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―鬼の頼み―
170話 泥の瞼
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「瞼が無いからって、あんな方法で…!?」
「一体どうやって…!」
メルティ―ソンとイヴは揃って戦慄した声をあげる。メルティ―ソンの魔眼の力を防ぐためか、白蛇がとった行動は眼球に直接泥を塗りたくり覆うという荒業。自分の身に当てはめ想像してしまったさくらは恐ろしくなりゾワッと体を震わす。
「妙だな…。なんで目を狙っているってわかったんだ?」
ただ1人、竜崎だけは引っかかることがあるらしく考える素振りをとっていたが、それはニアロンの警告によって打ち切らざるを得なくなった。
―来るぞ!気を付けろ!―
「「「シャアアア!!」」」
目を隠したということは視界を失ったということ。白蛇としても諸刃の剣なはずである。しかし、彼らは目が開いているときとなんら遜色ないような動きで攻撃を仕掛け始めたのだ。しかも今度は的確に頭頂部、さくら達が乗る場所を集中的に狙い始める。
「くっ…!なんでこんな正確に…!」
イヴは必死になってゴーレムの腕を動かしほとんどを防ぐが、その猛攻は苛烈。幾つかの攻撃は腕の隙間をすり抜けしなった鞭のように障壁を叩いた。そのたびにビリビリと障壁が揺れ、いつ割れるかわからない恐怖がさくらを襲う。
「な、なんで…。目は見えていないはずなのに…」
そんなさくらが転ばないように支えつつ、メルティ―ソンは答えてくれた。
「蛇は僅かな熱を感知する特殊な器官を持っているんです…!白蛇さんは霊獣ですので恐らくかなり強化されているものをお持ちだと…」
「なんだっけ、ピット器官?だったっけ。となると完全にこっちが不利だな…」
竜崎が言う通り、この状況は完全にさくら達側が敗色濃厚。白蛇を傷つけずに暴走を解除するためにはメルティ―ソンの目の力が必須であるが、それは相手の目と見つめ合わなければ不可能である。それが隠されたあげく、白蛇はデメリットを完全に打ち消す方法を持っていたのだから。
「それなら、あの目についた泥をノウムで砂に…!」
そう言い、イヴは再度蛇の頭を掴もうと躍起になる。しかし蛇達はくねくねと避けていく。しかも竜崎がストップがかかった。
「いや、待ってイヴ先生。下手に撃ったら白蛇の目を傷つけてしまう恐れがある」
「じゃあどうすれば…!」
苛立ちを隠せない様子のイヴ。と、そこに落ち着き払った声がかかった。ニアロンである。
―ならば水で流してやればいいだろう―
「「「あっ」」」
手をポンと打つ教師三人を横目に、ニアロンは竜崎の体からするりと抜け出す。続けて入ったのはさくらの体だった。
「えっ?ニアロンさんなにを?」
―丁度いい機会ださくら。ウルディーネを操る練習と行こうじゃないか―
「今ですか!?」
さくらは思わず驚いた声を出す。竜崎達が苦戦している霊獣相手に自分が出張っていいものなのだろうか。そんな考えを見透かしたように、ニアロンは笑った。
―こういう時でないと練習は出来ないからな。逆に考えろ、ここには優秀な魔術士が3人もいる。助力、助言、ミスのカバー、なんでもできるぞ。そう気負う必要はない―
そう言われ、さくらはハッと竜崎達の方を見る。彼らはニアロンの案に賛成するかのように揃って頷いた。
「…! やってみます!」
―その意気だ―
―さて、やることは前回と同じだ。契約したウルディーネを頭に浮かべることにだけ集中しろ―
「でも水場とかじゃなくても召喚できるんですか…?」
―問題なくできる。本体を呼び出すのではなく、力の一部を借り受けるのが召喚術だ。やろうと思えば水中で火の上位精霊サラマンドを呼び出すことだって可能だぞ。最も、その場合は直ぐに火を消されてしまうがな―
それを聞いて安心するさくら。詠唱を始めたニアロンに合わせ、目を閉じ意識を集中させる。
ゴーレム頭頂部に新たな魔法陣が形成。程なくしてさくらの周りには契約精霊とのリンクが繋がった証である青い光が揺蕩い始める。その様子に白蛇の猛攻を捌いていたイヴとメルティ―ソンは驚いたような声をだした。
準備は整った。さくらは目を開け、召喚術式を締めくくる。
「この場に来て!『ウルディーネ』!」
魔法陣が青く輝き、水の柱と共に姿を現したのは水龍の如き姿の水の上位精霊ウルディーネ。グルル…と小さく唸り、主人であるさくらに擦り寄った。
「わあ…!」
「やるわね…!」
メルティ―ソンとイヴの歓声を聞き、やっぱり嬉しくなるさくら。その様子を微笑み交じりで見ながら、竜崎は周囲に指示を出す。
「イヴ先生、どれかの首1つを抑えて。その間のゴーレムの防御修復は私がやる。メルティ―ソンは直ぐに動ける用意を」
「わかったわ!それぐらいなら…!」
「わかりました…!」
すぐに動く教師2人。多少強引に蛇の頭の一つは捕まえられ、ウルディーネが狙いやすい位置まで引っ張られる。メルティ―ソンもすぐに動けるよう髪をかきあげ、魔眼に力を溜め始めた。
これでさくらがウルディーネに指示を飛ばすだけとなった。しかし…。
「どのくらいの勢いで撃てば…?」
泥の瞼に包まれた下は目である。ウルディーネの力を相当弱くしないと失明させてしまうかもしれない。怖くなったさくらは竜崎にそう問う。すると彼はほんの少し考え答えた。
「そうだね…プールで目を洗う時の水道みたいな?」
「あれ使ったことあんまり無くて…」
「え。今ってあれ使わないの? おっとそんなこと話している場合じゃないや。じゃあシャワーぐらいでいいと思うよ」
そう言われ、さくらはウルディーネに指示をする。聞き届けたその精霊は、長い体をずるりと動かし白蛇の目の近くへ。口を開き僅かにチャージすると、本当にシャワーのような細い水の集合体をブシュウとかけた。
「お。良い感じかも」
みるみるうちに泥は取れていき、メルティ―ソンの魔眼が使えるほどに。それを察した彼女は服が濡れるを気にせず飛び散る水の中を近づき力を発動した。
「『愛眼』!」
メルティ―ソンの片目はピンクに輝き、蛇の瞳に映りこむ。すると、どこか狂ったような様子だった蛇の目がすうっと落ち着きをとりもどした。
「ここは…? なんか目が痛い! おぉ水で洗ってくれてるのか!感謝する!」
先程までの威嚇声ではなく、人語を使い始める白蛇。その様子をみたイヴは喜んだ声をあげた。
「やった!成功ね!お見事さくらちゃんニアロンちゃん!」
「よかった…」
さくらは思わず大きく息を吐く。だが、安心したのも束の間だった。
「「「シュルルルル!!」」」
突如、残された7つの首が更に暴れ始めたのだ。
「一体どうやって…!」
メルティ―ソンとイヴは揃って戦慄した声をあげる。メルティ―ソンの魔眼の力を防ぐためか、白蛇がとった行動は眼球に直接泥を塗りたくり覆うという荒業。自分の身に当てはめ想像してしまったさくらは恐ろしくなりゾワッと体を震わす。
「妙だな…。なんで目を狙っているってわかったんだ?」
ただ1人、竜崎だけは引っかかることがあるらしく考える素振りをとっていたが、それはニアロンの警告によって打ち切らざるを得なくなった。
―来るぞ!気を付けろ!―
「「「シャアアア!!」」」
目を隠したということは視界を失ったということ。白蛇としても諸刃の剣なはずである。しかし、彼らは目が開いているときとなんら遜色ないような動きで攻撃を仕掛け始めたのだ。しかも今度は的確に頭頂部、さくら達が乗る場所を集中的に狙い始める。
「くっ…!なんでこんな正確に…!」
イヴは必死になってゴーレムの腕を動かしほとんどを防ぐが、その猛攻は苛烈。幾つかの攻撃は腕の隙間をすり抜けしなった鞭のように障壁を叩いた。そのたびにビリビリと障壁が揺れ、いつ割れるかわからない恐怖がさくらを襲う。
「な、なんで…。目は見えていないはずなのに…」
そんなさくらが転ばないように支えつつ、メルティ―ソンは答えてくれた。
「蛇は僅かな熱を感知する特殊な器官を持っているんです…!白蛇さんは霊獣ですので恐らくかなり強化されているものをお持ちだと…」
「なんだっけ、ピット器官?だったっけ。となると完全にこっちが不利だな…」
竜崎が言う通り、この状況は完全にさくら達側が敗色濃厚。白蛇を傷つけずに暴走を解除するためにはメルティ―ソンの目の力が必須であるが、それは相手の目と見つめ合わなければ不可能である。それが隠されたあげく、白蛇はデメリットを完全に打ち消す方法を持っていたのだから。
「それなら、あの目についた泥をノウムで砂に…!」
そう言い、イヴは再度蛇の頭を掴もうと躍起になる。しかし蛇達はくねくねと避けていく。しかも竜崎がストップがかかった。
「いや、待ってイヴ先生。下手に撃ったら白蛇の目を傷つけてしまう恐れがある」
「じゃあどうすれば…!」
苛立ちを隠せない様子のイヴ。と、そこに落ち着き払った声がかかった。ニアロンである。
―ならば水で流してやればいいだろう―
「「「あっ」」」
手をポンと打つ教師三人を横目に、ニアロンは竜崎の体からするりと抜け出す。続けて入ったのはさくらの体だった。
「えっ?ニアロンさんなにを?」
―丁度いい機会ださくら。ウルディーネを操る練習と行こうじゃないか―
「今ですか!?」
さくらは思わず驚いた声を出す。竜崎達が苦戦している霊獣相手に自分が出張っていいものなのだろうか。そんな考えを見透かしたように、ニアロンは笑った。
―こういう時でないと練習は出来ないからな。逆に考えろ、ここには優秀な魔術士が3人もいる。助力、助言、ミスのカバー、なんでもできるぞ。そう気負う必要はない―
そう言われ、さくらはハッと竜崎達の方を見る。彼らはニアロンの案に賛成するかのように揃って頷いた。
「…! やってみます!」
―その意気だ―
―さて、やることは前回と同じだ。契約したウルディーネを頭に浮かべることにだけ集中しろ―
「でも水場とかじゃなくても召喚できるんですか…?」
―問題なくできる。本体を呼び出すのではなく、力の一部を借り受けるのが召喚術だ。やろうと思えば水中で火の上位精霊サラマンドを呼び出すことだって可能だぞ。最も、その場合は直ぐに火を消されてしまうがな―
それを聞いて安心するさくら。詠唱を始めたニアロンに合わせ、目を閉じ意識を集中させる。
ゴーレム頭頂部に新たな魔法陣が形成。程なくしてさくらの周りには契約精霊とのリンクが繋がった証である青い光が揺蕩い始める。その様子に白蛇の猛攻を捌いていたイヴとメルティ―ソンは驚いたような声をだした。
準備は整った。さくらは目を開け、召喚術式を締めくくる。
「この場に来て!『ウルディーネ』!」
魔法陣が青く輝き、水の柱と共に姿を現したのは水龍の如き姿の水の上位精霊ウルディーネ。グルル…と小さく唸り、主人であるさくらに擦り寄った。
「わあ…!」
「やるわね…!」
メルティ―ソンとイヴの歓声を聞き、やっぱり嬉しくなるさくら。その様子を微笑み交じりで見ながら、竜崎は周囲に指示を出す。
「イヴ先生、どれかの首1つを抑えて。その間のゴーレムの防御修復は私がやる。メルティ―ソンは直ぐに動ける用意を」
「わかったわ!それぐらいなら…!」
「わかりました…!」
すぐに動く教師2人。多少強引に蛇の頭の一つは捕まえられ、ウルディーネが狙いやすい位置まで引っ張られる。メルティ―ソンもすぐに動けるよう髪をかきあげ、魔眼に力を溜め始めた。
これでさくらがウルディーネに指示を飛ばすだけとなった。しかし…。
「どのくらいの勢いで撃てば…?」
泥の瞼に包まれた下は目である。ウルディーネの力を相当弱くしないと失明させてしまうかもしれない。怖くなったさくらは竜崎にそう問う。すると彼はほんの少し考え答えた。
「そうだね…プールで目を洗う時の水道みたいな?」
「あれ使ったことあんまり無くて…」
「え。今ってあれ使わないの? おっとそんなこと話している場合じゃないや。じゃあシャワーぐらいでいいと思うよ」
そう言われ、さくらはウルディーネに指示をする。聞き届けたその精霊は、長い体をずるりと動かし白蛇の目の近くへ。口を開き僅かにチャージすると、本当にシャワーのような細い水の集合体をブシュウとかけた。
「お。良い感じかも」
みるみるうちに泥は取れていき、メルティ―ソンの魔眼が使えるほどに。それを察した彼女は服が濡れるを気にせず飛び散る水の中を近づき力を発動した。
「『愛眼』!」
メルティ―ソンの片目はピンクに輝き、蛇の瞳に映りこむ。すると、どこか狂ったような様子だった蛇の目がすうっと落ち着きをとりもどした。
「ここは…? なんか目が痛い! おぉ水で洗ってくれてるのか!感謝する!」
先程までの威嚇声ではなく、人語を使い始める白蛇。その様子をみたイヴは喜んだ声をあげた。
「やった!成功ね!お見事さくらちゃんニアロンちゃん!」
「よかった…」
さくらは思わず大きく息を吐く。だが、安心したのも束の間だった。
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