



「自分を噛む気か!?どうしたっていうんだ!」
自身の他の頭に噛まれかけ、身をくねらせながら必死に言葉を投げかける正気の白蛇だが、7つの首は全く聞く耳を持たない。どうやら敵と認識されてしまったようだ。

「イヴ先生!」

「わかってるわ!」

竜崎の声にそう返し、イヴはゴーレムの動きを変える。40の手を伸ばし、正気の白蛇を包み込む。

「た、助かった…」

間一髪。包み込まれた白蛇は安堵の息を吐く。しかし、7つの首はゴーレムの手にガツンガツンとその身を打ちつけてくる。全く諦める様子はないようだ。このままではいつまで保つかわからない。

「どうしましょう…」

白蛇を守らなければいけない現状、巨兵の腕を解放するわけにはいかない。イヴはそう呟き、竜崎達も頭を捻らす。

「なんとか止める方法は…」

そんな中、さくらがポツリと漏らす。

「あんだけ体が長いんですからリボンや紐みたいにぎゅっと縛れればいいんですけどね…」

その言葉を聞いた教師陣は一斉に手を打った。

「「「それだ(よ(です))!」」」




「よし、作戦は今言った通りで大丈夫かな」

―全員、蛇に食われないようにな。行くぞ―

ニアロンの合図と共にゴーレム頭頂部から飛び出したのは風の上位精霊シルブ、水の上位精霊ウルディーネ、そして霊獣「白鳥」。シルブに乗っているのは竜崎、ウルディーネにはさくらとニアロン。霊獣のほうはメルティ―ソンである。

その3匹は空中で散開。ウルディーネは空中に水の道を作り出しその上を流れるように、シルブと白鳥はその自慢の翼で空を切りながら一斉に白蛇達へ向かった。

「「「シュルル!」」」

突如目の前に迫った精霊達に気づき、7つの首は最寄りの敵を飲み込まんと動きはじめる。

「上手くいった!」

さくらは思わずそう呟く。作戦の第一段階、それは蛇達を自分達に引きつけること。それが成功した今、次の段階へ進む。

―さくら、防御は任せろ。お前は作戦通り出来る限り動き回れ。もしもの時は私がなんとかする―

「はい!」

背後に蛇達がついてきたのを確認し、さくらはウルディーネに指示を送る。それを聞いたウルディーネは軽く吼えた後、その長い身体を蛇以上にくねらしあちらこちらへ飛び回りはじめた。

「―!」

上へ下へ、右へ左へ、前や後ろへ。蛇の胴の隙間を潜り抜けていく。さくらは吹きつける風と飛んでくる水、そして襲い来る巨大な蛇の顔の恐怖に耐えながら必死にウルディーネの背に掴まりひたすら精霊を動かしまくった。こんなの、テーマパークにある水のジェットコースターの数倍怖い。コースは自分で選択する上に、死の危険まであるのだから。前しか見れないさくらに代わり後ろを見ていたニアロンがしめしめと声をあげた。

―よし、良い感じだ。蛇の体が絡まり始めた―

そう、さくら達が飛び回ってた理由。それは白蛇の長い身体をこんがらがらせるためである。

「ここまで簡単に行くもんなんですね…」

―自分の一部に噛みつこうとするぐらいだ。体同士が絡まる心配なんてするわけがないよな―

ニアロンの楽しそうな声に、さくらも笑う。さくら発案の作戦大成功。あとは仕上げだけである。


―お、さくら正面。清人だ―

そう言われ、さくらは目を凝らす。確かにシルブに乗った竜崎がこちらに飛んできていた。このまま進めば交差しそうである。

―ハイタッチでもするか?―

ニアロンは冗談めいた口調だったが、さくらはそれに乗ってみることに。恐る恐るウルディーネの端に移動し、頑張って手を伸ばしてみた。

すると、さくらが腕を伸ばしたのを竜崎は気づいたらしく、彼もシルブの背から身を乗り出して腕を伸ばし返す。

パンッ!

軽い音と共に、双方の手が打ち合わされる。そのまま背後から追ってくる蛇の頭同士がぶつからないようにグイっと精霊を曲げ、さくら達は最後の締めと言わんばかりに加速させた。蛇もそれを必死になって追いかけるが…!

「「「シャアアアア! ―!?」」」

突然、身体が先に進まなくなる。それほどまでに蛇達の体は絡まりあい、丸まっていた。暴れて解こうとする彼らだったが…。

「仕上げは私よ。少しの間だけだから我慢なさいな」

イヴのゴーレムの手が7つの首を掴み…。

キュッ!

紐を縛るかのように、それぞれを引っ張った。体は固められ、首を押さえられ、とうとう蛇は動けなくなってしまった。

「蛇のお団子、完成ね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...